表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/80

「……おい、あのキリスト男、どう見てもアイラを()ろうとしてるだろ!」


 ぼくの後ろでがなった男性客の声により、店内に緊張が走りその場に留まる。まさにその通りだったからだ。


 キリスト男は画面を揺らしながらアイラを追い越すと、アイラの正面に回り込み、ぐるっと体を四分の一回転させてアイラの方に向き直った。キリスト男の背中により、座っているアイラの姿がほとんど見えなくなる。


 まもなく後、うねりだすキリスト男の肩甲骨。キリスト男はいつの間にか棍棒を両手に持ち直していた。そして高々と振り上げられる棍棒──一気に振り下ろされる。


 店内にいた一人の女性客がきゃっという悲鳴を上げる。静寂。


 ぼくは拳をぎゅっと握りしめながら、棍棒が振り下ろされる瞬間を見た。微かな振動ののち、静止する画面。


 しかし、こちらからはキリスト男の棍棒を振り下ろした後ろ姿と、アイラのWに曲げられた両足の一部分くらいしか見ることができなかった。ただしどういうわけか、キリスト男を中心として、湯気のようなものが辺り一体に拡散しているのが見て取れた。


「……どうなってやがる!?」


 みんなの想いを代弁するように、後ろの男性客が声を発した、数秒後だった。


 振り下ろされたはずの棍棒が、スロー巻き戻し(リワインド)でもされるかのようにキリスト男の冠越しに見え始め、と同時に実は棍棒を両手で受け止めていたアイラが間接部分の灰をバラバラと落としながら、フリル付きのニーハイストッキングに包まれている片膝を立て、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がり始めたのは。


「う、動きやがった!」


 後ろの男性客がまたがなったが、今度のそれは、歓喜にも似た声だった。


 そしていつの間にかぼくの近くに集まってきていた荒川/伊藤/上埜/円堂たちが声をそろえて叫ぶ。


「「「「マジですかっ!!」」」」


 そんなみんなの声に応えるように、アイラは棍棒を両手で握りしめたまま、遂に立ち上がりきった。


 それからぼくたちに横顔を見せる格好で、しばしの間キリスト男と力比べでもするかのように、ゴスロリ服の至るところからバラバラと灰を落としつつ均衡状態を保っていたが、そんなときでさえもそこはかとなくにこにこ顏なのが彼女らしいとふっと思う。


「「「「「いけっ、アイラッ、負けるなっ!!」」」」」


 と見ると、荒川たち四人と男性客が、旧知の間柄でもあるように身を寄せ合って宙を殴り付けながら、一緒になって声を上げていた。


 ぼくもおおかたの気持ちはみんなと一緒だったものの、しかし一部反面では、どうにもスッキリとしないものを感じていた。


 と言うのもそれは、敵が神聖なる救世主、イエス・キリストの容貌をしていたからだ。


 ──その時だった。


「違う、あれは、キリストじゃない!」


 とぼくの想いを見抜いたかのごとく、檀那寺さとかが声を上げた。


 見ると、檀那寺の手にはスマホが持たれていて、その画面にはイエス・キリストととてもよく似た、裸の男の古い絵が表示されている。


 ぼくは言った。


「それって……」


 檀那寺が頷いた。


「ルシファー……あれはキリストじゃなくて、魔王ルシファーだったんです!」


「「「「「魔王、ルシファー……??」」」」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ