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 一眠りしたあとで目を覚ましてみると、なぜか伊藤と上埜がぼくの両脇で、そしてデスクの椅子に座った荒川が、机に顔を突っ伏した状態で眠っていた。どうやら帰るのが面倒臭くなってこの部屋を寝床として選んだようだ。


 上埜はTシャツにデニムしか着ないことで有名な、某ピアノ弾き語り女性ミュージシャンそのままのような黒縁の眼鏡をかけているスレンダーなクォーター美人で、伊藤は遠目で見ると十人中三人が女子と見間違うほどの男の()っぽい見た目で、そのことを気にしているがゆえに普段から男っぽい言葉使いを意識していたりするのだけれど、その甲斐むなしく寝顔は男のぼくでさえ普通にドキッとしてしまうほどにかわいかったりするやつだから、そんな二人に挟まれて寝ていたとしたらいくら扇風機しかない暑苦しい部屋だとしても悪い気はしないよね、と思いつつベッドを降りて鹿児島へ行くための荷物をまとめるために押入れを開けてみると、その場所で円堂が寝ていたものだから思わずザ・クロマニヨンズのヒロトばりの大ジャンプを決めてしまったぼくだった。


 押入れの中、そのままミイラになってしまうのでは? というくらい汗だくになっている円堂が言った。


「ニジ、お前は今、【お前はドラえもんか】と心の中でツッコミを入れただろう? 安心しろ、おれはドラえもんでも、ましてや妹のドラミでもない」


 ぼくは無言のままに必要なものだけを押入れ内部より取り出すと、普通にすすすっとふすまを閉めて、用意したスポーツバッグにPC関連のものと一緒に適当に詰め込んだ。


 静かにふすまを開けて円堂が言った。


「ちなみにジャイアンでもジャイ子でもない。しいて言うならば勉三(べんぞう)さんだ」


 こうやって真面目な顔でボケるのが円堂の特技なのだけれど、それに対してあくまでも真摯にボケ返すことがいつからかぼくたちの間での暗黙のルールになっていたから、今回もそのルールに則って真面目にぼくは言った。


「覚えておこうらっしゃい。ところで円堂、おれはこれからしばらく東京を離れるからな、ゾシマとこの部屋のことをよろしく頼む。好きに使っていいが、くれぐれもユミヨシさんに迷惑をかけるような真似だけはするなよ」


 押入れの床に肘をついて円堂はふっと笑った。


「見くびるなニジ。女ならばたとえゲンゴロウでもいたわりつくすこの円堂に任せて安心して旅立つがいい。そしていつでも帰って来い。なぜならここは、他の誰でもないお前の部屋なんだからな」


 ぼくはあくまでも真摯な顔で円堂の前に移動し、さほど意味のない握手をがっちりと交わすと、彼に部屋の鍵を預け、やはり無言のままごく普通にすすすっとふすまを閉めたのち、アパートをあとにした。

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