次の場所へと
ゴウラとシルダ。その二人は、ゴウラの酒場で静かに過ごしていた。
昼前だからか、客の入りは無く、二人きりで互いにチビチビと酒を呑んでいるだけであるが、それには描写できぬ気品が存在している。
「いやぁ、しかしアイツ等、ドラゴンをのしちまうとは、思った以上に良く出来た奴らだな」
ゴウラが漏らす。 この言葉を言うのは、この日だけで3回目である。
それほどまでに酔っているとも、それほどまでに印象深い出来事だったとも言えよう。ここの所ゴウラは毎日、雨を浴びるように酒を呑んでいるので、さしもの酒豪も酔いが冷めていないようだ。
「はぁ、貴方酔っ払いすぎよ。もうその話はしたでしょ?」
シルダが返す。 この言葉を言うのはこの日だけで2回目である。
彼女もまた酒豪であり、酒は嫌いではないが、ゴウラ程飲むわけではなく、常にセーブするため、酔う姿を見るほうが稀、というか絶無。
今回もまた、まともな理性を保っていて、冷静にゴウラの話を聞き、ときに聞き流している。
この2人が一緒に居る姿を見るのは珍しくはないが、二人共人気者故に2人きりで居るのは珍しい。故に、2人きりで集まる時は、彼らに相応の『積もる話』がある証左でもある訳だ。
の癖に、今のゴウラはと言えば、ただ酒を呑み続けるのみ。シルダもそれなりに、呆れと怒りが溜まってきたのである。
「で? なんで私を呼んだのよ?このまま、感動を私と分かち合うつもりなら帰りたいんだけどね。私は仕事を中断してきてるわけだし」
「おぉ、そうだ。 忘れる所だった」
「あのね・・・」
だが、今までただの酔っ払いだったゴウラは、その目を晴らす。
彼とて、かつては世界中を巡って冒険を繰り返していたベテランの冒険者。今でこそ一個の酒場のマスターといった地位に付いているが、それ以前はたった一人で鬼神の如く敵を蹂躙したと語り継がれるほどの豪傑であったのだ。
そして、ゴウラとシルダが一緒に居る理由は、その冒険の内一部を2人で行ったからである。その様はまさしく無敵。向かう所に敵はなく、彼女らは今もなお語られる所では語られる、英雄達であるのだ。
「俺達2人でヤマトに言ったのは覚えてるか?」
「えぇ、覚えてる。5年ほど前だったかしらね。・・・まさか、あの2人をヤマトに行かせるって訳なの?」
シルダは、怪訝な顔をしてゴウラを見つめる。
「ああ、ヤマトにはあの人が居るからな・・・ダメか?」
「いえ、私も同じ事を考えてたから驚いただけ。やっぱり気が合うわね、私達」
そんな会話が終わると、二人は笑顔を取り戻す。
その形相は小悪魔的・・・いや、ここまで来たらただの悪魔的だ。悪意こそ無いが、その笑みを誰かが見ていたら本能的に退避の選択肢を選ぶだろう。
そして、二人が無言で盃をぶつけ合おうとした時、ふいにゴウラの酒場の扉が勢い良く開いた。
そこには、黒いフードのローブを羽織った男が居た。シン・ニューマン。相談事の中心人物の内1人である。
「誰か居るか~?・・・うん?二人で何話してるんだ?逢瀬か?」
「違うわよ」
シルダは速攻否定する。最早、脊髄反射と同じレベルだ。
「そうなのか。で、何話してたんだ?って聞いたんだが、答えてくれないのか?」
「わりぃな。俺達には人には話せないことってのもあるもんだ」
実際には話すことも選択肢に入れてる。だけど、その領域は二人のうちでの暗黙の了解である。
こういうことは、秘密にしてやったほうがインパクトが強い。だから、二人はその日まで黙秘している。そう決めているのだ。
「そうか、なら良いんだけどさ。これからアトと新居で俺達のデビューを祝うんだが、マスターたちも来ないか?」
「そうか。俺は行こう・・・シルダはどうすんだ?」
「仕事だって言ってるでしょ?」
「そうか。 じゃぁ後で俺一人で行こう、場所は?」
「シルダに聞いてくれよ。 じゃ、また後でな!!」
そう言って、シンは風のように現れては去っていってしまった。
そして、その後シルダは去り、約束通りゴウラは一人で言ったのは後の話であり
2人がヤマトの国で、本物の冒険が待っていることを知るのはまだまだ後の話であった。
ここまでで一章が終了!
さて、次の章は、ようやくヒロインの登場なんですよフッフッフ・・・。
乞うご期待!