第二話 イライラは階段の如く
「いってぇ!」
ドスンという音を響かせ、俺は目を覚ました。
夢……か……?
微妙な混乱に俺は顔を手で覆った。
人は死んだことがないから自分が死ぬところまでの夢は見ないとかなんとかってのを聞いたことがあるが、最後は目をつぶっていたハズだから実際はどうなのだろうか?
なんか刺さってたような気がするが。
まぁ考えていても仕方ないのでとりあえず起きるとする。
上体を起こす。
目の前に広がる石造り。
……?
元に戻る。
上体を起こす。
目の前に広がr……
はて? ここはどこだろうか?
自分の家はたしか白い壁紙だったはず……
詰まるところ、家でないなら天国か。いや、地獄の方があり得るか。
服装も夢の中――黒いコートに黒いマフラー――と同じである。
傷を負ってはいないが。
とりあえず立ち上がって頭を抱えながらウロウロした。
見渡す限りの石造りである。
目に付くものは窓とベッドとドアぐらいしかない。
それだけの小部屋だ。
出口らしき扉は木製である。木星ではない。
そして、外に広がるは舗装もされていない道と、目に良さそうな大自然である。
これはあれだ、こっちが夢だ。
ともすれば全力で自分の頬をぶん殴って――
《ゆめじゃないよ~》
どっかで聞いたような声。
それが直接頭に響く。
これは念話という奴だろうか?
「お前、誰だ?」
《昨日も会ったと思うけどね。一応神様みたいなもんだよ?》
なぜ疑問形……
「で、その神様が何の用だ? 俺を殺すんじゃなかったのか?」
《あ~、殺しはしたよ? こっちに送るためだけどね》
いや、
「送るってのはどういうことだ?」
《まーいろいろ問題があったんだけどね、簡単に言えば都合が悪かったんだよ》
「すまん、意味分からん」
《あー、まーそうだね。まぁメンドクサくなるから説明しなくていいよね?》
なにも良くはない。
一方的な暴力のような会話だ。
《ああ、そうそう。こっちだと魔物とかでるから、君の武器も用意しといたよ? 今ベッドの下にあるかな?》
それを聞いた俺は急いで二階へ戻って、言われた通りベッドの下を探った。
そこには俺が仕事で使っていたリボルバー型麻酔銃と、明らかに模造刀ではない刀が一本。
あと携帯。
あれ? にしても今「魔物」って言った?
いや、きっと勘違いだ。そうに違いない。きっと「生物」って言ったんだ。そうに違いない。
《その刀、そこらのただの伝説の聖剣なんかよりはよっぽど強いと思うから、じゃんじゃん使っちゃってよ♪》
おいおい神様、伝説の聖剣より強いって、それチート確定じゃ……というかこれ、俺にぶっ刺した奴じゃね?
《別に君に何かしろっていう訳じゃなくて、ただ君にこの剣と魔法が飛び交うふぁんたじーな世界に来てもらいたかっただけなんだ。だから地道に商売するもよし、ハーレムを作るもよし。まぁ、とりあえず魔王でも倒して、英雄になってみるのなんかもいいんじゃないかな?》
《ああ、それと君の携帯、色々改造したんだけどね、壊れると街一つ滅ぶくらいの爆発が起きるかもだから気を付けてね?》
「は?」
《じゃ、そういうことで。じゃね~♪》
切りやがった……
ていうか何その魔改造、戦略兵器並って……
とまぁ、そんなことはさておき俺は落ちていた品々を黒革のベルトに付いているホルダーに差し、ベッドに腰掛けてそんな魔の携帯をイジってみた。
色々言いたいことがあるが。
まず一言。
なんかスマホになってる。
改造というか、もはやただの機種変更である。
白い目で変わり果てた携帯を見つめながら起動してみると、画面が完全にゲームのユーザインタフェースであった。
つまりステータス表示やらスキル表示やらジョブチェンジ表示やらある。
他も気になるが、取り敢えずアイテムの欄を選択する。
すると、なにか画面に色々な物品が表示された。
無銘の刀に麻酔銃、そして俺が着ている服一式などがある。
一つ一つ短いが説明も添えられている。
と、その中でも一際目立つ存在。
童貞……
カーソルをあわせてボタンを押してみる。
『詳細』と『捨てる』、あと『戻る』のコマンド。
詳細なんて見ても仕方ないので『捨てる』を選択する。
『童貞を捨てますか?』
もちろん『YES』を選択。
『それを捨てるなんてとんでもない!!』
おいぃぃぇ……
捨てられないならアイテム欄に入れるなよと……
まぁ最初から分かってましたけどねぇ……
そうして他のアイテムも一通り見た後、遂に一番上の無銘の刀まで辿り着く。
一応言っておくが、俺は元々こんなもの(・・・・・)を持っていない。
簡易説明でも???となっている。
詳細をクリック。
『名前を入力してね♪』
↓
_ _ _ _ _ _
① ② ③ ④ ⑤ ⑥
まさかの名前入力である。
というか、いまどき6文字制限かよ!!
神様スペック低すぎだろ……
と、まぁそんなことよりも名前を考える。
6文字……
6文字…………
エ ク ス カ リ バ ー ……
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦?
って入らねえぇ!!
神様。せめて8文字にして下さい……
結局、漢字入力すら無いから日本っぽくできない。平仮名だとかっこ悪い。
そんなこんなで考える内に遂に出てきた至高の答え。
ムーンライト
どっかで聞いたことがあるって? 気にすんな。
ちなみに和訳だと「月影」と読める。
そして結果を打ち込むと次に進んだ。
さっきと同じく詳細等が表示される。
名称 :ムーンライト
攻撃力 :???
殺傷力 :???
強度 :???
重量 :???
材質 :???
刃渡り :???
切れ味 :???
付加能力 :???
能力効果範囲:???
説明1 :かみさまもみとめるすごいぶき。ひとふりでとんでもないことがおきるよ♪
おいおい、神様どんだけ適当よ……
他のはもうちょっと詳しく書いてあったぞ……
そんな神様への評価が格段に下がったところで、今度は自分のステータス情報を閲覧した。
名前 :竜ヶ崎 零
状態 :健康
気分 :最悪
好きなもの:宇治金時、かわいいもの、禍々しいもの
嫌いなもの:停滞
好きな色 :黒
趣味 :工作
特技 :剣術、精密射撃、料理
座右の銘 :画竜点睛
職業 :自宅警備予備隊員
血液型 :AB
誕生日 :7月29日
年齢 :18
身長 :175
体重 :58
肌年齢 :見た目若い
脳年齢 :たぶん若い
精神年齢 :きっと若い
肉体年齢 :恐らく若い
装備 :武:ムーンライト/RSH-13(RSH-12麻酔カスタム)
:頭:漆黒のマフラー
:胴:漆黒のコート/漆黒のシャツ
:腰:漆黒の革ベルト/漆黒の革のホルスター
:脚:漆黒のズボン
:足:漆黒のブーツ
:道:小型保冷ケース
体力 :O
魔力 :O
攻撃力 :O
防御力 :O
機動力 :O
瞬発力 :O
精神力 :O
治癒力 :O
筋力 :O
技量 :O
視力 :O
聴力 :O
知力 :O
幸運 :ERROR
総合戦闘力:測定不能
固有スキル:殺陣モード、完全予測
魔法 :なし
今日の運勢:12位(星座占い) 今日は一日中ついていないでしょう
今日のLC:黒
だからなぜこんなに適当なんだと……
これ全く使いものにならんぞと……
以前の携帯に戻してくれよと……
まぁ、個人情報と今日の運が悪いことについては確かだが。
後、俺の気分も。
結局、ダメな神様であったと自分の中で結論づけたところで、俺はやるせない気持ちで家の外へ出ていった。
そういえば異世界トリップ? だろうか?
定番であるチート能力なんてもらった覚えがないが……
あれか? さっきの刀か? 日本刀なのか? チート武器だけなのか?
まぁ伝説の聖剣より強いって言ってたから、きっとそうなのであろう。
ちらっと刀身を見たら、なんか薄紅色に怪しく輝いてたから、おそらくあれなのであろう。
とりあえず岩に向かって思い切り振り降ろしてみたけど、岩が真っ二つにカチ割れた程度だったから、たぶんすごいのであろう。
鞘つけたまま(・・・・・・)だけど、きっと鞘にもすんばらしい力が宿っているのであろう。
「太刀筋が見えないんだけど」って神様が呟いてたけど、おそらく刀の力であろう。
できればこんな刀じゃなくて、ひとつくらいでいいからチート能力が欲しかったなんて、時空が裂けても言えないが
と、俺はぶつぶつ呟いた。
なに? 危ない人がいるって?
おしえなさい。お兄さんが哀れな骸にしてくれよう。
そんなことを考えていても埒があかないので、俺は森の中の道をまだ見ぬ地を求めて歩を進めた。
……
…………
………………
……………………。
結局、森である。
どこをどう進もうが森である。
凹凸の激しい道を除けば、すべて森である。
すでに5km以上進んでいるが、未だ見えるのは森である。
進行方向には長き道が続くがそれを挟んでいるのは緑豊かな森である。
途中、かわいいウサちゃんが現れ、猪? に襲撃もされたが、それ以外は森である。
ウザったい猪はキッチリとシバいといたが、それよりもウザったかったのも、もちろん森である。
もちろん、追いかけ回して捕まえて、存分にかわいがったウサちゃんを逃がしたのも、当たり前だが森である。
ちなみに開けた様な場所はどっからどう見ても一切なく、辺り一面すべてが以前の世界で失なわれたとされている森である。
「あ~、もう! いらいら『Prrrrrr』するわ!」
変わらぬ景色に苛立ちを覚え、いっそのこと全部刀で切り倒してやろうかと思っていたところで、いきなり携帯が会いたくて震えだしたので、俺は握り潰しそうな勢いで携帯を取り出して画面を見た。
『イベント発生!』
きっとあの神(笑)からだろう。そう思うとなんかイライラする。
『この先で馬車が盗賊に襲われています』
ああ~、よくあるイベントだわ~。
あの神っぽいのからだと思うとやる気が失せるわ~。
という思いが頭を巡った。
どうせこの後選択肢が出るのだろう。
『助けますか?』
よし、ここはいっそのこと「いいえ」を……
[→はい YES]
「いいえ」を……
[ はい→YES]
ああん?
なにこの理不尽携帯。
もうイヤなんだけど。
イライラして一秒間に20回くらいCLEARボタンを連打した。
が、特に変わる様子なし!
[→はい、はいw]
バカにしやがった……
もう投げてやろうと、俺の悪魔の右手が空高く掲げられたが、結局そんなことして爆発が起きるのは避けたかったため、投げるのだけはやめといた。
というより、行く行かないは俺の意志だし。
「あ~もう、わかったわかった」
元々、何も知らないでその状況に出くわしてたら、結局助けてただろうし。
『じゃあ、がんばってねw』
なんか萎える。
イライラする。
やる気失せる。
が、森を見続けるのも飽きたので、俺は急いで木々の隙間を駆けていった。