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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
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魔術の手ほどき

自分の部屋を出て、シンに連れて行かれたのは、街から少し出た草原であった。

そういえば、この世界に来てから街から出たことはなかった。そう思うと、草原はこの世界に来たことと同様に感慨深く、衝撃的なほどの感激をくれた。

日本に居た時も、自然に囲まれた環境には来たことがある。だが、果たしてここまで美しい草原があっただろうか。そういえば、僕が現代日本の環境を説明した時、2人はとても驚きを隠せずに居たと思う。

もしかしたら、ここは環境汚染という言葉とは無縁の世界であって、だからこそこういう手付かずの自然が残っているのかもしれない。

「オイ、アト。 なんか感激してるみたいだが、ここに来た理由を忘れんなよ~。ここには魔銃(マジックガン)の手ほどきをしに来たんだからな。」

「あぁ・・・念のため持ってきておいて良かったけど・・・。せめて、そういう事は言ってからこういうところに連れてきてくれ。何しに来たのかと思っていたよ」

昨日は武器を持たずに出歩いていたから、酷い目に会った。そう思って、今回は武器をしっかり持ってきたのは良かったが・・・そもそも手ほどきって何をするんだ?

「さて・・・どこまで知ってるのかが分かってると教えるのは楽だな。まず、強盗と戦った時みたいに銃を撃ってみてくれ」

「あぁ、分かった」

僕は、地面に向かって銃を撃ってみる。前回から銃を操ってみて思っていたことだが、今回同時に痕を見てみるとハッキリ意識できる。黒い銃(ニュクス)の弾痕の方が銀の銃(ノルン)のよりも大きい。威力の微細な違いがハッキリ分かる。

「ん?思っていたより威力が大きいな・・・まぁ、これでも小さい方だと思うが」

シンがそう呟くのが聞こえた。 僕の足元にある弾痕をみてそう言っているのだろうが・・・僕には十分なように思える。実弾も用いないのに、実弾を使う銃と同列の威力なのだ。これでもマシな方だろうに

「小さい・・・のか? 僕にはよく分からないんだが」

「あぁ、小さい。 魔術とは無縁の世界で生きてたんだっけか?これならその辺のガキの方がよっぽど威力の高い弾を放てるぜ・・・って言うのもな?」

そう言って、シンはローブの中からメモ帳と万年筆を取り出し、何やら書き始める。慣れた手つきだ。

そして、完成したと見るや、メモ帳のページを破り、僕に見せつけてくる。

それは、魔法陣と表現できるものだった。真円の中心部にこそ何も書かれていないが、ある程度円の外周部に近づくと、ルーン文字にも似た文字群や、多種の図形を用いた幾何学模様の羅列が所狭しと並んでいるのが分かる。

「これ・・・皆描けるのか?」

その疑問が、考えるまでもなく口から飛び出るほど、その魔法陣は煩雑かつ難解なものだった。

すると、シンは笑い混じりに応えた。

「まさか! これを皆描ける訳無いだろ! まぁ、魔術に関して詳しく学ぼうと思ったなら、これは覚えさせられる事はある。俺もそん時に覚えたわけだが・・・。これは、基本魔法陣(ベーシック・サークル)って呼ばれている物だ。元々、魔法ってのは決まった魔法陣を作ることで世界に作用を与えるものなんだ。その際に魔力を消費するわけだが、その最大量には種族差・個人差が有って、実際に測ってみるまで分からない。」

いきなりシンが僕に教えを授けてきた。まぁ、いきなり授業が始まったから多少困惑するところも有ったが、しっかりついていけている自覚は有るので一々糾弾することもないだろう。それより、シンがとても流暢に説明しているのが気になる。

「その口ぶり・・・魔法に詳しいんだな」

思い切って質問してみることにしてみた。すると、シンは口の端を吊り上げて答える。

「まぁ、俺からしたら世界の常識を話してるようなもんだからなぁ。で、話を戻すが。見て分かる通り魔法陣は書くのが面倒臭いし、訂正も出来ない。しかも、効果を増幅したり属性を加えたりするのには追加文様オプショナル・サークルってのを書く必要がある。こいつが更に複雑。サンドイッチで例えるなら、基本魔法陣(ベーシック・サークル)がパンで、追加文様オプショナル・サークルがハムとかレタスとかだ。通じてるよな?」

「大丈夫、通じてるよ」

こいつ、説明が上手いな・・・。1から叩き込むと言われて、多少の混乱も覚悟していたが、心配は杞憂に終わりそうだ。

「さて、あまりにも実用的じゃないってんで、魔法陣を省略・変換する技術が発展していったんだ。今じゃ魔法陣(サークル)を使ってるやつは全然居ない。技術に関しては量が膨大な上に、まだ未開の技術もあるから省略させてもらうが。重要なのはここからだぞ。」

そう勿体ぶり、シンはメモ帳のページをもう一回切り取る。そして、数式のようなものを書き込み始める。

書き終わったと見るや、僕に見せつけてきた。その中には、僕が予想したとおりに3行ほどの数式が書き込まれていた。だが、数学に自信があった僕だが、数式の内容が分からない。

瞬時に分からなかっただけだ。21世紀の数学でこの基本魔法陣(ベーシック・ルール)を表現するのは困難ではあるが不可能ではない。それが僕の居た世界で使われていなかった表現を使用しているだけで、10秒ほど解読に費やせば、その意味も理解できた。もはや圧縮されたとも言える3行の数式に、僕は内心感心していた。

「これが基本魔術公式(ベーシック・ルール)だ。今、一番良く使われる魔法の発動手段が公式(ルール)で、この3行がさっきの魔法陣と全く同じ働きを持っている。しかも、これは頭の中で思い浮かべるだけで良い。魔法陣(サークル)より遥かに楽だ。今最も使われている起動法のうち一つが公式(ルール)なんだ。試しにやってみろ。頭のなかで、この公式を思い浮かべて、引き金を引くんだ。これ、覚えられたか?」

「あぁ、十分だ」

さっき覚えた公式を、頭のなかで思い浮かべる。この世界の数式のルールは大分覚えた。十全だ。

引き金に指をかけると、感じていた一体感がより大きく大きく膨らんでくる。

そのまま地面に銃口を向け、引き金を引く。

すると、肩が外れるかの如き反動が僕の体を襲う! 今までこの一対を使っていてもそんな事はなかっただけに、その衝撃は強く感じた。衝撃に対して握力も足りなかったからか、銃は僕の両手の支配から逃れるように重力に従って地面に落ちていく。

雨上がりでもない地面だからか、柔らかくない地面に銃が落ちてもほんの少しめり込むだけだった。

めり込んだ銃を拾おうとすると、しゃがみ込むと、ふと目に入った。

地面にある弾痕が、さっき撃ったものよりも大きい。目測だが、3倍近くに大きくなっているのだ。

さっきの反動と引き換えの恩恵だろうか・・・僕は冷や汗を滴らせる。

「いや~、見事見事。公式を理解しないであの威力だったんだ。そりゃぁここまでの威力になるわな」

シンが拍手をしながら弾痕を見つめる。手袋をつけての拍手なので、若干音がくぐもっているが。

というか、黒いローブに長ズボン、手袋まで付けている。肌色が見える部分が口周辺しかない。流石に熱くないか?

「言っておくぞ? 基本魔術公式(ベーシック・ルール)はこの世界に生まれた人間が最初に学ぶ魔法だ。お前は今、スタートラインに立っただけなんだぞ」

念を押される。 言われなくても分かっているつもりでいるが・・・。

「それと、魔銃(マジックガン)は魔法武器とは言え、それ以前に銃だ。使い手がいかに銃を上手く使うかも大きく影響してくる。魔法を上手に発動させたとしても、銃弾が当たらなきゃ意味がないからな。魔法への深い知識と、射手としての器用さを両立しなければならない。魔銃(マジックガン)は敬遠されがちな武器なんだ。組織に抗おうと言うなら、本来は選ばれないようなもんだが・・・本当に魔銃(それ)でやるのか?」

シンは、真剣な語調で問いかける。おそらく、本気で僕のパートナーになるにあたって、心配しているんだろう。その気持ちは汲むつもりだ。僕は、この世界に来て3日と経っていない。経験豊富なシンの意見を聞くのが道理だろう。

だが、シルダの店での体験。そしてたった今味わった、手の延長となったかのような一体感。

僕はこの2つだけを理由として、その心配を突っぱねる。

「その心配はありがたいけど、僕はこれでやろうと思う。」

すると、シンは口を笑いの形に歪めた。多分、目も細めているんだろう。

「そうか・・・ま、なんでか知らんがお前はそういうこと言うと思ってたよ。銃の腕に関しては俺との実戦で鍛えてやる。魔法は、今のところは基本魔術公式(ベーシック・ルール)が夢でも出てきそうなほど反復して覚えろ。不意討ちとかが起こったら、じっくり思い出してる暇なんてないからな。付加魔術公式(オプション・ルール)はその後で良い」

「分かった。あ、シン、一つ聞いていいか?」

「ん?」 シンはこっちを見つめている・・・と思う。

「シンは案外軽く僕の提案に乗ってくれたけど、神識会に行くにはどうするつもりなんだ?」

すると、シンは真顔の口になり、答える。

「神識会のアジトはまだ割れてないから、まずは情報を集めるのが先だ。俺は元々ロマネアの冒険者として生計を立てる気でいたんだ。だからお前を受け入れた。魔銃の腕は大したものだし、冒険者をやるなら嫌でも情報は入ってくる。名が売れれば、それなりに秘匿するべき情報が耳に入ってくるもんだ。結局のところ、俺は戦力が上手く上げられたってことよ」

「・・・つまり、僕はシンの稼業に手を貸すことになったってことか。しかも、断っても僕にメリットは無い。上手く乗せられたな・・・」

僕は上手く乗せられたことに、少しだけ傷ついた。それを見たシンは、今までにないぐらい、まるで弓のように口を曲げる。シンは口しか覗かないから意思疎通に不安かと思っていた。しかし、(かたち)(ことば)ほどに物を言う男である。さほど苦労はしない。予想の通り、喜びを湛えた声で答えてくれた。

「まぁ良いじゃねーか。お前にとっても悪い話じゃねぇしよ!改めてこれから宜しくな!」

シンは僕の背中をバンバン叩く。痛い。

だが、第一印象から大分離れている彼の人格。とっつきやすいシンとのパーティー。

僕は決して悪い気分にはならなかった。

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