出会い
高校3年になった。
高野蒼依。趣味は絵を描くこと。メガネ。
高校最後クラス替え。楽しみ、でも、ないかな。
一緒になりたい人はいないから。
あれから恋はしていない。恋されていない。
少しだけ変わった教室。少しだけ変わったクラス。
「蒼依おはよ!」
と元気に声をかけるのは、佐川佑真、僕の一番の親友だった。
佑真は彼女がいて、それでもモテていて、かっこよくて、賢くてスポーツ万能。完璧な人間だ、何て言わないけど、女子の理想・・・・ああもう嫌だ。
あの事を思い出してしまう。
「今年もクラス一緒だったな!」
「うん・・・・」
「どうかした?」
「・・・・・・・」
「おーい・・・・」
「あ、いや・・・・ごめん、なんでもない」
「そうか」
「いいよなーまた河野と一緒だろ?」
「言うなよー」
ふざけた調子で叩く佑真。佑真の彼女、河野愛実はそこそこ可愛く、御淑やか。河野の方から告ったらしい。
などと思っていると、ごっつい顔の教師が来た、どうやらこの人が担任らしい。
「3のB、出席を取る」
ペンをコンコンと軽く叩き、ごほんと咳払いをしてから、五十音順に出席を取っていく。
「朝野優香」
「はい」
「石川卓也」
「はい」
スラスラ出席を取っているうちに、自分の名前が挙げられ・・・
「高野蒼依」
「高野・・です・・」
顔が怖いので控えめに言った。
「ああすまなかった高野」
なんだか注意しても聞かないようなのでもう訂正は止めた。
「中村は欠席・・・・」
初日から欠席なので、疑いもあるが、まぁしょうがないか、と思い何も言わないでおいた。何も言わないというも、自分は元から口数が少ない。
「はいでは自己紹介から始めよう」
在り来たりなことを言うな、とつっこみたくなるも、気持ちを落ち着かせ、姿勢を正した。
チョークをコンコンと突き、少々アンニュイな文字を書く。
黒板に大きく「武田信也」と書かれた文字。歴史の人物に似た名前があった気がする。続いて大きく「これでも30です」と書いてチョークを置きドヤ顔をする。
「何か質問はあるか?」
武田先生は聞いて、しんと静まった。
「では、廊下側から名前と趣味をいってくるぇ」
最後少々噛んだものの、それは知らなかったかのような顔をして、自己紹介が始まった。
「朝野優香です。趣味はピアノです。よろしくお願いします」
最後に礼。どうやらお嬢様オーラがピンピンだった。
自分の番が回ってきた。
「高野蒼依です。趣味は絵を描く、アート等です。よろしくお願いします」
礼をして、着席した。
最後まで自己紹介が終わった。
「では今日はここまでだ」
僕らは教室を出た。
下校中。僕は一人で帰っている。
周りからみるときっと「うわっ、この人孤独・・・」等と思われているのかな。
でも一人が好きだから、一人でいいんだ。
それに、一番好きなところを一人で見れるから。
綺麗な花畑。綺麗な空。これをいつか上手に絵にしたいと思っていた。
「今日も綺麗だな・・・・・」
僕が何気なく呟くと
「そうだね」
と、後ろから声がした。その声は可愛らしく、透き通っていた。
「え?」
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。白い肌、黒いサラサラのロングヘア。パッチリとした目その可愛い顔に、薄い桃色レースのワンピースに白い薄手のカーディガンを着ている。まるで、人形のようだった。
「驚かせてごめんね」
そういって、花道を去って行った。
軽いスキップをして、どんどん小さくなっていき死角に入った。
あの子はなんなのだろう?
あんな少女は前まで此処に居なかったのに。
ボーっとしているうちに、10分程ロスをしてしまった。
いつもは時間のある時だけ花道を見たくて遠回りをしているのに、こんなことをしては親の激怒が待っている・・・・・。
ダッシュで家に帰った。
玄関を開けたら、母が立っていた。
「どうしてこんなに遅くなったの?」
と聞かれ、ボーっとしていた、と事実のみを伝えた。
「今日は3時間勉強してね」
と言われうんと頷き、自室へと階段を上がった。
あの子はなんなのだろう。
頭の中にぐるぐるとさっきの少女が回る。
名前も知らない、聞いておけばよかった。
明日もいるかなと思っていたら寝てしまった。
起きた時には、6時になっていて、また母に「何で勉強しなかったの?」と言われ説教が1時間ほど続いた。
夕飯を食べ終わり、勉強をして、風呂に入って、ベッドに入って、眠ろうとしていた。
今日は不思議な日だな・・・・・。
またあの少女に会いたい、と強く願った。
*
朝。
5時45分。
制服に着替え、リビングへ向かった。両親は朝から仕事なので、朝飯は自分で作っている。
トーストを焼いて、目玉焼きとベーコンを皿に盛りつけした。
「いただきます」
トーストをかじりながら考えていた。
今日も朝、あの花道を通ろうかな、と。
あの少女に会いたいな、と。
朝飯が食べ終わって、靴を履いて外に出る。
時間がまだまだ余裕なので、花道を通る。
すると、いた。
「お早う」
今度は僕から声をかけてみる。
すると、少女はニコッと笑い、
「お早う」
と言った。
「名前は何ていうの?」
昨日聞き逃したことを忘れないうちに聞く。
「中村美月。美月って呼んで」
「そうなんだ。美月か、いいよ。僕は高野蒼依って言うんだ」
「素敵な名前」
美月が微笑むと、なんだか胸が熱くなった気がした。
その気持ちはなんだか懐かしい感じがした。
「じゃあ、僕、学校行くから」
「いってらっしゃい」
美月が僕に手を振る。僕も笑顔で手を振った。
美月、か。いい名前だな。
帰りもここを通ろう。
僕は急いで学校へ向かった。
教室に入ると、朝のホームルームまでまだ15分ほどあった。
僕は、科学の本を広げる。
僕の夢は、画家か、科学者だ。科学者の方がなりたいけど、画家の方がなれそうな気がして、いつも絵を描いている。
今読んでいる科学の本は父からもらった。父は立派な科学者だ。最近は薬の実験をしているそうだ。
僕はいつも科学の本を読んで必死に勉強していた。
だが、今日はあまり集中できなかった。
美月の事が気になっていたからだ。
どうやら同い年ぐらいに見えるが、学校に通わないのも謎。天使のような顔つきをしている分、お嬢様にも見えるのに何故だろう。登校拒否だろうか。
学校の話は遠まわしにするしかないか。
それにしても一体――――
「お早う御座います」
武田先生が入ってきた。
クラスメイトからはよーございますお早う御座いますとバラバラに声が聞こえる。
「日直」
「あっ、はい」
日直である朝野が黒板の前に立つ。
「起立」
ガタガタ、と椅子の音が聞こえる。
「礼。着席」
朝野が席に着く。
「今日の一校時二校時は、学校の清掃を行う。3のBが体育館担当だ」
一番疲れるところじゃないか、と思い溜息を附く。
「どうした?高野」
「あ、いや何でもありません。深呼吸です」
「そうか、緊張するなよ」
してません、と言いたいが、深呼吸しているといったところで突っ込むわけにもいかなかった。
僕たちは雑巾だった。一番やりたくなかった雑巾だ。嗚呼。