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第四話 黒い奴と少女

 私は旅をしていた。

 家族はいなかった。昔に盗賊に殺されたから。

 家族を失い、金も殆ど底を尽きてきた時、私は旅に出た。

 どこへ向かうかなど分からなかった。

 ただただ放浪していた。

 せめて自分の見たことのない世界を見たかったから。


 その日、私はフィンロードという町から東に向けて進む馬車に忍び込んだ。

 行く宛のない旅。

 既に終わりなど目に見えていた。


 そんな中、馬車が盗賊に襲われた。

 突然の出来事。

 だがどうでもよかった。

 今更どうなろうと構わなかった。


 そう思っていた。


 だが違った。


 ただ怖かった。

 恐ろしかった。



 私は誤魔化しているだけだった。



 私は逃げた。

 ただ逃げた。

 馬車を飛び降り、全速力で走った。


 しかし、それも既に遅かった。


 すぐに盗賊に回り込まれ、私は馬車の傍まで追い込まれた。


 逃げることが無理だと悟った私は、腰に忍ばせたナイフを取り出して盗賊の一人に襲いかかった。


「きゃぁ!」


 そのナイフは当たる直前で弾かれ、私は馬車の荷台の傍まで蹴り飛ばされる。

 ナイフは手元を離れ、転がってどこか行ってしまった。


「ちっ、このあま……」


 私を蹴り飛ばしたガリガリの盗賊が、私の一撃を弾いた短剣をしまいながら呟く。

 意識は朦朧もうろうとしていたが、私は今にも力尽きてしまいそうな体に鞭を打って起きあがるとその盗賊を睨みつけた。


「んぁ? こいつは……」


 ふと私の顔を見たガリガリの盗賊の目つきが変わる。

 そいつは一番体格の良い盗賊の方をちらりと見た。


「おかしら~。こいつは上玉でっせ」


 向き直った盗賊の顔は、怒りから不気味なニヤケ顔に変わっていた。

 そのあまりにもイヤラシい目つきに、私は思わず背筋に悪寒を感じる。


「ああ、金になるもんは全くなかったからな。今回はそいつで我慢するしかねぇか」


 体格の良い盗賊が口を開く。

 その言葉に盗賊たちは、皆嬉しそうにざわめいた。

 しかし唯一、それを発した体格の良い盗賊のその目は、ほかの盗賊とは違って私など眼中にないようだった。


「さぁ、そいつを連れてさっさと引き上げるぞ!」


「へ~い」


 その言葉を聞いて、ガリガリの盗賊が私に手を伸ばしながらゆっくりと近づいてきた。

 迫り来る恐怖に、思わず私は顔を背けて目をつむってしまった。


「ごぺぁ!」


 突如聞こえた叫び声に目を開けると、私に捕らえようとしていた盗賊の姿が目の前から消えていた。


 そして盗賊が居たその場所には、真っ黒な人間大の影が揺らめいていた。


しに……がみ?」


 暗い影の中に浮かび上がる真っ赤な二つの輝きを見て、私はそう呟いた。

 死が私を迎えに来た。そう思わせるには十分な光景だった。


 そうして全てを諦めて目を閉じようとした刹那、なぜか死神の口元が蠢いた。


「おい、お前。大丈夫か?」


「え? あ、はい」


 思いもしなかった言葉に、少し声が裏返る。

 正直、死を覚悟していた私にとって、それはあまりにも突拍子のないことだった。

 死神に見えたそれは、よく見ればただの一人の青年であったのだから。


「じゃあ、ちょっと危ないから荷台に隠れといてくれ」


「あっ……」


 そして少し混乱していた私を、彼は片手で荷台へ押し込んだ。


「てめぇ! なにしやがる!」


 吹き飛ばされた盗賊がわき腹を押さえながら起きあがると、腰に下げてあった粗末な片手剣を抜き、ゆっくりと彼に近づく。


「なにっていうか、盗賊なんかに襲われてる人を見たら助けなきゃなぁ」


「俺らをなめやがって~」


 その盗賊が彼に剣を振りかざして襲いかかる。

 私は思わず目を閉じてしまったが、その目を開けてみればまた盗賊はどこかへ吹き飛んでいた。


 正直失礼な話だったろう。なにせ、折角助けてくれた彼を、私は死神呼ばわりしたのだから。


 そんな自分に私は苦笑した。


 あまりに可笑しくて、バカバカしくて。


 なぜそんなことを思ったのだろう、と。


 ふと気が付くと、彼は盗賊たちと戦っていた。


 それは生物の躍動。


 優雅で、そして美しい。


 「生きる」とはこういうことなのだろう。


 今までの自分を思い起こした私は、また可笑しくて笑ってしまった。


 自分はなんて生き方をしていたのだろう、と。


 そして私も、彼のように生きれたら……



「おい、お前。一つ聞きたいんだが……」


 いつの間にか荷台の近くまで来ていた青年が、ちらっとこちらを見て話しかけてきた。


「え? はい、なんでしょうか?」


「」


 青年は盗賊の猛攻をいなしながら笑顔で訪ねる。

 どういうことだろうか? なぜ突然彼はそんなことを問うのだろう?


「あー、」


「はい……」


 少し意味不明だが彼の言いたいことは大体は理解できた。

 しかしプレイとは何だろうか?


「で、お前はまだ生きたいのか?」


 そんな疑問を浮かべた私の思考を彼の言葉が遮った。

 荷台にぴったりと背を付け、彼は攻撃を防ぎ続ける。


 彼の言葉。

 それが私の中を駆け巡る。

 答えは決まっている。


「はい、助けてください!」


「了……解!」


 ここぞとばかりに飛び掛かってきた盗賊を剣ではじき飛ばし、彼は盗賊たちを惹き付けて一人荷台を離れていった……

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