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KEYAKI の恋  作者: 玲於奈
3/13

玉川上水

なし

恩師。

というか

害のない教授というか


私の恩師の

平川 大二郎先生は

長野に住んでいる


ひょうひょうとした方で

尊敬している


そして

いつもわたしは

自分の制約ある人格ゆえ


その恩師に何度か

助けられた


学部4年の2月はじめだったか

卒論提出のさしせまったころ


教授の部屋にゼミで入るなり

山が左右にある

そしてその山が

きれいな青みがかかった

写真を見せられて


「ここに、わたし

 これから

 住むんです」


そう言って


平川先生は

その年の3月

大学を退官


ずっと夢だった

田舎暮らし

といっても

いまさらながら

長男で

長野の実家を継いだというか

引き受けたというか


たしかに

写真の場所は

山また山

鬼ばばあがでそうな

木々が深い森のふもとであった


時々律儀に来る

便りから

今は悠々自適な生活を

幸せに

送っているようだ


しかしながら

やはり俗世間とは無縁ともいかず


大学もそういう人の良いお方を

逃さないというか

人材不足なのか

わざわざ長野から

よびつけて

ときどき大学で

教鞭をとらせる


今は嘱託というか臨時教授というか

そういう形をとっていると聞いた


今回の芸研

芸術研修にも

もちろん呼ばれていて

平川先生自ら


「誰か自由に

 動ける奴をグループに

 いれておいてほしい」


と事務局に言ったところ

ちょうど

行き場がなくて

古巣の大学にひっかかっていた私に

お声がかかった


私が在学中にもあった

この芸術研修は

名門T大やK大がはじめたようで

うちではさあ遅れるなとばかりに

進路指導課の

就活部長のいちおしで

なりものいりではじまったとか

はじまらないとか


就職に役立つOB人脈を

培うのが目的らしいが

しかしながら

うちはOGばかりで

寿結婚も多く

初期のころは

そうそう

うまくいかなかったらしい


まあ

言ってみれば

忙しい年の暮れに

大学OG、社会人と

芸術研修という名を借りての

セミナーで

接触を図り

就職に対して糸口をつかむ。

というのが真のねらいらしい


平川先生も


「年の暮れに

 なにをすきこのんで

 とうきょうくんだりまで」


とぼやいていたが


少子化時代

大学も生き残りに必死らしく

就活の意気込みが

大学の意気込みであるかのように

在籍している

100名近い准教授も

この年の暮れに

かり出されているらしい


そんなこんなで翌朝

すこし朝もやのかかる

上水を

けなげに

毎日欠かさず

声出しをする

日大野球部の高校生の

声を遠くに聞きながら

もっそりもっそり

大学をめざした


なし

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