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 現在/鹿児島/ASIT本部/午後/雨


[ニジッ!!]


 アイラの思念が聴こえてくる。ぼくは意識を取り戻したようだ。じんわりと滲むようにヘッド端末のフィルム状のディスプレーとその向こう側のパノラマ式のモニターが見え始め、自分がソートの中にいることを知る。けれどまだしゃべることも考えることもほとんどできない。


[ニジッ!!]


[ニジ君!? 意識があるなら応答しなさい!!]


[……はい、あります。大丈夫です]


 なんとかそう言った途端、どっと流れ込んできたアイラの歓喜の思念がグンとぼくを回復させた。


[一体何が起こったの? さっき一瞬、あなたたちのシンクロニシティーを示すパラメーターがすべて振り切った状態になったのだけれど。説明できる?]


 既遂さんの質問に答える前に、ぼくはソートのモニターを見た。オービスの状態を確かめるために。


 徐々に激しさを増し始めている雨の中、オービスは、ただアイラの前に立っていた。どうしても檀那寺のそれを連想せずにはいられない、桃色の眼窩(がんか)に埋め込まれている黒い垂れがちの両目でじっとアイラのことを(うかが)ったまま。まるで雨から己の身体を守るかのように、赤で縁取られた四枚のグレーの翼でぴったりと全身を覆ったまま。


 おそらくは、ヘッドバット攻撃を行った際に感じた何かを、オービスなりに分析しようとしているのかもしれない。アイラが本当にアイラであるのかを読み取ろうとしているのかもしれない。オービスの【元型(アーキタイプ)】があの檀那寺さとかならば、きっと何かを感じたに違いないからだ。けれどそれはあくまでもぼくだからこそ予想できることで、他の人間にはわからないに違いない。事実あの懐かしい女性リポーターをはじめとしたマスコミ陣は、攻撃を仕掛けることなく、ただアイラの前に立ち尽くしたままのオービスに困惑しているように見える。


 状況を把握したのちにぼくは答える。


[説明は、できると思います。その前に、アイラに指示を出させてください。それからもう実行済みかもしれませんが、湾沿いの住人たちに津波警報と避難勧告の発令と、あとはそう、あの、折りたたみ式の防波堤の吊り上げもお願いします]


[折りたたみ式の防波堤……? ああ、ごく最近完成設置されたFoldingwallフォールディング・ウォール、F・ウォールのことね。さすがニジ君、そこまで調べ上げていたのね]


[いえ、ついさっき知ったんです]


 眉をひそめた既遂さんの顔が思い浮かぶ。


[どういうこと……?]


[それを今から説明します。少しだけ待っていてください]


[了解よ]


 ぼくは作戦を組み上げながらアイラに伝える。


[アイラ、オービスの動静(どうせい)に気を付けて。もしも攻撃してきたら、反撃してもかまわないけど、極力投げ技は使わないこと。使うとしたら、確実に湾内に投げること。そして最終的に、オービスを拘束する方向で考えていてほしい。前からでも後ろからでもいいから、両腕ごと胴体をギュッと抱きしめるイメージで。湾外への誘導はなし。わかった?]


[わかったよ。それはそうとニジ、さっきのあれって……]


[うん。【一つになった】んだと思う]


 やっぱり、とアイラが伝える。


[びっくりさせてたらごめん。時間がなかったし、できる保証もなかったから……]


[ううん、すごくすごく嬉しかったし、おかげで、ほとんど痛みを感じなかったよ]


[そう、それなら、よかった]


 とくとくと伝わってくるアイラの想いを歓びに変換しながらぼくは既遂さんに意識を向けた。


[じゃあ説明します。実はさっき、アイラと【完全に同化】したんです]


[完全に同化……つまりFullsynchronicフル・シンクロニックに成功したということね? けれどまさか、信じられないわ。それはソートの機能を大幅に超えている現象よ]


[でもできたんです。オービスの攻撃の直前に、アイラの肉眼を通して、アイラが()の当たりにしている風景が驚くほど鮮明に見えました。それは通常の人間のそれよりも解像度が段違いに高い映像で、どんな小さなものでも、すぐ近くにあるようにはっきりと見えました。そしてそのときにF・ウォールの存在も知ったんです]

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