第七類 乙女は飾らない
レネ「この後は、『メチャ☆モテ!プリンセス』ブラウザは―
天野「違ぇわ!バカ!(跳び蹴り)」
レネ「痛ぁい…」
―アメリカ・アリゾナ―
「このクソがぁぁぁぁぁぁッ!」
迫り来るラナバドン達にガトリングの弾丸を浴びせつつ雄叫びを上げるこの大柄な白人の名はタウンゼンド・ウェルカー。
アメリカ(米国)異形連盟アリゾナユニットはフェニックスチーム所属の幹部であり、地位に伴って高い実力の持ち主であるが、自尊心が無駄に強く短気で自惚れ屋の酒乱であり、更に他人の忠告は無視するものという考え方のため余程の危機的状況でもなければ自分の考え通りにしか動かないという欠点だらけの性格で、常に何らかのトラブルの元凶を孕んでいたりする。
「づおるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―クソ!弾切れか!」
タウンゼンドは弾丸の無くなったガトリング砲・M134(本体重量だけで18kg)を投げ捨てると、今度は素手でラナバドン達を始末し始める。
「危なっ!ちょ、ウェルっち!リロード面倒だからって貴方のその怪力でガトリングなんて投げないで頂戴!」
近くで戦っていた直美は、投げられたM134の直撃をどうにか避けると、タウンゼンドに言った。
「悪かったな!生憎と雑な性格でこういう事しか出来ねーんだよ!」
怒鳴ったタウンゼンドは全身に力を込め自らの能力を発動した。
その身体の大きさは能力発動前の2.5倍、全身が採石場で切り出された白い岩石の様な甲殻で覆われたその姿は、まるで少年漫画やファンタジー作品のゴーレムを思い起こさせる。
更に下半身が逆さ向きの八角錐というのも、何処か独特だった。
「おぉー、出たわねウェルっち名物『着込んだら凄い大理石スペシャル』!」
「その呼び方ヤメレ。長ぇ」
「いやいや、大理石なんて高級感あるじゃないか」
そう言うのはタウンゼンドの同僚、ルーク・ターナー。
音楽とダンスを愛する気の良い幹部であり、異国文化に深い関心を持っている。
全身が岩で覆われた巨人に変身したタウンゼンドの能力は『岩石』というものであり、その名の通り地球上に存在するあらゆる岩石を操り、また自らも岩に変身するという、ある意味で鉄治に似た能力である。
しかし彼に鉄治のような柔軟さは当然なく、寧ろそれを逆手に取って粒子のまま空中を漂ったり、砕かれても身体を再構築する特性が備わっている。
「うルぁぁぁぁぁ!吹っ飛べェァ!」
そう言ってタウンゼンドが巨大な右拳を地面に叩き付けると、半径10m以内のラナバドン達が青い血を噴きながら悉く吹き飛ばされていった。
―同時刻・ヨーロッパ―
ミサイル攻撃を受けた天野と健一は、執拗な追尾を続ける無数のミサイルを避け続けていた。
「でぇい!クソっ!何だよこのミサイルどもは!
俺を狙ってンのかあいつを狙ってンのかはっきりしやがれッ!てか邪魔スンナ!」
「……(このままでは大志の墓が……それだけは何としても阻止しなければ…)」
一方その頃、上空では。
「いい気味ですわ!守谷さん、もう良いでしょう。
これだけ撃てば、あの二人など粉々ですわ!」
『了解』
レネの指示で飛行船からのミサイル乱射が止まり、地上に一陣の風が吹いた。
風はミサイルの爆発で発生した土煙と硝煙とを一瞬で取り払い、地上の様子を一瞬で露見させた。
地上に二人の姿は無く、死体や血痕すら残されては居なかった。
「おーっほっほ!序列六位に異形連盟の大御所が見る影もありませんわね!
それとも逃げてしまったのかしら!?
でもどのみち同じですわ!
幾ら異形とはいえ、この華麗なる黄金の薔薇 レネ・サザーランドの前では無力ですわね!」
高笑いするレネ。しかし彼女の部下である弥子は言う。
「………!!…待って、サザさん……」
「何ですの?土屋さん」
「………二人は………まだ…死んでない……」
「な、何ですって!?
土屋さん、貴女下品な本ばかり読んでいるから頭が可笑しくなりましたの?
笑えない冗談はお止しになって!」
『いや待て、ミセス』
癇癪を起こすレネに、守谷が筆談で伝える。
『弥子の能力を忘れたのか?』
「…ッ」
『弥子の能力「探知」は、一定範囲内に探知網を張り巡らせ、設定条件に合致する存在の位置をリアルタイムで正確に知る事の出来る能力だ』
頷く弥子。
『更に言えば弥子、二人はまだこの辺りに居るのか?』
弥子は再び頷く。
『ミセス、これはどうも我々が直に出向かなければ成らないようだぞ?どうするんだ?我々でカタをつけるか?
それとも一旦引き下がり形成を立て直すか?』
「ふん、今更何を仰いますの?守谷さん。
そんなものの答えなど、とうに決まっていますわ!
出向きますわよ、戦場へ!
そして我々の力で連盟幹部を討ち取り、忌まわしき悪魔の遣い『巨乳』を滅ぼし尽くすのですわ!
守谷さん!我らが決戦兵器の準備を!」
『既に出来ている。とはいえ、アレには多少時間がかかるが』
「構いませんわ。あれさえ成功すれば私の計画はほぼ成功したも同然ですもの!」
「…ま、良いよね…」
レネ、守谷、弥子は飛行船ゴンドラ部後部ドアから別室へと移ると、守谷が代表して内部の機械を操作し始めた。
するとどうだろうか。
機械的な金属音が鳴り響き、ゴンドラの大部分が飛行船の気嚢から離脱。
更にそれは落下しながら素早く変形していき、ほっそりとした人型ロボットへと変形して行く。
一方その頃、地上では。
「無事かー?黒沢」
「えぇ、何とか。しかし何なのでしょうね?先程の攻撃は。
幹部を攻撃するという事は、どう考えても人禍の戦力では無いような気がするのですが…」
「あぁ、確かにウチの空軍も重火器やコンテナを搭載した飛行船は少しばかり保有してるし、今も地球のどっかでドンパチヤってるんだろうが、あんなデザインじゃねぇしな。
フクロんトコが真っ黒でさ、そこに白でスズメガを漫画っぽくアレンジしたマークが描いてあるんだが…。
第一ボディがウチのよりデカ過ぎるわ、ゴンドラの窓の数も違ェわ、ミサイルの格納場所も違う筈なんだよ」
二人を襲撃した大型飛行船は、ピンクや黄色といった明るい色でカラフルに彩られていた。
「つっても、幹部攻撃ってんなら一つ心当たりがあるけどな」
「心当たり…?」
「ジョーンズのおっさんが、敵とヤってる最中序列十二位―つまりイッちゃん下の幹部が企てた反逆行為の被害受けたらしくってよ。
多分あの連中もそうじゃねぇかと思うんだが…あ、ちなみに反逆者はモチおっさんの手でブッコロな?
私生活自体は軍隊とか学校なんかよりずっとフリーダムなんだけどさ、そういうキツい決まりがあんだよ。
しかしミョーだな」
「何がです?」
「いやな、おっさんに反逆した華凰院てのは自分を神だと思い込んでる救い様の無ェバカだったし、その一コ上のヴァガルドスっつーのも、自分は悪魔の末裔だ何だとほざきゃがるバカで能力の良さだけ買われて幹部になった奴だが、幹部に最低限求められるモンは持ち合わせてた。
組織への忠誠心も上への礼儀もあったし、傲慢で誇大的で死亡フラグ立て秒間1200本の世界記録保持者だが、それでも反逆なんてバカな真似だきゃ絶対にしねぇような奴だった。
てか、あの野郎はそこそこ前にアメリカの方で出所不明のバケモンに喰われて死んだらしいから候補からは外れる。
更に他の現在生存中の幹部についても、一位から五位までの上位序列連中は、五位のYBさんが死に、三位の曽呂野姉さんは自慢のアレとかコレも虚しく側近のサカにゃん共々連盟の捕虜んなってて、諜報部の情報に寄れば敵の本拠地で監禁&治療されてるらしく動ける訳がねぇ。
残る三人―一位の古藤博士、二位のジョーンズのおっさん、四位のアケっつぁんも反逆なんてするわきゃねーし、するとしても絶対ェあんなバカな戦法を実行するとは思えねぇ。
俺以下の幹部についても同様だ。アンタ、クストーって半漁人を始末したろ?
あいつは八位なんだが、どうだった?反逆するようなキャラか?」
「いえ、全く。寧ろ利益や保身以上に職務を優先する熱血漢に見えましたが」
「だろ?あの単細胞がんな真似するかっつーのよ。残りについても同じで、非幹部の連中は総統や幹部が怖ェから反逆なぞしようにも出来るわけがねーんだ。
つまり、今の人禍に反逆行為をしそうな奴はいねぇって事でな。連盟関係者にそんな荒い事する様な奴が居たとして、そいつが飛行船なんて所有できるような地位だなんて思えねーんだよ俺には」
「野良という説も考えられますが、それでも不可解な点は多いですね。
第一、何故こんな異形の少ない場所を狙うのかが解りません」
「だよな?つってもまぁ、難しい事考えて手も始まんねーわけでよ。
そろそろ再戦と行こうじゃ―― ドォォォン!
その瞬間、向かい合う健一と天野の間で大きな爆発が起こった。
「!?」
「な、何じゃゴリァア!?」
更に遠くから砂煙を巻き上げ迫ってきたのは、背中から青い炎を噴射する、ピンク色の装甲を持つ細身の人型ロボットであった。
「はィえぇぇぇぇぇええ!?」
「…何ッ!?」
ロボットは驚きの余り動けないで居る二人の眼前で急停止すると、こんな声を発した。
『おーっほっほ!御機嫌よう!日本異形連盟関東ユニット東京チーム幹部黒沢健一、そして人禍幹部第六位及び人禍空軍総司令官天野翔!』
「何者だ…?」
「てェッ!何だテメェは!?
俺達二人についてそんなに詳しいたァ、さてはお前ベ●監督の回し者と見せかけて実はハ●ブ●社に雇われてる新興カルト宗教団体のマスコットキャラクターの眷属だな!?」
「天野…そんなややこしい存在が実在するとでもお思いですか?」
「思ってない!さっきのは『そういえば計画完了後もア●メイ●●ドの放送続くかな?続いて欲しいな』って思って五秒で考えた!」
「五秒…まぁ良いでしょう。
それはそうと、貴様本当に何者だ?名乗らねば切り刻むぞ?」
『あらあら~日本異形連盟の針と呼ばれ、冷静で優秀で紳士的と名高い黒沢健一が、随分と野蛮な態度ですわね?
ま、どうしてもと仰るようでしたら名乗って差し上げますわ。有り難く思うことですわね。
私の名は序列十三位の幹部レネ・サザーラント!通称「秘められし黄金の薔薇」にして、この世を悪魔の手から救う者ですわ!』
格好付けて名乗ったレネだったが、二人の反応は大変素っ気なかった。
「…天野、質問があるのですが…」
「何だよ健一…俺のチチ揉んで良いか?とか、ケツ触って良いか?とか、挿入OK?とかって質問だったら、答えとしちゃ俺をぶっ倒したら幾らでも好きにして良いぜって答えてやるけど―
「そんな質問を誰がしますか…!私が聞きたいのは貴女の発言と今の現状の矛盾についてです」
「おう。そういや何処彼処か矛盾してるかもな。俺ってばズボラで忘れっぽいトコあってさ。
そういや今思い出したけど、ジョーンズのおっさんが好きなエロゲメーカの話、あれア●ジ●って言ってたけど実はニ●ロ●●スだった」
「天野…」
「ハマりまくったゲームもマ●●ヴじゃなくて沙●●唄だったぜ」
「天野ー」
「あと嫁は純●じゃなくてそ●子な」
「天野!」
「何だよ黒沢?まだ何かあるのか?」
「そうではなくてですね…私の質問は人禍上位幹部の趣味に関することではありませんし、そもそも貴女そんな事話してないでしょう。
私が聞きたいのは、貴女が人禍幹部最下位は序列十二位だと言ったのに、目の前に序列十三位を名乗る者が居るという事についてですよ」
「あぁ、何だそんな事か。多分アイツの自称じゃねーの?」
「そんなアバウトで言い訳が無いでしょう」
「あーはいよ、解ったって。今総統に電話で確認取るから…あ、もしもし、総統っスか?」
『そういう貴女は翔ちゃん?一体どうしたの?』
「いやあの、ちょい確認したいことがありまして。人禍の幹部って12でしたっけ?」
『いいえ、13人よ。まぁそうは言っても今の序列十三位なんて影薄いし実力無いし、居ないも同じなんだけどね』
「あ、そうスか。有り難う御座いまス。ほいじゃ」
『頑張ってねェ~ん』
「だってよ」
「……まぁ良いでしょう。組織全体から認知されないほどの序列ならば―『納得いきませんわー!』
突如響いたレネの怒声は拡声器で増幅されており、一時的に二人の聴覚を封じるには十分な大きさだった。
『この私が…黄金の薔薇と呼ばれたこのレネ・サザーラントが……影が薄くて実力もない、居ないも同然ですって…?
あの女……もしやとは思っていましたけれど、あの女もまた「巨乳」の手の者だったのですわねッ!
巨乳なのに人格者だから、悪魔の仕業でああなっていたのかと思っていたら……そういう事でしたの……』
黙り込むレネ。
機内では、部下二人がレネの身を案じていた。
『良いですわ!世界がそうまでして私を敵に回すのなら、この黄金の薔薇はそれを正面から受けて立ちます!
例え何が敵に回ろうと…そう、それが刃向かうことの出来ない「死」であっても、私達は決して引き下がりませんわ!
そしてこの世を悪魔の魔手より解き放ち、地球を…真の平和へと導いてみせますわ!』
―機内―
「守谷さん!弥子さん!例のアレを!」
『了解』
「ヤー」
守谷は手前の黒いレバーを後ろへ引いた。
するとロボットの背中に備わったハッチが開き、中から砲台が出現する。
更に砲台から砲弾の様にして発射された機械は空中で花のような形状に変形したまま滞空。
何やら怪しい桃色の波動を放ち続けている。
―機外―
「…何事だ…?」
「ありゃ何だ?」
『おーっほっほっほっほ!聞いて驚くが良いですわ!
これこそ私の秘密兵器!「異形能力増幅装置」通称「LOLI-MAS」ですわ!』
「異形能力増幅装置ロリマス…?」
「何かサ●●ト●ンへの冒涜な気がするのって俺だけじゃないと思うんだよな…音が似てるからか?」
『これはあらゆる異形の持つ能力を増幅し、波動として全世界に放出。増幅した能力の効果を指定条件に該当する存在全てに無差別感染させるというものですわ!』
「つまり…火炎の能力なら指定したモノ全てを焼却…」
「相手を支配しちまう能力なら、指定した奴全員支配ってか…」
「問題は奴の能力ですね…」
「あぁ…とんでもねーモンじゃ無けりゃ良いが…」
『そして私の能力…それは「母性抹消」!あらゆる生物から母性に関連する要素を奪い去る能力ですわ!
通常は一度に一人限定ですけれど…今回は守谷さんの開発したこのLOLI-MASによってその効果は地球全土、ありとあらゆる生物に及びますわよ!
そしてこの聖なる波動によって地球は「巨乳」という悪魔の産み出した異物から解放され、ひいてはそれを産み出した悪魔にも打ち勝つことが出来るのですわ!
そうすれば地球は真の平和を取り戻し、私が地球の女王に!
タマリマセンワァァァァァァァッ!』
こうしたレネの陰謀により、全人型は(そしてうちのヒロイン達は)もれなく貧乳にされ、挙げ句ロリコン絶対主義の社会が訪れるかと思われた。
しかし、ラプラスの悪魔など存在しない。
即ち、何処からどう見ても揺るぐことのない確約された出来事など、有りはしない。
そしてそれはレネについても同じ事であり、彼女がが機内で高笑いをしている最中、それは起こる。
ドバォン!
空中に浮かんでいたLOLI-MASが、遠距離からのミサイル攻撃によって一瞬にして粉砕された。
「!?」
「…」
驚いたままの健一と、ドヤ顔の天野。
『何!?何が起こったというんですの!?
守谷さん!効果発動までに十分要する以外は完璧な装置じゃありませんでしたの!?
え?「完璧というのは能力散布に関することだけ。早く作れと五月蠅いから装甲は作らなかった」ですって!?
どういう事ですの!?』
機内では、どうやらレネが不測の事態に混乱しているようだった。
更に東の空から、二機のF-22(独特の直線的なペイントが成されている)と一羽の怪鳥とが飛来するのが見える。
「天野…これは一体?」
「あぁ…あの食糞ロリの鼻ァへし折ってやりたくってよ。
呼んでやったのさ…俺の部下をな。
おまけで俺の親友まで来ちまったが、まぁ最高の野郎だ。良いとしようぜ」
「…親友?」
「オウ。あのデケー鳥だよ。古藤博士の部下ってか義理の息子みてぇなヤツでよ、名前は確か…アラミスってんだけどなぁ…アイツがまた最高のヤローなんだよ」
「アラミス…?」
「そ。三銃士のな。他にもアトスとポルトスってのも居るぜ。ダルタニアンとかはいねーけどな。
どっちも最高のヤローさ。ま、ポルトスの奴ァアフリカで手塚松葉と一騎打ちして死んじまったんだけどな」
「…全くあの人は…」
「いやぁ、当然だろ。それにアイツ、アトスとアラミス曰く手塚のファンらしくってよ。『俺を殺していいのは手塚だけだー』って言ってたらしいぜ?
相当好きなんだろーなぁ。俺もゴジ●は新旧国内外ひっくるめて全部大好きだが、ヤツに殺されたいなんて思えねーよ。
相変わらず腰抜けだなァ俺…カックワリィよ…」
「いや、それが普通の考え方ですよ?寧ろ好きなものになら殺される事さえ本望という方がどうかと…」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんでしょう」
天野「あー…めんどくせぇ……大分的に言うならよだきぃ…。
もうタイトルコールだけで良いよな?
次回、白い巨像第四部『踊れ、フリークス!』」