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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
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岩肌の中

件の洞窟は、酒場から徒歩で20分ほど歩いたところにあった。運搬籠(キャリケージ)と言うのは本当に優秀で、掌サイズの籠の中に、背中を圧迫するナップサックを丸々入れることが出来た。重さも感じない。超物理法則的な事だ・・・これが魔法を使うということなのだろうか。お陰で、ここまで来るまでに一切の疲れはない。しかし、疲れがなかったのは戦闘が起こらなかったのも大きいだろう。

地図を頼りにここまで来たが、エンカウント・・・敵との遭遇は無かった。少し拍子抜けなほどに。

というのも、シンの説明だとモンスターの群ごとに縄張りが出来て、そこが重なり合いそうになる場所は勝手にモンスターの方から避けてくれる。つまりそこがモンスターの住処の境界であり、人間が通る道でもあると言う。

地図に忠実に歩けば、基本的にモンスターと遭遇することはないし、一個の場所に居るモンスターは基本的に一種のみなんだとか。世の中上手く出来ている・・・と言うより、ゲーム的な安全エリア処理だろうか?

当然、その限りではない例も少なからず存在するらしいが、今回は安全地帯がしっかり出来ているからそこを通ったらしい。

そうやって、至極安全に入り込んだ洞窟は、『いかにも私が洞窟ですよ~』って感じの雰囲気だった。

明かりはランプの明かりのみ。視界が極限まで制限された世界でも、聴覚を刺激するのは自分たちの足音だけだ。まるで孤独な世界に入ってしまったようだ。

その空気に耐えきれず、僕は何か話題を探した。この世界に来てから溢れる疑問が頭を()ぎっては消えていく。そんな疑問を全てぶつけて、根掘り葉掘りこの世界の謎を明かしていってもいいんだけど、それをするには多大な時間と労力が必要となるし・・・。

しょうがないから、この洞窟内においての疑問をぶつけるしかない。

「なぁシン、この依頼は国のものだって言ってたけど。 国はどんな思いでこの依頼を僕達に預けたんだと思う?」

僕の前を行くシンは、フードを外して振り向く。 その顔は、いつも笑ってばかりの彼の顔じゃない。

僕に魔法を教えるときみたいな、まともに物を考えている時の目だ。

「なんでって言われてもなぁ・・・」

それだけ言って、視線を前に戻す。 後ろを向きながら進むのは危険と判断したのか。

「そんなん分からねぇよ。つーか、考えなくてもいいってのが本音だろうな。そりゃ、見ただけで怪しいってんなら、その理由に憶測を立てるのも一手だ。だが、そうじゃないなら理由に考えを及ばせる必要はない。そうだろ?」

「・・・それもそうだな」

シンは矢張り場馴れしているのだろう。 考え方がプロのそれだ。

しかし、シンの言っていることが分からないでもない。僕だって、テストの問題が出された所でその問題が出された理由まで考えを広げる所まではほぼしない。

おそらく、殆どの人間がそうだろう。 仕事を与えられたら、与えられるがまま。そういう物なのだ。

「でも、理由に憶測が立てられないわけでもない」

「え?そうなのか?」

「あぁ。例えば、国が手を出せない状況にある時に、何か期待できるものが遠くにあるかもしれない。そんな時、自分で労力を支払うよりは、俺らみたいな自由な人間に任せるほうが安上がりで済む。今回は洞窟だっただけの話だ」

「・・・つまり、僕たちは、国の目となり手足となってるだけって訳か」

「あぁ、だが、洞窟内に『お宝』が有ったなら、国に恩が売れる。つまり、報酬が2万以上に跳ね上がる可能性だってあるわけだ! 希望を持って行こうぜ!」

真面目な話になっていたのに、いつの間にかアメリカンドリームの話になってしまった。

だが、シンはそういう人間だ。そろそろ慣れる。それに、シンが本当に心内そう思っているかも分からない。

実践練習の時に彼の性格も掴めた。相手の行動をいち早く察知し、時にそれを避け、時に相手を利用し敗北へ嵌める。おそらく、多彩な戦闘経験の中で手に入れた彼の戦闘スタイルなのだ。それは、彼の気質に基づいたものであるのかもしれない。

真面目でもあり、不真面目。彼の性格は、言えも知れぬ両義性を持っているのだ。

ならば、今は彼の不真面目さに乗っていよう。

「あぁ、そうなると良いな・・・うん?」

ふと、僕の視界の端に映ったものが有った。 ランプの光とは別の、碧い光。

その光源は、洞窟の岩肌。 体感的に30分ぐらい歩いて奥に進んでいたが、そこに来て何か面白いものを発見したのだ。

結晶だ。碧い光を放つ結晶。それは、とても魅力的な周波数で僕を引きつける。

サファイアにも似た、しかしサファイアより青色が濃く深い。僕の持つ知識の中には、これが何かを示す指標は何一つ無かった。

「おーい、シン。 これはなんだと思う?」

「ん? 早速何か見つけたのか?」

たまらず僕はシンを呼んだ。 すると、シンはこれを見ると、まるで口を三日月のように歪めて笑ったのだ。これは大当たりかもしれない。

「良いのを見つけたじゃんか。これは魔性結晶(ラフアイソトープ)って言われるもんだ。魔法道具の原料の一種で、《フレイヤの頸》もこれから作られてる。これは、宝石ほどとは行かないが、それなりに貴重なものだな」

「・・・つまり?」

「マジで報酬が跳ね上がるかも知れねぇな。それも、結構な確率でだ」

その言葉で一気に夢が広がった。本当にアメリカンドリームを掴めるんじゃないのか?

いや、荒唐無稽な夢(アメリカン・ドリーム)ではない。シンの口ぶりでは、最早手の届くところにあるのではないか?

この世界に来てまだ1週間だと言うのに、早速の大成功の予感に、心が弾む。

「シン、早速先に進もう。 なんだか、面白くなってきた」

「そうだな! さっさと進もう」

そう思って、ランプの光を手に取る。進むべき道へと光を向けた。

向けた光が照らしたのは、いつまでも平坦かつ孤独だった洞窟の岩肌ではなかった。

かと言えば、頼るべき仲間(シン)の背中でもなければ、結晶の蒼炎と共に照る希望の道でもない。

映ったのは、緑色の何か。当然、芝生でもなければ、苔のようなものでもない。

脂ぎった、何かの外皮。緑色の、毛も無き何かの脚。

嫌な予感だ。いや、この時点で舞い上がっていた僕の気分は一瞬で突き落とされた。落差が激しすぎて擬似的な嘔吐感さえも出てくる。

上を見上げれば・・・嗚呼、思った通りだ。磁石のように互いに見合わせてしまった。オークの太った体でよく見えないが、牙を持ち上げ笑っているのが辛うじて分かる。

僕達のランプが照らしたのは、豚鬼族(オーク)の皮。僕達が結晶に見惚れている間に、ここまで近づけることを許してしまっていたのか!それを自覚したら、僕の鼻孔を悪臭が撞く。硫酸の刺激臭を思い出してしまうほどの、汚物の匂い。ただの汚物の匂いに刺激臭を思わせるのは、圧倒的な恐怖に僕の体の感覚を塗りつぶされたからだろうか。

いや、近づけることを許した? そんな事はない。そんなに生易しいことではない。

圧倒的に僕の体を上回る4,5mの巨躯が、圧倒的な破壊力を持つ腕を振り下ろす準備を始めている。

手に何か持っている事が分かる、棍棒だろうか?それが振り下ろされる未来が見えただけで、僕の脚はすくんだ。恐怖に駆られた僕の体は、その場から動くことにさえ神経を繋ぐことが出来ない。

―――――飛べ!!

隣から聞こえてきた声なのに、現実感の喪失に引きずられるように空洞になった頭にこだました。

考える事を放棄した僕の頭だったから、その言葉の意図を掴むことさえ叶わなかった。

しかし、外から感覚への刺激が為されたことで、一瞬だけ全身の神経が繋がった気がした。

その一瞬、僕は生存本能が指し示すままに、オークの背中側へ。つまり前方へと飛んだ。

飛んだ0.2秒後、飛ぶ前に僕の居た地面は、オークの振り下ろした棍棒が跡形もなく破壊していたことが空中を走る音と衝撃だけで伝わってきた。

破壊音がまるで発破の爆音だ。衝撃もダイナマイトのようであった。

そして、着地した時、僕は己の生を実感した。死への恐怖を味わった直後だからだろう、全ての音が山彦のように頭を反響していたのが、一瞬であるべき記憶(ばしょ)に収まった。本能の時間が終わり、理性が遅刻して顔を出す。

「ランプを運搬籠(キャリケージ)に仕舞え! 両手で銃を構えろ!明かりは心配するな俺が持ってる!」

シンの指示が、今度は言葉として認識できた。まるで吸い込まれるようにランプは運搬籠(キャリケージ)に立ち消えた。これで、僕は完全に両手が自由。

構えろ。 思考を読み取って黒と銀の銃はそれぞれ持ち場についた。

銃を持てば、僕も一介の戦士という自覚もある。 視界の端々でさえしっかりと見据える集中力が蘇る。

「悪い、どうかしてた。」

「良いっての。死んでなきゃなんでも良い」

やはりシンは一流なのだろう。 応答はするが、オークから目を離すことはしない。

僕も、それに応えなければならない。

僕は、目の前の巨大な悪鬼に目を向けた。 大きさは当然変わっていない。が、覚悟を決めたからか、それとも最初に見たインパクトが余りにも大きすぎたのか。今度見た時は最初に見たときより小さく見えた。

いける。

僕は、半ば確信じみた夢想を思い浮かべた。

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