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ちょ、ちょっと待ってください! と微かに上気したツン顏で檀那寺が遮った。
「一体さっきから何を言ってるんですか。そんなことがあるわけないじゃないですか。馬鹿にしてるならいくらニジ先輩でも怒りますよ?」
「えっと、ありのままを言ってるだけなんだけど……」
「だから怒りますよ?」
「いや……」
あ、そうか。動画で見せた方が早いかもしれない。
とそう思いながらテーブルに置いてあるスマホに手をのばそうとした、そのときだった。
途端に店内が騒がしくなり、見てみると、客の全員が天井隅に設置してある大型の液晶TVを見つめていて、そのディスプレーには、桜島の前で足をWの形にして女の子座りをしている、北側からの定点カメラによって撮影された正面アングルのアイラの姿が、白黒ならぬ緑黒の映像によって【引き】で映されていた。
見たところこれはさっきぼくが言ったアイラ専用に作られたチャンネルのライブ映像で、カラーではなく緑黒なのは、今が夜間だから暗視モードによって撮影されているのが原因だ。
立ち上がっていたスーツ姿の知らない男性客がTVを指さした。
「おい、なんだよあれ……」
それをきっかけに店内の喧騒が一段と増す。
ほとんど我を忘れた状態で立ち上がったぼくは、座敷を降りてスタン・スミスを履き、TVの一番前に立ってディスプレーを見上げた──直後。
「あれがさっき言ってた、アイラちゃんなんですか?」
横を見ると、ぼくの肩くらいまでしか背丈のない檀那寺が立っていて、信じられないという顔でディスプレーを見つめていた。
ぼくは言った。「うん、そうだよ」
「じゃあ、あの裸の人は誰なんですか?」
「……裸の、人?」
──見ると、アイラの右後方より、暗幕をかき分けるようにしながら海を歩いて近づいてくる、アイラと同じか、それ以上に巨大な男の姿があった。つまりは身長が3㎞以上の巨人ということになる。歩く際に発生する振動のせいだろう、一歩進む度に映像の全体が微かに震える。
その男は檀那寺の言うように、腰にボロ布を巻いているだけのほとんど裸と言ってもいいような格好で、口の周囲に髭をたくわえ、うねった長髪の頂きに痛々しい茨の冠を載せている、イエス・キリストにしか見えない容貌の男だった。
そしてその男の右手には、長いメガホンのようにも見える、おそらくは木製だろうひどく使い込まれた様子の生々しい棍棒が握られていた。