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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
12/24

初めてのお出かけ

シンから魔法のことを教えてもらって2日が経過した。

この2日間は、シンから教えられた通り、魔法に関しては基本魔術公式(ベーシック・ルール)とその他初歩の公式を覚えることに留め、その他は銃の腕に磨きをかけることに専念した。

というのも、魔法と融合したとは言え本質は銃。当てなければ倒せない。

銃の扱いは初めてではないとは言え、実戦で求められるレベルはあの強盗戦での物では足りないらしい。

精密性、速射性、近距離まで攻められた時の対処法。

それら全てを、僕はシンとの実践練習で身に付けている。

図書館の内部に造られた中庭で、2日で二桁の数字になる回数のシンとの実戦を積み上げているが、僕はその度に全力でシンに挑み、そして毎回シンとの力量差に半ば感心するばかりだ。

一度たりとも『僅差だった』と胸を張って言えるほどの戦績にならない。

今もそうだ。

シンと僕が50mほど離れて向き合う。シンはいつもの黒ずくめの服装で、武器を持たない。僕は銃を両手に持つ。そして、いつも始まりの合図は僕の銃声だ。

銃声と同時にシンが僕の方に走り始める。当然のように、銃弾は避けて通るのだ。その度にシンの黒いローブが跳ねる。

何発撃っても同じ。どこに着弾するのかも分かっているかのように必要最小限の動きで避けながら、疾く進撃する。頭、肩、手、腰、足。思いつく全ての部位に弾が当たらない。

6,7秒もしたら、既に互いに一刀で敵の首を刈れる間合いに入る。毎回ここまで来て、シンは自分の獲物をベルトに付けたケースから右手で抜くのだ。

それは、日に応えるように煌めく白銀の短刀。柄に所々に控えめに装飾された宝石類が姿を出す。今度はそれを合図として、白兵戦の始まりだ。

腰から、僕の喉笛を裂くようにそのまま振り上げる。僕はそれを右手の銃で受け止めた。

魔法を込める武器は、ほんのちょっと刺激するだけじゃ壊れない。シンから教わったことだ。剣の攻撃を何千回受け止めたところで摩耗の一つも起こさないそうだ。

その言葉を信じ、この実戦練習でも短剣を受け止めることにも使っている。言葉の通り、自分の思っていた以上に銃は頑強だった。初めは躊躇していたが、3回も練習を熟す頃には躊躇も頭から消えていた。

だが、頑強さは練習中にはほぼ関係ない。僕が両手の銃で受けつつ、引き金を引く事に、シンは身のこなしと短剣一本で十分対応している。

銃を構えて、引き金を引く頃には、身をひねらせ曲げて射線から逃れる。のらりくらりと避ける様は暖簾をも思わせるほどだ。

さらには、シンは肉体による妨害戦術にも非常に長けている。一個の銃を避けるのに、シンは多少無茶な動きをする時がある。胸など体の芯を狙ったならば、当然その分大きく動かなければならないからだ。たまには、倒れ込みそうになるほど体を曲げることもある。今回も、背中から大きく倒れ込みそうになる。このままでは、無様に大の字になって倒れるところだろう。

しかし、そこを勝機と見て銃を構えても上手く行かない。僕はシンは『待ってました』とばかりに、胸を狙っていた右の銃を足で弾き飛ばす。後ろに倒れ込みながら相手の手を蹴飛ばせる人間と果たしてどれだけ出会ったことがあるだろうか? 僕はシンが初めてだ。僕は、弾かれた銃を手放すことはしなかったが仕方なく銃口を天に向けざるを得なかった。

慌てて僕はシンに対して左手の銃を向ける。倒れ込んだところを撃つ算段だ。だが、シンは倒れ込むことなどしなかった。そのままバク転の要領で、手を付けた地面を基点として一回転する。

当然、そのぐらい奇抜な動きをした所で、そのモーションの途中か終了後の僅かな隙を狙って撃てばいいだけの話。だが、シンはそれすらも許さないほど徹底して動作の間隙を無くしている。

バク転の着地の直後の移動までさえも、一瞬の隙がない。

直後、跳ねるようにして高速移動するシンに僕は反応しきれなかった。そこからは一瞬だ。

シンが左手で、僕の左手首を掴み、強引に振り下ろす。その絶対性は、支配と言っても遜色ない。抵抗できるような腕力じゃない、あまり太いようにも見えないシンの腕だが、僕を遥かに上回る力量を持っていた。僕の運動不足が祟ったかもしれない訳だが。

そして、そこに少しでも気を取られた間に、喉元に短剣を突き付けられる。

これが本物の戦闘だったら、この時点で僕の死は決定しただろう。だが、これはあくまで練習。

よって、寸止めの時点で僕の負けが決定。それで練習はおしまいだ。シンが左手の支配をやめる。

「30秒。うん、中々動きについて行けるようになったじゃんか。最初なんか詰められた時点で反応できないで終わったもんなぁ」

すっかり師匠気取りだ。きっとフードの裏で悪そうな表情でも浮かべているのだろう。吊り上がった口が悪魔の形相である。

「僕は戦いとは無縁の世界で生きてきたんだ。たった2日でここまで出来るようになった事を賞賛してほしいくらいだよ」

「・・・まぁ、やっと少しは戦えるようになったって感じだな。悲観することはねぇよ、褒め言葉のつもりだ」

褒めるの下手すぎだろう・・・。

「と言うか、俺は強いからな。完膚なきまでに負けるのも仕方がねぇよ」

「そういう事、僕以外に言わないほうが良いと思うぞ。反感を買う。」

「そーゆー事気にすんなって。 ほら水、息整えたら一回帰るぞ」

僕は、金属製の水筒を手渡される。蓋を開け、水を喉から流し込む。

水を入れた臓器から、全身に水分が行き渡る。それだけで僕の体は活力を取り戻す。

つくづく単純な体をしているな。

「だけど、本当に帰るのか? 僕はまだ体力も残ってるが・・・」

「いぃんだよ。 俺らは先生と生徒じゃないんだぜ?冒険者だ。つまりお仕事だよ。」

そういえば、僕らは一応冒険者だ。 シンの計算に上手く乗せられてなってしまったというべきか。

だが、今更シンの元を離れることにメリットがない以上、仕方がない。

しかし、お仕事・・・?何をやるんだ?

「なぁ、仕事ってなんだ?」

思い切って聞いてみよう。 聞かぬは一生の恥とも言うし。

「仕事か・・・まぁ、大したことないだろう。初めてだしな。豚鬼族(オーク)退治とかじゃねぇの?」

「オーク? それって、巨大で、豚の頭で、棍棒持ってたりするのかな?」

「へぇ、そういうことは知ってるんだな。 意外だな」

それはまぁ・・・元の世界でそれなりにお世話になってますし。

僕の凝り固まったイメージがこの世界にそのまま通用するとは思っていなかったが・・・大丈夫なのか?

初仕事で、巨大な奴と戦うってのか・・・? この僕が?

「考えてること丸わかりだ・・・大丈夫だぞ。 お前の思ってるより遥かに楽なはずだ。」

「本当なんだろうな・・・?」

正直、疑わしい。

シンは僕を子供のようにあしらう。さっきの実戦だってそうだった。

そこまでの実力差で、楽とかどうとか言われても、正直参考にしきれないのが本音だ。

これから冒険者としての仕事も控えてるのに、こんなんじゃぁ幸先不安なんだが・・・うん?

「そういえば、冒険者ってどういう仕事なんだ? まさか、戦う仕事ばかりだったりしないよな?」

「・・・さぁ~・・・」

そうか・・・戦う仕事ばかりなのか。

僕は、この世界に来て早々、元の世界に帰る決意を固めたところだ。

「冒険者の仕事は多岐に渡るぜ? 小さいのだと物探しとかで、大きいのになると国家間の戦争の重要戦力として参加することもある。だがな、そういう依頼ってのは『依頼主が出来ないから』来たんだよな。そして、その理由を極限まで纏めると『戦力が足りないから』・・・って事になるんだよ。冒険者をやる以上、必ず戦う技術は必要になる。お前の望みを叶えるなら、尚更大きな依頼が来るために、戦力を蓄えなきゃいけないんだよ。わかったか?」

「ご丁寧な説明ありがとう」

まだ若干気が引ける。だが、シンの言っていることに理がないわけでもない。

ただでさえ僕はこの世界での立場も力も弱い。シンの言うことが嘘だろうと、従うしか無いのだ。

「さーって、着いたぞ」

着いた。 その言葉に引かれて目線を上げる。

そこは、今の僕の棲家。 ゴウラの酒場だった。

先程のシンの、帰る、という発言の意味から多少の予測はついていた。

一度帰って支度してから何処かに向かうというのか?

そう思っていると、シンはドアを勢い良く開いた。 思い切りの良い奴だな・・・。

「おいマスター! 頼んでおいたモノは準備できてるか!?」

「おぉシン! よく帰ってきたな!バッチリだぜ!」

シンは屋内に入ると、すぐにフードを取り、カウンターについた。シンの目を見るのは久しぶりな気がするが、随分ランランと輝いているのが分かる。

僕もそれに倣って席に着く。 それはそうと、随分仲良くなっているな・・・初日はあんなに険悪だったのに。だが、険悪だったのもシンの説明不足が原因。

僕は最近図書館に篭もるようになって、あんまり酒場の状況を掴めずに居た。もしかしたら、ここ最近に打ち解けたのかもしれないな。

「アトも、最近俺っちと話してくれなかったからよぉ。少し寂しかったんだぜ?まぁ、コイツが近況を教えてくれてたから、心配はしてなかったがな! 二人共、なんか飲むか?」

「俺はペールエールくれ。 アトはどうすんだ?」

なんというか、二人共本質的に似てるんだな。 2日で打ち解けたのが納得できる。

「あぁ・・・僕はお酒じゃなかったら何でも良いよ。」

「そうか。 じゃぁレモンジュースでも入れてやろう。2人ともちょっと待ってろよ」

そう言って、ゴウラは奥に引っ込んでいってしまう。

だが、30秒も経てば、グラスを2つ持って、カウンターに置く。茶色く、白い泡が立っている液体グラスはシンに、淡い黄色の液体のグラスは僕に。グラスに水滴がついていることから、とても冷えていることが伝わる。シンはグラスが置かれるのを見ると、瞬時にグラスを手に取り、自分の口に運んでいく。

グラスの半分ほどを飲み干すと、今度はシンが勢い良くグラスをカウンターに置いた。

その間に、ゴウラは、カウンターの下から何かを取り出す。それは、書類の束だった。

「でよ、シン。 初心者用の仕事なんだが、丁度豚鬼族(オーク)討伐の仕事が来てるんだ」

なるほど、アレは仕事の詳細が書いてあるものだったのか。酒場が仕事の受付場所なんだろう、人が自然と集まるところだし、活気もある。理にかなっていると言えなくもない。

「お、良かったじゃねぇか。詳細は? アト、よく聞いとけよ」

「分かった」

何事も、正しく状況を理解することが大事だ。 しっかりと聞かなければならない。

「国からの依頼でな。東の洞窟に、豚鬼族(オーク)が群生していることが分かった。今んとこ被害は出ていないが、事前に討伐の依頼が来ている。報奨は2万E(エディ)前後だ。洞窟の調査みたいなもんだが、国軍を動かす余地が無いんだろう」

「2万エディ?」

通貨単位なんだろうが、良く分からない。

「あぁえぇっと・・・2週間普通に過ごす分には苦労しない額だ。こんぐらいの依頼じゃ妥当な額だろうな。マスター、その仕事、受けさせてくれ」

「あいよ。 アトも良いな?」

ちょっと待て、トントン拍子で話が進みすぎた。

「まぁまぁ、こういうのは思い切りが大事なんだぞ! 俺みたいにガツンと行こうぜ!」

シンが背中を叩いてくる。 バンバンと叩かれ、少し背中から痺れが走る。

そう言われたら、そんな気がしてきた・・・。もとよりシンの仕事には手伝わなきゃいけないんだ・・・やるしかないんだ。

「シン・・・良いんだな?任せても」

「当然だ。大船に乗った気で居ろ!」

「・・・分かった、僕も参加する」

そう言うと、ゴウラ・シン双方花が咲いたように笑みを浮かべる。

「分かった! じゃぁ、これはお前らの依頼になる!頑張れよ!」

「わかってるって! じゃぁ、初仕事の成功を祝って~!」

シンは、グラスを胸に構える。 いつの間にか、ゴウラも酒を入れたグラスを手に持っている。

あぁ、乾盃か・・・。 僕もグラスを胸に構える。それを見た2人は、一斉に叫んだ。

「カンパ~イ!!!」

ガチン! 3つのグラスが思いっきりぶつかる音だ。

これで僕も異世界の住人の仲間入りか・・・。少しだけブルーな気分が混じる。現実感が離れたことによって、却って元の世界への憧憬(ホームシック)の気分が帰ってきた。

だが、それも一瞬だった。2人はまるでこれが宴会であるかのように騒いでいる。いや、これは2人にとっては宴会なのだろう。いつの間にかギャラリーも集まってきた。

「おいお前ら! コイツらここの上の部屋に泊まらせてる新入りだ!これから初仕事なんだ!思いっきり騒いでやれ!」

ゴウラの大声に呼応し、ギャラリーも叫ぶ。

ああ、ここはこういう世界なんだ。 人と人とのつながりがとても濃厚。僕が居た世界では有り得ない。

幸せな気分だ。 酒気に当てられて僕も酔ったのだろうか?

いつの間にか素面じゃなくなった3人で、僕たちは月が眠るまで騒ぎ明かした。

まるで憂鬱を吹き飛ばすように。 まるで門出の運を呼び寄せるように。

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