第八類 踊れ、フリークス!
イェロウアイズ・ビリジアン(怨霊)「今回ノ第四部ハ、今マデ登場シタ中デモ最低ランクノ原曲ヲ持ツ替エ歌ガ登場ダ。
…皆ノ衆、笑イ死ヌナヨ?」
(2011.12/12 規約により替え歌部分を削除)
―前回より・機内―
「そんな…私の計画が…」
悲しみに膝を抱えるレネの肩を、守谷が突く。
「何ですの!?守谷さん!」
『ミセス、落ち着け。
どうやら先程のミサイル、爆破と共に何か妙なものを撒き散らす仕様だったらしい。
おかげでこのスーパーサザーラント号の機能が殆ど停止した』
「何ですって?」
『最早残された道は、死ぬか緊急脱出装置で逃げるかだ』
「サザさん…作戦は何時でも練れるでしょ…?」
「仕方ありませんわね…」
三人はロボットに備え付けられた緊急脱出装置に乗り込み、倒れ込み爆発するロボットから命辛々逃げ出した。
しかし、外部に脱出したからと言ってそこから希望に向かうという保証は何処にもない。
現に三人を待ちかまえて居たのは、益獣部隊は三獣刺分隊のアラミスからの、衝撃的な告知であった。
―外部―
地面に降り立った三人は、早速二人の空兵とアラミスとに囲まれてしまっていた。
アラミスは冷徹に言う。
「レネ・サザーラント、守谷有菜、土屋弥子…貴様等は総統の御意志により反逆者として処刑される。
理由は解るな?
第一に、作戦目的外での能力使用。
第二に、機関員への攻撃目的での能力使用。
第三に、機関員の身体・生理機能への侵害行為未遂。
第四に、機関員の生物的尊厳を傷付ける事での権利の侵害未遂。
第五に、能力の無差別使用。
以上五項目の罪状により、貴様等は処刑される。
何か言い残しておきたいことはあるか?」
「…私が…バカだった…」
とは、弥子。
『上司を止めることの出来なかった私は、愚か者だ』
とは、守谷。
「…巨乳が、憎いですわ…」
とは、レネ。
そんなレネに、アラミスは言った。
「…謙虚に生きれば良かったものを。
コンプレックスもアイデンティティーにすれば良いのだよ。
嫉妬で意味のない屁理屈をこねくり回すのは馬鹿のやる事さ。
もしどう考えてもアイデンティティーにならないコンプレックスがあるのなら、それを逆手にとって自虐で笑い飛ばせば良いじゃないか…それが出来ないなら、お前に真っ当な生き方なんて出来るわけがないだろう」
アラミスは空兵を少し引き下がらせると、言った。
「人生最後の日なんだ。今日は特別に、滅多に使うことのない私の能力を見せてやろう。
出ろ、死神君」
その言葉と共に、アラミスの能力の化身が現れた。
それは黒いローブを着込んだ大男で、巨大なサイスを担いでいる。
『…久し振りの浮き世の空気じゃわい……で、どうしたんじゃ?アラミス。
儂を呼んだという事は、アレをやるんじゃろ?』
「流石は私の化身、死神君だ。お察しが早くて助かるよ」
そんな会話をする二人の元へ、更に天野も駆け寄っていく。
「おー、久し振りじゃねーか死神君!」
『その声は天野か…では、前座行こうかのう…』
しかし、ここでアラミスが。
「いや待て死神君!これじゃ人数が足りないぞ!
私の能力使用には、対象人数に比例した前座の踊り手が必要じゃないか!
そしてその対象に君は含まれることがない!
そして空兵達はこれからも仕事があるとして…踊れるのは私と天野だけという事になってしまう…」
「それなら、俺に良い考えがあるぜ!」
「良い考え?」
「あの男、黒沢にも踊って貰うんだよ!」
「!?」
いきなりの指名にぎょっとする健一。
これから何をしなければならないのだろうかと、一瞬不安になる。
「オウ黒沢ー、そういう事だから頼むわ。
つっても、三獣死部隊の能力全部公開しなきゃなんねーから残念ながらオメーに拒否権はねーけどな」
「…解りました…では、振り付けを教えて頂けますか?」
「あ、その辺なら心配スンナ」
そう言って天野は小さな紙に何かを描き始め、その紙を投げ捨てた。
消滅した紙の代わりに現れたのは、パッキングされた小さなオレンジ色の錠剤。
「コイツを飲めば振り付けと歌詞はバッチリだぜ!」
「……そうですか」
錠剤を飲む健一。
その薬は大変飲みやすく、妙な後味も全く感じられなかった。
『それでは…行くぞい』
―以下、アラミス・天野・健一による踊りと歌 が、終了―
「では、早速処刑を執り行うとしようか…」
アラミスに指示された化身は、鎌の刃をレネの首に引っかける。
「それではお前を『罰す』」
アラミスがそう宣言した瞬間、レネの全身が黒く腐敗して行き、その身体から透き通ったレネ自身のようなものが現れる。
そして地面からは人や獣や植物等の形を模した黒い影のようなものが現れ、それらは透き通ったレネに掴みかかり、嫌がる幼女を無理矢理に北の遠い空に連れ去ってしまった。
健一は言葉を失った。
死神のような男が現れたかと思えば、訳の判らないダンスに参加させられ、その挙げ句昔見たことのある洋画の様に、霊魂のような存在がああも簡単に消え去ってしまうなど、自分の知識の範囲を超えていたからである。
続いて化身は守谷と弥子の首を掴み持ち上げる。アラミスは二人に告げる。
「お前達を『許す』」
そう言われた瞬間二人の体内から白い光が溢れ、二人の肉体はまるで弾け飛ぶ様にして光を放ちながら消滅してしまったのである。
そして「処刑」を終えたアラミスは、軽い挨拶の元その場から飛び去ってしまった。
その後約二分の休憩の後、健一と天野は勝負を再開した。
―同時刻・インド―
「皆さん!さぁ此方です!お逃げ下さい!」
インド(印度)異形連盟幹部の女、アルンダティ・センは、Mr.司馬率いる天竺隊の攻撃に晒された民間人達を部下達に託すと、単身Mr.司馬を止めに向かった。
「ラジャード・セン!
私のたった一人の家族にして裏切り者!彼らの無念を―
ドォン!
アマルティアの足下の地面が、黒い炎によって爆発した。
「……まだ僕をその名前で呼んでくれるのですね、姉さん…。
しかも一介のシュードラの娘だった貴女が、連盟の幹部ですか…いや、貴女には元々そうなるだけの素質があったんだ…当然なのでしょうね…」
「無駄話は結構だわ。問題は私達の過去でも、私の今の姿でもない。
貴方が何故、人禍の幹部になったのか…私が知りたいのはそれだけ。
そして私の目標はただ一つ。
貴方達を打ち倒し、この神聖なる国を取り戻すという事。ただそれだけよ」
「…そうですか……先ず、僕が人禍に入ったのかについてですが、至極簡単な話なんですよ。
そう…理由は至極簡単…。
『憎かった』からですよ!人類がね!いや、人類がというのは間違いだ。
僕が憎んでいたのは、あんなに優しかった両親を、そして貴女を苦しめたブラフミンの連中ですよ!
知恵深い母も、優しい父も、ブラフミンに殺されたんだ!
ブラフミンの奴らが無理難題を出すから人類だった母さんは熱病で死んだ!
異形だった父さんも、疲労と交通事故には耐えられなかった!
姉さん、貴女だって変人の金持ちに身売りをするしかなかったじゃありませんか!
僕は自分に腹が立ちましたよ…カーストに縛られる余り、何も出来ず、何もせずに良心を見殺しにし、挙げ句貴女をも見捨ててしまった無力な自分自身にね!」
その悲痛な叫びに、アマルティアは言葉を失った。
そして数秒の沈黙の末、二人は戦闘を開始した。
青黒い四本腕のラジャード、もとい、Mr.司馬の手や口から繰り出されるのは、何と燃え盛る漆黒の炎。
これは彼の能力『黒炎』によって産み出された炎であり、主の命令に忠実に従う。
その従い様は動きに留まらず、何を焼き、何を焼かないかについてまで事細かく精密に従うのである。
よって彼がこの能力で火傷することはなく、部下や同僚や上司を焼いてしまう事もなかった。
対するアルダンティも負けてはいない。
彼女の傍らからは、何処からともなく氷の弾頭が出現。
それらはただ一つの目標であるMr.司馬に狙いを定めて打ち出され、それらは物体と接触すると炸裂。周囲の物体を氷らせて行った。
「相変わらずの『氷結』ですね!」
「貴方こそ!その黒い炎の軌道、読めなくて困るわ!」
二人の戦いは壮絶を極めていった。
一方その頃、同じインド国内の都市部(デリーに非ず)を攻めていたMr.司馬の部下達はというと。
「あー…隊長一人にして儂等だけこっち来てしもうたが、大丈夫じゃったんかのう?」
そう言うのは、インド象の疑似霊長・大田原泰蔵。
「バァロウィ!司馬の兄貴が言ったんだぜ?あの人のこった、何か考えがあるんだろうよ!」
逃げ出そうとするスリの顔面に黄色い毒液を拭きかけ毒殺したジョンソン野沢がそう言う。
「アタイ等は部下だかんねぇーっと!」
雌牛のヨシエは異形連盟傘下の装甲車を突き飛ばすと、静かに言った。
「上司の命令には基本従わなきゃならんのよ…」
更に優雅な格闘術で舞うように連盟関係者を始末していく猿飛哀も言う。
「ま、良いんじゃない?
アタシはさ、異形になって間もないけどね、司馬隊長と出会ってからというもの心にキメてんのよ」
哀は後ろから掴みかかってきた敵を逆に締め上げながら言う。
「死んでもあのヒトに憑いていくってさぁ!」
解説
『死神君』
アラミスの化身。老人のような声と喋りで話す。『君』までで名前。
『工学』
守谷有菜の能力。思い付いた発明品を一度で完成させることが出来る。