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君には2つの選択肢がある、わんわんになるか、死ぬかだ

3話くらいまでは早めに出せると思った

幻想でした


ここで少しもタメにならない豆知識

あ、へぇー…程度の話半分で読んでください

後=では無く≒です


記憶容量の1kバイトは大体原稿用紙1枚分くらいらしいです

また、1Mバイトはカラー画像1枚分くらいの容量です


つまりこの話は原稿用紙にすると20枚近い数字と何ですよ!!

書くのって大変ですよね


人物表

しゅじんこー

友人曰く「性別不明でいいんじゃない?」 名前が思いつかなかったんじゃないもん!


アリス

友人曰く「お姉さんっぽいキャラがいい」 私「よし任せろ」 結果がコレ


ナオさん

私「『な』が『にゃ』になるキャラでいい?」 友人曰く「だるいから嫌だ。あと黒髪ロングは正義」

「ですから…」

「ほぅ」


 ほうほう、はぁはぁ、とナオさんの言うことを右から左に聞き流していると、私の立場は名目上、アリスの部下ということで落ち着いたらしい。全く知らない他人の下で働くわけじゃないことにほっと胸を撫で下ろしつつ、部下とは一体何をすればいいんだろうと未来に不安を投げかけてみる。

 なんといっても数ヶ月前はただの学生。数日前は長期休暇で生きるゾンビをしていた日々である。果たしてこの世界にコンビニや居酒屋でのバイトの経験は役に立つだろうか?

 …出来れば立たないと良いなぁ。

 取り止めの無いことを考えながら、地図を片手に基地内を進む。私以外は皆さんお仕事中なのか、所々で制服を着た殿方や婦人の皆様が何やら作業をしている。目が合うと因縁を付けられそうなので、ひたすら地図と見つめあう。念のために宣言しておくが、ここにあるのは利用し利用されるものの関係だけであり、ロマンチック成分は欠片も無い。

 角を曲がること数回。ソレらしい部屋のドアが見えた。

 白いドアの前には何故か『特殊工作隊』と達筆な字で書かれており、もしかしたら私は選択を間違えてるんじゃ無いかと今更になって邪推する。

 ドアの前に付いた。


「…」


 コレはどう開けるんだろう。

 当然ながら自動ドア等という高度なものはない様で、私が目の前に居るのにドアは沈黙を保っている。ならばその沈黙をこじ開けてやろうとドアノブを探してみるも、『特殊工作部隊』と書かれた落書き以外にはツルツルしていてまさに生まれた姿そのものの。

 念のために押し戸という可能性を考えて押してみる。引き戸という可能性は考えなかった。

 いっそのこと凹めばいいのにと思いながら全力で押してみるも、屈強な心の壁はびくともしない。コレはあれか、私は試されてるのか?この程度のドアも開けれないものなど、ここには必要ないということか?

 少し悩んだ末に「開けゴマ」と誰もがやるであろう魔法の呪文を唱えてみた。

 数秒で後悔した。

 後悔の念に押しつぶされそうになりながら、ならどうすりゃいいんだよ!という怒りがじわじわ湧いて来る。怒りは私の全身を駆け巡り、腕から放出されて廊下に大きな音と私に激痛を寄越してきた。

 じわじわと広がる痛みに耐えてると、思い出したかのようにドアが開き始める。縦に。

 一般ピープルの視線から見て、縦開きといえば実にSFチックなドアであり、全国の夢見る少年少女たちの憧れの存在である。誰もが一度はドアが上に開くスポーツカーに憧れたであろう。しかしソレを見るための代償が私の片手というのが微妙に腹が立つ。出来れば無償で見せてほしかった。

 しかし縦開きのドアである。かく言う私もマリモの様に小さき頃は夢見る少年少女の一人であり、まるで映画に出るようなスポーツカーの縦開きドアには大いに憧れた。そして「アレで人が死んだんだよ」という残酷な現実(おとな)の言葉に夢を打ち砕かれた。

 だがこのドアで死んだという事実はないだろうし、ワクワクしながら開いてくドアを見つめていると、あろうことかそいつは「ガッ、ガッガガガ」とかいう不思議な音を立てながら停止した。開いた隙間は実に微々たる物であり、そこを私が通るには一端木綿の如く平べったい身体にならないといけない。


「あ、そのドア調子が悪いから後は手動で開けてくれ」


 部屋の中から聞きたくなかった現実(おとな)の声がする。どうやら私の夢は再びぶち壊された様である。希望を持たせて壊すとは…さすが現実汚い。

 しかし何時までも嘆いていて変わるのは、お腹の減り具合と年々増えていく歳くらいである。仕方あるめぇのでドアの隙間に手を入れると、強引に開くべく力を込める。気分は重量上げの選手であり、SF気分が途端に汗臭くなった。

 何とか入れる位の隙間を開けると、犬のように這いつくばって侵入する。ここまで来ると泥臭い。


「よく来たな」


 深い哀しみに包まれながら部屋の中への進入を成功すると、アリスの労う声が聞こえてきた。彼女は部屋に備え付けにされていたソファに足を組んで座っていて、白い光に照らされたストロベリーブロンドは相変わらず綺麗で少しうらやましい。他の人とは違って制服は着てない様でシャツにズボンという涼しげな格好をしている。まぁ私も制服着てないけど。


「さて、これから君は私の部下になるわけだが…いくつか規約がある」


 規約か…規約ね…うん、規約。なんて意味だっけか…。

 結構本格的な雰囲気に対応すべく、脳内職員総動員で単語帳を検索し始める。

 そんな私を気にすることなくアリスは続けた。


「私は君の上司だ。だが基本的に命令はしない。お願い事はするけどね。当然君には拒否することも出来る」

「ふむ」

「また、今後いかなることがあっても絶対に生きて帰る事。まぁコレは基地全体の方針だな」

「なるほど」

「そして最後。コレは個人的なお願いだが…」


 とりあえず頷いていると、アリスがソファの裏でごそごそと何かを漁りはじめた。


「コレを付けてほしい」


 満面の笑みで差し出されたのは茶色くてふさふさした何かと、赤いわっか。咄嗟に手に取ると茶色のふさふさ具合を確かめ、そして赤いわっかの手触りも確かめてみる。双方とも手触りは大変よく、コレがその道の職人の手によって丹念に作られたものであるということを証明していた。


「一つ良いでしょうか?」

「何だ?あ、前も言ったが敬語じゃなくていいぞ」

「そう、それじゃ言うけど…コレを、私に、どうしろって?」

「ソレを、君に、付けてほしい」

「本気で?」

「勿論本気だ」

「…なるほど」


 なるほどよくわかった。

 目を閉じて覚悟を決めると、ぎゅっと手に持っているソレを握り締める。そしてそのまま期待に満ちた瞳をしている馬鹿目掛けて全力で投げつけた。

 犬耳と首輪という、所謂『わんわんセット』は空気抵抗や重力といった壁をものともせずに馬鹿の顔面へと迫ると、べしっと音を立てて落ちた。


「誰が付けるか!」


 突然の痛みで涙目になっている馬鹿に向かって言い捨てると、部屋から出て全力で走る。

 目指すは所長室、ナオさんの下へ。



□ □ □ □



「失礼します!」


 半ば叫ぶように言いながら『しょちょーさんのおへや』と標札の掛かっていたドアを蹴り開ける。ナオさんは休憩中だったのか、湯飲みを片手にのほほんとしていた。どこかの馬鹿とは違い、休憩中でもきちっと制服を着ている。


「短い間でしたがお世話になりました!」

「ふぇ…?」


 私の急すぎる襲撃に対応できない様子だけど、んなこと知ったこっちゃない。叫びながら『辞表』と書かれた紙を机の上にたたき付けると、もう用は済んだので荷物をまとめに部屋へと戻る。

 ここに未練はないが、コレで振り出しに戻ってしまった。さらば平穏な日々。

 一見すると振り出しに戻ったように見えるけれど、我が家に戻ってもあるのはバイオ兵器みたいな何かのみであり、つまり何も残っていない。

 だがしかし、もしもこの状況を甘んじて受け入れたとして「アイツわんわんセットを付けて生きのびたんだぜ」とか後ろ指を差されるくらいなら…私は栄光ある餓死を選ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 道はわからないけれど、まぁ歩いてりゃいずれ付くだろうと気楽な考えで未来への足を速めていると、ナオさんが追いかけて来てとおせんぼしてきた。脇を抜けようとすると素早く横に移動する。ならばと反対側に移動すると、また前を塞がれた。暫くカニが反復横とびをしているかのような動きを繰り返していると、哀しいことに運動不足である我が肉体はもう無理だと限界を告げてきた。食欲はある癖に根性が無い。


「と、とにかく何があったのか話してください…ね?」

「…」


 息を整えるべく無言を貫くと、ナオさんが段々と俯いてきて猫耳がぺたんと倒れる。勘違いしないでほしいのだが『答えない』のではなく『答えられない』のが正しい。もしも今彼女の質問に答えようものなら、私の意思とは関係なしに発せられる喘ぎ声によって通報されかねない事態になる。それだけは避けたい。

 だがしかし、ここで妥協したら私は彼女と同じ様にケモ耳を付けて生活しなければならない。しかも私の場合は耳だけじゃ無くて首輪まである。

 私にわんわんプレイ等という特殊な性癖はない。わんわんさせる側じゃなくてする側ならなおさらだ!

 よってこの痛む良心は、どうせ偽善だろう?という心の言葉で黙殺し、人として生きるための一歩を踏み出す。

 栄光の未来への一歩を踏み出した瞬間、きゅるるるるーっとお腹がなった。おい馬鹿タイミングと空気を読めよ。

 当然ながら私のお腹の合唱団は彼女の大きな耳にも届く。それに伴って何かを思いついた様にぱーっと顔が明るくなった。


「そ、それじゃ…とりあえずお昼ご飯にしませんか?ちょうど私もお昼休憩にしようと思っていたところですし」

「…」


 「いやあんた食後のお茶みたいに和んでたじゃん」と言う言葉はナオさんの笑顔に包まれてどこかに消えていく。

 何も答えれない私の代わりに、お腹がもう一度鳴った。



□ □ □ □



 そよ風にもならない風が店内を回って外へと飛び出していく。出来るなら、私も風になって外へと飛び出したい。

 「お昼ご飯」とかいうちょっと可愛らしい言い方の割に、ナオさんに連れてかれたのはラーメン屋だった。いかにも頑固そうで厳つい親父が経営してる。しかもメニューには『らーめん』という文字しかなく、メニュー表であるという意義を放棄していた。ここってお昼ご飯というより昼飯って感じだよね。

 しかも気温はお世辞にも涼しいとは言い難く、残暑という魔物が台所にはびこむ油汚れのようにこびり付いている。この暑い中でらーめんを食べようなどと思うのは、よほどのらーめん好きか、ラーメン屋に想い人の店員さんが居るかのどちらかに違いない。勿論私はどちらでもない。

 私達が店に入り、注文を終えて、水を飲むまでの行動の過程で、会話を筆頭としたコミュニケーションが皆無だったのは仕方がないことだと思う。ナオさんは私にかける言葉がなく、私はナオさんに話す言葉がない。まだお互いのことも知らないのだし、お茶でもしようかHAHAHA、等という和やかな雰囲気は皆無である。ただあるのは、ちらちらと捨てられそうな子犬のように私を見てくる視線だけだ。

 何もしてないのに自身が悪い様な罪悪感が胸元を通り過ぎ、口から出る前に嚙み殺すことを繰り返しながららーめんが出るまでの時間を潰す。お腹の合唱隊も一世一代のラストスパートを掛けるべく休憩を取り始めている。

 というか親父、その視線は止めろ。ナオさんにならともかく、貴様にされても気持ち悪いだけだ。別れる直前の険悪なカップルに遭遇したみたいな罰の悪い顔してるんじゃねぇ。

 やがて、こっくりこっくりとナオさんの頭が揺れ始めた。コレは…もしかしたらもしかするのかもしれないのだが、眠いんだろうか。


「眠いんですか?」

「…ぅー?」

「…」


 問いかけてみたら、突然質問を投げかけられた幼子の様に首をかしげていらっしゃる。眠いなら寝てろよ、何で連れ出したんだよ。

 よって私達の間に会話はなく、ただそよ風の様な生ぬるい何かだけが漂っていく。

 ああ…帰りたい…。

 願わぬ願いを天に唱えていると、待望のらーめんが出てきた。

 青く透き通ったスープの中には緑色の麺と七色に光る食材たちがぶち込まれており、そこから立ち上る刺激臭から判断してもコレは食べれないものという印象しか寄越さない。第一印象は最悪といえる。

 こっくりこっくりやっていたナオさんもその刺激臭で目を覚ましたのか、わーい等というお気楽な掛け声で箸を手に取った。当然ながら私も続かなければならないんだろう。

 ええい、南無三!

 心の中で叫ぶと、青く透き通ったスープをレンゲで掬って口の中へと流し込む。その得体の知れない液体が舌に触れた瞬間、何かの化学反応が起きたんじゃないかという味の濁流が巻き起こる。苦いやすっぱい、甘いや辛いなどという言葉で表せる限度を超えているそれは、ただ一言『不味い』という事実だけを付きつけてきた。

 あまりの不味さに涙目になりながらナオさんの方を見てみると、あろうことか彼女は私が食べる様をまじまじと見つめているではないか。

 コレはあれだろうか、勢いよく先人を切ったはいいけど、やっぱり目の前の食材Xを口に入れるのは嫌なので他に食べた人の様子を見てから食べてみよう、とかいうアレじゃないだろうか。

 案の定、彼女は優雅な動作で箸を戻すとごちそうさまをした。しかし一口も食べてないのにごちそうさまとはこれ如何に。


「…やっぱり食べれないかい?」

「どうもそうみたいですねー」


 ラーメン屋の親父の言葉に、ナオさんが答えた。私はというと、未だに口の中で巻き起こる化学反応から立ち直れない。


「そういえばナオちゃん、今日はいつもの連れじゃないんだね」


 意外と雰囲気が険悪ではないことを察したのか、ここぞとばかりに親父が話しかけた。


「はい、新人さんなんですよ」

「へぇ…もしかして彼氏かい?」

「か、かかかか彼氏だなんてそそそそんなこと…」


 おい待て親父、ドサクサに紛れて何セクハラしてんだ。


「それじゃ…彼女かい?」

「か、彼女だなんて…でも愛があるなら…」


 おい待て親父、ドサクサに紛れて何意味のわからないこと言ってるんだ。というかその言い方だと私の性別はどっちになるんだ。


「…別に恋人とかじゃありませんよ」

「そ、そうですよね」


 私がこの言葉を言うだけでどれだけの精神力が発揮されたのか、おそらくこの二人には一生わかるまい。

 その際にどうしてかナオさんが残念そうな顔をしているけれど、その問題に取り組む前に、第二次味覚大戦が私の中で巻き起こったので声に出さない哀しみを上げる。

 もじもじと私の方をちらみしてくるナオさんと、がりがりと味覚の波に耐える私。どう見てもカップルには見えない。しかし親父は何か面白そうなものでも見るように私達を見つめている。

 とにかく水を飲み干して味覚との戦いに決着を付けると、親父に一言言うべく口を開く。


「…創作料理をするときはベースの状態を作ってからがいいですよ。あと香辛料を使いすぎです。もう少し控えめにするとまともなものになるかと思います」

「ほぅ!」

「ほぇー…お料理できるんですか」

「まぁ…」


 ナオさんの問いを曖昧に笑って流す。

 以前に師匠が「十人十色の言葉の通り、我々が創作料理を作れば今まで誰も食べたことのないような美味が出来るのではないか」等とのたまったことがある。数多くの尊いものの犠牲の下に成り立ったこの試みは、並大抵のものでは壊されることのない強靭な胃と、易々と既存品に手を加えるなという教訓だけを残していった。失ったものと比べて、得たものが少なすぎると思う。


「ひゃあぁぁ!」


 思い出が連ねる様々な味を回想していると、私の足にひんやりとしたものが張り付いて悲鳴を上げる。お化け屋敷でこんにゃくが顔面にくっつくと今の様な感覚がしそうだが、生憎とお化け屋敷でこんにゃく等と言う古風な状況には出くわしたことがない。


「あ、にゃんこさんだー」


 可及的速やかに私の足を襲った何かの正体を探ろうとすると、ナオさんが新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせた。彼女はにゃんこと言ったが、私の目には猫には見えなかった。

 確かにそれは猫の様な見た目をしているが、なんと足がない。ホバー移動でもしてるのか、はたまた足なんて飾りだというメカニックの親戚なのか、とにかく足がない。具体的に言うと、猫の足の部分だけ無くして地面をはいずらせるとこんな光景になると思う。

 その何かは私の足に垂直にくっつくと、ずりずりと腰目掛けて登ってきた。どうやって動いているんだろうという疑問も然ることながら、そんなことより何よりも冷たい何かが足の上をぐにぐにと這っている様で大変気持ち悪い。実際に這っているなら尚更だ。

 少しの躊躇をしたあと、猫らしき何かを両手で掴むと持ち上げる。猫らしき何かは見た目に反してあっさり取れ、だらーんっと猫の様な瞳で私を見つめてくる。


「…コレ、何?」

「何ってにゃんこさんですよ」

「ぬぅーん」


 ナオさんの言葉に反応するように猫らしき何かが鳴いた。にゃーん等という可愛らしい鳴き方ではない、ぬぅーんである。夜中に聞こえてきたら情緒不安定になること間違いない。


「…ごめん、もう一回聞いていい?コレ、何?」

「だーかーらー、ナメクジ猫さんですよ」

「…」


 ナメクジ猫なる何かは、今度は鳴かずに私の手をペロペロ舐め始めた。確かにそのざらざらした舌は猫のソレと瓜二つだし、足が無く、重力を無視して垂直に登っていた点を除けば猫にも見える。だが私はコイツを猫と認めたくは無い。

 足の有無という違いはとても重要であるからだ。


「お、小次郎がそこまで懐くとは珍しいな」


 親父が会話に参加してきた。そしてこの猫らしき何かは小次郎というらしい。ああ…どうでもいい知識ばかり増えていく。


「いや待って」


 ひたすら私の皮膚を削り取ろうと舐めてくるナメクジ猫を下へと降ろすと、携帯の猫フォルダを開いて二人に見せ付ける。


「猫ってこういうものじゃないの?」

「ほぇー…」

「ほぅ…」


 秘蔵のフォルダを見せ付けたが最後、哀れにも私の携帯は二人に取り上げられてアレが可愛いだのコレがいいだのと談義を始めた。ついでにナメクジが私の足をよじ登ろうとしてきたので、捕獲して膝の上に乗せる。

 しかしナオさんが猫耳をぴこぴこさせて画面に夢中になっているのは、大変可愛らしくてよろしいのだが、その隣で厳つい親父が可愛いだのとのたまう光景も混じっているのが大変残念でならない。

 とはいえ、携帯を取り上げられてすることもないのはいかがなものか。「わーい私も混ざるー」と子供のように無邪気な心であの輪に混じるのも吝かではないが、それには色々な意味で親父が邪魔だ。

 やるせないこの間をどうしようかと悩んでいると、膝に乗せていた猫らしいナメクジが私の身体を登り始めた。どうやらコイツは私を止まり木か、もしくは誰も到達したことのない山か何かと勘違いしているらしく、やたら必死に頂上を目指してくる。重力をあざ笑うかのように地面と垂直に進んでいくその様は、どうみてもコンクリにへばりつくナメクジであり、猫には見えない。

 ペットリと服が冷たく湿るのが気持ち悪いので、早々に登頂を断念してもらう。

 そういえばコイツの足はどうなってるんだろう?

 思ったよりもつぶらな瞳をひっくり返すと、足らしき部分をまじまじと見つめてみる。そこは予想に反せず、白くてのっぺりとした平坦な何かだった。コレでどうやって重力を無視するほどの吸引力を見せているのか…深く考えたら夜中眠れなくなりそうである。

 しばし見ていると、そののっぺりとした部分から顔が浮かんできた。足ではない、顔である。

 浮き出るようにして浮かんだ誰かの顔は、私を見つめると照れたように視線を逸らした。


「…最後にもう一度だけ聞くけど、コレ何?」

「何って…」


 ナオさん達が何かを言う前に、誰かさんの顔をそちらへと向ける。


「…」

「…」

「…」


 このような状態を洒落た言い方で天使が通るというらしいけど、今この空間をどれだけの天使が通り過ぎたんだろうか。


「ね、猫に決まってるじゃないですかー」

「そ、そうだな。何処からどう見ても小次郎は猫だよな」


 二人とも現実から目を逸らすかのように、もはやナメクジですらなくなった何かから視線を逸らした。


「どうしてもコレが猫だと言い張りたいと?」

「…あ」


 さらなる追撃をするべく口を開くと、ナオさんが何かに気づいたかのように声を漏らした。ついでにものすごく嫌な予感がする感触が手からした。

 形は猫であったものを抱えていたはずなのに、何故スライムを握っているような気分になるんだろうか。

 答えは明白であり、ナメクジ猫なる奇妙な生物が伸びていた。

 地面へ届けといわんばかりに胴体部分から伸びるその様は、搗きたての餅を両手で掲げたようにも見える。だが目の前にいるのは餅ではなく、猫に見える何かである。平常時の数倍へと細く長く伸びている様は非常に気持ち悪い。


「…」


 思わず無言で降ろすと、そいつは「ぬぅーん」と鳴いて私によじ登り始める。


「こ、小次郎がそんなに懐くなんて珍しいな。コレは飼って貰うしか…」

「あ、いいですねー」

「ちょっと待て、いくら他人事だからって…」


 見てはならないものを押し付けるように、餌等を取り出す親父を止めようにも、哀れにも聞く耳持たない親父を止める事は私にはできなかった。世の中は大抵理不尽である。


「そ、そういえば…何で辞表なんて出したんですか?」


 …あなたは何でこのタイミングでその話を始めるんですか?

 とはいえ現状ですべきことはナオさんに対する講義ではなく、一刻も早くこの生命体を私から引き剥がすことである。

 ということで、渡された餌を床にばらまいて対策をしてみる。汚れるとかは知ったこっちゃねぇ。抵抗できない私のささやかな報復である。

 ナメクジ猫は餌の匂いを敏感に感じ取った様で、私と餌とを交互に見つめた後、のそのそと地面へと降り立った。

 とりあえずの危機が去ったことに少し安堵する。しかしコイツ、口で食べるのではなく上にのっかっることで食べるらしい。何だ?顔についている口は飾りなのか。

 しかし一難去るとまた一難、とはよく言ったもので、今度は質問に答えてもらえなかったナオさんが涙目になり始めてきた。頭の猫耳はぺたんと寝転んで、私に罪悪感を植え付けることに余念がない。

 …誰か私に安息をくれ。

 ぺたんと寝た猫耳娘に説明すること数分。私の説明が終わりに近づくにつれて、彼女の顔は能面の様な無表情に移り変わっていって非常に怖い。

 やがて説明が終わると、ナオさんは無言のまま代金を払って外へと出ていく。


「あー…追った方がいいんじゃないか?」

「…そうですね」


 一部始終を聞いて合点が言ってる親父の助言に頷くと、まだ餌がほしそうなナメクジ猫を抱えてナオさんの後を追った。



□ □ □ □



「一体何考えてるんですか!」

「ちょっと…ま、待て!とにかく平和的に話を…」

「…」


 『特殊工作部隊』とラクガキされている半開きのドアから声が聞こえてくる。ついでに打撃音と誰かさんの悲鳴も聞こえる。

 これは…入らないほうがいいな。触らぬ神に祟り無しともいうし。

 私が音を立てないようにその場を離れようとすると、悲鳴を上げていた誰かさんが私の足元まで転がって来た。


「あ…」


 目と目が合い無言で見つめあうが、ロマンチックな雰囲気は皆無である。鼻血出てるし。


「た、助け…」

「隊長ったら、まだお話は終わってませんよ?」


 アリスが私に助けを求めるように手を伸ばすと、ドアからナオさんが出てきた。無表情で。


「あら、ごめんなさい。今ちょっとお話中なので、用があるなら後にしてもらえますか?

「…」


 私を見つけると打って変わって笑顔になった彼女に大して、私は黙って頷く以外の選択肢があっただろうか。

 アリスは絶望の顔を私に見せながら、ずりずりと部屋の中へと引きずられていった。そして中から聞こえてくる肉体言語(おはなし)の音。

 とりあえず何も聞かなかったことにしてそっとその場を離れる。


「あ、すみません。もし救護班って居ましたら、特殊工作部隊室までお願いできますか?」


 通りすがりの誰かさんに救護の依頼をすると、私に出来る事はしたので部屋に帰るべく歩き始める。

 …やっぱり選択肢を間違えたかな。

 私の思いに答えるように、ナメクジ猫が一声鳴いた。

1話目投稿時の話


私「閲覧数2桁行かなかったら打ち切りにする!」


結果

閲覧数 1 0 人


私「…ちくせう!」


別に書くのが嫌って訳じゃないんです

ただ最近ちと多忙でして…はい

バイオ6とかやらないといけないですし

オフゲーも溜まってますし


ということで次話は出来るだけ早く出せたらいいなー

目標1週間

理想は2週間

最悪1月


ではでは少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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