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これは愛の物語だ。
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現在/鹿児島/午後
人が人を批判するとき、結局は自分のことしか言えないのではないか?
ここのところずっとぼくを捉えて離さないのがこの問題だった。つまり批判は、【自己紹介】じゃないかということだ。
既遂さんを待っているマックの店内で、数年ぶりに再会した同級生の中村がテーブル越しに嗤う。
「おい見ろよ、あいつすっげえブサイク」
自己紹介だ。
「しかも超足短けえ。生きてて恥ずかしくねえのかな?」
これも、自己紹介。
中村がぼくを見てわざとらしく首を振った。そのときまた小さめの地震が起こったけれど、今やすっかりと常態化しているらしく、誰一人動じなかった。
「つーかニジ、お前はあいかわらずの落ちた顔だな。少しはザ・歩くポジティブシンキングなこの中村さまを見習ったらどうだ? ん?」
お前は少し落ちた方がいいよ中村裕
黒い肌とは対照的な白い歯を、ニカッと自慢げに見せつつ笑う中村に言いかけてはっと口をつぐむ。
これは、自己紹介になるのだろうか?
ぼくのポテトを勝手に食べながら中村が続ける。
「もう忘れろって。【デ化】した女のことなんて」
「別に考えてない」
「嘘つけ、【このタイミングで】こんな【よく見える】席に座りやがって。それこそデカデカと顔に書いてあるんだよ。どうせ今回鹿児島に帰って来たのもそれ絡みだろ?」
図星を指されてしまったぼくは思わず反論する。
「てゆうかデ化とか言うなよデ化とか。ネットに毒されすぎだろ」
「別にいいんだよ呼び方なんてどうでも。どんな変な名前でも呼んでるうちに定着するんだから。ブタゴリラがいい例だろうが」
エセ日焼けエセ金髪エセ碧眼というエセ三拍子がそろった絵に描いたようなチャラ男のくせに、ときどきこんな風に洞察力を連発する中村だった。
だがまたしてもぼくは反論する。
「忘れようにも忘れられるわけがないだろ、あんな、物理的に大きいやつのこと」
「まあ、な」
ぼくたちは、同時にマックの窓越しに外を見た。
見てみると、遥か向こう側の入道雲で満ちた夏空の下、桜島を座布団代わりにやたらと機嫌のよさそうなにこにこ顔で女の子座りをしている、超絶に巨大なゴスロリファッションのアイラが見えた。