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第一話 始まりと終わり

《ほのぼの殺陣ドラマ、『だく✡ちぇん?』 はっじまるよ~♪》

※大幅に改稿中

「起立、礼!」


 学徒一同が一斉に立ち上がり、一様に一礼を行う。

 その一瞬の間に、既に影一つ欠けていたことに気づくモノは、ただ一人として居はしない。

 もし一個人が気づいたとして、その程度の一過のことに深く踏み込む一介も、一握りとて存在しえない。

 所詮はひとごと。


 そんな望みは、零に等しい。


………………


…………


……さて、いつもの退屈な日常が終わった。


 俺が誰かって?

 ただのしがない高校生だ。


 ……冗談はさておき、俺が高校生であることは、変えようのない事実である。

 そして今し方、学校から自宅へ帰ったところだ。


 ソファに寝そべって時代遅れに差し掛かったガラケーをいじる。

 いつも通りの行動だ。


 まぁ自分について説明すると、特に取り柄もない一般人である。

 唯一剣道はやっているが、強豪校でもないため高三の現在までに大した記録は残せていない。

 また、特に親しい友人もできなかった。


 竜ヶ崎りゅうがさき れい、たぶん18歳。

 

 身長は175cm程度。

 そこそこ高い方か。

 顔立ちは、その怖い顔付きを直せばモテそうと言われたことがある。だがもちろん彼女はいないし女性経験なんてあるわけがないので、所詮はその程度なのだろう。付け加えれば元よりつり目気味である。

 その見た目はともかくとして、性格はお人好しだと思われる。ここいらのヤクザ共に比べればだが。


 まぁ、そんな俺であるが、一つだけ変わっているとすれば……



 ……瞳が赤いことだろう。



 中二病ジャナイ、キット生マレツキダ。


 あともう一つ話しておくとすると、両親は居ない。

 というか、そもそも昔の記憶がない。

 気が付いたらビル街の裏路地で泥だらけな状態で目覚めたため、きっとロクな人生を送っていなかったのだろう。

 ならなんで自分の名前を知っているのかと気になるだろうが、竜ヶ崎飛行場での零戦の里帰り飛行が話題になってたので、そこから取った。


 というわけで俺は、生きるために夜な夜な一人働いている。

 身寄りもない俺がする仕事といえば、答えは簡単。便利屋だ。


 便利屋が何かだと?

 つまりは殺し意外の汚れ仕事なら何でも請け負うぜ、ということだ。

 別に便利屋だからといって、悪魔(デビル)(ダンス)っちまうような依頼は取り扱っていないので、銃と剣で悪魔との死闘を繰り広げたり「悪魔も泣き出す」なんて言われたりすることはないが。

 悪魔と呼ばれることはあっても、別に悪魔の血は混じってない。あくまでただの高校生である。


 ――ついでに言うと、高校に入学する手段は依頼の報酬として勝ち取った。


 それと自作のホームページから依頼を請け負っているが、未だに珍妙な依頼しか来ない。悲しい現実である。

 ページの各所にドクロとかを配置したり、赤とか黒を基調として配色してみただけなのにな。

 変な依頼しか来ないのはそのレイアウトのせいじゃないかって?

 案ずるな、俺の趣味だ。


 あと、仕事上たまに"漆黒の殺陣鬼"やら"生ける死神"やらと呼ばれることがある。あながち間違ってないので仕様がない。

 ちなみに依頼は都内限定だ。



 さて、今晩の依頼はというと、ヤクザがとあるリーマンから奪った金銭を奪取するという内容である。

 戦闘は避けられないだろうが、毎度ことなので仕方がない。


 俺はいつもの黒いコートに同色のマフラーを首に巻いた全身黒尽くめで、金属製の木刀(木製じゃないから鉄刀な気もするが)と麻酔銃RSH-13をホルスターに仕舞う。

 端から見ればアサシンの様であるが、闇に紛れるにはこれが良い。


「さーて、一丁とりかかるとしますか」


 準備万端。

 俺は普段通り仕事に出掛けるのであった。


 ………………


 …………


 ……



 硝煙と金属の臭いが漂う薄暗い工場。薄汚れた窓から月光が差し込むその事務所の中で、俺は応援を呼ぼうと必死な最後の構成員に切れぬ鉄刃を振り下ろし、その意識を奪う。

 俺は服に付いた埃を軽く払うと、デスクの横に無造作に置かれたアタッシュケースを拾い上げ、ブツの確認を終えた。


 本日も仕事は難なく終わったことに、俺の気は少し緩む。


「まぁ、今日はこれで仕舞いか……ん? メール?」


 突如バイブした旧式携帯。俺は腰に付けているケースから、それを取り出して開きタイトルを見た。


『件名:警告』


 知らないアドレスからの通知。仕事との関係上、依頼などの連絡先として公開しているため、そうなることは必然なのだが。さて……


「こりゃチェーンメールか? まぁ、読むだけ読んでやるか」


 俺はポチポチと操作して詳細を開き、内容を確認する。


『このメールは呪いのメールです。この内容を13秒以内に4人の人間へ内容を変えずに転送してください。

 さもなくば――』


 文はここで途切れていた。

 察せずとも、典型的なチェーンメールといった風であろう。

 このご時世で良く飽きずに回すものだなと思いながら、特に何もせずに携帯を閉じた。

 そういうものに構っていられるほど、俺は暇ではない。


 もうここには用もないので、踵を返して立ち去ろうとする。

 だが、足元で気絶している組合員が握りしめた無線機のノイズ音に、俺は一瞬歩みを止めた。


”――死‥じゃうよ?”


 直後、小さな嗤い声と共に背後の窓が砕け散る。

 何事かと振り返ろうとするが、突如視界がぐらりと揺れた。


「クソッ……」


 定まらぬ焦点の中、片膝をついて、どうにか転倒だけは免れる。

 激痛に眉をひそめその元を見れば、自分の腹部から真っ赤な液体が零れ落ちた。


 銃撃。


 死角からのその一撃は、俺の脇腹を貫通させ、コンクリの床にその爪痕を残している。


 俺は2射目から逃れるように射線の外へ飛び込み、おぼつかない足で何とか立ち上がると、アタッシュケースを片手に廃工場を抜け出した。


 どこへ向かっているのかもおぼろげなまま、俺は射線を通さぬようにビル街の路地裏を進んだ。

 一歩を踏み出すごとに脇腹に激痛が走る。

 手で押さえてはいるものの、鮮血は収まらない。


 それからしばらくして、ざあざあと突き刺すような雨に撃たれた。

 見れば先程まで晴れていた空には、いつの間にか鉛でも張った様な雲が渦巻いていた。


「……ったく、今日はついてねぇな……」


 重くなった服を引きずる。水に濡れた体は死に近づくように冷たくなった。

 腹部に喰らった鉛玉。即死は免れたものの、流血が確実に体力を奪う。

 徐々に薄れゆく意識。俺の足はもはや前には進まない。

 力を失い倒れ込む体。近くにたまたまあった金属製の階段を背に、俺はもたれ掛かるように座り込んだ。


 俺はここで死ぬのだろうか?

 いや、そもそも自分自身が本当は誰かすら分からない様な奴が、生きてこれたことが不思議か。

 ただそんな俺だが、ずっと自分以上に大事な何かを探していた感覚だけが、今もここに残っていた。

 それだけが俺を生かし続けた。


 もはや思考もままならぬまま、俺はこの重い(まぶた)を閉ざした。

 だが意識閉ざすことも叶わず、ただ水音だけが虚しく響く。

 俺の耳はそれを拒めもせずに、そのうるさい誘いに傾いた。


 それはただただ繰り返す、風情もなき渇きであった。だがその旋律に混じって、ひたひたと水溜まりを踏み抜く足音が、どこからともなく聞こえてきた。


「お‥て……」


 その音の主は俺の目の前で立ち止まると、何かを呟く。

 幼さの残る声。しかしこの惨状に騒ぎ立てるでもなく、聞こえた声音は平静であった。


 ならばヤクザの追っ手だろうか?

 いや、それであれば俺を無理やりにでも叩き起こそうとするはずであろうから、たまたま居合わせた一般人の少女と考えるのが妥当か。

 何を言っているかは分からないが、まぁ今更どうでもいいことだ。


「起きて……」


 せっかく人が感傷に浸っていたというのに、うるさい奴である。


「ったく、邪魔しやがって……」


 耳元で羽虫が飛ぶような煩わしさに、俺は思わずグチをこぼす。


「やっと起きたね……。それにしても君も大変だね、こんなことになって」


 一般人にしては余りにおかしなことを言う少女。それに気になった俺は、うっすらと片目を開いた。

 初めに見えたのは小さな素足。その人形のように白い肌を、青白いワンピースが覆い隠す。


「はじめまして、と言ったほうがいいかな? まぁすぐにお別れするわけだけど……」


 そして少し見上げて俺を見つめる青い瞳。この世のものとは思えぬほど美しい青であったが、それだけであればまだ、人とは思えぬほど可愛らしい外人の子であると納得もした。


 だが、目の前のソレは、明らかに異様であった。


 狂っていたのは、少女には似つかわしくない、その手に握られた――



 ――刀である。



 十人いれば十人ともが、自らの正気を疑うであろう。

 なぜならその銀の刃からは、赤黒色(せっこくしょく)の煙が怪しく揺らめいているのだから。

 そう、まるで生き血でも欲するかの如く……


 まぁ、俺からすればポン刀を持ったヤクザと対峙することなど日常茶飯事なので、驚く要素は(つば)のないちょっとおかしな刀という程度だが。


「で、なんだ? お前は俺を殺しにでもきたのか?」

「うむ、そうだよ♪」


 少女は笑顔であっさりと答えた。

 随分と肝が据わっているようだ。


「……それは誰かからの依頼か? それとも先の件の関係者か?」

「んーと、そうじゃないけど……」


 確かに殺し屋ともヤクザとも到底思えない様な服装だが、もはやこの状況では何がどうあっても不思議ではない。


「えっとね、君がここにいちゃいけないの」

「……いや、意味が分かんないぜ?」

「まぁ、ワタシは君に死を与えに来たんだよ」

「だったらさっさと殺せよ……」


 ……どちらにせよもうじき死ぬのだから。

 そう愚考して目をつむる。


「じゃあ、そうさせてもらうね」


 これで楽に終われる。もはや何も思うこともあるまい。


 胸に何かが当たる感覚がする。

 痛みはない。

 ただ少し、温かかった。


「おや‥み……」


 それが、最後に聞こえた音であった……

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