第十二話 素晴らしき朝
「よう、お頭……」
俺は倒れているお頭に向かって、冷たい目で呼びかける。
「お、おめぇは……」
お頭も俺だという事に気付いたのか、些か驚いているようだ。
「で、なんでお頭がここに?」
ねぇ盗んだのかかな? 君がムーンライトを盗んだのかな!? って疑問は思っていても口には出さない。紳士の嗜みだ。
「いや、俺は……そう、ライバルの盗賊共を潰しに来たんだ」
お頭は立ち上がりながら答えると、腕に巻いているバンダナを結び直した。
少し言葉に間が空いていたので、何か裏があることは確かだろうが、追求しないで置く。
ムーンライトを盗んだのでないなら用はない。
「それにしても、こっちも気になってたんだが、なんでおめぇがココに居るんだ。まさかここの盗賊ってわけでもねぇだろう?」
「ああ俺はな、盗まれたんだよ……ムーンライトを」
そう、ムーンライトを……
「ん? ムーンライト? なんだそりゃ?」
「いや、知らないならそのままでいい」
知って先に奪われても困る。この前欲しがってたからな。
さて、二人で先に進むのは良いが……
「うおぉぉぉぉ!」
突如、敵の盗賊が背後から雄叫びを上げて突撃してきたので、俺は右肘を入れて気絶させる。
全く、お頭のせいで早くも敵に気付かれてしまったらしい。
もう少しは何事もなく進める予定だったのだが、まぁ今更言っても仕方がないだろう。
「やっぱりおめぇは強えな。ったく……これじゃ俺の出番が無くなっちまう、よっ!!」
更に突撃してきた雑兵に、お頭は大剣から発生させた炎弾を次々とブチ当てていく。狭さを利用した一方的な攻撃に、敵は為す術も無いようだ。
お頭も雑魚相手には中々にやる。元々弱いわけでもないので、それはそうか。
お頭は一通り片付けた所で大剣を仕舞った。
そして急いで奥へと歩を進める。
「あ、そうそう。忘れてたがお前の兄貴にあったぞ」
「俺の兄貴に!?」
突拍子もない宣告に、随分と衝撃を受けたようだ。
急にそんな事を言われれば、そりゃ驚くか。
「ああ、そうだ。元気そうにしてた」
分岐も無視して道なりに直進しているが、まだ着かない。かなり深く掘られているようだ。
「そういえばお頭は中央から来たけど、罠とかはなかったのか?」
出会う前に爆発が起こってたが、戦闘でもしてたのだろうか?
「ああ、そういえば急に地面が爆発したな。まぁ俺はあの程度の火じゃ死なんがな」
あの爆発って罠だったんかい!
まったく、人騒がせなお頭だ。
「っと、この先がリーダーの部屋なんだが……」
お頭が開けた場所に辿り着いた所で立ち止まる。
今までで一番広い広間で、そこから道がいくつも繋がっているのだが、唯一中央に位置する道だけが崩落した岩で塞がれていた。
お頭はそこを見つめているので、恐らくその先がリーダーの部屋なのだろう。
となれば、岩を破壊しなければならないが……
「だが、その前に戦わないといけないようだな」
俺はそう呟いて辺りを見回す。
幾つもある道。その一つ一つから、ぞろぞろと盗賊達が現れる。
一面を囲まれていた。
ざっと数えて40人程だろうか?
「お頭、ここは俺が引き受けるから、お前はあの岩を破壊しといてくれないか?」
そう言って崩落した道を指さす。正直効率のためには仕方がないだろう。
「ん? いいのか? じゃあここは任せたぞ」
「ああ、任されたよ」
俺は鍛冶屋から手に入れた至高の武器……モーニングスターを構える。
やはり鈍器は最高だ。対応する幅が広いからな。
いくらか感覚を確かめてから、身を低くして構える。
「じゃあ、始めよう……」
その言葉を皮切りに背後から一人襲い掛かってくる。
俺は急速回転で振り向くと腹に突きをブチ込む。
当然、自らの勢いのせいで気絶する。
「これで一人……」
邪魔なので蹴って転がして遠くにやる。
お頭の所の奴らより練度が低い。これなら早く終わりそうだが……
「さて、何人だ? 数えるのが面倒だな……」
敵が多すぎて数えるのも面倒になる。
しかも警戒しているのか近付いてこない。
「来ないのか? ならこちらから行くか……」
俺は一人に狙いを定めて接近する。
大振りでブンブンと武器を振っているが、その程度じゃ当たりようがない。
俺はそいつの頭上を飛び越えて、背後で呆然と横並びしている三人に一振りを加えた。三人はそれを防ごうとするが、残念ながら応戦むなしく吹き飛ばされる。
もちろん、飛び越えた時に後頭部に蹴りを入れてるので背後の敵も既に気絶済みだ。
さて、まだ腐るほど居るが……
「あー、投擲武器が欲しい所だな……。いや、手はあるか……」
仕方ないので蹴りを入れて気絶させた盗賊を掴んで、人数の多いところに放り込む。
もちろん逃げようとしたところに放物線を描いて盗賊が伸し掛かるので、みんな仲良く気絶した。
重さで死んでないと助かるが……
にしても面倒だ、魔法でも使えたら助かるのに。誰かに教えて貰えないだろうか?
速度を重視して、壁を利用した多角跳びで跳び膝蹴りをブチ当てていく。
こちらを打ち落とそうと剣を振り回したところで、俺がモーニングスターで弾き返すだけなので、残念ながら意味を為さない。次々と気絶していくだけだ。
ついでに倒した奴を豪速球で投げ込んで、少しずつ気絶数を稼ぐ。もちろん敵の剣に当たって死なないように、側面から当てるが。
そんなことをしている内に、いつの間にか盗賊達は全滅していた。あっけないものだ。
「計37人か……。ま、これで、THE ENDだな……」
戦いながら数えてみたが案外早く終わった。37人ならこんなものか……
37人も面倒だったが、ついでに着ている服で手足を縛っておいた。強度が心許ないが、仕方ないだろう。
「おーいお頭~。終わったか~?」
俺はもう既に終わっているものと思ってお頭の方へ向かった。
「いや、もう少しだ。ちょっと待ってろ」
そこでは、一個一個せっせと梃子の原理で岩を取り除くお頭が居た。
お頭のことだから力技で行くと思ってたのだが……人は見掛けによらないらしい。
「もういいよ、お頭。俺がやる」
「おい、だからもう少しで……」
なぜか嫌がるので、お頭を無理矢理引っ張っていく。
そしてお頭が退いた所で、道にモーニングスターを全力で投げ込む。
それは下の方の岩の一つを粉砕して、道を塞いでいた岩々は支えを失い……次々と崩落した。
「まったく……おめぇ、どんな筋肉してんだよ」
お頭が驚いているがそんな暇はない。
一刻も早く進まないと、リーダーに逃げられてしまうかもしれない。
俺とお頭は崩れた岩山を乗り越えて先へ進む。
崩壊の影響で奥まで土煙が上がっているが、気にしてはいれない。
そうしていくらか進んだ所に、一つの人影が見えた。もしかしたら盗賊達のリーダーかもしれない。
その影は道のど真ん中に立ちはだかると、手にした大振りの杖を構えた。
「焼き付くせ! 連弾の火炎球!」
前方から飛んできた大量の火炎球をモーニングスターで次々と打ち消す。
俺の方に来なかった炎球は、壁やお頭に当たって更に砂煙を濃くさせた。
どうやら遂に大物、盗賊たちのリーダーの登場のようだ。
驚いたことに、声からするとリーダーは女性らしい。珍しいこともあったものだ。
俺は次弾を発射される前に砂塵に紛れて急速接近、モーニングスターを振るう……が、思わぬ事に杖で一撃を防がれ、俺は後退を余儀なくされる。
その間にリーダーは追撃を掛けようと杖を構え直す。
フェイントで一撃を入れるか? いや、相手もそこまでは甘くなさそうである。
余裕からか、リーダーは軽々とその口を開く。
「全く、しつこいヒトたちですね。あまり強力な魔法は使うことが致せませんし……」
そろそろ砂煙が晴れる。このままでは不利かもしれない。
晴れた瞬間、全力で一撃を噛ますべきだろうか? いや、ここは魔法を躱わしてカウンターを入れるのが一番かもしれない。
そうと決まると俺は武器を構えて臨戦態勢を取った。
そうこうしている内に土煙が収まるって相手の姿が露わになる。
なかなかスタイルのいい女性だ。リーダーは結構いい女らしい。
「さぁ、これで終わりで御座います……ってあら? レイ様?」
「えっ?」
訂正。リーダーじゃなくて、受付嬢のシャミアだった……
う〜む、題名変えようかな…?