原稿用紙三枚分の喜怒哀楽 ―怒:罪人への愛―
むかしむかしあるところに、百姓の息子がいました。その百姓は毎日せっせと働いても食いぶちに困るほど大変貧乏だったので、親孝行な息子はいつも親の手伝いをしていたそうです。しかしその畑は元は酸性で植物が育ちにくい赤土の土地を開拓したものだったので、大変環境が悪く、なんとか中性にしようとアルカリ性のものをまぜこみますが未だ黒土には程遠く、ほとほと困り果てていました。
ある時、珍しく立派な果実が撓わに実りました。野菜もようやくまともなものが収穫できそうです。息子達は諸手を挙げて喜び、間もなく迫る収穫の日を心待ちにしていました。
しかし、その待っていた日は台風の影響で生憎暴風雨となりました。息子達はとても残念で、果実と野菜だけが気掛かりで仕事に手がつけられませんでした。
台風などなかったかのようにすっかり晴れ上がった翌朝、息子が畑に行ってみると案の定果実は全て落ちて潰れ、野菜は薙ぎ倒されていました。息子はとても落ち込み、向けるあてもない怒りを抱えたまま荒らされた畑の修復作業を乱暴に始めました。
数ヶ月たち、再びなんとか収穫できそうなものができました。息子は今度こそはと意気込んで、毎日植物の様子を何度も何度も見に行き、空模様もいつも気にしていました。
畑からの帰途、息子はご近所さんに出会いました。少し挨拶をして、暗くならないうちに早く帰ろうと背を向けたとき、ご近所さんに呼びとめられました。
「聞いたかい?気をつけないといけないよ」
「何をです?」
「最近、ここらで猪が出るらしいんだ。畑を荒らして帰るらしい。私も今日、網をかけてきたところなんだ。相手が猪なら、気慰みにすぎないだろうけどね」
息子は青ざめました。初耳だったのです。急いで畑に戻りましたが、そこはもうすでに嵐が去ったようになっていました。息子はへなへなとその場に座り込みました。
このままじゃ作り直してもまた猪にやられるだけです。息子は猪を殺すことにしました。銃を用意し、村の側の山へ出掛け、猪を撃ち殺しました。殺した猪は食おうと家に持ち帰ることにしました。
しかし、家に帰った途端、優秀な息子は珍しく親にこっぴどく怒られました。私は村のために猪を倒してきたのに、どうして怒るんですか、と息子は尋ねました。そうすると、親はこう答えました。
「村を襲った猪は餓えていたという。もし、ひどく餓えた人が畑を食い荒らしたら、果たしてお前は罪人を殺すだろうか。確かに殺してしまう人もいよう。しかし、怒り、罰しはするが、何かしら食べ物を与え、殺しまではしないのが普通なのではないか。お前に本当に万物に対する愛があれば、猪も無駄に殺しはせず、捕まえることもできたはずだ」
息子は突然息絶えた猪の怒りを感じました。
こんにちは、平津戸 周といいます。
この作品は四部作の第二部"怒"です。
この作品しか読んでいない読者のために、再び同じ説明をしようと思います。
短編小説をかくのが苦手な作者が、以下のような条件を設定してかきました。
・原稿用紙三枚分
・喜、怒、哀、楽、をテーマにした四作品
・四作品とも作風をかえる
※この四部作に話の繋がりは全くありません。全く違う物語です。
また感想ください。くれたら作者は飛び上がって踊って喜びます。うざいとおっしゃるならしませんが(笑)
第三部、"哀"も読んでいただけると幸いです!