プロローグ
※この作品はarcadiaでも投稿されている作品です。
メルカトル大砂海――大陸西部に広がる唯一にして最大の砂漠地帯である。
開拓時代、数多くの冒険家たちがこの砂の海に露と消えたことから、
畏敬と、そしてその恐怖を忘れぬよう「死の砂漠」とも呼ばれている。
砂の形質はさらさらとして細かく、旅慣れた冒険者でも踏破にはかなりの危険が伴う。
大陸を旅する者を束ねる『ロードスギルド』の記録では致死率は『最高』とされている。
生息するモンスターはその過酷な環境に適応し、一様に強靱で凶暴。
太古からその姿を変えていない大型種のモンスターが多く生息するとされている。
王立図書館に蔵書された伝承を参照すると「砦をひと呑みするほどの巨大なワーム状生物」が、
今もその砂の下に息づいていると伝えられている――その巨大な顎を隠して。
それでも、その道ならぬ砂の海を横断せんとするものが後を絶たないのは、
――――ついにこの大陸が「魔王」の脅威から解放されたからである。
侵攻から逃れ、そして故郷へ帰る者。
荒れ果てた西部を復興しようとする者、一攫千金を狙って大荷物を背負って赴く者。
その思惑は様々だが、人々は一様に明るく、これまでの重圧から解放された表情をしている。
これは魔王とその配下による侵略――人魔大戦を、人が、勇者が勝利をおさめたのちの時代。
……その中でけっして許されぬ罪を背負い、心に深く癒されぬ傷を負って。
裏切り者、臆病者として謗られ、それでも戦い続けたひとりの少女と、世界のお話。
――――戦え、戦え、自分のために