彼女は日常を渇望している
なるべく早く出すといったな?
すまん、無理でした
ということで続きです
人物表
皆のヒーローガラスメン!
身長 216cm
体重 3kg
薄さ 0.5m
好きなもの ガラスを拭きしてくれる女性のスカートから出る生足
嫌いなもの 深夜にガラスを叩き割っていく若気の至り
一言 「ガラスメンはどこにいるって?君が困ったとき、皆の心の中からいつでも駆けつけるさ!」
「助けてガラスメーン」
凛々しい表情で着地をしたガラスメンは、着地の衝撃を受け流すことが出来ずに転がった。その際に彼の厚さ0.5mのガラスボディが地面と衝撃的な出会いを果たし、ガラスメンは粉々に砕け散っていった。
さらばガラスメン…君の事は忘れないよ。たぶん。
そんなガラスメンだった欠片達を踏み潰して、クラゲさんが強く踏み込んでいく。
ナオさんへと肉薄しながら抜かれた刀は、私が瞬きしている間に振りぬかれている。そして振りぬかれた手を追うようにして回転すると、後ろに跳んで避けたナオさんを蹴り抜いた。
蹴り飛ばされたナオさんはずさーっとブレーキを掛けながら、再び向かってくるクラゲさんへとナイフを構える。
うーむ…。
反発する磁石の様に近づいては離れる二人から目を逸らしてみれば、今度は大きなハンマーを持ったアリスとマッチョの石像が見える。
ある程度の距離を保ちながらびょんぴょんとにらみ合うナオさんたちとは別に、こちらは動きが少なくほとんど場所を動かない。とはいっても動いていないのは石像だけであって、アリスは振り払われる腕を掻い潜っては手のハンマーを叩き込んでいる。
しかし距離が近すぎるのか、それとも相手が硬いのか、彼女のハンマーは従来の威力を発揮することなく受け止められ、マッチョの歯がきらりと光る。
なぜ石像の歯が光るのかは思考停止している私にはわからない。わかりたくもない。きっとマッチョ的なこう、何か不思議な力でも働いているんだろう。
石像は余裕の表情を見せたまま、自身に叩き込まれたハンマーを手に取ると放り投げる。当然ながらそれを握っているアリスも宙を舞った。
アリスはくるりと一回転をして着地をすると、空を叩くようにしてハンマーを頭上から振り下ろす。すると石像の頭部目掛けていくつかの火球が降り注いだ。
爆音と共に砂埃が舞い上がるが、その埃の中からはボディビルのポーズを決めたマッチョが現れた。両手を腰に付けて己の背筋を見せつけてくるその様は、変態とかいうよりも何よりもひたすらに腹が立つ。
アリスもそう感じるのか、挑発に乗って再び突っ込んでいく。
うむぅ…。
そして戦闘能力皆無な私はそんな戦いからは蚊帳の外であり、ぼけーっとその辺で拾った段ボールの上に座り込んでいる。どっちが劣勢でどっちが優勢なのかはわかるけど、私に何をしろというのか。いきり立って戦い合う皆さんの中へと突撃したところですき焼きのお肉の様な惨状になるのは目に見えている。
まぁ止めるのは簡単だろうけど。哀しいことに特別な裏事情が無い限り、この戦いは私が原因の一端を担ってる様だ。目的を失くせば自ずと収束していくであろう。つまり意気揚々と飛び出ていってミンチにされればいい。特別な裏事情…あるといいなぁ。
「死ぬのが怖いってわけじゃないけど…」
誰でもない誰かに問いかけてる訳じゃないけど、ぽつりと呟く。
「自分自身も目的達成の材料にするのは如何なものかと」
何よりこの解決法じゃそこから先が無い。自己犠牲を払ってまで虚無感を得ても意味が無い。
それに約束したし。約束も守れない人は約束を守ってもらえません、と誰かが言っていた気がする。誰も言ってない気もする。ということで帰れ。
気を抜くと吹っ飛びそうになる理性のネジをきりきりと回す。力の限り回したネジ穴は、段々と潰れていって使い物にならなくなってくる。
□ □ □ □
チリンと何かが鳴る音が聞こえてきた。
その瞬間にスローモーションは解除。のんびり思考をしていた私は地面と出会うために加速しながら落ちていく。クラゲさんの方をちらりと見ると、特に何も考えてないのか、はたまた肝が据わってるのか余裕があるのか、ぼーっとした顔で迫りくる地面を見つめている。私にそんな度胸は無いから大人しく空を見よう。
いかん、このままじゃ走馬灯をする余地もない。とかいう馬鹿な考えを浮かべて、走馬灯ってしようとしてするもんじゃないんじゃないの?とい疑問で霧散する。
何かが殴られる様な音がした。
もちろん私の身体が地面へと激突した音ではない。現状も私の身体は緩やかな落下運動中である。しかし音は私の身体付近から出た。奇怪なり。
いや待て、緩やかな落下運動っておかしくない?
色々と混乱しながらも音の正体を探るべく視線を向けたら、私に抱き着いていたはずのクラゲさんから耳が出ている。しかも髪の色が違う。水色じゃなくて黒い。というか顔まで違う。
「怪我は無いですか?」
「…ナ~~っ!?」
「…ナオさん!?」的な何かを発しようとしたら、同時に地上が見えて悲鳴と合わさったような変な声が出た。リアルな高さを実感すると途端に恐怖心が顔を出してくる。全く「こんにちわ」するのは可愛い子か、もしくは幸運の女神にしてほしいものだ。というか落ちてる!ここ高いよ!
「おお落ちる落ちる落ちてる!」
「にゃっ!ちょっ、ちょっと!」
パニック状態になりながら、手当たり次第に近くにある柔らかいものを抱きしめる。その節に猫っぽい悲鳴とふわふわする香りがした。しかしそんな素面なら決してできない事も今ならできる!というか落ちてる!
ふわりっと身体が宙に浮くような感覚がした。ついに墜落して天に召されたのかとも思ったが、どうやら柔らかいナオさん的な何かが重力に逆らっているらしいことはわかる。ついでにソレに触れている私もふわふわとしている様子。
急速落下中に突如、重力から解放された我が身は言いようが無い浮遊感に襲われてさらに不安になる。例を挙げるならジェットコースターの落ちる瞬間。誰でもバーを握りしめるだろう。しかしここにはバーは無く、ならば別のものにしがみ付くしかあるまい。
「だだだ大丈夫ですから!」
柔らかくて耳がぴくぴくする何かが叫ぶように言った。何が大丈夫なのか!と声には出せないながらも強く抱きしめる私。私が強く抱き付けば抱き付くほど、耳は激しくパタパタ動いて、それに伴って彼女腕もパタパタと動く。しかし待ってほしい私がしがみ付いているのである。暴れられると私が離れる!私が離れると私落ちる!落ちたら痛い!なんとしても離れるものか!
一見すると恋愛シーンにもなりそうなこの光景。私にあるのは下心も何もなく必死さだけである。
そうやってぎゅーっとしたり、わたわたしたり、またむぎゅーっとしたりしている間に緩やかな落下は終了した。私の足は無事地面を踏みしめて、地に足を付けた生活がいかに素晴らしいものかを実感させてくれる。ついでに私の頭にふにふにしたものが押し付けられていて、安堵と伴ってこのまま意識を失いたくなる。
「あ、あの…!」
ふにふにから声がした。見上げてみると顔を真っ赤にしたナオさんが居る。彼女はいつの間にこんな至近距離に居たのだろうか。しかしそんなに必死な顔でどうしたのだろうか。何故だろう、思考がうまく動かない。
もう落ちる心配もなくなり、余裕が出来たのでむぎゅーっと腕に力を入れたりして遊びながら聞いてみる。おお、柔らかい。
「んっ…」
「どうしました?」
「へ!?いいいや、その…そ、そろそろ離して欲しいなー、とか思ったり思わなかったりですね…」
最後の方がいまいち聞き取れなかったけれど、私に何かを離せと言いたいらしい。冷静になって見てみれば、私が抱き付いているのはまごう事なきナオさんの身体であり、つまりふにふにしたのは胸部にある脂肪の塊であるという結論が出て、それ以上いけないと思考の強制シャットダウンが入った。
「ああ、失礼しました」
どんな時でも非礼を詫びるのは紳士として当然のことである。私は紳士でありたい。私が紳士であるかは別として。
「あっ!?い、いえそんな悪いとかじゃなくてですね…えっと…」
猫耳を下げたり上げたりしながらごにょごにょと何かを発するナオさん。いつも思うのだけれど、あの耳は感情に反応して動いているんだろうか?もしもそうなら嘘の付けない人生になるのかな?嘘がつけない人生…考えてみるとなかなか難儀である。
どうでもいい事に思いを馳せていると、ナオさんの身体が消えた。いや正確にはすごい勢いで横に跳んだ。どちらにしても、私の視界から一瞬で別の人物に入れ替わっていたのだからそう変わりはない。
私の近くを通過したらしい刀を鞘に納めるという、大変物騒な動作をしているクラゲさんは、相変わらずぼーっと何を考えているのかわからない目で私を見た。もしも無造作に彼女が襲い掛かってきたら、私は成す術無く殺されるんだろう。そんな危機的状況に私の真の力が目覚める…!等という都合のいいことは起きず、というか何が起きたのかもよくわかんないままクラゲさんを見つめ返す。
数秒無言のアイコンタクトが続き、『もしかして、これは電波の送受信をしているのでは?ならば私も何か発信しなければ!』と不安になってきた頃にクラゲさんが口を開いた。
「…待ってて」
「あ、はい」
反射的に返事をしてしまう私。
その言葉に満足したかのようにクラゲさんが頷いた瞬間、ナオさんの飛び蹴りが彼女を蹴り飛ばした。実際に飛び蹴りをして人が吹っ飛ぶ姿を初めてみた。
「危ないですから、ちょーっと離れててくださいね」
「あ、はい」
私が返事をするのとほぼ同時に今度はクラゲさんが駆け込んできて、ナオさんは大きく後ろへと跳んだ。どうしてこう、私の目の前に来た人は入れ替わりが激しいんだろうか。そしてそろそろ私はイエス以外の回答を用意しないといけないんだろうか?ノーと言える日本人という言葉もあることだし。
しかし片方は「待ってろ」といい、もう片方は「離れてろ」と言った訳か…両立するのは難しくないね。
いくら「離れて待ってろ」と言われたからといって、コンビニの前でたむろする学生の皆様の如く地べたにだらーっと座るのは嫌だったので、その辺にあった段ボールを拾って腰かける。
改めてぼけーっと眺めて見れば二人とも非常に痛そうな打撃戦をしていらっしゃる。よくガードっていうけどガードしても痛いんじゃないだろうか、あれ。
しかし突然、クラゲさんがナオさんから離れた。そして鞘ごと刀を抜くと、地面に円を描くようにして回る。すると彼女の周りの地面が盛り上がっていく。ナオさんが近づいたと見せかけて距離を取った瞬間、燃える何かがクラゲさん目掛けて一直線に向かっていき炸裂した。
爆音とともに熱気が私のところまでやってきて、思わず手のひらで目を覆う。ついでにダンボールを少し遠ざけた。
私が覆っていた視界を解放すると、クラゲさんの隣に土でできた柱とムキムキなマッチョが見える。地面から出来たらしい黄土色の身体は、ボディビルダーの様な見事な筋肉にビキニパンツ。太陽にも負けないんじゃないかという輝かしく暑苦しい笑顔と共に次々とポージングを決めていく様は、私の脳内で『変態』という二文字に収束されていく。
けれどクラゲさんも何か思うところがあるのか刀に手を掛けた。このままマッチョを切り裂いてくれたら愉快適悦なのだが、残念ながらそうではないらしい。
深く腰を落としながら抜かれた彼女の刃はマッチョでは無く、マッチョの隣にある土の柱を根元から斬る。そして地面から離れてバランスを崩した柱はマッチョの手中に収まり、やり投げの様に構えて基地の方へ狙いを定める。その原始的な槍が放たれる一瞬早く狙われている方を見ると、金髪の女性が驚いた様に硬直しているのがちらりと見えた。
アレは…アリスか?
金髪の持ち主が誰かを特定した瞬間に高速で飛んでいく原始的な槍。どうやら彼の筋肉は伊達ではない様で、放たれた槍は狙い通りの場所にまっすぐ向かっていき、室内を破壊しながら止まった。あそこに居たら生きてないだろうなぁ。
ぱらぱらと建物だったものの欠片が降り注ぐ下、しっかりと着地をしているアリスの姿が見える。彼女の手には巨大なハンマーが握られているけれど、そうなるとあの火球はどうやって出したんだろうか?
そんな私の疑問も答えてくれる人はここには居なく、クラゲさんとマッチョはそれぞれナオさんとアリスの方へと駆けだした。こうやって戦いはさらに拡大していくのであろう。
ふと視線を感じたので見上げれば、私が飛び降りたところに一枚のガラスが立っているのが見える。
ま、まさかアレは…!
「助けてガラスメーン」
私のやる気のない声に応えるかの様にして、ガラスメンはアリスや私と同じようにその場から飛び降りた。
…何となく言ってみたはいいけど、アレは何なんだろう。
ガラスメンは重力に逆らうことなく加速していき、凛々しい顔で地面へと激突する。
□ □ □ □
「何かしたいのはわかるけど、それをすると尋常じゃない事態になるからね。よく我慢できました」
「…」
ぼけーっと皆さんの戦いを眺めていたら隣から声がした。そして「いい子いい子」とか戯言をぬかしながら私の頭を撫でてくる。脳内に蛆でも湧いてるんじゃないだろうか。
知らない人に突然頭を撫でられて恍惚に浸るのは、変態以外の何物でもありません。そして私は変態ではないのでとっても不機嫌になりました。ぷんぷん。
どうやら私の脳内にも蛆が湧いたらしい。手から脳へと感染していく蠅の子供たちは、私の未来を食いつぶしながら未来に向かって猛進していく。手遅れになる前に潰しておこう。ぶちぶち。
「で、あなた誰ですか?」
「え?」
こちらは至極まっとうな質問を出したつもりなのに酷く驚かれた。何だろうか、この世界では「誰ですか」禁止令でも出ているのだろうか?その辺りの事を深く考察すると、話が脱線して宇宙の彼方へ跳び経ちそうなのでやめておこう。深く考えたのに空へと向かう不思議。
「ワータシはアヤシーイ人ではナイノデース」
「…」
「ワーオ!」
前言撤回しよう。
こいつは驚いたんじゃなくてふざけてるだけだ。しかしそれに伴って生産された、このやり場のない怒りはどこに向ければいいんだろうか。せっかくだし、脱線して旅立った話と共に宇宙へと飛ばしてみる。
「まぁ冗談はこのくらいにしておきましょうか」
「冗談だったんですか」
「え?もしかして本気にしてた?」
「いい病院を知ってるんですが、頭の検査をしたら如何?」
私もしたからお墨付きだぞ。
緊張感が皆無の白けた空気の中、誰だかわからない金髪の姉ちゃんはコホン、と意味のない咳を一つした。赤みの掛かっているアリスの髪とは違って、こっちの方が金髪らしい色をしている気がする。
「自己紹介がまだだったわね。私は勇者。一応勇者。」
「大事なことだから二回言ったんですか?」
「あまり大事じゃないけど、名乗らないからには呼び名が必要でしょう?」
自称勇者はニコニコと不敵な笑顔を向けてくる。それは別にいいんだけれど、彼女の後ろで俯いている背後霊がすごい気になる。というか怖い。
背後霊は真っ黒なローブを着こんでいて、ソレについているらしいフードを頭から被っているからか、影で顔が見えない。夜中に歩いていたら確実に不審人物である。
私の視線に気づいたからなのか「ん?」と勇者(自称)が振り向く。そして何もなかったかのようにこちらへと向きなおす。いや説明しろよ。何なんだよ。
「この子は…まぁ、気にしないで」
「そうですか」
何か深くも浅そうな事情がありそうなので素直に引き下がる。そこまで知りたい事でもない。
「で、その勇者がこんなところで何を?」
「うむ」
勇者は「よくぞ聞いてくれた」と言いたげに頷くと口火を切った。
「教え子の成長とマイワイフの安否の確認。それとちょっと質問があるんだけど」
「嫌です」
「そこを何とか」
「お断りします」
即答する。大体「勇者」なんて言葉はちっちゃな子か、頭が可哀そうな人くらいしか名乗らない。そして私の目の前にいる何某さんはアリスやナオさんと同じくらいの歳と予想でき、ちっちゃな子には到底見えない。故にこいつは頭が可哀そうな人である。これが三段論法。テストに出た頃覚えとけばよかった。大体勇者は職業なのか?職業『遊び人』並に意味がわからないんだけど。
「まぁいきなり勇者と言われて戸惑うのも解るわ。私だっていきなり言われたら頭が可哀そうな人じゃ無いかと邪推するもの。うん、でも待って欲しい。私は頭が可哀そうな人でも、ちょっとおかしな人でもないから、質問に答えてほしいんだけど」
「余計に性質が悪いです」
素面で己を勇者とか言って許されるのは子供までです。自分が正しいと信じてる奴ほど面倒なものもありません。
それに仮に勇者だとしても、突然会った人がいきなり「ヘイ!ミーはユーの事をノウしたいんだが?」とか言われて、「オー!ユーアー、マイソウルフレンド!」とか答える人はほぼ皆無である。大抵の人は全身全霊で逃げるか拳を握りしめるかするだろう。
つまり私に答える気はない。絶対にだ!
勇者(自称)が悩んでいる隙に、私は簡単に崩れ去る豆腐の意思に液体窒素を掛けて固める。コレで我が意思は角で人を殺せるほど硬くなったであろう。
「話は変わるけど、お煎餅好き?」
「で、何が聞きたいん?」
「…あなた変わり身が早いとか言われたことない?」
「気のせいだよ」
パキポキと貢がれた醤油煎餅を齧りながらナオさんたちの様子を眺める。相変わらず劣勢だなぁ。応援とかした方がいいんだろうか。
勇者(仮名)は「まぁいいけど」とか困ったように呟いて続ける。
「それで質問なんだけど、あなた魔法使いだったりしない?」
「ん…?」
マホウツカイ?深海魚のリュウグウノツカイの親戚?いや、普通に魔法使いか。もしかしてアレだろうか、30だか40まで貞操を保っていると魔法が使えるようになるとかいうアレだろうか。生憎だけど私は40どころか30にすら達してないので論外だろう。
もう一つの可能性は言わずがな。
「期待に答えれず残念だけど、記憶に御座いませぬな」
「へぇ…記憶に無い…ね」
「で、何でそんなことを聞いたのかなー?」
「いやー、あの子の昔の友人とあなたが似てるって話を小耳に挟んだもので」
あの子ってのは…クラゲさんかな。
「それってどのくらい昔?」
「んー…よくは知らないけど…100年くらいは経ってるんじゃない?」
「…」
よし決めた。こいつのいうことは無視しよう。100年前とかになったら、私は何歳になるんだよ。前世ネタじゃないか。
勇者の奇怪な質問に付き合う理由もなくなったので、ナオさんとついでにアリスの応援でもしよう。しかし、応援って何をするんだろう。それにしてもお茶が欲しい。誰か貢いでくれないだろうか。
□ □ □ □
特にすることもないので、安全であろう場所で手にお煎餅握りながら観戦していると、クラゲさんがナオさん目掛けて鋭く走り込んでいくのが見えた。
クラゲさんは瞬間最大速度ならここにいる誰よりも早いだろうと予想できる走りに伴って刀の柄へと手を掛け、その速度のまま刀を…抜かなかった。クラゲさんは抜かれた刀を避けるべく距離を離していたナオさんにさらに肉薄。苦し紛れに振るわれたナイフの軌道を片手で逸らすと、速度と体重を掛けて殴り飛ばす。
ナオさんが殴られて身体が吹っ飛んだ拍子に私の顔も歪む。そのまま受け身も取らずにゴロゴロと幾度か転がると、呼吸が出来ない様で強く咳き込んだ。アレは絶対痛いだろうなぁ。下手すると何本か折れてるんじゃないだろうか。
クラゲさんの身体は立ち上がれない様子のナオさんに止めを刺すべく前へと傾くと、強く地面を蹴る。
危うしナオさん!
一方アリスは懲りずに投げ飛ばされて宙を舞っているのが見えた。肝心な時に役に立たない奴である。
しかしクラゲさんは自身の間合いに入る直前に後ろへと跳んだ。そのまま何かを避けている様に何度か横に跳んで刀を抜く。不思議な行動を視線で追ってみれば、クラゲさんの通ったあとを追うようにして砂が撥ねているのが見える。…生きる砂埃?
「上だよ」
隣から助言が来たので建物の上を見上げてみると、食堂などでよく見かける皆さんが小銃を構えているのが見えた。耳を澄ますとガガガガっと銃声らしいものも聞こえる。そういえばすっかり忘れていたけれど、輸送基地とはいっても軍事施設だった。
そんな顔は覚えてるけど名前は知らない皆さんの勇士を眺めていたら、突然砂が舞い上がり始めてきた。舞い上がり続ける砂は意思を持っているかのようにドーム状になると、私たちを外界から隔離した。主に視覚的に。そして隔離されると共に銃撃も止められる。たぶん誤射とかを考えてのことだろう。
まぁ私が視線を外す直前にクラゲさんが刀を抜いていたし、彼女が何かしたんじゃないかね。
「…なにアレ」
「…さすがに私もわからない」
そう思ったのに、現実は私たちの予想を斜め上に越えていく。
目前では両腕を広げた変態マッチョがとてもいい笑顔で高速回転をしており、その風圧で砂が舞い上がっていた。どういう原理なのかはわからないけど…なんかすごい力技っぽい。というかそれでいいのか?こう、色々とさ。
長く見続けていると夢に出そうだからこの辺りで止めとこう。マッチョが踊り狂う夢とか誰が得するのかわからない。
そんなマッチョのお相手のアリスはというと、ナオさんと背中合わせになって何か密談をしているご様子。もちろんここからじゃ声が届かないので、何を言ってるのかは判別のしようがない。
「苦戦してるみたいですね」
「ん?」
会話の内容が電波になって流れてこないかと思っていると、勇者の声がした。
「それ、さっきまで倒れてた奴の言うことか?」「それもそうですね」
流れるように淡々と何かを言い始める勇者。何だろう。本当に電波でも受信したのだろうか。
さりげなく距離を取ろうと身体をずらしていると「読唇術です」という第三者からの声がした。なるほど、読唇術か…便利だね勇者。そしてめちゃくちゃ視力いいな。私じゃ口が動いてるのかすらわからないぞ。
「まるでロボットみたい…ところであなた誰?」
声の主だと予想されるヌードを被ったお方に疑問を投げ込んでみる。しかし私の投げたボールはフードの中の真っ暗闇に吸い込まれて、返って来ることはなかった。
「交換します?」「そうするか」
この奇妙な状況に私はどう反応したらいいのかわからないでいると、勇者式盗聴器が完了したらしくこちらを向いてくる。わざわざ錆びついたロボットみたいにギギギと向いてくれた。
「トウチョウ、ピー、カンリョウデス、ガー」
「それはどうもご丁寧に」
無駄に多芸で腹が立つより先に感心してしまった。
そんなバカなことをしている間にナオさんとアリスがくるりと背中合わせで回った後、弾かれた様にして別れたのが見えた。よく見えなかったけど、武器も交換したみたいね。
それに対するクラゲさんと変態も、先ほどとは逆となった相手に対して身構え始める。
しかしアレだね。
「「ずいぶんと楽しそう」」
「…」
「…」
呟きが被って思わず沈黙してしまう。
どうやら勇者と私はやたらと気が合う様だ。
…まさか以心伝心ってことないよな?
不安に思って勇者の方を見ると、目と目があったのてお互いに愛想笑いでやり過ごす。
□ □ □ □
クラゲさんは居合の姿勢のままアリスを待ち構えて、間合いに入った瞬間に抜いた。しかし私の動体視力じゃ到底見えないであろう軌跡は、アリスの身体に到達する前に物理的に制止させられていた。
自身の刀を止めているナイフを軽く目を開いて見つめるクラゲさん。初めて感情らしい感情を見た気がする。
アリスはニヤリと笑うと、空いている方の手で銃を抜いて銃口を向ける。クラゲさんは引き金が引かれる直前にナイフを弾くと、後ろへと下がって刀を地面へと突き刺した。銃声が響くより一瞬早く、クラゲさんとアリスとの間に土で出来た壁が現れ、銃弾を受け止める。
しかしアリスが銃を空へと向け地面へと振り下ろすと、先ほども何度か見た火球が壁目掛けて一直線に突撃し炸裂する。爆音とともにバラバラに砕かれる壁。その儚い寿命、わずか数秒。
アリスは壊れた壁に欠片が降り注ぐのも気にせず一気に走り込んで、クラゲさんに襲い掛かった。
クラゲさんもこれは予想してなかったようで、ナイフを避けるのではなく刀で受け止めてしまい、銃で殴り飛ばされた。すぐに着地をして銃撃を避けたけれど、アリスの追撃は休むことが無く、抜き身の刀が邪魔になる距離での戦いを余儀なくされている。
優勢と判断してナオさんの方へと意識を向けると、ちょうどマッチョの振るった腕をハンマーの柄で上へと逸らしているところだった。逸らされた軌道は目標の頭上を通り、当たることは無い。
自身が強引に作らせた隙を見逃がす訳もなく、綺麗な回転運動を加えた一撃がマッチョの脛へと炸裂する。さすがに痛かったのかマッチョの笑みが苦痛にゆがんだが、私は断言しよう。お前痛覚ないだろ。普通なら苦痛に歪むレベルじゃ済まない。
マッチョが怒ったように振り下ろしてくる拳も柄を使って丁寧に軌道を逸らすと、背中へと回り込んでハンマーを叩き込む。思わず見とれそうなほど綺麗なカウンターで、巨大な身体が前のめりに倒れた。
どうやら戦う相手を交換したのは功をなしている様子。
そしてそろそろ私も戦いを始めなければならないのだろう。
「…何してるんですか?」
私の目の前で地面に向かって絵を書いたり、砂を集めて小さい山を作ったりしている勇者ご一向に問いかけてみる。私もこんな、いい歳なのに砂いじりをして真面目に何か言い合っている連中に声を掛けたくはない。しかし目の前でああでもないこうでもないと二人でされると、目を閉じて耳を塞ぎ、何も見なかったことにしておくのも無理があるというものだろう。というか観戦の邪魔だ。
「ん?戦いを止めるために一番かっこいい登場をするにはどうしたらいいのかと思ってね、いろいろ考えてるんだけど…」
棒を手にしているフードの人がカリカリと何かを描き始める。四角い箱の様な物の上に棒人間が一人。そして哀れな棒人間は矢印に沿って地面へとダイブさせられていた。紐なしバンジーのシミュレーションだろうか。
「いや、それは高い場所がないから無理でしょ」
「…飛べば?」
「生憎だけど、私には飛ぶための翼は持ち合わせてないのだよ」
「勇者なのに?」
「勇者でも無理なものは無理です」
勇者がピシリと言い放つと、不貞腐れたようにして棒人間を消すフードさん(仮名)。棒人間の寿命もわずか数秒で潰えた。しかし翼さえあれば飛べる様な言い方だね。
仕方ないから私も一緒に考えてあげるか。
「…」
「…」
「…」
銃声と爆音と硬い土をハンマーで叩くような打撃音が響く中、三人で考える人となってみる。三人寄れば文殊の知恵とは言うけれど、三人とも無言で知恵は出るんだろうか。
「…奥歯に加速装置とかは?」
「今後の参考になりそうだけど、今は持ち合わせてないなぁ」
「万策尽きてしまったか…」
「あなた万策っていうより一策しか出してないよね?」
「二策くらい出そうか?」
「出来るなら」
ふむ…そうだなぁ。
ティンっと閃いたわけじゃないけど、一応確認しておくか。
「つまり見つからない様に近づければいいん?」
「まぁそうだね。そしてできればかっこよくがいいな」
後半は聞かなかったことにするとして、見つからない様にか。やっぱりアレしかないんじゃないだろうか。
結論を出すと椅子代わりにしていたダンボールを差し出してみる。伝説の衛兵だって使っているのだし、ステルス性能は申し分ないはず!実際にしてる人見たことほとんどないけど。というかすごい目立つけど。
「…かっこ悪くない?」
「そこはあなたの努力次第じゃないでしょうか?」
「ほぅ…」
勇者はダンボールをひっくり返したり覗き込んだりしているけれど、ダンボールはどこを見てもダンボールだと思う。もしコレに何かギミックを仕込むとしたら、相当難しいだろう。
「まぁ、やってみましょう!」
勢いよくダンボールを被ると、もそもそと動き始める。そういえばフードさんの姿が見えないけど、まさか一緒に入ってるのか?どう見ても一人しか入らないんだけど。
「…ねぇ勇者」
「ん?」
動きづらいのか、驚くほどゆっくりと動く勇者になんとなく問いかけてしまう。
「何でそこまで頑張ろうとするの?」
「そうね」
勇者はダンボールから抜け出すと笑顔でこちらを見てくる。
「この場を丸く収めるために、かしらね?」
「ふうん…」
なるほど。
「そういうあなたこそ随分と協力的じゃない?」
「まぁ、頑張ってる人は応援したくなる。という建前ということで」
「なるほど、それはありがたい」
勇者はくすりと笑うとダンボールを被って動き始める。
今の会話でわかった。
こいつは私と正反対だ。
丸く収まるために尽力している勇者から目を離すと、勝負の行方を見守る。暇なのでポケットの中にあった箱でお手玉もどきをして遊ぶ。1個しかないから初心者でも楽々である。問題は上達もしないけど。
さて、そろそろ決着が着く頃かね。
□ □ □ □
マッチョは自身の拳が避けられて後ろへと回ると、さすがに慣れてきたのかハンマーで殴られる前に裏拳を放った。しかし、その裏拳もまるで子供と遊んでいるかのようにナオさんにあしらわれる。
けれどマッチョの攻撃はそれで終わりではなかった。
見た目に反した、しなやかな動きで体を捻りながらもう片方の拳を振り下ろすのが見える。もはやマッチョの身体の構造について考えるのは諦めた。ついでにナオさんの顔がくすりと綻ぶのも見えた。
ナオさんがとんっと軽やかに一歩下がると、彼女の目の前を拳が通過していく。そして地面へと叩きつけられた腕に片足を乗せれば、どういう訳かマッチョの身体が動かなくなった。それどころか、徐々に地面へとめり込んでいってるようにも見える。こうしてみるとナオさんの体重が…いやそれはないか。足まで沈んでるし。
暫く耐えていたものの、ついに耐え切れなくなったのか、膝から崩れ落ちて無防備な頭を晒す。
ナオさんはその様子を満足そうに眺めると、振りかぶっていたハンマーを両手で振り下ろした。その衝撃は頭から首へと移動して…見てはいけないものを見てしまった気分だ。
倒れていく身体とは別方向に頭が転がっていくマッチョから目を逸らすと、アリスが戦っている姿が見える。しかし意外と距離が近くて少し怖い。流れ弾とか大丈夫だよね?
戦々恐々としながら見守っていると、アリスが突き出したナイフをクラゲさんが上へと弾き、空いている手で殴った。しっかり腕で防いではいたけれど、その一瞬の隙をついて地面を蹴ると刀を地面に走らせた。
二度目の正直とばかりに地面から湧き出てきた壁はすぐに破壊されたけれど、クラゲさんは既に刀を鞘に納めていて居合の構えを取っている。勿論突撃していたアリスが止まれるわけもなく、刀が抜かれる。
アリスは先ほどもやった様にナイフで受け止めようとしたけれど、ナイフは二度目の抜刀を受け止め切れず、キンッと甲高い音が響いた。
ナイフの刃が下へと落ちるのに対して、ナオさんの刀はアリスの胴体を真っ二つにすべく迫りゆく。
けれどアリスの目は焦ることなく、不敵な笑みを保っているのが見えた。
「…魔術師をなめるなよ」
「っ!」
どういうわけか、クラゲさんの刃は目標に届く前に止まっている。まるで見えない壁に阻まれているかの様な光景に、クラゲさんが目を見開いて一瞬だけ止まった。それはほんの一瞬。だけれど今この瞬間では、その一瞬がとても遠い。
クラゲさんはすぐにもう片方の手で鞘を抜き、止まっている刀を動かすべく叩きつけたが、銃口は頭に狙いを定め終わっている。
戦いの終わりを告げる銃声が鳴り響いた。
□ □ □ □
「何のつもりだ?」
向かい合っている二人の隙間に入り込んだ勇者をアリスが睨みつける。
勇者はアリスが引き金を引く一瞬早くダンボールから飛び出すと、銃口を空へと向けた。そしてそれと同時に片手に持っていた剣で見えない壁を破壊したナオさんの刀を受け止めた…らしい。正直見ていた私には何が起きたのかよくわかんなかった。
「まぁまぁそんな怖い顔しないで。今回は私の顔に免じて水に流してくれない?」
「ここまでして水に流せだって?それは随分と都合が良すぎるんじゃない?」
勇者は温和な微笑みを絶やさないまま、けれども手は離さずに続ける。
「それに…先に仕掛けたのはそちらの方だと思ったけれど?まぁ、一部始終を見ていたわけじゃないから、間違ってる可能性も無きにしも非ずだけど」
「…」
間違ってる可能性なんて端から考えて無いような勇者に苛立ったのか、アリスが勇者を睨みつける。…おかしい。あいつこんなに怒りっぽかったっけ。
「それとも」
勇者はほほ笑みを保ったまま目を細めた。たったそれだけの動作なのに、雰囲気が凍りついたように感じる。
「今ここで私を殺す?」
「…っ」
びくっとアリスの肩が震えると、勇者の手が離された。抑えられていた手が自由となったアリスは無言で銃をしまうと、私の方へと歩いてくる。
戦いが終わったからなのか、砂嵐は止んでいて、ナオさんが屋上の連中に手信号で合図を送っているのがちらりと見えた。
「アリス…」
「疲れたから休む…悪いけど、ナオには君から伝えといて」
「…わかった」
アリスはそれだけを告げると、基地の方へと歩いていく。その背中に何を言えばいいのか思いつかず、ただ無言で見送る。
どうも何か訳ありの予感。
アリスとは別に勇者がクラゲさんを連れて私の方へと歩いてくる。
そして私に用ありの予感。
勇者はクラゲさんを私の前まで連れてくると、ぺこりと頭を下げた。その手には剣ではなくクラゲさんのお手手が握られていて、そしていつの間にかフードさんが後ろにいる。…いつの間に。
「今日はこちらの勘違いで巻き込んでしまって本当に済みません」
「あ、いえいえ、いいですよ。誰も怪我なく丸く収まったんですし」
ちらりと疑問が頭を過ぎったけれど、目の前で深々と頭を下げられるとどうも落ち着かない。さっきまで私と話していた奴と、本当に同一人物なのだろうか。
「そういってくれると助かります」
そしてクラゲさんも「ごめんなさい」と頭を下げる。まるで保護者と子供の関係の様だ。…考えてみればほんとに丸く収めたのか。伊達や酔狂で勇者とか名乗ってないんだと感心する。しかし私の関心は勇者が頭を上げた瞬間に一気に吹っ飛んだ。
「それじゃ拙者は面倒なことになる前にドロンするでござるよ。あ、基地の修理費は私が払うでござるから、手続きは頼むでござる。にんにん」
にんにん。
私の身体を電流が走ったような気がした。
「生憎であるが。手続きの仕方はわからないでござる。にんにん」
「左様でござるか」
「左様でござる」
「それではこちら側で勝手に手配しておくでござる」
「了解したでござる。ところで勇者とは忍者でござったか?」
そして二人で印の字を組む。畜生…!悔しいけどこいつと波長が合ってしまう…っ!にんにん。
「ふふふ、勇者は万能職なんだZE!花嫁は頂いた!あばよぉぉぉ名も知らぬ君ぃぃぃぃ!」
「…っ!?はなっ…は、離しっ!」
あばよと言いながらも、小さく「あの子の事よろしくね」と囁くと、軽やかにクラゲさんをお姫様抱っこの要領で抱き抱えて軽快に走りだそうとする。真っ赤な顔で狼狽するクラゲさんに思わず頬が緩む。しかしそこで私は見た!フードの誰かさんが勇者の第一歩に足を掛けているところを!
盛大に前のめりになりとつつも、身体を捻らせてクラゲさんを地面との衝突から守ったところに好得点を出したい。紳士ポイントを+1だ。
強かに後頭部を強打して身悶える勇者。生憎だけど紳士ポイントでは痛みを和らげることはできない、不運だったと諦めてくれ。思いっきり人為的であるけど。
「大丈夫?」
元凶が勇者ではなく、クラゲさんに問いかけて手を取る。そして「ああ、足が滑った」とか見事な棒読みで起き上がるクラゲさんとは対照的に倒れ込み、勇者の鳩尾に肘を叩き込んだ。うわっ…。激痛に歪んだ勇者と同じように私の顔も歪む。
「それではコレで失礼します」
「あ、はい…」
フードさんは丁寧にお辞儀をすると、意識を失っている勇者をずりずりと引き摺りながらマッチョの方へと歩いていく。クラゲさんも勇者の顔を覗き込んだりと、色々心配する素振りを見せながらちょこちょこと後を追っていった。
彼女に幸あれ…。
「やっと終わりましたか」
「ほわっ!?」
意識を取り戻した瞬間に勇者を襲うであろう激痛が和らぐように祈っていると、私の横から声がした。私の口からも声が出た。
「ナオさん…いつの間に…」
「最初からいましたよ!」
思わず零れた言葉に対して、ぷんぷんといった様子で怒りを表わしてくれるナオさん。主に耳で。あ、ヤバい失言した。ぷくーっと膨らんだ頬をどうしたものかと考えていると「あなたはアリスばっかり見てるんですから!」とか聞き捨てならないことも仰り始める。いや待て、それはスルー出来ない。
「ナオさんもきちんと見てましたよ?」
「…本当ですか?」
信用ならない様子でじとーっとした目で見てくる。HAHAHA!参ったな…。
「勿論ですよ。頑張ったご褒美って訳でもないですけど、プリンでも一緒に食べましょう」
「アリスも一緒に」という言葉は飲み込んでおく。何故かはわからない。考えるんじゃない、感じるんだ!
「ホントですか!」
プリン大作戦が功をなしたのか、今度のホントですかは先ほどとは全く違っていた。「白くてふわふわも?」「いいですよ」とか適当に受け答えしながら。そういえば勇者ご一行はどうしたんだろう、と目で探してみる。
見つけた。
何か不思議なことをしている。
ソレが何か理解する前な目を逸らしたかった…何だアレ。
勇者たちはうつ伏せになっているマッチョの背中に乗り込むと、マッチョの頭をくっつける。するとマッチョの両手両足が羽ばたく様に動いて、宙に…浮いた…?いやいや待て、それはおかしいだろ。どうやって浮いてるんだよ。
そんな私の思いも関係なく、パタパタと羽ばたいているマッチョは沈んでいく夕日目掛けて飛行していく。結局最後まで見届けてしまった。夢に出ないことを祈ろう。
「何だったんだろう…アレ」
「んー?」
呟きはナオさんの大きな耳に入り、疑問符と共に私と同じ光景を眺める。
「勇者さんと魔王さんの事ですか?」
…ん?待て、今何て言った?まおーとか聞こえたんだけど気のせいであろう。うん、気のせいだ。世の中しらない方がいいこともある。なんで勇者と魔王が一緒に居るんだよ。
「ナオさんは勇者と面識あるんですか?」
「ええ、まぁ…一応私たちに戦い方を教えてくれた人なので」
「私たち、って事はアリスも?」
「はい。魔術なんかは先生に教わってたんですけど、私も隊長も基本的な戦い方はちっちゃい頃に勇者さんから教わってますね。それと勇者っていう立場は私たちからすると色々と微妙な関係でして…」
「…微妙な関係というと?」
「見解の相違っていうんでしょうか。私たちは『人を守る』のが目的ですけど、勇者さんは『世界を守る』のが目的ですから」
「…」
人類が滅亡しても別におかまいなし、か。なるほど…微妙な関係だ。
そしてわかったことが2つ、わからないことが1つある。
まずわかったこととして、アリスとナオさんは古くからの友人関係の様だ。そしてアリスが突然機嫌を悪くしたのもその勇者がらみが関係している様子。勿論その事実を知ったところで何が変わるわけでもない。そしてわからないこと。
勇者って一体何歳なんだ…?
ナオさんの年齢は知らないけれど、たぶん20は超えてるだろう。それがちっちゃいころだから…多く見積もっても10数歳。仮にナオさんの歳を24としても10年は経っている。となると…三十路が近いのか?
「何となく好奇心で聞くんですけど、勇者の姿って前からあんなだったんですか?」
「んー…」
記憶を探る様にして、唇に指を当てると空を見上げた。ついでに私も夜が侵食していくグラデーションを眺めてみる。あ、一番星見つけた。
「言われてみれば…昔から変わってない気がしますね」
「そ、そうですか」
これ以上考えたらいけない、と判断して基地へと歩きはじめる。それに、今はいかにして『アリスの機嫌を取り戻すか』という目の前の課題に取り組んだ方がいいだろう。彼女がご機嫌斜めのままで晩御飯までいかれると、食べれるものも食べれなくなる。
うーん…お茶会?でもなぁ…。
隣で鼻歌でも歌いたそうなほど笑顔のナオさんをちらりと盗み見る。
まぁ、なんとかなるか。
今まで一切動かなかったけれど、私も勇者を見習って丸く収めるために尽力するとしましょう。
「ところでナオさん…」
私が話しかけると、後ろでチリンと何かが鳴って、誰かがくすりと笑う声が聞こえた気がした。
もう12月も始まりで新年を迎えることになりますね
今回は小粋なアメリカンジョークを飛ばそうかと思いましたけど、今後に取って置きましょう
しかし、京極夏彦さんの本を携帯すると筋トレをしているような気分になりますね
非常に重いです
しかしいっきに寒くなりましたね
寒いと寝れない上に朝起きれなくて大変です
冬眠したい…
最近不眠症で悩み始めてきました
いろいろ試してるけど、上手くいかない
何かいい方法はないものかー
できるなら今月中に何話か出したいけど…出せるといいなぁ
追伸
微妙な評価くらったんだZE!
説明が足りないんだけど、バカなの?死ぬの?とのこと
よくわからなかった方が居ましたらごめんなさい…
ほんの少しだけ加筆修正しました
ではでは、少しでも楽しんでいただけたら幸いです