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現在/鹿児島/ASIT本部/午後
ぼくはあらかじめ既遂さんに自分のやり方を一通り伝えたあと、アイラに思念で話しかけた。
[アイラ、聴こえる?]
[聴こえるよ、ニジ]
[よかった。作戦を立てたから聞いてほしい。今は緊急を要するし、たとえいい意見でも二人が同時に出せば混乱してうまくゆく可能性が低くなると思うから、戦闘が終了するまではぼくが学校の先生だとでも思ってぼくだけの指示に従ってほしい。ぼくを信じてほしい。……いい?」
[うん。信じる。ニジを]
全身を駆け巡る歓びの感情に呑み込まれてしまわないように自制しながらぼくは頷き、そして続ける。
[ただ、それとは別に、もしもぼくが明らかなミスを犯しそうになっているときは、一言勇気をもって言ってほしい。ぼくがそのミスを承知している場合、ときには辛辣に聞こえるようなやり方で却下するかもしれないけれど、それは何もアイラを否定しているんじゃない、緊急時だからそういう答え方にならざるを得ないということをわかっていてほしい。これもいい?」
[うん、いいよ]
ぼくはまた頷いた。
[武器は、ショットガンを使おうと思ってる。まずはそれを手に取って。静かに、銃把──【取っ手】の方から。そうして、正面からおでこや肩を押されても後ろに倒れないで済む格好に座り直して。踏ん張りがきくような格好に。恥ずかしいかもしれないけれど……]
アイラはWの形になっているフリル付きのニーハイストッキングに包まれた両脚の左脚の方を周囲の自然を壊さないようにゆっくりゆっくりと後ろに伸ばした。そして右脚の方の膝の角度をずっ、ずっ、と数度分慎重に広げてゆく。そうして真上から見ると、√記号のように両脚を地面に這わせている体勢になった。伸ばした方の足先である黒いエナメルの靴はあたかも横転したタンカーのごとく海水にひたひたと浸っている。
[そうして、そう、銃身が少し空を向く形で、とりあえず赤いアークテリクスが動き回っている範囲内の中央一点に狙いを定めて。動きに惑わされないように、アークテリクスの向こう側を狙うような感じで。そしてそのまま、ぼくが合図したらこういう風に引き金を引いて、肩で衝撃を受け止めて──どう、イメージは伝わった?]
伝えながら、ぼくはショットガンを撃つ己の姿と動作を脳内の右上の方で、可能な限りはっきりと思い浮かべた。ソートは互いの波長さえ合わせ、個人的無意識の領域内で承認し合うことができれば、然るべく意識を集中させるだけで、通話のみならず、お互いをお互いのビデオカメラとしても使うことができるということだったからだ。言うならば、モニターとスピーカーを介さないテレパスによるスカイプ通信というところだろうか。つまりそう、二つの意識を連絡して共有、往き来することが可能になるというわけだ。
アイラが驚きの思念を発した。
[伝わったよニジ!? 頭の中に見える……ニジが見えるよ!!]