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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
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新居

次のお話で第一章はオシマイです。

言わば次回は、『伏線回』みたいな感じです。

僕は、ある場所に居た。シルダの商店から徒歩7分ぐらい、酒場に行くにも苦労しない。そんな場所に建っている一軒家。

「では、こちらの家をアト様名義で借りるという事で宜しいのですね?」

「ああ。それでいい。」

僕の隣で、シンとスーツ姿の男が何やら話し込んでいる。

シンは黒いフードを着込んでいることもあって、若干裏の人達の会合に見えなくもない。

「では、家賃は月2,6000E(エディ)となっておりますので。その他契約内容はこちらの書類を参考になさってください」

そう、僕たちは、ある家を借りるためにシルダの店の中にあった不動産店の業者と話し合いをしていた。

さて、時は1週間前に遡る―――


その時の僕は、シルダの店で買い物をしていた。今朝出がけにカラからお使いを頼まれたついでに、前回行けなかった場所を確認しに来ていた感じである。

食品、書籍、服飾、化粧品・・・初めて来た時は百貨店のような風貌を感じたが、確かにそんな品揃えだ。普通に生活している分にはここさえ有れば何も不自由ない程度には品ぞろえが良い。

「物価は・・・今まで聞いたことない通貨だから、良いのか悪いのか分からないな・・・。1E(エディ)で5,6円位なんだろうけど・・・」

とまぁ、そんな風に呟きながら買い物をしていると、ふと気づく。何やら、視線が痛い。

周りにいる全員が僕の事を見つめているんじゃないかと思い込んでしまうぐらいには、痛い。

まぁ、そんな事は無いので、単なる自意識過剰だろうとこの問題を隅に追いやって、買い物を済ませてしまう。買い物自体は決して難しいものではない。足りない食材と、壊れた食器の補充だった。

で、その日は本を読む気分にもなれない・・・というか、前の日に読まなければならなかっただろう本は全部読み終わってしまっていたから、図書館にも寄らずに酒場に帰ったときだった。

カラとゴウラとシンが、三人揃って笑いをこらえ切れずに変な表情をしていた。

「三人共、どうしたんだ。まるで笑う人のマネをしている猿のような顔して」

「もうちょっといい例えがあったろうが」

シンが突っ込む。その顔もなんというか、怒ってるやら笑ってるやら変な顔で・・・

「その顔、気味が悪いんだけど」

「後で久々の訓練するか?アトよぉ?」

「あ、いや。言い過ぎた。悪い。だけど、そんな変な顔してる理由を教えてくれないと、気味の悪さが晴れないんだけどなぁ」

「よくぞ聞いてくれたよアト君!」

カラが輝いた目でこっちを見て話に無理やり参加してくる。気の所為なら良いんだが、カラの瞳孔に一瞬金貨が映ったように見えたんだが・・・。

「さっき、二人の報酬が届いたんだよ!その額は・・・聞いて驚く、100万E(エディ)!!」

「はぁっ!?」

久しぶりに心の底から驚いた。ああいや、ここに来てから驚きっぱなしではあるのだけど、これは結構心に来た。

「というかシン、元々2万だろ? こんなの有り得るのか?跳ね上がり過ぎなんだが・・・」

「まぁ、今回は依頼主が国だったからこそこんなに上がったんだろうな。 で、都市の近くに魔性結晶(ラフアイソトープ)の採掘場が見つかった上で、そこに居たドラゴンを倒したと来た。2桁万ぐらいまで上がるだろうとは思ってたぞ?100万まで行くとは思ってなかったが・・・」

「そ、そうなのか・・・」

随分と羽振りの良い・・・ま、受ける分には構わないんだけど。

「でさ、さっき号外が出たの。 何やら、『初仕事で100万Eを掻っ攫った期待の新人2人』って、顔写真と一緒に街中に配っててね?」

「さっきの買い物で見つめられたのってそれが原因なんじゃないか・・・?」

「それが原因だろうな。俺も、さっきシルダの店に行ったら客から握手求められた」

「シン、フードかぶってるのに求められるものなのか・・・あ、いや、被ってるから求められたのか」

そう考えると、シンのフードは個人を特定する記号としては結構役立ってるのか?

いや、初対面時にあんな問題引き起こしておいて『役立っている』は間違ってるか。実際に起こしたのは僕なんだけど。

「だが、こんな大金どうするんだお前ら。 100万なんてそう手に入る額じゃねぇから、使うのにも一苦労だぞ?」

ゴウラが問いかける。 正直、そこは目下の問題だ。

さっき、シルダの店で行ったことない店にまで巡ったのは、今回の報酬で買うものを物色する目的があったわけでもあったんだが、こんな大金だとさっきの物色が参考にならない。

「それなんだが、取り敢えず余ったお金は取っておくとして」

シンが口を開く。 何か案が有ったようで、正直無案だったこっちとしては有り難い。

「家を持とうと思う。いつまでもバーの部屋を借りてるのもカッコつかないだろ」

「はぁ・・・目星は付いてるのか?」

「チラッと不動産を見てきたけど、空いてる借家が幾つも有るみたいだから、そこから1つ」

「ふむ・・・良いね。僕も賛成だ。拠点を持つのは悪くない・・・流石に、ゴウラさんにもこれ以上は迷惑だろうし」

否定する理由もないから、同調しておく。 ゴウラも特に否定はしなかった。カラは少し哀しげな表情をしていたが、すぐに受け入れてくれた。

そして、その後から1週間掛けて良い家を探し、今に至る。


という訳で、たった今新居に住処を移した所なのだ。

因みに、借りた家は4LDKの2階建ての倉庫付き。2人で借りる分には随分大きい気がするが、シンの想定では、まだ仲間を引き入れる気でいるからこれで丁度いいぐらいらしい。

「ああ、ついに俺も冒険者として一人前かぁ・・・」

なんて、感慨深く居間を見ながら言ってるから、今回の買い物は成功なんじゃないだろうか。

「だが、シン。 お前は既に実力は随分上なんじゃないか?」

「ははっ、そう言ってくれるのは嬉しいな。」

シンがフードを取りながら言った姿は、確かに嬉しそうだった。

こいつも、僕に会うなり誘うぐらいだったのだから、余程夢見たモノだったんだろうか。そう考えると、シンが嬉しそうなのも納得だ。

「なら、祝わないとな。僕とシンのデビュー祝って事にしておこうか」

「お? じゃぁ、早速ゴウラとカラを呼んで新居祝いもやっておこうか!」

「やめてくれよ!!」

僕の叫びはシンには響かず、シンはさっさと出ていってしまった。

・・・まぁ、僕と対極にいるからこそシンを気に入ったんだ。シンとは付き合ってあげないとな。

そう思って、僕は肝臓の準備を整えておいた。

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