表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/80

47

 現在/鹿児島/ASIT本部/夕方


 【ぼく】は一歩踏み出すと、オービスを正面から、両腕と翼ごとホールドした。みぞおちにある第三コルロを粉砕するために。


 ──しかし、気が付いた時にはホールドを解き、ダッと飛びすさるように一歩後退(あとずさ)っていた。また地面が揺れて大波が発生する。


 オービスは、苦しみ悶えているようだった。【ぼく】の正体をつかむことができず、怯えているようにも見える。【ぼく】の頭蓋骨の奥を見るような視線でこちらを見やり、白い手枷の嵌められた左腕で自らの身体を抱きしめつつ震えている。


 と。既遂さんの思念が聴こえてくる。


[ニジ君? 状況を報告して]


[伝わり……ませんでしたか?]


[何も。どうしたの?]


 逡巡(しゅんじゅん)後、ぼくは伝える。オービスをホールドした瞬間、オービスの【内的世界】を垣間見てしまったこと。そしてその場所には……


[オービスが【群れ】でいたのね? その、内的世界に?]


[はい。ただ容貌からして、元型(アーキタイプ)と同化グランドする前のもののようでした。いずれも顔が凶悪で、男性的な身体つきで、皮膚の色はうす赤ではなく、純白に近い白でした]


[他には?]


[コルロというのは、形があるものなんでしょうか?]


[もしかして、らしきものを見たの?]


[群れの最奥に、半透明の宝玉のようなものがあって、その中に、眠っている裸の檀那寺(だんなでら)──いえ、元型(アーキタイプ)が、浮くように入ってました]


[ニジ君はそれを見て、どう考えた?]


[……ぼくの考えが当てになるんでしょうか?]


[無意識の世界では、それを感じた人間がどう受け止めたかが重要なの。それが最も正解に近い。ユング心理学でも正式に採用されている方法よ。答えてみて]


[その、コルロらしき球体の中にいるのが、【本当の元型(アーキタイプ)】ではないかと感じました。つまりオービスの群れをかいくぐり、その球体だけを壊して元型(アーキタイプ)を救出すれば、元型(アーキタイプ)損壊(そんかい)することなく縮小できるのではないかと]


[その可能性がないとは言い切れないけれど……]


 既遂さんの言いたいことはわかる。そうするよりも、【外側】からコルロを狙ってホールドなり攻撃するなりした方が、危険が少ないということを言いたいはずだ。これまでやって来た方法と同じように。しかし、それでは縮小させた元型(アーキタイプ)の生命までをも失ってしまうだろう。だからぼくは言った。


[オービスの内的世界に再侵入して、その方法を実践しようと思います]


[わたしはASITの隊長として、メンバーを危険な目に遭わせる試みに同意はできない。けれど一人の人間の行いを止めることもできない……]


[行きます。行かせてください]


[……群れは、どうやって討伐するつもり?]


[大型の刃物らしきものがありました。使えそうならば、それを使って屠殺(とさつ)します]


[なぜ、刃物が……?]


[わかりません。元型(アーキタイプ)の意識に関係していると思いますが]


[使いこなせる自信はあるの?]


[高校では本格的に剣道をやってましたので大丈夫です。あと、ボクシングと柔道も独学ですが少し]


 それは本当だった。もちろん、すべてはアイラのためだった。何か起こったときに対応できるよう、ぼくは日頃から肉体をも鍛えていた。


 あきらめたように既遂さんが伝える。


[危険を覚えたら、すぐに脱出してちょうだい。約束して]


[はい]


 【ぼく】は、改めて目の前のオービスを見た。オービスは左腕で自らの身体を抱きしめたまま、そこはかとなく震え続けている。白い手枷から少しだけ伸びている鎖がかすかな金属音を立て続けている。


 【ぼく】は一歩踏み出すと、再度オービスを腕と翼ごとホールドし、その内的世界に侵入した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ