ヒロインが誤解やら勘違いやらしてるみたいなので、お話してみたいと思います。
「攻略キャラたちを説教したいと思います。」の続きです!前作から大分経ってるので、言葉遣いとかが弱冠違うかもしれません。
私の目の前には、顔を赤くさせて怒りを表している可愛らしい女子生徒が1人。
なんで私がこんなことに……
あら?前にもこんなことなかったかしら?
みなさんこんにちは。藤堂あかねです。
あれから、私が生徒会役員(攻略キャラと呼んでいた方々)に説教をしてから、1ヶ月が経ちました。
つい先日、役員続行の選挙を行いましたが、彼らは生徒たちの信頼を取り戻しつつあるようで、無事任期まで役員をやれることとなりました。(ちなみに任期は2月までです。この学校は大学までエスカレーターなので受験という受験がないため、ギリギリまで仕事をしてもらおうという試みだそうです。もちろん外部に受験する方は引き継ぎを済ませたら辞めても大丈夫ですが。)
喜ばしいことです。私もほんの少し関わっていたので、心配していたのです。これで、この一連の騒動は終わりを迎えたわけです。また平凡な、でもかけがえのない日常をおくれると思ったのですが、それを良く思わない方が1人。
そうです。夢宮姫子さんです。
私から見るとヒロインな彼女は、この現状が耐えられなかったようです。
まぁそうかもしれません。
なぜなら、あの説教の日以来、攻略キャラたちは彼女の元に全く来なくなってしまったからです。
最初はご自分の状況がわかってなかったらしく、攻略キャラたちにしきりに疑問を投げ掛けていましたが、曖昧に濁す彼らに(その前まではちやほやしてたので、気まずいのでしょうね)、業を煮やしたのでしょう。矛先を私に向けてきたわけです。同じクラスですからね。毎日、朝と放課後に私のところに来るのを見れば何らかの理由が私にあるとわかります。
夢宮さんに呼び出され、一通り文句やら懇願やらされましたが、何かとても大きな誤解をしてるようです。まずはその誤解を解かないと話にならないみたいですね。
面倒ですねぇ……。
「話を聞いてもくれないんですかっ!?ほんとにヒドイ人……。そんなあなたに縛られてる彼らをかわいそうだとは思わないんですか?お願いです、彼らを解放してあげてください。悪いのはひめだから……ひめがちゃんと彼らを選べなかったから。だからひめを取り合うように争っちゃって……。お願い!もう許してあげて!彼らを元に戻して!」
えっと、なんの話をされてるんですか?私はあなた方の何角関係の恋愛模様なんてどうでもいいんですよ?
とにかく、一つ一つ紐解いていきましょうか。
まず、ご自分を悲劇のヒロインのように思っているみたいですが、悪いのは攻略キャラたちです。当たり前です。恋をしようが女性を取り合おうが、すべき仕事を放って生徒からの信頼を無くしたのは彼ら自身の過失以外何物でもありません。原因が彼女にあるとしても、です。
その落とし前を彼らには取ってもらっただけなのですが、それが夢宮さんにはどう見えたのでしょう?
あ、どうしましょう……。
縛られてるとか解放とか言ってますが、私にそんな趣味はありませんよっ!?そこはなんとしてでも誤解を解いておかないと!
「あの、私に縛るなどの趣味はありませんが…」
「はっ!?あんたなにいって……いや、物理的なことじゃなくて、精神的なことを言ってるの!彼らをどうやって脅したのかわからないけど、もういいじゃない!1ヶ月もひめと離れて過ごしたんだよ!?満足でしょ!?早く彼らを返して!!」
返してと言われましても……。
彼らはものではありませんし、借りた覚えも奪った覚えもありません。どうすれば彼女に『返した』ことになるのでしょう?
「どうすればいいんですか?」
「そ、そんなの……あれよ、あれ!『今まで無理矢理側に侍らせてごめんなさい。もう自分の好きな人のところに戻っていいですよ』って言えば、ひめのところに返ってきてくれるわ!」
え、本気で言ってますか?私、彼らを侍らせた覚えはないので、謝りたくないんですが。
というか、散々言いましたよ?『以前のようにならないのであれば、夢宮さんと一緒にいても構いませんよ』と。
人の恋路を邪魔するのが私の目的ではないですからね。それによって盲目以上になってしまわないのであれば、口出しすることはありません。むしろ青春バンザイ!です!
それを言うと決まってばつが悪そうに『いや、うん。もう大丈夫だから。それより今は…』と言うものですから、何か心境の変化があったのだろうと思ってましたが……
「聞いてる!?言うの言わないの!?ってか言うでしょ!?ひめがちやほやされないなんて、ガマンできない!ここはひめのための世界なんだから!あんたみたいな脇役風情がでしゃばらないでよ!ひめに嫉妬してるんだろうけど、あんたじゃ死んでも無理なんだから!……こんなことなら、宝生よりも先にあんたを潰すべきだった。」
あらぁ、言っちゃいました?本音を出しちゃいました?言葉には責任を持ってくださいね?
決して許すことはありませんので、覚悟してください。
「おい、そこま」
「いい加減になさい。」
ん?誰かと被った気が。まぁいいですかね。
「貴女が何をしたいのかは存じ上げませんが、貴女のために私や、私の大切な方々を危険に晒すわけには参りません。貴女はご自分が大層偉いとお思いのようですね。もしや世界は自分のために回っているとでも?笑わせないで下さい。貴女はこの世界のほんの一部で、ちっぽけなコマにしか過ぎませんよ。随分とその可愛らしい顔で色んな方を言いなりにさせてきたみたいですが、これからもそんなことが出来るとは思わないことです。たくさんの方を傷付け、陥れた分、きっちりけじめはつけていただきます。」
私が一息で言うと、夢宮さんの顔は怒りで真っ赤になり、少し震えているようでした。
「ひ、ひめがちっぽけなコマっ!?そんなわけないじゃない!むしろあんたの方がひめを引き立たせる役なのよ!この世界はひめのためにあって、ひめはヒロインなんだから!あんたなんか、この学校から追い出してやる!」
どうしましょう。これが噂のゲーム脳?というものでしょうか。
先日、乙女ゲームを貸してくれた友人が、『自分が乙女ゲームに転生して、ヒロインやら傍観役やらになる小説が流行ってる』と教えてくれましたが、まさか身近にそんな人がいたなんて……。
いくら夢宮さんがそう信じていたとしても、この世界は現実です。ゲームみたいに相手の気持ちがわかったり、好感度が数字として出てくるわけではありません。そこのところ、きちんとわかっていただけないと、お話にもならないんですね。困りました。
「……さっきから声をかけているんだが、なぜ無視をする。」
あら。攻略キャラさんたちがみなさんお揃いで。どうなさったんです?
「……夢宮さんがあかねさんを連れ出してるという情報が入ったので、心配で見に来たんですけど……」
そうでしたか。それはわざわざご足労を。
「あーちゃん先輩大丈夫?いっぱいヒドイこと言われてたけど、ボクの胸で慰めようか?」
結構ですよ、1年書記くん。というか、どこから聞いて?
「あかねが本気でキレたとこからだ。そこで声をかけたんだが、本当に気づいてなかったんだな……」
あぁ!あの時被ったのは先生でしたか!気づきませんで、すみません。
「アカネ……俺がついてる。」
ですから、必要ありませんって。2年書記くん。
でもまぁいい機会です。
「皆さん、彼女に謝ってください。」
「「「「「はっ?」」」」」
綺麗なハモりでしたね。素晴らしいと思います。ですが、そんなことでは誤魔化されません。
「彼女がこういう風に勘違いしてしまったのも、皆さんに責任の一端があると思うんです。さらに言えば、この一月、彼女になんの説明もありませんでしたよね?本来であれば、夢宮さんにも説明し、自分たちがいかに愚かだったかを分からせてあげるべきではないでしょうか。なのにあなた方は彼女を放置しました。今も理解してません。謝罪するべきです。」
私としては、説明しなければ理解も出来ないのかって気分ですが、その必要性がない人ならばまずこんな"くだらない"騒動にはなりませんでしたよね。
もちろん、彼らが謝罪することと、夢宮さんが宝生さんをどうこうしたのは別ですが。それに関しては許すつもりはありません。夢宮さんにはきっちり誠意を持って宝生さんや他の方に謝ってもらいます。(彼らは土下座済みです)
謝って済むなら問題か!って思う方もいるでしょうが、私たちは何分高校生です。まずは謝罪を受けるところから始めるべきです。そこから許してもらうにはどうするかを考えた方がいいと思うのです。
「……そうだな。オレたちが勝手に夢宮の周りをうろつき、夢宮に勘違いをさせる原因を作ったんだよな。すまなかった。」
「ええ。僕達がしっかりとしてれば、あなたはこんな勘違いをすることもなかったのでしょう。すみませんでした。」
「…………ゴメンナサイ。」
「すまん。」
「本来であれば俺がこいつらの暴走を止める立場だった。それを、あかねに言われて気づくなんて教師失格だと思う。俺たちは大きな間違いを犯した。それを今は悔やみ、償わなければならない。夢宮、お前にも迷惑をかけた。許してもらえないかもしれないが、謝らせてほしい。申し訳なかった。」
「みんな……」
これでこの"茶番"は終わりでしょうか。彼女は自分の愚かさを理解出来たでしょうか。そろそろ面倒になってきたんですが。
「……もういいの。みんなは悪くないよ。悪いのはひめなの。ひめが優柔不断だから。ひめがみんなのこと大切すぎて、誰のことも選べなかったから。ごめんね?でもひめ、ちゃんと選ぶから!みんなのうち、ひめのいちばんを決めるから!他の人はかわいそうだけど、しょうがないもんね。ひめは1人しかいないから。でもそれまではみんなのひめだよ!また生徒会室でみんなとお茶したいなっ!」
あら?もしやまだ理解されていないのでしょうか。彼らの方も唖然としてます。
「いや夢宮、そういうことじゃ…」
「んもぅ!夢宮なんて呼ばないでよ!いつもみたいに『姫』って呼んで?」
御愁傷様です生徒会長。あなた方の誠意は全くと言っていいほど通じてなかったみたいですね。
「夢宮さん、ちゃんと聞いてください。僕達はあなたに入れ込み過ぎて、本来の立場を忘れてしまっていました。ですが、ようやく目が覚めたんです。これからは、ちゃんと自分の仕事を全うしなければなりません。あなたには自分勝手と思われてしまいますが、もうあなたの側にいることはないのです。」
そうですね。そこから説明するべきでしたね。こんな騒動になっているのに、気づいてないなんて思いもしませんでしたが。
「??なんで?生徒会の仕事をしてれば別にひめの側にいたっていいでしょ?」
まぁそうかもしれませんが、
「そんなこと出来ないよぉ~。夢宮センパイに構いすぎて仕事を疎かにしたのに、また構ってたら他の生徒に示しが付かないじゃん?せっかく認めてもらったのに意味なくなっちゃうよ~。」
結局はそういうことですね。夢宮さんは周りを敵に回しすぎました。
私自身は、仕事をしてくれれば問題ないので構いませんし、なんなら以前の状態に戻った訳ではないと他の方に説明もしますが、それでも良く思わない人ももちろんいるでしょう。
というか、彼らがそこまで考えられていたことに感動です。これでもう恋心に飲まれることはないでしょう。
「……それに、俺にはもう他に想うやつがいる。」
あらあらあら!2年書記くんってば、そんな方がいらっしゃったんですね!青春バンザイです!
「おま、ずるいぞ!今そんなこと言うなんて!」
「そうですよ。僕だって、本当に心から想ってる方がいます。」
「ふくかいちょーだってずる~い!ちゃっかり宣言しちゃってぇ~」
「いやお前ら、今はそんなことを言ってる場合じゃ…というか許す気はないからな。」
あの、皆さん?青春の1ページを刻むのは構いませんが、大切な人をお忘れですよ?
「…………なんなの?なんでひめがこんな目に合わなきゃいけないの?ひめはヒロインだよ?なのになんでみんなしてこの女の言いなりなの?……なにもかもあんたのせいよ!あんたさえいなきゃ逆ハーが完成してたのに……っ!」
そう言って手を振りあげる夢宮さんが見えました。あ、叩かれると思った次の瞬間、
パシッ
彼女の腕を掴む手が後ろから伸びてきました。後ろを振り向けば、
……どなたでしょうか?
長身の美形さんです。今いらっしゃる生徒会の方々に負けず劣らず、というか切れ長の目から放たれる視線は色気を存分に含んでいて、むしろ勝ってるんじゃないかと思います。
なんでしょう。このゾワッと感。身に覚えが……
「彼女に手なんか上げさせないよ?」
あぁ!この声は!
「あなた…だれ?」
いえいえ!私じゃありませんよ!?思わず見惚れてしまっている夢宮さんの台詞ですよ?
「幸村、先輩ですよね?」
「さすが藤堂さん。大正解。」
やっぱり!いつもは顔のほとんどを前髪で隠してしまっているので、最初は気づきませんでしたよ。
でもですね?出来れば、
「不満そうな顔しないで。きみの思惑は分かるけど、この綺麗な顔に傷なんか付けたくないんだ。守るって約束もしたしね。」
……お見通しですかそうですか。なんだか悔しいです。
夢宮さんからの張り手など、避けようと思えば避けられます。でも敢えて受けようとしたのは、今後お話する上で、私が有利になれるようにです。後ろめたい事情が出来れば、私の言うことに多少なりとも耳を貸すでしょうし。
でも、『約束』ってなんですか?
「ゆいかちゃんっていう子が来てね、あかねちゃんが夢宮さんに浚われたぁ~って騒ぐもんだから。ちゃんと無傷で帰すよって約束してきたんだ。友達想いのいい子だね。」
そうでしたか。ゆいかちゃんが。
随分引き留められたのを、大丈夫の一点張りで宥めてきたので耐えられなかったんでしょう。なんて素晴らしいお友達を私はもったんでしょうか。嬉しくて今すぐゆいかちゃんに会いたくなりました。
「でも助けたのは俺だって忘れないでね?」
わかってますよ。感謝してます、幸村先輩。夢宮さんに叩かれてたら、ゆいかちゃんを泣かすことになりますもんね。
「ゆきむらって、あの、生徒会の冴えない?会計のゆきむら?」
っと、ようやく見惚れるのを止めた夢宮さんが気づいたようです。
「そうだよ。あんたがなんでこんなのが生徒会に…って言ってた幸村だよ。冴えなくてダサい男だと思ってたからびっくりした?まぁそんなことはどうでもいい。あんたはさっさと荷物を纏めた方がいい。お家が大変なことになってるよ?」
そう言って幸村先輩が自分の携帯を見せると、その画面を見た夢宮さんは真っ青になってその場から駆け出しました。何を見せたのでしょう?
「あ、おい!」
「放っておけ。家が家宅捜索にあってるんだ。それどころじゃないさ。」
「家宅捜索って、夢宮さんの家がですか?」
どういうことなんでしょう?
「あぁ。宝生さんの婚約者が今回の一件で怒り心頭らしくて。あれからあの家の粗捜しを始めたんだけど、どんどんどんどんホコリが見つかって、ついこの間国税に証拠書類を持っていったそうだよ。結構問題のある経営の仕方だったみたいで、こうやってニュースにもなってる。」
そう説明していただいて見せてもらった携帯には、まさに夢宮さんの家のことや、会社のことが書かれてました。
そうですね。こんなのを見たら、生徒会やら逆ハー?やら言ってられませんね。これからの生活に関わることですから。
「お前らも、宝生さんから許してもらったとは言え関係あるんだから、家に帰った方がいいんじゃない?」
むしろ当事者ですもんね。まさかこんな大事になるとは、私も想像してませんでした。
幸村先輩の言葉を聞いて、夢宮さんのように慌てて走り出した彼らを見送り、私は幸村先輩に向き合いました。
「先輩はどこから見てたんですか?」
「さあ?どこからだろうね?」
「……人のいざこざを見てるなんて、趣味が悪いですよ。」
「でも邪魔されたくなかったでしょ?」
まぁそうですが。なんか腑に落ちません。
「ところで、もしあの子が最後まであかねに言いがかりをつけてきたら、どうやって報復するつもりだったの?」
??なんか違和感が……
「報復なんてしません。そんなことしても意味ないのです。でも、色んな方が傷ついたということをわかってもらうために、毎時間説得してましたね。朝も休み時間も放課後も、帰ってからも電話などで話し合いの時間を設けたいと思ってました。」
「…………それは、精神的にクルね。ある意味一番イヤな報復だ。」
そうですか?私は懇切丁寧に説明しようと思ってただけなんですが。
「まぁいいや。それより、よく俺だってわかったね。」
「そんなの、声を聞けば誰だってわかりますよ。」
「そっか。あかねはびっくりしないんだね。」
「びっくりしましたよ?ものすごいイケメンさんが居たもんだと。あぁでも……こうするともっとイケメンさんです。」
ピンで留めていた長い前髪を下ろして、脇に流してみました。うん。こっちの方が、幸村先輩の色気が際立ちますね。
「…………」
どうしたんでしょう?はっ!気にくわなかったですか!?
「あの、気に入らなければ、」
「いや、そうじゃないんだけど……はぁぁ~~。」
人前でおっきなため息を吐くなんて失礼ですね!
「ごめんね?でも、これからを思うとなんか気が遠くなって……。いや、しょうがないよな。うん。あかね、覚悟しておいてね?俺も、あかねが『うん』って言うまで説得し続けるから。」
???よくわかりませんが、なんか大変なことになりそうな予感がヒシヒシとするのは、私の勘違いですか?
どこまでも決まらない攻略キャラたち(笑)
幸村はこの人たちまで被害がいかないように手を回しずみですが、あかねと二人っきりになりたかったからああ言っただけという裏設定。そして、いきなりの名前呼びに気づかないあかねに切ない想いを抱く幸村。そこからの囲い込みになるんですかね(笑)
そして書いてくうちに段々訳がわからなくなるという罠は、誰が張ったんでしょう?