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無能

 本日のバトルフィールドは昨日の田舎感溢れまくる田んぼのど真ん中なんかとは打って変わって、昭和の香りが強く残る取り壊し寸前の古びたマンションの屋上だった。

 そして僕は、その戦いにおいて全くの役立たずだった。

 メイド服姿のクラスメイトが駆け、不死身のチェーンソー男がそれをいなして反撃する。

 一進一退の超人的攻防。ただの男子高校生である僕の出番なんて無かった。

 それでも、それでも僕は極寒の風が吹き抜けるマンションの屋上で、一脚を構えていた。

 屋上に設置されている錆びた給水タンク。その横に突っ立ってただ、構えていた。

 『その時』がやってくるのを待っていた。

 『真緒が死ぬ』それが僕の飛び出すタイミングだ。

 あのチェーンソーで頭をパカッと割られて死ぬのは怖い。怖くないわけがない。

 それでも、ただ退屈なこの先の未来で死ぬよりは、なんていうか『カッコいい』のだ。

 かっこよければそれでいい。ただの一般人の僕が『ヒーロー』として死ねるならば痛いのや怖いのなんて楽勝でクリアできる。いや、それでもやっぱり怖い。

 でも、僕は『その時』がくればやるつもりだ。

 颯爽さっそうと真緒の前に飛び出し、この身を犠牲にしてでも守ってやる。

 自分の姿を想像し、ニヘヘと笑っていた時だった。昨日も聞いた重い物で地面を殴るような音が聞こえてきた。

 音の方を見ると、チェーンソー男が空へとあがっていった。そしてすぐに見えなくなっていった。

 チェーンソー男が消えると真緒が僕の方へと歩いてきた。

「ねぇ、私が戦ってるときにボケーっとしないでくれる?」

「あ、ごめん」

「ま、別にいいけど。でも次も守りながら戦えるとは限らないんだからシャキっとしててよね」

 どうやら僕は知らない間に真緒に守られていたようだ。

 思わず苦笑いする僕に真緒が言う。

「じゃ、ボケっとしてた罰でナイフ拾うの手伝ってくれる?」

「ナイフ?」

「そ。お店で一番安いスローイングダガーなんだけど……。さすがに毎日使い捨てるほどお金持ちじゃないんで」

 そう言って真っ暗な屋上でナイフを探し始める真緒。

 僕もそれに習って探し始める。ちなみにめちゃくちゃ張り切って探した。

 ここで少しでも役に立つ所をアピールしておかないと、助手の立場が危うくなりそうな気がしたのだ。

 結果として真緒が三本、僕が五本のナイフを見つけてナイフの捜索は終了になった。

 かろうじて真緒より多く見つけれた事に僕は少し安堵した。

 で、その帰り道。自転車の後ろに真緒を乗せて走りながら僕は考えていた。真緒のくだらない話しに適当な相槌を打ちながら、僕は目下迫ってくる現実的な危険について考えていた。


 時刻は既に深夜だ。こんな時間に家まで送っていって、真緒のご両親に遭遇したりしたらどうしよう。まず間違いなく怒られるだろう。

 僕は男で、真緒は女だ。しかも女子高生である。そしてご両親からすれば、娘なのである。そんな娘が男に、それも深夜に、自転車で家に帰ってきたら? 僕が親ならその男をぶん殴るね。うん。つまり、僕は今すごく危険な状況だということだ。

 かといって、このまま真緒を一人で帰らせると言うのも気が引けた。

 身体能力だけで言えば、僕よりはるかに強いのは確定だが、それでも女の子を深夜に一人で家に帰すのは男のする事じゃない気がした。

 そして迷いながら自転車を漕ぎ続けていた僕は、とうとう真緒の家の前までやってきてしまっていた。

 真緒が自転車から降りて玄関へと向かっていく。

 ――どうか両親が出てきませんように!

 真緒がポケットから鍵を出して扉を開ける。

 僕の願いが通じたのかどうなのかはわからないが、その扉の奥には誰もいなかった。

 僕は思わずガッツポーズしそうになるのを堪えて真緒に手を振る。

「じゃ、また明日」

 だけど、なにを思ったのか真緒は手を振らず、ドアを開けたままびっくりすることを口走った。

「うち、よってかない?」

 ――え。バカなの?

 思わず出そうになった返事を堪える。

「いや、ほら。もう深夜だし。ご両親に会ったら僕殴られそうだし、帰るよ」

「……そ、そうだね。ごめんね。じゃ、また明日」

 そう言って真緒は顔を伏せたまま扉の中へと姿を消していった。鍵の閉まる音が聞こえ、僕は自宅へと向けて自転車を進ませる。

 僕はなにか間違ったのだろうか。

 ドアの奥へと消える前に一瞬だけ見えた真緒の表情を思い出して、僕は少し考えた。

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