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現在/オービス/内的世界
ふと気が付いたとき、真っ白く広大なる平原にぼくは立ち尽くしていた。遥か遠くに見える、半透明でうす赤い球体の内部で目を閉じて浮かんでいる、一糸まとわぬ格好の檀那寺さとかに目を凝らしながら。
──オービスの群はどこに消えた?
そう思った瞬間だった。既にぼくは、それを目の当たりにしていたことを知った。見渡す限りに広がっているその純白の大平原こそが、オービスの群だったのだ。さっき見たときよりも圧倒的に個体数が増えていたために、瞬時に認識できなかったようだ。
グネグネとうごめき、ひしめいている無数の白い輪郭。オービス本体よりもほんの少しだけオフホワイトの硬い地面を、翼を持たない大量の白くて艶やかな皮膚に覆われている筋肉質のオービスたちがびっしりと埋め尽くしている。一個体の大きさは、だいたいぼくと同じくらいのようだ。
その光景はまるで、ピンク色の細胞核を中央に持っている、一個の巨大な白い細胞を俯瞰しているようにも見える。
と。ぼくは己の全身がアイラのそれではなく、普段のぼくのものへと戻っていることに気が付いた。
服装はいつもの私服。いつものぼく。
ただ一つ違っている点は、巨大な刃物を片手に持っているということだ。
ぼくはその刃物を両手に持って目を細め、何であるのかを分析する。
[……カミ、ソリ?]
それは、確かにカミソリだった。どこにでもあるようなピンク色のカミソリだ。通常のそれと違う点は、突けるように先端の刃が飛び出し尖っていることと、刃のサイズが【のぼり】ほどに巨大だということだ。見ているだけで眼球を引き裂いてしまいそうな鋭すぎる刃。ピンクの装甲をまとったサメのようにサイケデリックな凶器。
[これであの白いオービスたちを、倒せということか……?]
できることなら、戦いは回避したかった。しかしそれはもはや避けられないことだ。直感がそうぼくに告げていた。でなければ遠くに見えるあの檀那寺にはたどり着けない。彼女をこの世界から救出することは決してできない。
ぼくはぎゅっと柄を握りしめながら覚悟を決めた。
────直後、オービスたちの目がカッと見開き、濃いアメジストのような紫色の肉眼が見えたことにより、彼らがまぶたを閉じていた事実をぼくは知った。同時、ぼくの侵入を知ったオービスたちが一斉にぼくに向かってわらわらと駆け寄り始める。その数、優に数百、いや、数千────
ぼくはカミソリを胸の高さで水平に構え、刃を外側に向けて固定すると、限界まで息を吸い込んだあと、絶叫と共にオービスたちに向かって走り始めた。
「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!!」