6
三日前/東京/深夜
魔王ルシファーと思われる巨人を投げ飛ばしたその直後、アイラは急ぎながらも慎重に桜島の斜面に足を着き着き島の向こう側へと渡ってしまったから、もう定点カメラの映像でその勇姿を見ることはできなくなった。
けれどその後、急遽アイラの元へ殺到した全国各地のマスメディアからの情報によると、どうやら桜島をまたいだアイラは、鹿児島湾の南方にて仰向けに倒れている魔王ルシファーの脇に跪き、まずはその顔を水中に押し沈め、完全に戦意を失わせてしまったということだった。
それからだしぬけにくるくると丸めながら脱いだフリル付きのニーハイストッキングと、ゴスロリ服から外して束ねた複数本のリボンとを使って魔王ルシファーの手足と二枚の翼を完全に拘束後、彼の足枷から伸びている鎖を持ってその身体をザブザブと引きずりながら湾外まで歩み出て、太平洋の方へと消えてしまったということらしい。
ちなみに二人のバトルによって鹿児島県内の実に数十棟以上の古い木造家屋が倒壊し、なんと桜島の南に位置する沖小島という霧島市に属する無人島が魔王ルシファーの背中によって押しつぶされて消滅してしまったとのことだったけれど、にもかかわらず人的な被害は骨折等の大怪我をした者こそいく人か出たものの、死者に限っては幸いなことにゼロだったようだ。
それら情報をTVやスマホ等で随時取得しながらぼくたち、というか店にいる客の全員がこれまでのどんな特別な年末や行事があったとき以上に盛り上がった。抜粋するとこんな感じだ。
「いやー、やっぱアイラはすげえよ……ぜってー弥勒菩薩だよ……」
「ねえなんでいきなり魔王ルシファーとかが出現したの? あれ一体どこからやって来たの? そもそもあれ本当に魔王ルシファーだったの? 実はちょっとイけてるホームレスとかだったんじゃねえの? ねえだったんじゃねえの?」
「アイラちゃん強すぎ」
「いよいよ我々はVRMMORPG世界内の住人だった説が濃厚になってきたようだな」
「らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
最後のらーーーっ! はぼくが言ったのではなく、度々がなっていたスーツを着た見知らぬ男性客が発したものだ。
その意図は完全に不明だが、状況から推測するに、何やら感極まってつい言ってしまっただけのようだ。