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現在/鹿児島/午後
またぼくのポテトを勝手に食べながら中村が尋ねる。
「で、ニジ、今日はなんでここにいんだよ」
「ちょっと待ち合わせでな」
「これか?」
と、小指を立てるべきところを親指を立てた中村のボケを容赦なくスルーしてぼくは答える。
「まあそんなとこ」
「んだよ、あいかわらずの秘密主義かよ」
「そんなんじゃない」
でも、既遂さんのことは黙っておくことにした。
中村はいつの間にかぼくのポテトを箱ごと自分のトレイに移動させていた。
ったくこの図々しさには呆れるが、ぼくはそんな中村が嫌いじゃないから困ったりする。
中村がいよいよ箱からダイレクトにぼくのポテトを頬張りながら言った。
「つーかニジ、このザ・歩く情報BOXの中村さまに隠し事は通用せんぞ? お前が大学ダブって四年に上がれなかったのも、既にバチコン入手済だかんな?」
【バチコン】というのは確か運転技術に関する用語だったから、使い方が完全に間違っていることになるのだが、今回も容赦なくスルーしてぼくは訊き返す。
「っておい、そんなこと誰に聞いたんだよ」
「さあ」ととぼける中村。
ふと思いあたってぼくは言った。
「……まさか、ミロじゃないだろうな?」
ミロという思わず牛乳で割りたくなってしまうような名前のその人は、ぼくの一つ年下の今年二十一歳になる妹で、高校卒業後大学に通うために上京したぼくとは違ってずっと鹿児島の実家にいて、今はその場所から隣り町の製造関係の会社でOLとして働いているなかなかの器量よしだったりする。
「だったらどうする?」中村が訊いた。
「惨殺」
そのときちょうどまた地震によって店内が揺れて、こわ、ニジ兄ちゃんこわ、地球まで揺らしちゃってこわ、と即座に中村は返したが、
「んあー、そうだニジ、そう言えばちょっと聞いてくれよー」
と一転おもむろに言ったあとで、こっちがオーケーも出していないのに一方的に話し始めた。
ぼくは中村がミロの話をさりげなく打ち切ったのが気になったけれど、よく考えてみれば、ぼくが留年してしまった情報はミロ以外からも辿れることに気が付いたから蒸し返すことはやめて、ってゆうかミロに手を出したら絶対に許さないからな、と釘を刺すのもなんだか兄バカ過ぎるような気がしたからそれもやめて、とりあえず中村の話を聞くことにした。
でもそれは実に数年ぶりに聞く話にもかかわらず、驚くまでに既視感の強い女子関係においての失敗談だったから、今ひとつ入り込むことができないぼくなのだった。