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現在/鹿児島/ASIT本部/午後
結局つながることのなかった電話の発信を終えたとき、振り返ってこっちを見ていた既遂さんがぼくに声をかけた。
「グランド前のこの対象──元型に、心当たりがあるのね?」
「いえ」とぼくは言った。「……はい、実は」
既遂さんがやって来てぼくの肩に手をそっと置いた。
「気持ちが落ち着くまで、わたしたちが時間をかせぐわ。さっきの戦闘でアイラちゃんも少しは慣れたはずだから、今回はニジ君の手を借りずに済むかもしれない。それに今回は巨体とは言え一個体だから、奮龍で討伐できる可能性も高い」
ぼくは電源を切ったスマホをズボンのポケットに戻すと、既遂さんの眼鏡の向こうにある奥二重に包まれた両目を見た。
「いえ、ぼくに指示を出させてください」
ぼくはモニター内をゆっくりと歩き続けている、濡れそぼりつつある桃色の悪魔を一度見上げた。
「この彼女──元型を知っているからこそ、ぼくに討たせてください。お願いします」
既遂さんはぼくの目を見返すと頷いた。
「行きましょう」