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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
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門出

「おいアト、流石にそれはねぇんじゃねぇの? さすがに昨日までは我慢してたけどよ」

「うるさいなぁ。 これが僕の普段着で勝負着なんだよ」

シンが僕の姿を見るなり、文句を垂らす。あの騒ぎの後、僕たちは出発の準備で大童(おおわらわ)だ。今は部屋に戻って、荷物を用意しているころだ。

別に急ぐ必要はないんだが、シンが早めに出たいというから仕方なく、である。

そして僕は、出発のときでもこの世界に来た時の格好。つまり学生服のままで居る。そのことにシンは文句を言っているのだ。

確かに他人から見たら動きにくそうだろうな。だけど、この服は僕が勝負に出る時にいつも来ていたものだ。

まぁ、勝負って言っても、今回のようなことではなく、模試とかのことだが。

「まぁ、メガネも相まって似合ってるっちゃ似合ってるけどな。 で、どうよ。昨日の内に買っといてやったホルスターは。ずっと銃を両手に持ってるわけには行かないだろ?シルダさんに言って、作ってもらったんだ。お代は仕事が終わってからでいいってよ」

「あぁ、最高だよ。シンのおかげだったのか、ありがとうな」

「良いってことよ。 さて、今回は場所が洞窟だからな。非常食とランプ3つとマッチと縄梯子とピッケルと・・・」シンは2つの背負い鞄の中を覗き、持ち物のチェックを怠らない。

シンは、こういうことに手慣れているからか、準備がすごく手早い。

というか、こういうことに自信がなければ、僕みたいな人を受け入れたりしないだろう。シンはこの世界において本当の実力者なのかもしれない。

「よし、問題なさそうだ。 アトは武器の手入れは言った通りしっかりやったな?」

「ああ、チェック項目は全部クリアしてる。問題なさそうだよ」

「OK、次回も手伝うが、出来るだけ自分で出来るようにしとけよ。 じゃぁ、下に降りて追加装備を受け取るぞ」

「追加装備・・・?」

また分からない単語が出てきた。 これで良くないか?

「あぁ・・・そうか。常識が伝わらないって辛いな。俺もいい加減慣れなきゃいけないな。武器とか、こういう安価な物は当然冒険者(こっち)側で揃えるもんだが、仕事をするにあたって、必要だが高価なモノは酒場とかから貸し出されるんだ。レンタル代は報奨から天引きされる。魔法道具とかがその一例だ」

「なるほど・・・」

レンタカーみたいなものか。密かに僕は納得していた。

「んーじゃ、下に降りるぞ~」

「了解」

シンに連れられ、下に降りると、カウンターの向こう側に居るゴウラと机を拭くカラが見えた。

今の時刻は、朝ではないが午前中、と言った具合だろうか。

当然、酒場はまだ働かない時間帯だろう。しかし、降りてきた時はゴウラは何人かの知らない人と話をしていた。剣などを持っているのが見えたから、冒険者なんだろうが・・・。

「ゴウラさん、さっきの人は?」

「おぉ、アトか。おはよう。お前らと同職でな、あいつらはアルバ平原での指輪探しで、『フレイヤの(くび)』だけ渡して行ってもらったところだ」

「フレイヤの頸?」

「貰えば分かる」

隣でシンが囁いた。

というか、指輪探しか・・・随分楽そうじゃないか? 有るならそっちの方が良かったような気もするが・・・。

「シン、なんで僕達の仕事を指輪探しにしなかったんだ?それに、指輪探しって随分楽そうな気がするんだけど・・・」

「広い平原の中から1個の指輪を探すのは、感知魔法をそれなりに修めていないと無茶苦茶めんどくせぇし、アルバ平原は昔から獅子形鬼(レッサーオーガ)がたむろしてるような場所だ」

「シンに任せて正解だった」

「そうだろ?」

シンがこういうことに手慣れていることをさっき気づいたばかりなのに・・・。僕はこんなに物忘れが激しい男だったっけか。少し自信をなくしてしまう。

「おーいお前ら! こっち来いよ~」

ゴウラが呼びかける。 準備が終わったみたいだ。僕たちは、ゴウラの方向に歩いていく。

カウンターの上には、何か綺羅びやかな道具が幾つか置かれているのが分かる。

これが魔法道具の類か・・・納得だ。元の世界では、宝飾品と呼ばれていそうな物が並んでいる。

「まずは、運搬籠(キャリケージ)だ。 こん中に、豚鬼族(オーク)の腕なり頭なりを入れて持って来い」

圧縮(コンプレス)の魔法がかかってる魔法道具だ。色んな物を小さくして持ち歩くことが出来る魔法道具なんだぞ」

「解説してくれるのは本当に助かるよ」

シンが居なかったら、この世界の事を知るのはかなり大変だったろうなぁ。改めて有難く思う。

運搬籠(キャリケージ)と呼ばれるものは、金色に光る鳥籠のように見える。これが、説明の通りの道具なのだとしたら、かなり便利だ。1家に1個欲しいぐらいのものなんだが・・・。

「後は、『フレイヤの頸』だな。ちゃんと付けていけよ」

そう言われて渡されたのは、首輪のようなものだった。紫色の直径1cmほどの宝石が1個ついている事以外は革製のごく普通の首輪だ。

だが、これが『とりあえず』と言うようなレベルで配給される魔法道具なのか・・・?

「なぁ、シン、これは?」

「そうだな。これは生死確認(エマージェンシー)の魔法がかかっている。そこに紫色の水晶が見えるだろ?」

そう言って、シンはカウンターの向う側にある酒が並んでいる棚を指差す。その端っこに、確かに紫色の水晶が見えた。まるで占い師が持つような大きさの水晶だ。

「あれは『フレイヤの脳』。頸とセットになってる魔法道具。頸の持ち主の誰かが死んだ時、それを知らせる魔法道具なんだ。俺らの職業はただでさえ危険だから、死の危険とつきまとう。危険な場所に行くんだから、死んだかどうかの確認なんてこうでもしないと確認しようもない。便利な道具だ」

「なるほど・・・そういう事なのか」

理解した。便利なものだ。

生死と隣り合わせの仕事なのだから、こういう道具が出来た。きっと、他にも魔法を駆使した便利な道具が有るのだろう。

魔防の利便性、そしてそれがいかに浸透しているかも伝わってくる。

僕が居た世界とはつくづく大違いだ。一回一回が未知との遭遇、発見の連続だ。

「よし、じゃぁ出発するぞ。 準備はいいな?って言っても、モノの準備は俺がやったし、お前の準備って言ったら・・・覚悟だけか?」

「そうだな・・・なら、大丈夫だ。僕の心は最初から決まっている」

この世界からの帰還だ。 それをするためなら何だってする。

「ならいい!じゃぁ行くぞ!」

シンはフードを目深に被った。どうやら、それが彼が外に出る時の正装らしい。僕が制服を着る理由と同じかもしれない。

そして、シンが外に出た。僕はいつでもシンの後、それでいい。

僕もシンについて行き、外に出た。あらゆる危険を想定しつつ。

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