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第十八話 大空の戦い

「竜……ドラゴンねぇ……」


 俺が見つめる先には一匹の巨竜。その全長は10mはくだらないだろう。

 それは街一面を覆う、恐らく障壁のような物へ向かって、何度も何度も、その鋭い牙の並んだ口から強烈な炎を吐き出していた。


「撃ち落として時計塔にでも突き刺すか?」


 俺はへりを飛び越え、塔の天辺に立つ。

 ここからだと人々が大騒ぎしているのがよく分かる。

 逃げまどう者、怯えて動くこともままならない者、粗末な武器で戦いを挑もうとする者……本当に人間は多種多様だ。


「まぁシャミアの頼みだ。聞いちまったからにはやり遂げねぇとな……」


 ドラゴンは未だに狂ったように暴れている。

 その瞳には、理性の色が見られない。


 ピシッ……


 巨竜の体当たりで障壁にヒビが入る。少し気になるが内側から攻撃した場合どうなるのだろうか?


「まぁいい、始めるとしよう……」


 再度突撃した竜により、障壁はバリバリという音を立てて突き破られ、竜は内部へ凄まじい勢いで侵入する。

 巨大な障壁が光を反射しながらガラスのようにバラバラと崩れ去る様は、まるでダイアモンドダストの様で、幻想的だ。

 しかしながらこのままでは街が危ない。


「さぁ、コッチだ。獄炎槍(フレアランス)……!」


 高速で飛翔した炎槍は、竜の皮膜を軽く掠める。

 それに怒りを感じたのか、俺のことをギロリと睨みつけた。

 強烈な威圧感が俺を襲うが、こちらへ意識を向けてくれて助かる。


 怒りで周りが見えていない竜は、今にも俺に襲いかかろうと時計塔の周りを旋回し始める。


拡散する火炎の太矢スプレッドファイアーボルト


 大口を開けてこちらへ突進してくる竜に向かって俺は広範囲に魔法をバラ撒く。

 何発かその表皮にブチ当たるが、巨竜は屁でもない様子で突き進む。やはり炎を吐くだけあって火属性はあまり効かないようだ。


「グルアァァア!」


 強烈な咆哮に俺の体は一瞬すくむ。

 その姿は眼前まで迫り、そして、時計塔の天辺を崩壊させた。


 竜は仕留めた虫を探すようにキョロキョロと辺りを見回す。

 しかし獲物の死骸はどこにも見つからない。


「グルアァァ……!」


 苛立ちを感じてか、竜は高々と怒りの声を上げる。


「さすがにウルサいな……」


 そう呟いていて、俺は竜の堅い鱗を握り締める。

 なんとか尻尾に掴まっているが、揺れと風が酷い。今にも手が滑りそうだ。


 俺はその鱗に何とか軽くムーンライトを引っかけて背中まで登ろうとする。

 しかし前方を目を細めて見ると、鋭い瞳が一瞬こちらを見つめていた。


 直後尻尾が大きく振るわれ、尻尾を掴んで俺の手はその鱗から離れてしまう。


「ちっ……」


 俺は引っかけたムーンライトを尾に深く突き刺すと、それを利用して前方へ大きく跳んだ。


 突風が俺を襲うが、そんなのは関係ない。

 俺はそのまま背中に着地し、しがみ付いて体を安定させる。


 やっとここまで辿り着くことが出来たが、すぐに撃ち落とすワケにはいかない。下には人々が大勢居るからだ。


 しかし飛び回る竜は不規則で、俺の事を振り落とそうと必死である。

 このままでは手を出すことが出来ない。


「なぁ、貴様。悪いことは言わん、どこか別のところに行ってくれないか? 私はここから居なくなってくれれば貴様に手は出さん」


 俺の言葉に竜は一瞬目を細める。

 だが、プライドが許さないのか、その顔をすぐ背けてしまった。

 そして竜は何かに気付いたように、グルリとその体を一点に向かわせる。


 時計塔……瓦礫で俺を突き飛ばす気だろう。それはいい。


 しかしあそこには恐らくまだシャミアが居る。

 そんなことをさせるワケにはいかない。 


 下を見れば人気のない噴水。

 あそこなら撃ち落としても問題ない。

 けれどもこのまま落としても時計塔へ一直線だ。

 なら……


「飲み込め……銀河の深淵(ギャラクシーアビス)!」


 突如生じた黒いもやが、辺り一面を蔽う。

 どこまでも暗いその闇は、竜の左右の方向感覚を狂わせる。

 自分がどこへ向かっているかわからない感覚を嫌がってか、竜は急上昇して靄から逃れた。


「さて、そろそろ落ちてもらおうか……」


 絶好の機会。

 俺は手に全力で魔力を集中する。

 竜もその事が分かるのか、俺を振り落とそうとロールを繰り返した。

 だがもう遅い。


轟雷の爆裂陣ライトニングエクスブロージョン!」


 発動した魔法はその竜の巨体を、俺の体ごと強烈な爆雷で包み込む。

 俺と共に一瞬意識を失った竜は、きりもみ回転しながら真っ逆さまに落下してゆく。

 竜は必死にその羽根を動かして飛ぼうとするが、もはや奴の麻痺した翼では制御できない程に加速していた。


「マズいな……」


 このまま行けば俺は死ぬだろう。

 さながらど〇性ガエルのように。


 いや、まだ手はある。


旋風の息吹(エアーブレス)


 最大限の向かい風を起こして減速させる。

 それでもまだ速い。


「チッ、流水の防壁(ウォーターウォール)


 大地から水が勢い良く吹き上がる。

 俺達はそのままそこに突っ込んだ。


 凄まじい衝撃と共に、辺り一帯に砕け散った地面が舞う。


 全身が痛む。どうやら命は助かったようだ。

 俺はそんな体にムチ打って起き上がると、地に落ちた竜の体を、その背に乗ったまま見つめた。


「ふむ、なんとかなったか……」


 竜にまだ息はある。

 しかしまだその表情は、俺への敵意を剥き出しにしていた。


「貴様は私の言葉、分かっているのだろう? 最後の警告だ。去れ」


 竜が今一度俺の目を見つめる。

 怒り、憎しみ、そんな感情が見て取れた。

 俺はそんな瞳を、慈愛と哀れみを以て見つめ返す。


 しばしの沈黙。


 俺はその瞳に応じて刀を鞘へ戻す。

 知性ある竜と信じて。


「グルルル……」


 竜は寂しそうにこうべを垂れ、その体を起こすと空を仰ぎ見た。


「分かってくれたか。ならこれで、THE ENDだな……」


 一仕事終えた俺はため息をついて汗をぬぐった。

 そんな俺をよそに竜は翼を大きく広げると、大空へ飛び立つ。


 竜にも何か感じ取れることがあったのだろうか?

 いや、もしかしたらまた別の理由かもしれない。

 しかし俺の気持ちを理解してくれたことは確かだろう


 だがそれよりも……


「ちょっと待て、俺を降ろせ!」


 竜が勢い良く宙を舞う。

 俺は急いで飛び降りようとするが……


「やべっ、挟まっちまった」


 服が鱗の隙間に挟まって身動きが取れない。

 ドラゴンはそのまま街の外へと飛び立っていった……

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