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白銀の危険地帯

1日4時間ほど書き続ければ2週間で終わる

そう思っていた時期が、私にもありました


予約投稿ミスりました

見かけた方は申し訳ございませぬ


人選が微妙すぎる人物表!

天秤さん

初期以降出番が無い天秤さん 2択で迷った時はどっちかに決めてくれる事があるぞ!


艦長

脳内司令室で一番偉い人 チャンスがアレばねちょねちょを目論む ストレスで額が後退してきた


副艦長

脳内司令室で二番目に偉い人 チャンスがあれば艦長を殴り飛ばす この世の秩序はこの拳で守る!


アイツ

露骨に出番が増えてきた メインになる日は来るのか! ちなみにコイツもドイツもソイツもいません


ナメクジ猫&犬蜘蛛

最後に出番があったのは4話前なんだぜ…? 書いてる作者が一番驚いた


海月さん

何度も言うけどメインヒロインだよ! たとえ出番が無くても!ずっとヒロインだよ!


 ぼーっとしていると、カリカリと何かが齧られる音がする。

 カリカリ、カリカリ。

 骨を齧るような音がする。

 その音を聞きながら、時折思い出したかのように手が動くとグラスを口元へと持っていく。グラスが傾けられると、味も香りもしない液体が喉奥へと流し込まれていき、視界と思考が少しずつぼやけていく。


「…ん?」


 カリカリという音が聞こえなくなっていたので膝元へと視線を落とすと、ナメクジ猫と犬蜘蛛が私を見上げていた。4つのつぶらな瞳が宝石のように感じる。


「ご飯貰ったの?よかったね」


 グラスを置いて毛並みを撫でると、嬉しそうにぬーんわふわふと鳴いた。思わずくすりと笑みが漏れる。


「薬…飲まないと…」


 意思を固めるために声を出してから、ゆっくりと立ち上がると、立ちくらみか数度たたらを踏む。それでも気にせずに一歩足を踏み出すと、手に何かが当たって床を転がっていった。

 何だか気怠いのでちらりとだけ視線を向けると、転がっていたのは空になったワインボトルだった。なんでココにあるんだろう。

 ボトルは後で片づける事として、のそのそと足を進めていると足元で何かがじゃれついてくる。


「あ…れ?」


 薬を置いたはずの場所にはどういう事か空になった瓶しかない。少し考えたけど、夜空さんの所まで行くことにする。

 ぼーっとする頭のまま上着を羽織っていると、足元にいる子たちに気づいた。


「どうしたの?」

「ぬーん」

「そう…お散歩いく?」

「わふ!」


 足元に居る子の元気のいい声を聞きながらゆっくりと部屋を出る。


「かえで…」


 ドアには私の名前が書いてある。私の名前…あれ、私の名前だっけ?

 少しだけその名前を見つめて考えてから、ドアを離れる。

 去っていく私を見送る様に部屋の中から風鈴の音が聞こえてきた。

 辺りが白く霞んでいる。どうやら霧が出てるみたいだ。



□ □ □ □



 ハッと気が付いた。

 ここはどこ?私は誰?というお決まりの思考を漂わせながら、現状の把握をする。目の前にはドアが1つ、周囲は廊下で足元には不定型な獣が二匹。ドアの横には部屋主の不在を告げるプレートが空しく揺れている。


「はてさて…」


 夜空さんの部屋の前で一人呟く。私は何しにココに来たんだっけか…何だか頭が痛い。

 いやまて。ここまで来た記憶はちゃんとある。何時だかの様にしらない間に知らない所で目が覚めるという状況じゃないんだ。

 ただ目的を忘れただけである。

 …それはそれで拙いんじゃないだろうか?ボケか?ボケなのか?

 まだこの世に生を受けてから二十幾年しか経ってないぞ。二十代でボケが始まるのなら脳の病気を疑うしかない。それはご遠慮願いたい。私はまともだ。

 いや待て、逆に考えればいいのではないだろうか?

 夜空さんが居ないという事は、目的を忘れたのに本人と遭遇するという事件が起きなかったのではないだろうか。付き合いたてのバカップルじゃあるまいし「用はないけど会いたくなったワ」みたいなのは爆発すればいい。そもそも私たちはバカップルでも恋人でも幼馴染でもない。

 袖振り合うは多生の縁とはいうけれど、前世ネタはいい加減やめよう。


「はてさて…」


 もう一度呟いてみる。当然ながら、何度呟いても事態は進展しない。

 逃げちゃダメな事態も、向かいうつ事態もココには存在しないのだ。かといってこのまま不審者の如く部屋の前で待機していても、お腹の虫が鳴くだけで何も変わらないだろう。


「わふわふ!」

「ん?」


 もそもそと足元で蠢いていた奇形な獣が鳴いた。いい加減現実を見据えるため、屈んで視線を近づける。八本足の犬の背中に無脚の猫が乗っている不思議な生物は、私が屈むと膝の上に乗ろうと足を掛けてきた。


「どーしたの?迷子?」


 犬の方に「めっ」と鼻先に指を突き付けると、背中の猫が指をぺろぺろと舐めはじめる。生憎、私の膝は君の様な原生物にケンカを売っている様な生き物を載せる器量は無いのだよ。

 しかし…意識は共有してるんだろうか。


「これこれ、私の指は美味しいかい?」

「ぬーん」


 今度は猫の方が鳴いた。「にゃーん」じゃないのか…と少しだけビビる。

 困ったので辺りを見渡してみたが、飼い主らしき人が居ない。そもそもこの子たちには首輪が無い。まさか野良じゃあるまいな?屋内で出没する野良動物とはこれいかに。

 …そういえば他の人はどこだろう?


「ついてくる?」

「わふ!」

「ぬーーん」


 一応聞いてみると元気のいい声が返ってきたので、いい子だと頭を撫でて見たら目を細めて喜んだ。んむ、見た目はアレだけどなかなか可愛いところがある。

 ゆっくりと立ち上がってから伸びをすると、少しだけ頭痛が収まってきた。頭痛と引き換えにチリリンという微かな幻聴も聞こえるけれど、気にするほどではないだろう。

 さてさて、どこに行こうかな?

 まだぼんやりとしている頭でそれだけを考えると歩き出す。一歩歩くごとに頭が鮮明になっていくようで少し面白い。

 足元ではカサカサカサと多脚ならではの速度で私を追い越したり後ろから追ってきたりと元気よく動く。相変わらず気持ち悪い。こいつらは一体何を考えて生きてるんだろうか?というか私が入院している間、こいつらに誰が餌をあげていたんだろう。まさか狩りでもしていたのだろうか。

 犬蜘蛛がものすごい速度で追いかけ、ナメクジ猫がゆっくりと獲物をしとめていくという極めてシュールな映像が脳裏に浮かんだ。何故得物が逃げないのか、永遠に解決する事のない課題に違いない。

 しかし武蔵が走っている間小次郎は何もしていない。武蔵よ、それでいいのか。このままでは相方が運動不足に陥り、どんどん太ってしまうぞ。そうなると過積載となってドッキングする事に限界が来る日が来るかもしれない。もしくは武蔵の足がムキムキになるに違いない。ムキムキになった足を持つ八本足の犬…気持ち悪さに拍車がかかりそうだ。

 あまりにこの不思議生物たちを観察していると精神をやられそうなので、別の所に視線を投げかけることにした。

 とはいえ、あるのは誰も居ない廊下と白い窓くらいだけど。

 窓の外は夜というより何かで塞がれているという事が明かりに反射してる事からわかる。もちろんソレがわかったところで何が変わるわけでもない。

 とにかく人が居ない。私以外のすべての人が絶滅したんじゃないかと思えるほど居ない。

 世界中の他人が居なくなり、残されたのは私という人間とナメクジみたいな猫、そして蜘蛛みたいな犬だという絶望的な状況だったらどうしようか。種族が違い過ぎる以上、アダムとイヴの如く子孫繁栄とはいかないだろう。異種姦で子を宿すのは神様でもない限り無理なのは試さなくても解る事だ。

 ペタペタと素足で気の向くまま、足の向くまま歩いていたら玄関にたどり着いた。玄関には大量の白い物体が散乱されており、ドアの近くには長テーブルが設置されている。そして長テーブルに備え付けられた椅子では、人だと思われる物体が真剣に手元を見ている。

 アレは人だろうか。形は人型だが、中身が宇宙人とかだったらどうしよう。そもそも言葉が通じるのだろうか。

 とはいえ、私が目覚めて最初に遭遇した他人の痕跡である。異文化交流の予感に私の身体に緊張が走る。


「こんにちわ」

「ん?君は…」


 カードを睨んで悩んでいる物体に声を掛けると、キョトンとした顔で私を見つめた。ファーストコンタクトは失敗したのかもしれない。しかし会話が通じるのは僥倖ともいえる。人生前向きに考えよう。


「ああ…アリス隊長のとこの…」


 来るべきセカンドコンタクトにいかなる手を打つべきか悩んでいたら、何某さんは勝手に納得してくれた。私は何を言われているのかよくわからない。


「どうかしたの?」

「あ、その…」


 明らかな営業スマイルで話しかけられて少し困惑する。こちとら用があって話しかけた訳じゃ無いので、どうしたもこうしたもない。


「何をしているんですか?」


 悩んだ挙句にものすごく阿呆な質問をする事にした。ココで「見りゃわかるだろ」と返す人とは一生友達にはなりたくない。見ても解らないから聞いてるんだ。

 名前不明な誰かさんは「あー…」とドアの向こうへと視線を向けた挙句、私へと視線を戻した。ドアガラスの向こうでは白い壁で出来たトンネルが見える。ココは本当に私の知っている場所なんだろうか。


「んっとね…雪掻き…かな?」

「…なるほど」


 何一つ理解していないけれど、会話する気が失せてきたので適当に頷いておく。

 雪掻き…雪掻きか…という事はあの散乱している白い山は雪であり、出口から見えるのは雪のトンネルか。都合のいい事に何某さんが黙ってくれたので耳を澄ましてみれば、トンネルからワイヤワイヤと声がする。雪掻き大会か、もしくは巨大迷路でも作ってるのかもしれない。

 改めて見渡してみれば壁にシャベルが何本か立てかけてある。


「あーとね…」


 私がゆっくりと状況を把握していたら、目の前にいた人が困ったように喋りはじめた。アリもしない話題を捻り出そうとしているのかもしれないけれど、出来れば無理しないで頂きたい。


「…そうだね、隊長たちなら上だよ」

「ん?」


 さてさて、どうしようか…と思考を巡らせていたら、声を掛けられたので思わず見つめる。相手さんも呆けた様に私を見つめていて、人形の如く固まる二人。

 暫く見つめ合っていると「あー!」等と納得してバックを手渡してくれた。私は病気以外で貰えるものなら何でも貰う主義なのでありがたく頂いておく。最も、自殺志願者か緊急事態でもない限りは凶器を手渡される事はないと思うが。


「それと外は寒いから、その格好だと風邪引くよ」

「はぁ…ありがとうございます」


 これ以上ココに居て何か話しかけられても困るので、ぺこりとお辞儀をすると元来た道を歩きはじめる。私が動き出すと、足元にいた二匹もまた動き始める。

 歩いていると、手に持っていたバッグの存在を思い出したのでよく調べてみる。くるくると回してみれば、名前が刺繍されているのが見えた。


「ありす?」


 何でこの名前がココにあるんだろう?

 ありす…アリス。お母さんの名前。私の名前になるはずだった名前…今は誰のだろう。

 バックの代わりにぐるぐると答えの出ない考えを回しながら中身を漁ると、何時も飲んでいるものと同じ小瓶が見つかった。軽く振ってみるとカラカラと錠剤の転がる音がする。念のためラベルを見てみたが、なるほどわからん。いつもと同じ見た目なのだから飲んでも平気だろうと楽観的な結論を下す。

 ひとまず部屋に戻って…薬を飲んで…。

 これからの事をぼんやりと考える。出来るなら何か目的が無いと動きたくない。

 そういえば不思議な事を言ってた気がする。上に居るとか何とか。部屋に戻って落ち着いたら探してみるのもいいかもしれない。

 そうしようと心に決めると、足取りが少しだけ軽くなった。



□ □ □ □



「さて、ココに二つの道があります」


 屈んで武蔵の前に指を一本差し出すと、すぐさまベロベロと舐められて涎まみれになった。無言で指をひっこめると、「くぅーん」と一声鳴いた。その目は「別に減るもんじゃないのだから、良いではないか!」と私に訴えかけている。確かに減るもんでもないからいいか。


「一つは誰かが通ったであろう安全だと思われる道、もう一つはおそらく誰も通ったことが無い危険かもしれない道です」


 べろんべろんと舐められながら話を続けてみる。当然ながら返事は期待していない。もしも喋る時が来たらこいつらの奇怪さは五割増しとなり、感動の欠片もないバイバイとなる。

 一人で不思議生命体に話しかけて遊んでいると、犬蜘蛛の背中で寄生虫の如く合体していたナメクジ猫が起動した。彼の者は音もなくぬるぬる動くと私の腕へと移動。そのまま無言で肩へと登り、私の側頭部に差し掛かった。そんな奇妙な生物に頭頂部を制覇されたくないので、問答無用で引っぺがしに掛かる。ええい伸びるな抵抗するな!

 無事引っぺがす事に成功すると、「ぬーーん」と不気味に鳴いた。その目は「ええやん!別に減るもんじゃないしええやん!」と私に訴えかける。コイツに頭上を占拠させるといつの間にか洗脳されそうなので全くよろしくない。

 余りにぬーんぬーんと五月蠅かったので振りかぶって遠くへと投げた。するとナメクジ猫はその軟体な身体を幅広く広げ、滑る様に飛行していく。

 私の手から放たれたナメクジ猫がムササビの如く宙を滑空し始めると、今まで一心不乱に私の指をふやけさせていた犬蜘蛛が「わふ!」と鳴いて追いかけ始めた。おそらくフリスビー的な何かと勘違いしてるのかもしれない。

 余りにその光景を見続けると頭痛がしそうなので、大人しく先ほどまでの議題に取り掛かる。

 目の前の窓越しからは見渡す限り真っ白な雪原。何時の間にやら世界が白銀と化していたという事実はこの際おいておこう。考えるべきは私が取るべき行動である。

 片方は足跡が付いている雪原であり、もう片方は足跡の付いていない生娘の如く真っ白な雪である。引き籠りという不名誉な称号を捨て、ついでに書も捨て外へ繰り出す時、私はどちらに足を踏み入れるべきか。

 時折、わふわふぬーんと帰ってくる規格外生物を幾度も投げ飛ばしながら、ふむふむとお互いを見比べる。

 足跡が付いている雪原は言うまでもなく安全である。生まれた当初はかぐや姫の如きふわふわの赤ん坊も、世間という荒波に踏みつけられて数十年もすれば面白みの欠片もない頑固おやじとなるのは世の必然。不特定多数にふみふみとされた雪は頑固おやじの如き硬さと包容力で私に安心感と安定性を与えてくれるだろう。

 生娘のごとく傷一つない雪の方はどうだろうか。世間をまだ知らぬ幼き頃にあるのは不安感と何が起こるのだろうという好奇心である。さくさくという踏み心地は私を楽しませてくれるだろうし、足跡一つない雪に足跡を付けるという楽しみは頑固おやじには無いものだ。

 私は石橋を叩くだけ叩いて迂回するほど慎重な人物なので、できる事ならば迂回路を探したい。だがふわふわさくさくか頑固おやじかの二択以外の迂回路と言ったら、空を飛ぶかミミズの如く地中を掘り進めるしかない。私は空を飛ぶことが出来ないので残された迂回路は地中を掘り進めることとなるが、「よーし、雪掻き頑張っちゃうぞー」等と安易に事を運んでしまえば、翌日の私を強烈な筋肉痛が襲う事だろう。かといってここまで来たのに冬眠中のくまさんの如く部屋に篭るのは選び難い。よって迂回路は却下だ。

 暫く悩んだ結果、バックの中身を漁って見る事にした。つい先ほど薬が見つかった神秘のバックだ。今回も私を導いてくれるかもしれない。

 がさごそと中身を漁ると、様々なものが出てくる。雪上を転ばない様に歩くための靴、木炭、カキ氷用のシロップが入った小瓶、ロープ、小さなスコップに枝が数本、お餅とかを焼くんであろう七輪、いくつかのバケツ、ビニールに包まれたマッチョの人形にお餅、そして手袋が一組。その中から禍々しいほどの存在感を発しているマッチョを手にしてみると、『俺の股間にチャッカマン』という大変頭の悪そうなキャッチフレーズが書いてあった。股間を見てみると穢れなき白さのブリーフを履いているだけであり、どこから火が出るのかてんでわからない。

 一体どこを何処を弄ると火が出るのだろう。

 ふむふむと説明文を読んでみたら、どうやら使用時はブリーフを脱がすらしい。

 私がブリーフに手を掛けた瞬間、「それ以上イケナイ」と頭の中で警告が響いた。

 訳が分からないが、警告には素直に従っておけば損はないはずである。とりあえず靴だけ取り出すと、警告通りに俺の股間にチャッカマンはバックへと詰めこみ、背負い直した。

 雑多なものが詰まっているはずのバックは、中身に反して明らかに軽い。四次元にでも繋がっているのだろうか。よってこのバックをお名前刺繍から、アリスのバックと命名することにしよう。アリスとはなんなのか、そもそもこの名前を今後使う時が来るのか、全ては謎のままである。解明する事もないだろう。謎なんて無責任に後世に残せばいい。

 バックを漁ったところで収穫と呼べるものは何もなく、変わらず二択は二択のままである。思った以上に無駄な時間を過ごした。

 困ったので天秤に掛けることにした。片方は頑固叔父、もう片方はかぐや姫の如きふわふわの赤子である。天秤に両方を載せると、ジェットコースターの如く急速落下で赤子の方へと傾いた。あまりに勢いよく傾いたので腕がバキッという不吉な音を立てもした。

 「ふむ…」と一言呟いてからバックの中の靴を履くと、踏み鳴らされた雪ではなく前人未到の雪へと歩みを進める。ああ、そこはかなく香る冒険のかほり。

 もそもそと歩いていると、従順な従者の如く規格外生物が私の後を付いてくる。桃太郎は犬キジ猿だが、私は犬と猫だけなので桃太郎を名乗るには一匹足りない。きびだんごが無いのだから増やしようもないのだが。

 出入り口となるであろう窓の傍まで来た。

 ふわふわである事を信じたい雪は窓の縁のすぐそばまで積もっており、普段から運動という単語が不足している私に壁として立ちはだかってくる。すぐこけても良いようにナオさんがくれたマフラーを強く巻き、赤色の上着の前を閉めてから縁に足を掛けた。軽く飛び跳ねて雪上へ着地すると、予想通りさくっと小気味いい感触を返してくる。思わず顔もほころぶものだ。

 調子に乗って数歩撥ねて進んでみると、さくっさくっさくと小気味いい感触も付いてきてくれる。懸念されていた寒さもそれほどじゃなく、また歩きやすさもなかなかである。

 ふと後ろを振り向くと私の従者たちが居ない。戻ってみたら、どうやら窓までが高すぎて登れなかった様子。屈んで両手を差し出すと、上手く乗っかってきたので持ち上げて雪上へと招き入れた。

 犬蜘蛛とナメクジ猫は初めての雪に驚いたのか足をパタパタさせたり鼻をクンクンとさせたりして騒いでいたが、特に害のないことが解ると子供のように飛び跳ねはじめた。

 珍しくナメクジ猫も上に乗ることを止めて雪上を移動している。彼の者が通った雪にはあるべきはずの足跡が無いが、そんな些細な事をいちいち気にしたら連中と向かい合っていく事は出来ない。


「どっちに行こうか」

「わふ!」

「ぬーん」


 どちらへ行くも自由なので希望を聞いてみたら「ココで遊んでもよし」「移動してもよし」みたいな返事が戻ってきた。せっかくだからサクサクと雪を踏みしめながら移動しよう。

 きょろきょろと辺りを見渡すと、雪で小山が出来ている箇所があるので近づいてみる。

 近づくにつれて小山の近くに大きな穴がある事が判明した。ゆっくりと近づくと、穴は数人の大人が入れそうなほど大きい事も解った。そんな穴があるという事は何かが掘ったからであり、その何かが人間意外である可能性は否定しがたい。いったい何が目的でそのような大きな穴を掘ったのだろう。

 穴に近づいた生き物をパクンと食べる食虫植物の様な生物がいるかもしれないので、恐る恐る近付いてみると人の声がする。耳を澄ましてみても声色は一種類しかない。ココから穴の中の人は一人である事が分かる。

 もしや穴の中に落ちて救助を求めているのかもしれない。もしくは変態が何かこう、変態的なものの一人リハーサルの練習をしているかだろう。白昼堂々とそんな事をしたら捕まる。だが薄暗い闇の中でひっそりと消えるには己の欲望が許さない。そこで考え出したのが、大きな穴を掘ってそこで行うという手法だ。コレは人目に付かないだけではなく、いつだれかに見られるのか?というドキドキ感も味わえる。これぞまさに一石二鳥。社会的にくたばればいい。

 そこまで考えたら「落ちてたら大変だ、助けなくては!」という使命感が急激に薄れてきた。

 だが声くらい掛けてあげるのが優しさというものだろう。幸いにも今日の私はふわふわさくさくの雪のおかけで些か機嫌がいい。変態の一人や二人くらいは見逃す懐の広さがある。もしかすると本当に落ちた人かもしれない。


「だいじょーぶですか?」

「んぁ?」

「ヘアァッ!」


 穴の中を覗き込みながら声を掛けてみたら、大変機嫌の悪そうな少女の返答と、その少女に腰かけられて嬉しそうな変態の返事が戻ってきた。さっと「失礼しました」と引き下がる。

 今見たことは速やかに忘れることにしよう。


「ちょ、ちょっと待った!」


 見てはいけない物を見てしまったので、わふわふぬーんと近寄ってくる2匹を撫でていたら、穴から声がする。


「何でしょうか?急いでいるので御用なら別の人にお願いできますか?」

「他に誰か居るの?」

「…」


 きょろきょろと見渡したけれど、哀しい事に近くには私しか居ない。

 思わずため息を付いてから穴を覗き込むと、四つん這いになっている変態と先ほどまでソレに腰かけていた少女が見えた。黒い少女の髪とワンピースが白い雪との対比となっていて私の目を引く。半袖で寒くないのだろうか

 当然だが、こんな雪の中でもパンイチスタイルを貫き通している変態にはなるべく意識を向けたくないが、椅子にされていた変態は腰かけるものが居なくなった事を悟ると、尻を振って否応にも存在感を表わし始めた。至急アイツの近くに刺さっているスコップで殴り倒して頂きたい。

 少女は私と目が合うと一瞬驚いた顔をしたが、すぐに気を取り直した様でもじもじしながら私を見上げた。


「…で、他に誰か…居る?」

「居ませんね」

「はぁ!?」


 私は正直にありのままで答えたというのに、少女のもじもじがイライラへと変化した。トイレでも行きたいのだろうか。それなら近くの変態がおむつを渡してくれるはずだが。


「本当に…ほんっとうに誰も居ないの?」

「人どころか生物の影すらありません」

「…」


 すぐさま返答すると、がっくりと肩を落とした。今度はイライラががっかりに変化した様だ。

 しかし百面相の如く機嫌が変わる子だ。普段から近くに居たら見てて飽きないかもしれない。思わず微笑みそうになった私の視界へと、緩急を付け始めた変態の尻の動きが入ってきて私の気分に急降下爆撃を掛ける。

 コレ以上アレを見続けるのは危険だと脳内でシグナルが発せられた。


「もういいですか?」

「ん、あー…」


 一分一秒でも早くこの場を離れたかったので問いかけてみると、少女は少しだけ悩んだ後に片手をこちらに差し出した。助けてほしいんだろうか。なら最初に尻を振っている変態を殴り飛ばせ、今すぐにだ。


「火とか燃えるものと…後は食べ物とか持ってない?」

「ありますよ」


 何やら変な要求をされたので、バックに入っていたバケツにロープをくくりつけ、木炭と俺の股間にチャッカマン、七輪にお餅を入れて穴へと投下する。一つばかし用途不明な道具を入れたけれど、恐らく大丈夫だろう。そして少し目を離した間に変態の踊りは進化を遂げており、尻の動きに背筋の動きをプラスさせていた。その禍々しい動きはまるで大魔王を復活させる儀式のように見えなくもない。

 どうやら事態は一刻の猶予もない様だ。


「ん、ありがと」

「もういいですよね?」

「んー…」


 再び問いかけると、何かぶつぶつと呟く。少女の雰囲気がどこか、夜空さんに似てる気がした。


「…もし会ったらでいいんだけどさ」


 少女のまっすぐな瞳が私を貫くと、内からある衝動が込み上げてきた。けれどもその衝動はもやもやと形を取らずに私の胸中を漂う。


「ソラに餅焼いて待ってるって伝えてくれない?」

「ソラ…夜空さんですか?」

「うん、会えたらでいいから」


 「会えたらでいい」と言う癖に彼女は私が夜空さんに会う事を確信してる様子だ。私が了承の旨を伝えると、歳不相応な暗い笑みを浮かべた。そして笑顔のままで「ガンバッテネ」という。

 その声が聞こえた瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走り、込み上げていた衝動の正体が分かった。

 私は…この子が苦手だ。

 本能がコレ以上この場に居たくないと叫んでいるので、何とか笑顔を取り繕ったままその場を離れる。もつれそうになる足を何とか動かして距離を取っていると、穴の中から悲鳴が聞こえてきて転びかけた。

 続いて空から小さいナニかが私の付近へと墜落し、雪上へと刺さった。雪の中から下半身だけを出しているその様は、見たものに犬神家の如き惨劇を予想させるだろう。

 私は雪から生えている脱ぎかけのブリーフを少しだけ眺めてから、何も見なかったことにしようと心に誓って歩き始めた。



□ □ □ □



 サクサクと雪を踏みしめていると、今までの事がどうでもよくなるほど楽しい。もはや夜空さんの事などどうでもいい。思わず鼻歌を歌いながらくるくると回ってみたりもすると、足元にいる二匹の毛玉が私の動きに興奮する様にわさわさと動く。

 今の私は自由だ。私を止めるものなど何人もおらぬわ。

 くるくるくるくる回っていると、三半規管がおかしくなってきて世界が足元がふらふらし始める。その様な事態に如何にして対応すべきか、答えは簡単だ。

 回る世界に抗う事もせずに雪の上に倒れ込むと、横へごろんと転がった。

 ぐわんぐわんと揺れる地面の向こうで赤いコートを着ている人物が見えた。その赤いコートの中身は和服にお面という夏祭りスタイルで、今現在訪れている冬将軍に全身全霊で喧嘩を売っている様に見える。彼女の隣には雪掻き用の大きなスコップが二つに藁らしき物や枝なんかが積まれている。

 和服に赤いコート、そして長い銀色の髪、一体どこの夜空さんなんだ…。

 ぼけーっと眺めていると、夜空さんはこちらに気が付いて手を振ってきた。私はパンパンと服に着いた雪を払いながら立ち上がると、何も見なかった事にして背を向けた。


「待って!話を聞いて!置いてかないでぇ!」


 痴話喧嘩の果てに見捨てられそうになった人の様な声が私の後ろで響いた。関わるとロクな事にならないので無視して歩き続けたら、隣でザクッという音がした。視線を向けると、数秒前まで私の後方にあったはずのスコップが深々と雪に突き刺さっている。

 ちらりと後ろを見ると、スコップを投槍の如く構えて狩りの準備をしている夜空さんが見えた。その目はじっと得物との距離を見定めており、あのスコップが放たれた数秒後には雪が赤く染まる事だろう。他に誰か居ないかと周りを見渡してみるけど、人っ子一人いない。そして都合よく隠れられそうな遮蔽物もない。

 つまり今現在、ココに居るのは得物(わたし)狩人(よぞら)さんしかいないという事だ。完全犯罪待ったなし。


「…なにしてるんですか?」

「力を貸してくれる?」

「私に出来る事でいいのなら」


 私が諦めて話しかけると、夜空さんはニコニコ笑いながらスコップを雪に刺した。とりあえずの危機は去った様だが、未だに凶器はあそこにある。凶器か夜空さんのどちらかを何とかしない限り、私は安心して雪を踏みしめられないだろう。


「実はここから動けなくなってね、退屈してたの」

「はぁ…」


 夜空さんは相変わらずニコニコしたまま不思議なことを言った。動けなくなったとは言うが、ぱっと見た感じでは健康体そのものである。という事は動けない要因のは夜空さん本人ではなく、その周囲にあると判断していいだろう。


「何をしたんですか?」

「何だと思う?近くに来たら教えてあげない事もないわよ」


 嬉しそうな夜空さんを余所に周囲を見渡す。一見すると何もないが、彼女の笑顔が悪戯を仕掛けた子供の様で私の胸中がざわざわを落ち着きを無くし始める。「ココには何かあるぞ!」と私の直感が告げている。直感は続けて「答えは見える場所にあるはずだ!」ともいう。

 直感の導くまま夜空さんの周囲を観察しても、あるのはスコップと藁、そして木の枝だけだ。

 しかしその道具と子供のような笑顔が結びついた瞬間、頭の中で馬鹿げた考えが閃いた。ソレはきっと、誰もが子供時代に一度は夢見た事があるであろう原始的な罠。


「落とし穴?」

「あー、わかっちゃったかー。引っかかるところ見たかったんだけどなー」


 答えを告げると、残念そうに夜空さんは笑った。いい加減いい歳なのに何をしているんだこの人は。思わず天を仰いだ。


「それで、どのくらいの数掘ったんですか?」

「うん、最初はちょこちょこ掘ったんだけどねー。なんか楽しくなっちゃってこの辺り一帯に万遍なく作っちゃった。正確な数はわからないかなー」

「…所要時間はいくらほど?」

「昨晩から朝までくらいだから大したことないわよ。手伝ってくれた子もいたし」

「…」

「でもまさか雪が降るとは思わなかったなー、こうなるなら目印を残しておくんだった。それにしても進まなくて正解だったわね、相変わらず勘のいい事で」


 「手伝ってくれた子」という部分で、黒髪ワンピースの女の子とヒトデ頭の変態が脳裏に浮かんだが、すぐに見なかったことにした。あまり思い出すと気分が悪くなりそうだ。

 足元でカサカサ何かが動いているので視線を送ると、犬蜘蛛が熱心に穴を掘っていた。その隣では掻きだされた雪が小さい山を作っている。私がココから動かないから退屈なのだろう。退屈なら退屈でナメクジ猫辺りと遊んでいればいいのだが、周囲から存在が確認できない。

 どこかに行ったのかは知らないけど、アレも一応猫なのだし気まぐれで行動することもあるのだろう。


「そういえば、黒いワンピースの女の子が夜空さんにお餅を焼いて待ってるって伝えてくれとの事らしいですよ」

「うぇ!?」


 ふと思い出したので女の子の事を伝えたら、無意味にスコップで素振りをしていた夜空さんは変な声をあげて固まった。夜空さんが固まると同時に、遠心力を全身に受けていたスコップは拘束を逃れ、回りながら遠くの雪に刺さりに行く。

 夜空さんは、方向が方向なら凶器となっていたスコップの事は意識の外の様で「あー」とか呻きながら視線を空に泳がせている。私も空を見上げたけれど、見えるのは曇り空ばかりで魚が見えない。


「…怒ってた?」

「たいそうご機嫌ななめのご様子でした」

「あー、うん、そうよね」

「何かしたんですか?」

「穴を深く掘り過ぎて出れなくなったみたいだったから置いてった」

「どのくらい?」

「日が昇り始めた頃だから…どのくらいかしらね?」

「…」


 鬼だ、ココに鬼が居るぞ。

 およそ数時間もの間、穴の中でひたすら助けを待っていた彼女を哀れに感じる。彼女はせっせと穴を掘り続けた時ふと気づいたのだろう。「あれ?どうやって出るの?」と。

 それでも希望を捨てずに夜空さんが助けに来てくれるのを待ち続けたに違いない。しかし当の夜空さんは「人が落ちるところが見たかった」等という子供の様な理由で自らが設置した落とし穴群に足を踏み入れ、身動きが取れなくなってしまった。

 何という悲劇か!ココにはバカしかいないのか!

 まぁどちらも自業自得なので、私もこれと言った行動は起こさない。私に助けを期待するのはお門違いというものだ。


「まぁソレは置いておいて」


 悲劇のアホの子…もとい少女の事を一言で片づけてから夜空さんは続けた。私が呆けている間に作成したのか、その手には雪玉が握られており、ぐっと私に突き出している。


「退屈だから野球をしましょう!私がピッチャーやるね!」

「嫌です」


 私が即答した直後、ヒュンっと雪玉が私の耳の近くを通り過ぎた。投擲モーションが見えなかったのだけれど、一体どういうからくりなんだろうか。何より恐ろしいのは、あの雪玉が私の顔面を襲っても一切反応出来ないであろうという事だ。


「やる気になった?」


 早くも第二球を準備している夜空さんに対してがくがくと頷く。拙い、この人徹夜明けの妙なテンションになっている。

 しかしいざ野球と言われても、私はスコップの様な重いものを振り回すほどの筋肉は無い。仮に振り回すなんて事があれば、私の身体は遠心力に負けてコマのように回転する事になるだろう。まして向かってくる雪玉を打ち返すなんて言う高等技術ができる訳が無い。


「タイム!」

「良いよ!」


 さてどうしようか。

 きょろきょろと辺りを見渡しても頼りになりそうな人は見当たらない。だが居ないなら呼ぶしか無かろう。


「アイさん、ちょっとお願いがあるんだけど…いる?」

「はいココに!」


 誰も居ない雪原に呼びかけてみると、雪の中からメイドが現れた。一体いつから私の近くに居たのか、てんでわからない。そして雪の中でどのようにして移動し、私を追っていたのだろうか。モグラかミミズの親戚なのだろうか。

 疑問は尽きないが、今現在大切なのはそこではない。


「アイは…アイは旦那さまの為ならばどんなことでも…!」


 拙い、アイさんが脱ごうとし始めている。登場の仕方が予想外過ぎて時間をかけ過ぎた様だ。このままでは雪上の半裸の女性とその前に居る私という誤解の塊のような状況が生まれるだろう。

 周囲が緊迫した空気に包まれ始める。


「そうじゃないから脱がないで。風邪引くから」

「はい?」


 幸いにもメイド服を脱ぎ終わる前にアイさんを止める事が出来た。日頃のしつけが効いているのか、アイさんは私が止めるとそそくさと服の乱れを直し始める。そして雪に三つ指を付くと深々とお辞儀をした。


「改めまして、おはようございます旦那様。お目覚めの際に近くに居られず、申し訳ございません」

「うん、何をしてたのかは聞きたくないからいいや。それよりアイさん」

「はい、何でしょうか」

「野球は出来る?」

「やきゅー…ですか?」


 アイさんは首をかしげると、私の近くにあるスコップと律儀に雪を突きだしたポーズのまま固まっている夜空さんを見た。そして全てを察したかのように頷く。


「なるほど、アイに全てお任せください」

「ありがとね」

「はい…それで…その…」

「うん?」


 アイさんは何か言いたげにもじもじとし始める。一方夜空さんはポーズが辛いのかプルプルし始めていた。辛いならやめればいいのに。


「その…もしアイが打てたら…」

「打てたら?」

「ご褒美…いただけますか?」

「いいよー」

「ホントですか!」


 あっさりと頷くと、アイさんは満面の笑みで喜んだ。そして一分一秒でも早くと言いたげにスコップを手にすると、数歩前に進んでからブルンブルンと素振りをする。

 ご褒美が何なのか知らないが、アイさんが雪玉を打ち返すなどという高等技術が出来る訳ないだろうから問題はないまず。大前提として、野球自体をよく知らなさそうである。


「危険ですので旦那様は少しお下がりください」

「頑張ってねー」

「はい!」


 私に向かって笑顔を向けてから、アイさんはキッと夜空さんを睨んだ。それに対して夜空さんはだらりと両手を下げてアイさんの視線を受け流している。一見すると無駄に力の入り過ぎた打者と疲れ切っている投手の様だが、頑張れば巌流島にて向かい合う二人の剣豪の様に見えなくもない。

 そういえばその剣豪たちと同じ名前をしている二匹はどうしているんだろう。一匹は穴を掘っているけれど、もう一匹が見当たらない。


「まさかあなたと戦う時が来るとはね…」


 夜空さんが雰囲気を出すために言ったが、アイさんは答えなかった。すると夜空さんは数度首を振ると強くアイさんを睨み、セットモーションに入る。バチバチと互いの視線がぶつかり合う音が聞こえそうだ。もう二人に言葉は要らない。そこには投げるものと打つものしか居ない。

 無駄に高まっていく緊張感に思わず息を飲む。

 かくして勝負の火蓋は切って落とされた。

 セットモーションから夜空さんは足を高く上げると、強く前へと踏みこんで雪玉を投げた。すると夜空さんの足元にあるはずの雪が下へと崩れていき、彼女の姿は雪の下へと消えて行く。しかしさすがと言うべきなのか、不安定な体制から放たれたはずの雪玉はまっすぐとアイさんの方へと向かってくる。対してアイさんは向かってくる雪玉にタイミングを合わせる様に強く前へと踏み込むと、力強くスコップ空振りさせながら雪の下へと消えていった。


「…」


 私以外誰も居なくなった空間に、ぽとりと雪玉が落ちる。

 残るのは大きな穴が二つと一人取り残された私。そして何かに取りつかれたかの様に穴を掘り続けている犬蜘蛛だけである。

 一応、安全確認のために穴を覗き込んでみたが、どれほど深く掘ったのか底が見えない。しかし耳を澄ますと「何か落ちてきたぞ!」「これ隊長のとこのメイドと夜空さんじゃないのか?」「何だっていい!雪掻きを手伝わせろ!」という怒号が聞こえて来た。どうやら一階でせっせと雪掻きを続けていた面子と巡り合った様である。何はともあれ、無事なんだろう。


「ぬーーーん」


 一人取り残されてどうしようか?と考えていたら、足元でナメクジ猫の声が聞こえた。戻ってきたのかと思って見てみたが、居るのは穴を掘り続けている犬蜘蛛と掻き出された雪で作られた小山だけである。念のために穴の中を覗き込んだがこちらにも見当たらない。

 という事はあの声はどこからしたのだろうか。


「小次郎?」

「ぬーーーーん」


 呼びかけてみると、いつもより長ーい鳴き声が聞こえる。しかし私から見えるのは犬蜘蛛と雪山、そして穴だけ。そのうちの2つは除外されたのだから、残る可能性は一つだろう。

 バックから取り出した手袋を嵌めると、雪山を崩してみる。暫くの間は掻き出されたことによって生じたふわふわの雪しか無かったが、底にたどり着くと明らかに雪とは違う何かに触れた。

 その何かを掴んで引っ張り出してみると、雪で真っ白となったナメクジ猫が現れた。場所が場所なら未知の生物との遭遇という事で学者に売り飛ばせるだろう。

 両手でナメクジ猫を掴んでみると、雪の下にいた不思議生物はやっと解放されたとばかりに器用に身体に付いた雪を舐め始める。しかしそんな猫のような仕草よりも私はある一点に目を奪われた。その一点とはナメクジ猫の足があるはずの箇所であるが、そこに顔が…すごい苦しそうな顔が浮かんでる。暫くの間見かけなかったが、この顔は一体何なのだろう。

 謎の顔は私が見つめている事に気づくと、ぱちんとウィンクをしてから消えていった。消える直前、「皆には内緒だよ!」という単語が脳内に浮かぶ。あ、コレは深く考えたらいけないものだなと判断してナメクジ猫を下に降ろす。

 しかしもう雪上に居るのは嫌なのか、ナメクジ猫は「ぬぅーん」と一言鳴くと普段は見せない機敏な動きで私の足を登り、もそもそと服の中へと潜っていった。私が呆気にとられている間にぺっとりとした何がお腹から胸に掛けて這い回り続けるが、落ち着く場所があった様ですぐに大人しくなった。


「わふぅ?」


 普段から一緒のナメクジ猫が居ない事に気が付いたのか、穴を掘るのを止めた犬蜘蛛が首をかしげてこちらを見上げた。その尻尾がまるでレーダーの様に上へ下へと動いている。そして如何にして場所を探知したのか、尻尾がある一点に止まるとカサカサカサと私の身体をよじ登ろうと足を掛けてきた。

 しかし犬蜘蛛はナメクジ猫の様に垂直に壁を登るといった芸当は出来ない。よってその足は千手観音の往復ビンタの如く激しく動き続け、見ている者とされている者を不安に陥れる。

 余りに気持ち悪かったので、足元にアタックし続ける毛玉を引きはがすと「くぅーん」と寂しそうに鳴いた。「めっ」と言いながら屈んで頭を撫でる。

 さてはて…どうするべきか。

 どんなに頑張られてもこいつが私の服の中に入る事は起こりえない。となればナメクジ猫を引きはがすしかないが、こちらはこちらで居心地がいいのかピクリともしない。

 懲りずに足を登ろうとしている犬蜘蛛を宥めるべく、何かないかとバックの中をごそごそ漁っているとかき氷のシロップが出てきた。

 取り出して雪の上に置くと、犬蜘蛛の意識が私からシロップへと移った。犬蜘蛛は鼻を鳴らしながらゆっくりと近づくと、白い雪の上で色とりどりに輝くシロップのビンを興味深そうに嗅いでいる。


「どの色がいい?」

「わふわふ!」


 一応聞いてみたが全く分からない。適当な雪を盛ってから青色の汁を垂らしてみたら、白と青が混ざって綺麗な水色が出来上がった。

 犬蜘蛛は始めは用心する様に水色の雪を嗅いでいたが、害が無い事が分かるとぺろぺろと舐めはじめた。その後はお気に召した様で、一心不乱にかき氷もどきを舐めている。

 美味しいのだろうかと一瞬だけ食指が動いたが、さすがにその辺り一帯に降り注いだ雪を食べる等という野蛮な行為は出来ない。お腹が痛くなったら大変である。

 わふわふと雪を齧っている犬蜘蛛から目を逸らすと、グッと伸びをする。「ふぅー」という風呂上りの中年の如き声を漏らしていると、背後から気配がした。

 振り返るのと同時に何かが私目掛けてタックルを決行し、強い衝撃に耐えきれずに後ろに倒れた。幸い踏み固められていない雪が私を優しく止めてくれたので痛みはさほど無い。


「…大丈夫?」


 タックルといっても遜色ない抱き付きをしてきたクラゲさんが私の胸の中で言った。大丈夫か否かと言われると大丈夫だが、視覚外からのタックルは危ないから止めなさい。腰がギックリといったら大変だから。


「…ほめんにゃひゃい」


 両手でほっぺたを挟んで講義をすると、素直に謝ってくれた。しかしクラゲさんのほっぺはお餅のように柔らかくて気持ちが良いので、謝られてもそのまま手で捏ね始める。そういえば、クラゲさんはどこから来たんだろう?というかこの子が居るという事は、他の連中もいるという事だな。

 むにゅむにゅを続けながら視線を横へとずらすと、案の定勇者ご一行の姿が見えた。軽やかに片手をあげている勇者の後ろでは、雪像で出来たマッチョがポージングを決めながら雪の中へと沈んでいたが、すぐさま見なかったことにした。今日はよく変態と遭遇するな。


「ふーちゃん久しぶりー」

「お久しぶりです」


 勇者は無視して、ひらひらと手を振りながらふーちゃんに挨拶をする。ふーちゃんは今日も相変わらず黒いフードを被っていて表情が読めない。けれども読めないなりに判断するに、何やらそわそわとしながら手をあげたり下げたりしている。


「どうかした?」

「いえ…その…」


 問いかけても心ここに非ずと言った感じで手を動かすふーちゃん。そしてその後ろで必死に私の気を引こうと、高速でスクワットを始める勇者。そんなスクワットに合わせて私の灰色の脳細胞が活性化し始める。

 まず勇者はどうでもいいとして、そわそわの原因を追究しよう。そわそわしているという事は何かがしたいという事だろう。また手を動かしている点から、手を使うものだと推測できる。

 ココでそわそわする程触れたいものと言ったら、私がむにむにっとしているクラゲさんのほっぺた。わふわふと雪に夢中な犬蜘蛛の毛皮。防寒具が重いのか、ものすごく辛そうにスクワットをしている勇者を殴り飛ばしたい、という三つか。クラゲさんは私が占有しているので渡すわけにはいかない。私たちが勇者を素手で殴り飛ばすには筋肉が足りない。つまりふーちゃんのそわそわは犬蜘蛛にあると見た。そしてスクワットが辛いならやめろよ。


「この子撫でる?噛んだりはしないと思うけど」

「よろしいのですか!?」


 一連の思考の結論から問いかけてみたら、思いのほか興奮して答えられた。そして私が答えるよりも早く犬蜘蛛の近くに近づき、おずおずと片手を背中に当てて優しく撫ではじめる。「コレどうぞ」とかき氷のシロップを渡してみたけれど、よほど集中してるのか生返事だけして受け取った。

 犬蜘蛛は突然の刺激に「わふぅ?」と背中を気にする素振りを見せたが、すぐに雪の魅力に取りつかれた様だ。ちなみに勇者の動きは壊れる寸前のロボットのようにガクガクになっている。


「…で、何しに来たの?」


 哀れすぎて見ていられなくなったので声を掛けると、勇者はパァっと目を光らせて復活した。比喩とかじゃなく本当に目を光らせている。暫く見かけない間にサイボーグへと改造されたのかもしれない。しかし高速で行ったスクワットにより膝はガクガクと笑っており、彼女の明日が心配だ。

 私が勇者に向かって哀れみの視線を送っていると、クラゲさんが満面の笑みで私の元を離れて行った。そのまま勇者の背後へと走っていくと、ツンツンと実に楽しそうにふくらはぎを突き始めた。突如としてクラゲさんを失った哀しみから、助ける気は微塵も起きない。


「…いたい?」

「あっ…やめっ…ちょっ…!」


 クラゲさんの指が的確に勇者の筋肉を刺激すると、限界寸前まで駆使されている筋肉が悲鳴となって私に聞こえてくる。暫くすると勇者は地面へと倒れ込み、ビクンビクンと海老の如く仰け反り始めた。

 …何だろう、この光景。

 コレ以上バカップルの如く戯れている二人を見ていると帰りたくなりそうなので、クラゲさんの後ろへと回り込むと身体をホールド。そのまま雪上に倒れ込むと、ぐるんぐるん回って勇者から引きはがした。私に捕まったクラゲさんはむぎゅっと抱き付きかえしてくれる。んむ、余は満足じゃ。


「で、何か用?」

「友と会うのに理由が必要かい?」


 むぎゅむぎゅと柔らかい身体を抱きしめながら勇者に聞くと、あちらも倒れたままで爽やかな笑顔を向けてきた。言っている事はかっこいいかもしれないが、先ほどまで突かれまくったせいで身体が痙攣しているのがやたらとシュールに感じる。


「そう、なら会えたし私はもう行くから」

「待てぃ!」


 コレ以上海老人間と付き合っているほど暇じゃないので立ちあがると、勇者も立ち上がって制止してきた。それもわざわざ後ろから体を捻ってこちらを指さすポーズ付き。だが膝はガクガクと生まれたての小鹿の如く震えている。


「せっかく会ったんだし遊ぼうぜぃ!」

「なんで?」

「なんで!?」


 即答すると驚いた様に仰け反る。何というか…元気な人だ。

 しかし気力は万全とばかりに動き回っている様を見ると、簡単に開放してくれなさそうだ。私もどうせ遊ぶなら、腕の中でむにむにと抱き付いてきてくれる子と遊びたい。

 一つ溜息をついてから、勇者に話しかける事にする。


「仕方ないですね…あそこにスコップがあるのが見えますか?」

「見えなくもなくもない!」


 私が夜空さんの投げ捨てたスコップを指さすと、勇者は手をかざして不思議なことを言った。たぶん見えているという事だろうから気にしない。


「アレを取ってきたら遊んでもいいですよ」

「ほぅ…」


 勇者はしばらく考えて居た様だが、すぐさまこちらにグッとサムズアップを向けてくる。


「何だあなたも遊びたいんじゃない!見ててね!すぐに取って来てしんぜよう!」


 かくして勇者はハイテンションのままスコップ目掛けて走り始める。何か見えているのか、まっすぐ進まずに右へ飛んだり左へ飛んだりとハイテンションに場所を変えながら、確実にスコップへと近づく勇者。待て、話が違うぞ。あそこは落とし穴地帯じゃなかったのか。もしや本当に落とし穴の場所が分かっているのか?ソレは拙い。こちとらあんなハイテンションな奴と遊ぶ気なんてさらさらないのだ。

 私が呪いを念じながら勇者の動向を見守っているというのに、当の本人は余裕綽々の様で走りながら身体をこちらに向けて手を振ることすらしてくる。そして、手を振りながら勇者の身体が下へと落ちて行った。

 それは思わず見惚れるほど綺麗な落ち方だった。

 続いて穴から「また何か落ちてきたぞ!」「何だっていい!神だろうが悪魔だろうが雪掻きを手伝わせろ!」という雪掻きの魅力に取りつかれた人たちの叫びが聞こえる。

 勇者よ…元気にやっていけよ。

 さてさて、邪魔者は居なくなったしどうしようか。

 ぼーっとクラゲさんの方へ視線を動かすと、向こうも私の顔を見上げてくる。何の気もなしに頭を撫でると、くすぐったそうに仰け反ったりして笑みがこぼれる。


「雪だるま作ろっか」

「…うん」


 幸せだなぁと感じる瞬間である。



□ □ □ □



 夜空さんの事もあったので、危険がいっぱい夢いっぱいな新雪よりも、厳しくも踏み固められた安全な現実の方へと足を進めることにした。

 雪だるまを作るべく、コロコロと小さい雪玉を転がして大きくしていく。手袋を持っていなかったクラゲさんと一組の手袋を分け合うなどというバカップルぶりを発揮しながら、たまにキャッキャと意味もなくぶつかったりして戯れる事も忘れない。もはや雪が溶けそうなほどのアツアツっぷりを発揮しているが、溶けてしまうと雪だるまが作れない。何とか耐えてくれ。

 そんなこんなで転がして居たら、雪玉がちょうどいい大きさとなった。しかし雪だるまを作るためには、二人の男女が子供を作るためにまぐわうが如く合体させなくてはならない。ココは良いところ見せるべきだと脳内司令部から指令が発せられたが、程よい大きさの雪玉を持ち上げた直後に私の腰が「無理だよぅ、持てないよぅ」と情けない声をあげた。

 このままギックリといくと大惨事になるので無言で雪玉を置くと、グッと背筋を伸ばす。背筋が攣りかけた。さすが現実、夢希望もねぇ。


「あっ!あっ!」

「…大丈夫?」


 攣るか否かの瀬戸際で変な声を出していると、クラゲさんが心配そうに私に近寄ってきた。好機!とばかしに柔らかきその身体をホールドすると、ゴロンと転がってほっぺたをぷにぷにする事とする。するとクラゲさんも負けじと私の頬をぷにぷにとし始めた。互いに抱き合いながら頬をぷにぷにとし合う、奇妙な光景がココにはある。

 しかし哀しい事に私たちは雪玉さん達を雪だるまへと進化させる使命がある。涙を呑んでクラゲさんを解放すると、後ろから抱き付くことにした。クラゲさんへと私が抱き付くと数度たたらを踏んだが、しっかりと雪を踏みしめて雪玉へと手を掛ける。


「やり辛い?」

「ん…大丈夫」


 大丈夫そうなので腕を前に回して胸のあたりを弄ってみる。んむ、平べったい。

 そんなこんなで、様々な障害を乗り越えた雪玉は胴体と頭だけという二頭身への変貌を遂げる。早速バックの中に入っていた炭やら枝やらで手と顔を付ける。最後にバケツをかぶせれば、テンプレの様な雪だるまが完成した。


「んむ」

「…んむ」


 雪だるまを前にした私が満足そうに頷くと、クラゲさんも満足そうに頷く。

 さてはて、これからどうしようか。意味もなく部屋にもどり、クラゲさんといちゃつくのも手ではあるが…。

 突然の目標を失った私が次なる一手を考え始めた瞬間、何かが私の背後に滑り込んできた。その何かへと視線を向けるよりも早く、クラゲさんが私を押し倒した。私の視界がぐるりと空へと回る。

 白い雲が浮かんでいる空をいくつかの白い球が通過していった。まるでUFOだ。過去に私たちが捜し歩いた挙句、見つからなかったUFOがココにはある!

 思わず覆いかぶさっているクラゲさんをどけて立ち上がると、私の顔に何かが直撃した。その何かは私の頭に当たった直後に炸裂し、とても冷たい。そして痛い。


「…あっ」

「ん?あ、あー…」


 声にならない痛みを耐えていると、クラゲさんの小さな声と誰かの声が聞こえる。顔に張り付いた何かを拭ってから見てみたら、それは雪だった。

 つまるところ、立ち上がった私の顔に直撃したのは雪玉であり、それはUFOだと歓喜したアレは雪玉だという風情の欠片もアリやしねぇ結論が下される。

 頭を振ってから顔に着いた雪を吹き飛ばし、私の後ろへと滑り込んできた何かを確認すべく視界を動かす。すると赤みの掛かった金色の髪が見えた。その綺麗な髪の下にある顔は何だか見たことがある。


「おはよう、起きたんだな」

「ん?アリス?」


 アリスだ。まごうことなくアリスである。しかしなぜコイツが私の後ろに滑り込み、なぜ私の頭に雪玉が直撃したのだろうか。もしや盾にされたのだろうか。

 その因果関係に関して追及るべきか考えていると、アリスが雪だるまのバケツを手にし、私の身体がクラゲさんに押し倒された。クラゲさんはそんなに私を押し倒したいのだろうか。愛いやつめ。

 クラゲさんのほっぺをぷにぷにして遊びながらアリスの方を伺うと、機関銃の弾の如く飛んでくる雪玉をバケツで受け止めていた。もしも私が木偶の坊の如く立っていたら大変なことになっていたのは言うまでもない。クラゲさんに感謝するべく身体をむぎゅっと抱きしめる。

 雪玉の襲来が一端途切れた瞬間、アリスの持っていたバケツの中身がから炎が上がった。アリスは水となった中身を地面へとぶちまけると、見る見るうちに水が凍りの柱へと変化する。即席で作られた氷の柱は彼女が指を動かすと雪玉が飛んで来た方向へと傾き、発射された。遠目で雪が舞い上がり、氷柱が着弾したのであろう事が確認できる。

 何が起きてるのかまるで分らないがどうやら何かと戦っているらしい。

 いつまでも転がっていると逃げることもままならないので、立ち上がると雪を払いながら疑問をぶつける事とする。拘束から解放されたクラゲさんはアリスと向き合いづらいのか、私の背中に隠れた。


「何してるの?」

「ん?雪合戦だよ」

「なるほど」


 あっさりと答えられたが、どうやら私の知っている雪合戦とは次元が違う様だ。しかし隊長たるものがこんな呑気に遊んでていいのだろうか。もっとすべきことがあるんじゃないのだろうか。具体的には雪掻きとか。


「基地がこんな状況だと手も足もべろも出せないからな、全面的に休暇になったんだ」


 どういう事だ。基地というのは、雪に埋もれて無くても手も足もべろも出せないのではないのか。もしや秘密基地みたく巨大ロボットに変形でもするのだろうか。

 か、かっけぇ…しかしそうなると中の人はどうするんだろう。移動されるとまともに歩けなさそうだが。


「楓も一緒にするか?」

「うん、無理」

「そうか。まぁ滅多にない事なんだから、今の間に遊んでくといいよ」


 アリスはそれでいいのかと疑いたくなるような事を言いながら私の頭を撫でる。子ども扱いされてる様に少しだけムッと来るが、私は子供ではないので平常心を装って撫でられる事にする。

 暫くなでなでをされていると、アリスが何かに気づいた風に離れた。そのまま私から離れる様に数度雪を蹴って移動している。一体なんぞや?と思った直後、私の視界の端から誰かが飛びこんで来た。マフラーをなびかせている誰かさんは、手にしているスコップでアリスへと襲い掛かる。相変わらず緊急事態に反応出来ない私の耳に、バケツとスコップのぶつかり合う音が聞こえてきた。

 マフラーを付けている誰かさんの頭には猫耳があったので、おそらくナオさんだろう。何でナオさんとアリスが戦っているのかは判らない。大方おやつのプリンでも賭けているのではないだろうか。


「あれ?」


 ぼけーっと阿呆のように二人の戦いを眺めていたら、私に気づいた様でナオさんの動きが止まった。その瞬間アリスの足元にあった雪が舞い上がり、視界を白く遮る。雪で何も見えなくなった中、「あー!」というナオさんの叫び声が聞こえた。はぐれない様に配慮してくれているのか、ギュッとクラゲさんが私の上着のすそを掴んでくれる。


「せっかく捕まえたのに…」

「ナオさん、何しているんですか?」


 答えはわかっているが、意気消沈しているナオさんに問いかけてみる。


「んー?雪合戦ですよー?」

「…なるほど」


 この人たちの言う雪合戦とはスコップとバケツで殴り合う様なことを言うのか。一歩間違えたら大怪我間違いなしである。


「それより、そのマフラー付けてくれたんですね!?」

「ん?ええ、まぁ…」


 何やらご機嫌そうなので、「部屋にあったので…」という言葉は言わないで置く。よく見ればナオさんが首に巻いているマフラーも私とおそろいである。二人しておそろいのマフラーを巻いているとまるでカップルの様であるが、私たちにそのような事実関係はない。

 ナオさんはマフラーを見てにへらっと嬉しそうな顔をすると、足元の雪をスコップで放り投げた。宙へと舞った雪は地面に落ちる事無く集まり始め、やがていくつかの雪玉を形成していく。そしてナオさんがその雪玉たちをスコップで殴れば、雪玉が宙を滑空するがごとく飛んで行った。どうやら私が直撃したのはこれらしい。

 彼女は何やら話したそうにしていたが、すぐに雪玉の飛んで行った方向を見つめると私にお辞儀をした。ピコピコと猫耳が動いている事から、音で居場所を探っているのかもしれない。


「ではでは、名残惜しいですが私はこの辺りで」

「雪合戦頑張ってください」

「はい!」


 元気よく返事をすると雪玉が飛んで行った場所へと走っていく。先ほどから思っていたが、雪合戦要素が皆無である。

 ふと気が付くとクラゲさんがもじもじとしている事に気が付いた。どうしたのだろうか。


「おしっこ?」


 考える限り最悪の可能性を聞いてみたら、フルフルと首を横に振られた。よかった、もしおしっこなんて言われても、私にはどうしようもなかった。となると何がしたいのだろうか。

 クラゲさんの視線はナオさんやアリスの向かっていった場所に向けており、時折チラチラと私の様子を伺う。もしや私が何かしたのだろうか。


「もしかして、雪合戦したいの?」


 今度はコクコクと首を縦に振る。なるほど、確かに雪合戦したいのなら私は邪魔だな。


「いいよ、楽しんでおいで」

「…いいの?」

「ちょっと疲れたし、私は部屋に戻るね」


 笑いかけながら頭を撫でると、クラゲさんも笑顔になった。彼女は私から数歩離れると、雪上に手を突っ込み、氷柱の様な細い氷を引き抜いた。うん、雪合戦するんだよね?

 クラゲさんはその氷柱を雪だるまへと突き刺すと、雪だるまが炸裂して後からマッチョの雪像が現れる。私とクラゲさんが共同作成した可愛らしい雪だるまが、ガチムチなマッチョに変化した瞬間である。この世に神は居ない。

 マッチョは準備運動とばかりにポージングをいくつか決めると、そそくさと雪玉をいくつか拵えてクラゲさんと駆けて行った。コレも普段から思っているのだが、マッチョである意味はあるのだろうか。

 暫くすると、遠くの方で雪が舞い上がったり金属同士がぶつかる様な音が小さく聞こえてくる。

 その音を聞きながら、一人残された私はせっかくだからと新雪をサクサクと踏むことにした。

 サクサク、サクサクと踊る様に誰も踏んでない雪を踏みしめると自然と笑顔になる。暫く踏んでいると、サクサクの中にパキッという不吉な音が聞こえた。


「ん…?」


 足元を見ると不自然に私の立つ場所が凹んでいる。ゆっくりと片足を上げると、雪の下に隠れて藁と折れかけている枝があるのが見えた。

 私の笑顔が凍りついた。

 誰かに助けを求めるために当たりを見渡した直後、枝の限界が来たのか私の身体が下へと落下した。

安定の二ヶ月投稿

誰か私にキングクリムゾン使ってませんか?近頃時間が吹き飛んでるんですが


ついに誰ひとりとしてお話に付き合ってくれなくなったので、ボッチで書いてます

よって終盤失速し、主人公のキャラがぶれまくりました。お詫び申し上げます

今後はこのようなキャラで売る次第でございます

嘘ですごめんなさい


執筆は1,2時間で頃が折れるのにネトゲの狩りは3,4時間ほど出来る不思議!

私的に最初の2時間を耐え抜けばあとはすぐですね


察しの言い方ならわかると思いますが、何一つとして本編に触れる内容がありませぬ

冒頭と終盤で二ヶ月の時が過ぎてますからね。人は…何か月も記憶を維持できない…

最近話の展開すらも忘れかけてきて焦ってきてます

暑さで頭がやられとるのかもしれぬ

何故私は汗だくになりながら真冬の小説を書いているんでしょうか?誰か教えてください


というかあと二ヶ月で連載2年ですね

今年中に終わるだなんて無理なことは言わないよ、絶対


ではではこんな意味のない部分まで読んでいただき、ありがとうございます

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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