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[……本当に、フル・シンクロニックを遂げたのね]
はい、とぼくは応える。
[ほんの一瞬でしたけれど、確かに。それでオービスからの攻撃によるダメージをアイラと共有、分担してしのぐことができました]
[続けて]
[再び完全に同化──フル・シンクロニックして、アイラと二人でオービスを倒そうと思ってます]
[……方法は?]
[隙を見て、オービスの胴体を両腕でホールド後、そこにあるコルロを締め付けて破壊します。一人では無理でも、二人がかりでなら確実にできるはずです。細かい原理まではわかりませんが、さっきそれを直観しました。それにその方が打撃攻撃よりも成功率が高く、周囲への被害も最小に抑えられるというメリットがあります。戦闘場所としても、海に加えられた衝撃で発生する津波による被害を考えると、防波堤F・ウォールが完備されている湾内で実行した方がリスクは少ないかと……どうでしょうか?]
[悪くない作戦ね。湾内だと戦闘領域が限られてしまうけれど、そこから出ないように気を付けさえすれば、湾外へ誘導するよりも諸々のリスクは低い。オービスが動き出す前に仕掛けましょう]
[はい]
その後、狙うコルロは胸部の第四コルロかみぞおちの第三コルロと決められるなど、作戦の細部がとどこおりなく整ったのち、既遂さんが最後の確認をぼくに行う。
[疑うわけじゃないけれど、また、フル・シンクロニックできる自信はあるの? できたとして、元型が知り合いであると判明済みであるオービスへ対して、力を振り絞れる?]
[……ありますし、します]
[そうね、それしか方法はないものね。やりましょう]
しかし、作戦開始よりも先にオービスが動き出した。マスコミたちのどよめきがその事実を伝えてくる。
見ると、モニターの向こう側では、オービスが、唸っていた。角と同色の漆黒の牙をむき出しにして、鍛え抜かれた兵士でさえもすくみ上がってしまいそうな鬼の形相でアイラを威嚇し、敵意を燃やしている。どうやらアイラがアイラであることを悟ったようだ。
[どういうこと? 後退しているわ……]
既遂さんの伝える通り、確かにオービスは後退っていた。ジリジリと移動する桃色の両脚によって小さからぬ波が発生し、歪んだ波紋を海面に描いている。まさか逃亡することはないだろうから、十中八九攻撃の前段階行動に違いない。ぼくはその動きから考えられる攻撃を速やかに予想した。助走を付けた体当たりか、もしくはキックか……。
結果的に、その半分は正解で、もう半分は間違っていた。
──次の瞬間、時空を引き裂き、雨と同時に重力をも吹き飛ばす勢いで猛進し始めたオービスが、身を捻りながら繰り出してきたその攻撃は、回し蹴りだった。ただの回し蹴りではない、大きくジャンプしながら身体を二回転半させたあと、相手の頭部を狙って行われるテコンドー式の回し蹴りだ。
「アイラッ!!!」
フル・シンクロニックが間に合わないことを瞬時にして悟ったぼくは、思わずそう声を上げていた。華麗と言ってもいいアクロバット的な動きが行われたのち、漆黒の爪が生えているオービスの右足の先端がアイラの首筋に命中する──しかし、アイラはとっさに振り上げた左肘で、攻撃を防いでいた。ゴッという鈍い音によってもそのことがわかった。ほっとするのも束の間、ぼくは目を剥いて絶句した。
攻撃を受けたアイラの肘の中心部が、ありえない方向にグニリと曲がっていた。