第十六話 平和な一日
昼、ベッドの上で目を覚ます。
朝帰りしてきたわけだが、昨晩のことが夢のようにも思える。いや、ホントに夢だったのかもしれない。
目の前に落ちていた棒きれをつかんで、俺は適当に言葉を口にした。
「照らす光」
どうやら夢じゃなかったようだ。手に握られた昨夜の杖と、発動した淡い光がそれを如実に示している。
さて魔法を覚えたわけだが……今思うと魔法名がダサかった。
なんだ? 火の粉って。どんなネーミングセンスだよ。
次からはもっとらしい名前で威力を抑えられるように努めようか。
そんなことはさて置いて、今日も冒険者生活かな、と街へ繰り出す。
そこら辺で売っていた焼鳥屋でぼんじりを頂き、軽い昼食を済ませてから俺は冒険者ギルドへ入った。
「おう、いらっしゃい」
ギルド内に入ると、素敵な笑顔で出迎えてくれる。おっさんが。
「あれ? シャミアは?」
おっさんだ。どっからどう見てもおっさんだ。
「ああ、シャミアなら用事で出掛けてるよ。明日までには帰るってさ」
おっさんが答える。声もおっさんだ。
「あーそうかー。じゃあなんか簡単なクエ頼むわ」
タダのおっさんに用はない。さっさと退散しよう。
「じゃあこの中から選んでくれ」
「じゃあこれで」
めんどいので適当に選んどいた。そそくさと出口に向かう。
「がんばれよー」
おっさんに応援されるがうれしくない。なので速攻でログアウトした。
外の空気が気持ち良い。むさ苦しいのはイヤだ。
「で、なになに?」
俺は今一度依頼書を見た。適当に取ってしまったので今度はよく確認する。
「あー、騎士団の装備の輸送?」
なんかすごくダルくなる内容だ。適当に選んだことを後悔するがもう遅い。
どうせまたむさ苦しい所なんだろうなと思いながら書面に記載された場所へ向かった。
到着して驚いたが、目的地は先日の商人ギルドだった。
受付のベルを押す。が、誰も出ない。
再度ベルを押す。すると奥から男が出てきた。
また男か、と軽くため息をつく。
「すぐお伺いできず申し訳ございません。本日はどういったご用件で?」
「依頼で冒険者ギルドから派遣されて来ました。えーとデリーさんはいらっしゃいますか?」
「ああ、騎士団のですか。それなら表の四番の発着場に向かってください」
指示に従い四番へ向かう。歩く足が速いのは言うまでもない。
発着場に着くがやはりデカいなと感心してしまう。
「冒険者ギルドから派遣されて来ましたー」
中に勝手にはいるのはアレなので外から声を張り上げる。
するとちょっと大柄な女性が姿を現した。
「あー、じゃあ中に入ってくれるかい? ……ってあんたかい」
見覚えのあるその容姿は、先日お世話になった商人のおばさんであった。
「まぁいい。さっさと入んな」
おばさんに催促されて中に入る。しかしそうか、おばさんはデリーという名前なのか。
発着場内に入ると荷台が空の馬車が繋がれていた。
「元気だったかい?」
「まぁそれなりに」
答えるとおばさんはどこかホッとしたように、にっこりと微笑んだ。
おばさんも元気そうでなによりだ。
「そういえばマロンはどうしてるんだ?」
俺が助けた少女を思い出して聞いてみる。
心配に思っただけで他意はない。
「ああ、あの子なら裏で魔法の練習をしているよ。少しは仕事を手伝って貰えないとやっていけないからね。折角だから会っていくかい?」
「いえ、それはやめときます」
「どうしてだい?」
聞き返されるが返事に困る。
マロンは俺に会いたがるだろうか? もしかしたらそうかもしれない。
だが今はまだ会うべきではないだろう。
そう、会うとすればきちんと自立してからの方がいい。
「まだ、会うには早いでしょうから」
だって、俺は他人を支えられるような人格者じゃないのだから……
「そうかい……ま、いいだろう」
おばさんは一区切り付けるように言い切ると、馬の頭を撫でた。馬はおばさんのことが好きなのかその手に押し付けるように自ら頭を擦り付ける。かわいい。
「で、仕事の話だが、これから店からから装備を仕入れるから、それを荷台に運び込んで欲しい。やってくれるかい?」
やるかって? もちろん答えはYESだ。
さっきちらっと見たが報酬は1万だった。安いのは仕方がない。まぁ力さえあれば誰でも出来る仕事だからな。
そうしておばさんに言われるがままに、荷馬車に乗って現地へ赴いた。
「さ、ここだよ」
外枠に片手を掛けてスタイリッシュに飛び降りる。
しかし着いたわけだが、それらしい場所は見当たらない。
まぁ唯一あるとすれば裏口くらいだ。
「ん? あれ?」
この何もない感じは……
おばさんが戸口に立って呼び鈴を鳴らすと、店の中から一人のがたいの良い男がちらっと姿を見せる。
「あーと、納品の件か? それなら中に入ってくれ」
おばさんが戸を開けて入ろうとするので、俺は声を掛けて制止する。
「あーいいですよ。俺が全部持ってきますんで」
「そうかい? じゃ、頼んだよ」
おばさんの代わりに俺が店に入った。
火を使っているせいか、店内は外の数段暑かった。
「よう、店長。この前はありがとな」
「おう、お前さんか。武器の具合はどうだ?」
俺が店長に挨拶すると、店長も俺だということに気付いて挨拶を返してくれる。
「ああ、モーニングスターな。強度は申し分ないし、重さ的にも扱いやすい。ただちょっとリーチが短いのが難点かな?」
「ふむ、なるほどな……参考にさせてもらうぜ」
研究熱心なことでありがたい。
この人にはまた良い武器を作ってもらいたい。鈍器は最高だ。
一息付いて辺りを見回したが、カウンターの奥はかなり広い倉庫になっていたようだ。
恐らく、展示してある物より多いことは確かだ。
「で、荷物はどこだ?」
「ああ、それならそこにある銀色の鎧と剣全部だ」
そう言って店長が俺の背後を指さす。
振り返ると大量の装備が山積みになっていた。
数えてみたが、計20人分か。
「あ、そうそう、俺も手伝うから先に運んどいてくれ」
「いいよ、俺が全部運ぶから」
俺が手をかざすと鎧と剣が見る見る消えていく。
その様子を見て、店長はあんぐりと口を開けていた。
「20人分だったが、数はそれで全部か?」
「あ、ああ……それで大丈夫だ」
荷物はすべて生命の黒牢に収納した。
やはりこの世界でもこんな道具は珍しいようだ。それにしてもチートだ。
しかし今になって分かったことだが、いつの間にかイメージするだけで収納出来るようになっていた。
便利は便利だが勝手に発動したらある意味恐ろしい。
「じゃ、また今度来た時は宜しく頼むわ」
「ああ、こっちも良い武器作っとくからまた来てくれ」
俺は店長と男の挨拶をすると、この店を後にした。
そしてさっさと荷台に積み込んで仕事を終わらせる。
おばさんもかなり驚いていたが、まぁシャミアが使ってるくらいだし問題ないだろう。
「じゃあこれで大丈夫か?」
「ひーふーみーよー……。うん、大丈夫なようだね。じゃ、これが報酬だよ」
俺は金貨一枚を受け取った。
「じゃあおばさん、マロンのことお願いします」
「あんたも頑張るんだよ」
帰りにおばさんにも挨拶しておいた。なんかハグでもしそうな勢いだったので早めに立ち去った。
帰りに砂肝を買ったが塩が効きすぎて辛かった。まぁ手軽さには代えられないが。
しかし夜にやることが多くて空を見上げる機会がなかったが、向こうの世界よりもこちらの夜空は幾分も美しい。
満天の星に空が埋め尽くされている。
ただあまりに星が多すぎるせいで、向こうで知っている星座は見つけることが出来なかった。
もしかしたらこちらの世界にも星座という概念はあるかもしれない。
南にうっすらと輝く赤い星なんか、良い的かもしれない。
俺はそんなことを思いながら宿に戻り、休息を取った……
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