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 二日前/東京/夕方▷▷▷翌日/日本列島南岸沖/午後


 既遂さんに送ってもらったパス画像の威力は絶大だった。


 駅の改札をくぐる際、ものは試しと恐る恐る駅員にその画像──旭日章(きょくじつしょう)と呼ばれる俗に言う【桜の代紋】の描かれている──を提示したのだけど、はじめこそ訝しんだ顔をされたものの、すぐに詫びるような慇懃(いんぎん)な態度で通された。


 しばらく歩いたのちにふっと振り返ってみると、まだぼくのことを見ていたその駅員が、笑ってしまうぐらい生真面目な顔で最敬礼をしてみせたほどだ。


 彼ほどではないけれど、その後有明の港に辿り着いて乗船するまでに接したどの係りの人間にも似たような対応をされた。


 その後既遂さんが取ってくれた、なんと風呂とトイレまで完備している特等船室内において彼女に電話連絡をし、折り返し下船後の指示の書かれたメールを受け取ったあと、二階にあるTV付きの公共フロアに置かれた外の様子を一番広範囲に渡って確認することのできる椅子に座り、タブレットにしたノートPCを使ってネットサーフィンをし続けた。もちろん、アイラに関する情報収集をメインにしてだ。


 もしかしたら彼女に会えるかもしれないという前のめり気味の期待と、既遂さんの忠告通り、失望が大きくならないようなるべく期待しない方がいいという想いとを交互に繰り返しながら。


 そうして得た情報によると、国内においては、八年前に初めてアイラがTV中継されたときと同規模の盛り上がりをみせているようだった。


 実際フロアにあるTVでは、ニュース番組になる度にアイラに関する情報が必ず一度は流されて、ネットの匿名掲示板では百を超える(スレッド)が乱立し、動画の方も、例のアイラが魔王ルシファーと思われる男とバトルした暗視カメラによる緑黒のものが、種々様々な加工を施され、同じくらいの数だけアップされていた。


 感覚的に言うと八年前とそこまで変わらない感じだったけれど、ただ今回は諸外国、特に欧米を筆頭にした、キリスト教国圏での盛り上がりがすごかった。


 イエス・キリストと魔王ルシファーのどちらにも似ている巨人の出現により、イエス・キリストは実は魔王ルシファーだったのではないか? あの巨人がイエス・キリストだったならば他でもないアイラこそが実は地獄よりの使者だったのではないか? だとすると速やかに兵器を用いてアイラを殺害した方がいいのではないか? などというとんでもない説までもがまことしやかに飛び出しているようだった。


 これまでにも反日運動の格好の標的にされていた感の強いアイラだったけれど、今回の八年ぶりの再起動後は、それが極限にまで高まった、いわゆる炎上状態がずっと続いている状況だった。


 ちなみに今現在のアイラは依然として姿を消したままで、あれだけの大きさにもかかわらず、一般の端末からアクセスできる衛星写真等では発見することができなかった。ゆえにそのこともいわゆる【祭りの燃料】として話題にされ続けていた。一体彼女はどこへ行ってしまったのか?


 そんな風にして船旅の一日目は過ぎてゆき、二日目の日中も同じ場所で同じことをして過ごしていたのだけど、予想外に発達を遂げた午前中の【時化(しけ)】により、直にそれどころではなくなってしまった。


 ぼくは過去にも何度か東京⇆鹿児島間の航路を体験していて、中には荒れ模様のときもあったからある程度の揺れは許容範囲のつもりだったけれど、そのときに経験した揺れは、後にも先にも二度とないだろうというレベルのものだった。


 斜め上方に位置するTVがふっと砂嵐に変わったのを合図にそれはだしぬけに始まった。


 まもなくして床がどんと急傾斜すると共に、辺り一体で細々としたものが床に散らばる音が響き渡り、船内が騒然となったのだ。

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