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現在/鹿児島/ASIT本部/夕方
【ぼく】は、両膝に力を入れた。
拍子、右足で海面を踏みならしてしまい、振動と共に、大きな波を立ててしまう。
【災害】にならなかったことを確認すると、すっと膝を伸ばして、正面を向いた。
見えるのは、長い髪の毛、フリルに縁取られたスカートの裾、金色に染まった壁に囲まれた街。道路。車。建物──そして、漆黒の羊の角を持った桃色の怪物の顔。オービスの顔。檀那寺さとかの、変わり果てた姿……
[ニジ、君?]
既遂さんの思念の声が聞こえて来る。はい、とぼくも同じく思念で応える。これはぼくの声で再生されているのだろうか? それとも……? そう思いながら。
[問題なくフル・シンクロニックを完了しました。アイラは、無事でしょうか?]
答えようとした既遂さんをぼくは押し止めた。
[いえ、すみません、無事のようです。アイラはちゃんとここにいて、眠っています]
[……わかるのね?]
[はい。目には見えませんが、はっきりと]
華奢な拳を、ぼくはそっと防弾ベストに添えた。黒い目を大きく見開いてこちらを見ているオービスと対峙しながら──そして、言った。
[これより、オービスを……討伐します]