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第八話 はじめてのおしごと


 結局、よく分からない占い師だった。


 俺は西の門から壮大な森へ出ると、ジェネラルワイルドボアを探して幾何いくばくか放浪した。


 どうやら街道沿いには居ないようなので、仕方なく・・・・、このすんばらしい森へ入ってみることに決めた。


 一歩街道から足を踏み外せば青々と草が生い茂り、絡み付くように俺の行動を阻害する。

 さらに頭上を見れば極悪な枝が頭を狙い、そちらに気を取られれば足下では今にも俺を転ばせようと木の根が蔓延はびこっている。

 それを躱わしても今度は泥濘ぬかるみや倒木がその手をこまねいて今か今かと待ち構えている。

 そうして慌てて転がり込んだ先には気性の荒い大熊が居て、俺はそいつに一瞬で腹部をズタズタに切り裂かれた。


 深手を負った俺はヨロヨロと地面に倒れ込み、底なし沼に沈んでいった……







 ……となる予定だったのだろうが、そんな低俗な罠に引っ掛かる様な俺ではないので何の支障も出なかった。


 なぜそんなことが言えるかって?


 笑(神)がそんな風に実況しているからだ。


 というか、この駄神はいつもこんな感じなのだろうか?

 思えばさっきの占い師もこの目神めがみに似たところがある気がするが……脳ある馬鹿は爪を隠す、とも言うのでどうとでも考えられるだろう。

 ん? 間違えてるって?

 この場合はこれでいいんだ。


 ちなみに大熊に……の辺りまでは言葉通りにしといてやったが、大熊には俺の渾身の右アッパーの餌食になって貰った。南無。

 と、そんなところでくだんの(神w)が慌ただしく騒ぎ立てた。


《めいでい! めいでい!》


 迷泥? なにが言いたいのかさっぱりなのでスルーしたいと思う。

 と、ここで今度は携帯にメールが届く。


[タ ス ケ テ]


 まったく、あの幼神(頭が)は俺にどうしろと言うのだろう?


《君がさっき打ち上げた熊が襲い掛かって来てビックリしたんだよ! ってキャー》


 いや、どんまい。

 まぁホントに神なんだったらどうとでもなるだろ。


《いや、まぁそうなんだけどね♪ 流石にいきなりはドキっとするんだよ》


 復帰早いな。やはり腐っても神か。


《とまぁ今日はこのくらいかな? じゃね~♪》


 流石にそこまで暇じゃないのか、案外お早い退場だった。

 そうこう走行している内に俺との因果が結ばれたのか、草むらの先、少し開けた場所にそいつは居た。

 残念ながらポケ○ンではないので、あの・・音楽は流れな……いや、代わりにあの女紙めがみが俺の耳元で口ずさんでいた。


 ジェネラルワイルドボア……名前が長くて言い辛いのは秘密だ。

 もういっそのこと五文字にすればいいのにな。


 ともあれ、どうやらこいつは今し方俺が吹き飛ばした奴らしい。

 なぜならその瞳には明らかに恨みの色が広がっていたからだ。

 そいつは俺の存在に気付くと、自らを誇示でもするように地面を踏み鳴らした。


「じゃあまぁ、始めるか……」


 大猪の突進を合図に戦いは始まった。


 まず受け流す様に突撃を躱わすと、俺は大猪の懐に入り込んでどてっ腹にムーンライトを鞘から抜かずに打ち付けた。


 インパクトと同時に鈍い音が響く。


 先程弾き飛ばした時には気にならなかったが、どうやらこいつには打撃ダメージが入り辛いらしい。

 岩を壊す程の威力の突進を繰り出すのだから頑丈なのは当然か。

 どちらにせよ厄介なことには変わりない。


 仕方ないので上に飛び乗って、後頭部に思いっきり踵落としを入れて気絶させた。

 すでに意識が朦朧としていた大猪にとっては十分な威力であったろう。


 え? いろいろとオカシいって?

 靴に金属仕込むのは常套手段だろうに。


 そういうことじゃない?

 いやだって、猪との淡々とした戦闘描写なんて書いたって面白くも何ともなかろう。


 という訳で俺は猪の上から飛び降りると、魔法の呪文『お前が欲し……じゃなかった『我が理に従い汝の全てを封じ込めん』と唱えて生命の黒牢に捕縛しておいた。

 インパクト強過ぎて危うく間違えるところだった……


 ちなみに大猪は黒い光に吸い込まれるように消えていった。

 質量保存がどうなっているかなどは気にしてはいけない。


「いやー、終わった終わった」


《いや~、終わったね~♪》


 案外楽な仕事だった。

 なんか幻聴が聞こえた気もするが、この調子ならどんどん稼げるだろう。


 そうして一仕事終えた俺は、手土産を片手に町へ向けてゆっくりと帰っていった……




%~%~%~




「お帰りなさいませ、冒険者様」


 そう言ってにこやかに受付嬢のシャミアが出迎えてくれた。

 こうして冒険者ギルドに戻ってきた訳だが、この挨拶はデフォルトだったらしい。

 冷やかしかと思ってたよ……


「レイ様で御座いましたか。ずいぶん御早いですが何か問題でも御座いましたか?」


 ちょっと帰って来るには早すぎたようだ。

 まぁそりゃ、誰もがこんなにすぐに目的の魔物を見つけられる訳じゃないだろうからな。


「いや、早速捕獲したから、報告しに来ただけだ」


「えっ!?」


 予想だにしないことに驚いたように、シャミアは思わず気の抜けた声を上げた。

 そんな普段聞けそうもない声が可愛かったという事は気にしないでおこう。

 なにせ殺意の波動を感じたからな。


「ああ、持ってきたぜ。ほら」


 そう答えて、良く見えるように例の黒い球を腰のポーチから取り出す。

 シャミアは半信半疑なのか、いや、若干『擬』の方が九割ほど占拠の様子で黒球に手を伸ばした。


「我が理に従い全てを指し示せ」


 そうして俺の差し出した『生命の黒牢』を受け取ると、なにかを呟いて『生命の黒牢』を見つめる。


「……確かに、そのようで御座いますね」


 疑っていたようだ。

 冗談と思われたか?


「ええ、そう思いました」


 そう答えるシャミアは、以前よりも数段にこやかであった。

 そう、にこやかであった。


 でもまさか、本当に疑われていたとはな。


 まぁモ○ハンじゃあるまいし、流石に10分は早過ぎたか。次は疑われない様に、せめて15分くらいにしておくとしよう。

 こんな他愛もない理由で死にたくは無いしな。


 その間シャミアは倉庫か何かがあるのか、奥の方で何かガサゴソやっていた。

 何かに怯えたような獣の声が聞こえたのは、恐らく気のせいであろう。


「……ではこちらが今回の報酬になります」


 そして戻ってくると、どこからともなく袋を取り出して俺に渡した。

 金貨40枚。確認したところ枚数に不備は無さそうである。


「それとこちらはお返ししておきます」


 そう言うとシャミアは妙に黒光りしている『生命の黒牢』をカウンターの上に乗せた。

 俺は転がり出しそうなソレを手を伸ばして受け取る。


「いいのか?」


「ええ」


 絶対嘘だろ。

 そんな風ににこやかに言って、あとで高額な代金でも請求するつもりだろ。


「私からのプレゼントです。それに、その方がその子も幸せでしょう」


「えっ? この子?」


 突拍子もない言葉に今までの思考が全て吹っ飛んだ俺は、思わず『生命の黒牢』を見つめた。


 まさかこの黒球のことを言っているのであろうか?

 もしかしてこんな物が生きているとでも言うのか?


「ええ、その子は中に捕らえた生命体の魔力をほんのちょっぴり貰って生活してますから。ほら、この前よりもツヤが良くなっているでしょう?」


 すると『生命の黒牢』が「どうだ!」とでも言うかのように一段と輝き出した。


 素晴らしいほどに黒光りしているが、別にGではないので気持ち悪くはない。

 ただ、どう見てもそれは無機物の輝きだった。

 そう、どこからどう見ようともガラス質の光沢だった。


 これで生物だっての!?

 なにそれ怖い!!


「ちなみに中に現在何が入っているか知りたいときは『我が理に従い全てを指し示せ』、中に入っているものを出したい時は『我が理に従い全てを解き放たん』と言って下さいませ。あと、『我が理に従い来たれ、○○』とすると出したいモノだけ出すことが出来ます」


「……そうか。色々ありがとう」


 俺を中二病にしたいのだろうか?

 なんだか恥ずかしい様なセリフばっかりだった。まぁ、カッコ悪くはないから良いが。


 そんな俺の、恐らく珍妙な顔を見てクスクスと笑うシャミアであったが、俺がその目を一瞬でも見ると直ぐ様いつもの受付嬢モードに戻っていた。

 残念。だが死なずに済んで良かった。


「それで、今日は依頼を受注なさいますか?」


 シャミアが尋ねる。

 早急にクエストを受けるのも良いのだが、残念ながら今日は別にやりたいことがある。


「いや、今日はやめておこう。それよりも、この辺りに安い宿屋はあるか?」


 潜伏先は重要だ。

 何をするにも安心して休める場所が必要だからだ。残念ながら未だ金欠なので安宿なのは仕方がない。

 まぁ金すらない時の宿に比べればマシだろう。そう、あの大自然の中の宿よりは。


「それなら此処を出て3ブロック先を右に曲がって、さらに2ブロック先の右手に御座います」


「おう、ありがとな」


「いってらっしゃいませ、冒険者様」


 やはりふつくしいと思う御辞儀を再び背に浴びて、俺は伝説の宿へ向けて旅立った……

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