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現在/鹿児島/午後
女子関係における失敗談を話し終えたあとで、中村はこう締めくくった。
「つーわけなんだよニジ、その女最低だろ? おかげで痒くて痒くて。記念すべき【100人目】がそんなやつだなんてほんとついてねえ。これを機にそろそろおれも引退かねえ」
100人目という言葉につい露骨に目をむいてしまったぼくをドヤ顔の流し目で見ている中村に対し、ぼくは一旦飲み込んだ言葉をやはり言っておくことにした。
「なあ中村裕」
「んあ?」
「ミロに手出したら殺すぞ? 関節の数を当社比三倍にしてから殺す」
中村はふいに頭の上で両手を握り合わせると、伸びをし始めた。
「わかったな中村? わかったら返事をしろ」ぼくは念を押した。
「わかってるって心配すんな」
と中村は時間にすると、0.5秒にも満たない早口で言って話題を変えた。
「そう言えば知ってるかニジ、昨日アイラがフェリーに【手出した】こと」
果てしなく中村的な表現をする中村に手元のコーヒーをかけてしまいたい衝動にかられたけれど、どうにかやり過ごしたあとで、知ってるよ、とぼくは言った。
「だっておれ、その船で帰ってきたから」
「マジか」中村は身を乗り出した。
「聞かせてくれよ、そのときの話」
ちらっとGショックを見ると、まだいくらかの時間があるようだったから、ぼくはそのときのことを回想しつつ、必要な部分のみを抜粋して中村に伝え始めた。