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第十五話 熱いバトル

 シャミアは約10m程先で、大杖を片手に佇んでいる。

 その周りを火球が四個浮遊しており、そのどれもが俺の隙をうかがっているように見えた。

 しかしなるほど、魔法はあんな風に溜めることも出来るのか。

 いや、感心してる場合ではない。

 俺はすぐさま戦闘態勢を取る。


「喰らえ! 火炎球(ファイアーボール)!」


 思い切り踏み込んで距離を詰め、先手を取る。

 しかし放たれた火球は最初の印象が影響してかとても遅く、シャミアに容易に避けられ、後方で炸裂する。


「威力は素晴らしいですが、当たらなければ意味はございませんよ? 連弾の火炎球ファイヤーボールレインジ


 お返しとばかりに浮遊待機していた4つの火炎球が連続で襲い来る。

 一つ一つが狙い澄まされているが、威力は通常よりも劣っているように見えた。


「呑み込め! 流水球(ウォーターボール)!」


 自分の魔法が過剰気味に発動されることを加味して、飛来する火球へ向けてその倍はある水球を放つ。

 だが放った水球は予想とは裏腹に、真下というあらぬ方向へ飛んでいった。


 俺は舌打ちすると、急いで斜め後方へ跳び退きギリギリで躱わしきる。


「一流の魔法使い相手に遠距離戦でございますか? 拡散する火炎の矢スプレッドファイアーアロー


 しかし距離を取ることが仇となる。

 一つ一つは火炎球より小さいものの、百以上もあるソレは広範囲、射角45度を埋め尽くすように飛来する。


「なら無理やり防ぐまでだ! 水よ、遮る盾となれ! 流水の防壁(ウォーターウォール)!」


 とっさに唱えたその魔法は、10m以上の水壁が生み出し、前方からの攻撃を完全に遮る。

 ぶっつけ本番の水魔法だが、発動には成功した。

 しかしこれでは視界が遮られて……


「無駄が多いですね。火炎の太矢(ファイアーボルト)


 水壁を利用して背後に回り込んだシャミアが、高速の火矢を起動する。

 避ける暇はない。

 だが撃ち落とそうにも俺の遅い火球ではこちらも被害を受ける。

 ならば威力を弱めれば……


「パチッと飛べ、ファイアーボール(火の粉)!」


 シャミアの火矢は火球と打ち消し合い、俺に届くことはなかった。

 俺はその間にいくらか距離を取る。

 どうやら魔法名を弱そうにすれば威力は抑えられるようだ。


「随分とおかしな魔法名でございますね。フザケていらっしゃるのですか?」


 シャミアが追撃を掛けようと足に力が入る。


「いや、俺は大真面目だぜ? こんがり焼けろ! ファイアーウェーブ(炭火焼き)


 姿勢が傾く瞬間を狙って魔法を発動する。

 大地を二分するように走る炎。左右に避ければその瞬間狙い撃ちだ。


「やはりフザケていらっしゃるようですね。ならば本気を出させて差し上げましょう……嗚呼炎神よ、その名において、罪在りしもの全てを焼き尽くせ――」


 炎は導火線を辿るが如く、一直線にシャミアに殺到する。だがあと少しで直撃するという刹那……


「――審判の焔(アポカリプスフレイム)……!」


 逆にシャミアが生み出した魔法の炎にあっけなく飲み込まれる。

 全包囲押し寄せるソレは、俺の炎を吸収してか、かなり速い。


「ちっ、怒り狂う太古の獣よ、とにかくその神咬み殺せ! レビアタンズフラッド(大津波)!」


 俺は反射的に同等に強力な魔法を想像し、解き放つ。

 大地の勢は煌々と輝く火炎と荒れ狂い押し寄せる津波に二分され、やがて二つは反目し合うようにぶつかった。

 荒ぶる巨大な波が炎を喰らい、灼熱の炎もまた、俺を燃え散らさんと波を一瞬で蒸発させる。

 二つの力は轟音を響かせながら互いにひしめき合い、地を破壊しながら掻き消し合った。


 そうして繰り返された惨劇も、やがて辺りに平穏が訪れた。

 一方の大地は焦土と化し、一方の大地は大きく抉り取られ、一面が地獄絵図のようであった。


 とっさに考えた魔法だが、属性の相性から何とか切り抜けることが出来た。

 とはいえ


「ったく、やりすぎだろ……まぁ俺もだが」


 そう呟いて自嘲気味に嗤う。

 今の魔法は大したモノだったが、どうやら水魔法は間欠泉や鉄砲水のように高圧で発するか、質量で押し潰すかでもしない限り、大抵のものに威力は期待出来なさそうである。

 そういえば氷は水属性に含まれるのだろうか? よく分からない。


「なかなかやるようでございますね。ではこちらも本気で行かせて頂きましょう」


 そうにこやかに語り掛けて、シャミアはどこから取り出したのかマスカレードの如き仮面を装着した。

 先の盗賊のアジトでも付けていたが、何か効果でもあるのだろうか?


 俺が少し思考した瞬間、シャミアは目にも留まらぬ早さで次々と魔法を詠唱していく。


 次々と俺の頭上へと現れる炎の塊は、

 多量の炎を生み出すその姿は、まるでおとぎ話の一端を垣間見ている様であった。

 いや、本当に伝説に肩を並べる人物なのかもしれない。


「いやーしかし、こりゃ笑うしかねぇな……」


 だがその全てが俺に向けられているとなれば、もはや苦笑いしか残されていなかった。

 ……なにせ、数千にも上る無数の火矢が、赤い絨毯でも敷き詰めたかの如く空一面を覆い尽くしているのだから。


「殲滅せよ……降り注ぐ火炎の太矢ファイヤーボルトストーム!」


 その一言を合図に、俺の前方から、頭上から、後方から、全ての火矢が豪雨の如く俺へと降り注ぐ。

 少しでも当たればタダでは済まない。塵が残るかすら疑問である。


「ほんと、やりすぎだろ! ウォータードーム(しゃぼん玉)!」


 俺はとっさに、唯一防げる可能性のある半径5m程度のドーム状の全天防御壁を生じさせる。

 しかしどんなに巨大な防壁であったとしても正直心もとない。むしろ物足りないくらいであろう。

 俺のそんな思案もお構いなしに、無数の火矢の嵐はついに着弾する。


 一見頑丈そうな壁面も、直撃によるあまりの衝撃に大きく揺らぐ。

 そうして削られた壁面の薄くなった場所から、押し寄せるように幾らかの火矢が貫通した。


「荒れ狂う流水よ、わが身を連なり来たりて盾となれ! オーバーラップ(しゃぼん玉)ウォータードーム(inしゃぼん玉)!」


 俺は自分に当たるものだけムーンライトで処理しながら、更に内側に幾重にも重なる防壁を生み出す。


 確かに威力は凄まじいが、相手もこれで倒せるとは思っていないだろう。

 つまりは何か別の決め手があるハズだ。

 しかし同じ様に背後に回って攻撃しただけじゃジリ貧だ。

 なら狙ってるのは何だ?


 思考しても解は見つからない。

 そして水壁の消滅が猛攻の終わりを告げた。


「……居ない?」


 全てが収まったが、俺の正面にはなんの姿もない。

 俺は焦ったように辺りを見回した。

 が、シャミアはどこにも見当たらない。

 背後でも、ましてや上空でもない。

 ならどこだ?


 ふと、冷汗が垂れる。

 妙な予感のした俺は、先程シャミアが居た方向に向かってムーンライトを振るった。


 直後、凄まじい衝撃音と共に火の粉が飛び散る。


「私の灼熱の魔包戦斧エンチャントヴォルケーノアクスを防ぎますか……」


 唾競り合い。

 女性のモノとは思えない力で押し返される。

 これが魔力ブーストの効果か?

 いや、とてもそれだけとは思えない。


「背後に回って魔法を放っても詠唱音とタイムラグで意味がない。なら狙うのは近接攻撃だろ? それに……」


 このままじゃ競り負ける。


「そんな熱いもん持ってたらイヤでも気付くっつーの」


 俺は右足で思いっきり蹴り飛ばして距離を取った。

 オマケで火球を二発放つが、どちらも軽く躱わされてしまう。


「なるほど、一理ございますね」


 そう言って炎の斧をクルクルと回す。

 こんな状況だが、シャミアはなんだか楽しんでいるように見えた。

 俺も自然と笑みをこぼしてしまう。


「だろ? 放て! ウォーターアロー(水鉄砲)


 シャミアは危なげもなく紙一重で攻撃を躱わす。随分と余裕の表情だ。

 次の瞬間その姿が消え、右側面から突撃が咬まされる。

 俺はムーンライトでカウンターを入れようとするが、炎斧で防がれた上で一瞬で距離を取られてしまう。


 確かにシャミアの移動速度は速い。恐らく俺より速いだろう。

 だが俺の動体視力的に考えて、見失うなんてことはマズ無い。

 しかし、また視界から消える。

 いや、消えた様に・・・・・見えた。


「貫け、アイスランス(つらら)


 俺はなにもないハズの正面へ高速の氷槍を放つ。

 それは銃弾の如く飛翔し、そして……


 何かが壊れる音と共に、氷槍は粉々に砕け散った。


 氷槍の消えた場所を見ると、空間にヒビが入った様になっている。

 そのヒビはどんどんと広がり、やがてガラスの様にバラバラと崩れ去ると、中からシャミアが姿を現した。


「やはり私の本気を破りますか。勿論それはカラクリをお知りの上でご座いましょう?」


 そう言ってシャミアが仮面を取り外す。その表情は喜びに満ちているようにも見えた。


「ああ、魔法でカモフラージュでも掛けてやがったんだろ?」


「やはりお気付きでご座いましたか」


 俺の考えは間違っていなかったようだ。

 確かにシャミアの動きは速かったが、それでも残像すら見えないのはオカシい。

 つまりはどうにかして姿を隠しているというのが妥当だった。


 シャミアは納得の様子で頷くと頭を指で押さえて続ける。


「魔法の威力、速度、発動時間。状況判断能力、近接対応能力、どれを取っても問題はないでしょう。レイ様は晴れて一人前の魔法使いで御座います」


 まだ習ったばかりなのに、一人前とか言われたしまった。


「いや、一人前ってのはまだ早いんじゃないか?」


「いえ、私の本気を打ち破ったのですから、自信を持ってそう名乗って頂いて結構ですよ?」


「本気だけど、全力じゃなかっただろ?」


「さあ? どうで御座いましょう」


 シャミアはミステリアスな笑みを浮かべて、俺の手を取る。

 そんな美しいシャミアと共に、俺は街へ戻った。もちろん一緒に宿に行ったりはしないが。


 ちなみに、繰り広げられた大魔法戦闘の影響で辺り一面が瓦礫の山になったことは、言うまでもなかった。

熱いバトル(物理)

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