第四類 推参!海軍総司令官!
ニコラ(亡霊)「この後は第四部。ブウウザはそのパパ♪」
マシュー(亡霊)「いや『その侭』だろ!」
―同時刻・日本―
『と、言うわけなんだよ…すまねぇ兄貴…』
「気にすんなィ。それよか、お前もとっとと怪我治して前線復帰してこいよ?」
『おう…』
舎弟との通話を終えた松葉は、ふと叫び声のする方向に目をやった。
見れば、四角い顔立ちに白髪の男が、巨大な双頭の鼠に追い回されている。
「(…助けるか)」
そう思った松葉は、怖がらせないよう人の姿に戻り、男を助けることにした。
双頭の鼠の腹に蹴りを入れ、
「てォら!」
「ヂュァッ!?」
男を抱え、
「行くぞおっさん」
「え!?あ!?え!?」
走って適当な場所に避難し、話を聞く。
とても簡単な三工程。
―そして2分後・瓦礫の影―
「なるほど。そういえばどっかで見た顔だと思ったら、アンタ優民党の中根か」
「あぁ…確かに私は、優民党の中根博文だ…。
…奴らに狙われているのは国主党の筈なのに…何故私が狙われるんだろうね…?
…理由が全くわからないんだが…」
「……」
松葉は暫く黙り込んでから、言った。
「…青少年健全育成条例だかっての、言いだしっぺはアンタだっけっか?」
「…そうだが?ちなみにその法案、正しくは―
グシュッ
「…ぐぁ…な……に……?」
中根は、背後に現れた双頭鼠の左の頭が口から吐き出した、直径8cm程の針の様な舌によって、背中から左胸を貫かれてしまった。
幸いというべきか、不幸にもというべきか、彼はまだ死んでいない。
更にその直後、鼠の首が二つとも吹き飛んだ。
それは松葉が偶然持ち合わせていた大型カッターナイフ(段ボール用)の一振りによる物だった。
不快な湿った音を立てて崩れ落ちる、鼠の体躯。
一方の中根も、口から大量の血を吐き、松葉の足元へ倒れこむ。
対する松葉は、それを黙って見下ろしている。
「…がッ…ごぼっ…………」
「…………」
「…たッ…助け……助けてくゴェハッ!」
「…………」
「…ぅが……ぁぇ…頼む……私を………助けてくれ……」
「……アホ抜かせ。
人禍よりタチ悪ぃテメェを生かしといたらよ、人類が残ろうが滅ぼうが、どのみち日本は滅ぶだろ…」
「…そんな……事……グェフっ…………」
中根の口から吹き出る、大量の血反吐。
その動作を最後に、彼の一生は終わりを告げた。
優民党群馬県連会長・中根博文、死亡。享年64歳。
穢れた肉の塊と成り果てた中根に、松葉は言い放った。
「…許可は下りてんだよ…。
…『連盟の行動を阻害する恐れのある人間の殺害は、間接的手段に限り許可する』ってな……。
ま、案出したのは俺だがよ…」
―一方その頃・人禍本部―
人禍本部の空母内部・総統室にて、総統・コガラシは葡萄ジュースを飲みつつ、世界各地の戦闘風景を写しているモニターを見て言った。
「実に素晴らしい光景ね、博士」
「えぇ。全くです。巨像はあれから一歩も動いちゃいませんが」
そう返すのは、幹部・古藤玄白。
「あの裏切り者の愚兄めをどう殺してやろうかと思うと、この胸が高鳴って揺れまくるわ」
「それは何よりです。巨像はあれから一歩も動いちゃいませんが」
「それより私の定めた必須人類の捕獲と異形化の調子はどう?」
「至って調子良しです。巨像はあれから一歩も動いちゃいませ―「博士!」
「何です?」
「いや『何です?』じゃなくて!
さっきから何よ!そんなに私のシエスタを邪魔したいわけ!?」
「微塵もありませんねそんな考え。
ただ、本当に巨像が微動だにしていないので」
「仕方ないじゃない!あの時のたたきつけパンチと咆哮だって、操作判らなくなって適当にガチャガチャきゅ~っと巨像@ってやってたら何か出ちゃったのよ!」
「何やってんですか総統…操作方法ちゃんと教えたでしょうが…」
「何か最近アルツハイマーなのよ…」
「貴女ほどの強力凶暴な異形がアルツハイマー如きでどうにかなりますかって話でしょう」
「そうかしら…それにしても強力はともかく凶暴って…」
「当然でしょう」
「まぁ良いわ」
「良くないです」
「とりあえずこれから新キャラ色々出さなきゃいけないし、尺繋ぎがてらに替え歌でも」
「それで良いとお思いですか総統。
こうしている間にも他の幹部達や機械兵大隊、そして陸海空軍は地球上殆どの地域で国際異形連盟やその傘下にある組織と戦い、全人類殲滅及び異形化の為頑張っているというのに。
ヴァガルドス死亡は当然として捕虜になった奴も居ますし、僕の傘下でも史霊がもう三匹も死にましたよ」
「史霊~?あの子達ってキャリア長いだけでそんなに強くないんじゃなかったかしら?
そもそも貴方が組織内で公開してる益獣部隊のメンバー以外に、まだ隠しキャラの別働隊が居るって話も聞いたことがあるんだけど?
どういうことかしら?」
「HAHAHAHA~何のことですか総統?そんなモノなど居るわけないじゃあありませんか~。
擬似霊長擬似霊長ってしつこいほど動物キャラばっかりだったんですから、そろそろバラエティ増やさなきゃならないってのに~ねェ~~んもぅ~」
「博士、博士」
「何です?」
「ウザいわ」
「意識しましたから」
「なんて奴なの!」
「総統の部下ですから」
「……替え歌行くわよ」
「行くんですか?」
「行くわよ」
「行くんですね?」
「行くわよ」
「行っちゃうんですか?」
「行ーくーのーっ!」
「何処の萌えキャラですか。イラストも無いくせに」
「イラストは仕方ないでしょ。依頼版あるのに作者が依頼してないんだから」
「絵描きの身を案じてのことでしょう」
「まぁ良いのよ!行くわよ替え歌!ルルイエ、音源お願い!」
『畏まりました。高性能の超巨大ステレオスピーカーで、全世界に向けて垂れ流してやりましょう!』
「ようやるねぇ、ルルイエ。流石は最初の益獣だ」
「有難うルルイエ。丁度良かったわ。
それじゃあ、行くわよッ!
葉山不二子で、『バキャゴキャギリット・コガ@ジンカ』!」
「幾ら元ネタに併せようったってその曲名はどうなんですか…」
(以下、コガラシの歌。カッコ内は玄白の合いの手)
コガらっし!(ビー、)
コガらっし!(大学だけど)
コガらっし!(新入生は)
コガらっし!(車NGでさ)
コガらっし!(君の事)
コガらっし!(連れて)
コガらっし!(行けそうに無いんだ)
人禍☆MAKE
(泣くなよ…ロボだろ?)
何処までも腐るヒューマンズ
もう歯止め利かないわ止まんない(変身!)
ちょっとぐらいの善意・良心さえも
金・権力に惨敗(愚か者めが!)
奇跡の力を手に入れた矢先
怪盗の義父が殺されて~
組織 結成 求人も!(お仕置きィー!)
使えるもの 何でも使い~
(ニ、三人軽く CHI↑ MATSU↓ RI↑ ッツ!)
バキャゴキャギリット コガ☆らっし
この惑星に降りた悪魔
お出まし天才狂学者
ゾンビ 珍獣 サイボーグ(ッツ!)
バキャゴキャギリット コガ☆らっし
怒涛のサドマゾ悪魔
見とれるような超☆技☆法
もっと ちゃんと 活用で!適用で!殲滅よ!(メーン!)
バキャゴキャギリット コガ☆らっし
この惑星は人の手に余る
麗し地球と太陽は、私達が(ッツ!)
頂くわ!(メーン!)
絶対に!(メーン!)
即効で!(メーン!)
あと手塚松葉!(メーン!)
アンタは絶対~!(メーン!)
この私が(メーン!)仕留めるんだからね!
コガ@ジンカ!
(歌終了)
―同時刻・大西洋のどっか―
大西洋に浮かぶ、人禍別働隊の巨大タンカー。
その甲板に立つのは、あまりにも人類から乖離した容姿の人物。
「これは…総統の歌声か…」
深海魚・ボウエンギョのような大頭に大振りな野球帽を被り、鋭い節足の指を無数に持つ右手と蛸のような触手を無数に持つ左手、夏だというのに黒いロングコートを着込み、巨大な銛と水中銃とを背負った大柄な男。
序列第第二位の幹部にして海軍総司令官、ビル・ジョーンズである。
ジョーンズは懐から藤壺や海藻のこびりついた携帯電話のような機械を取り出し、機械に顔を向けて話し始めた。
「人禍海軍全隊に告ぐ。
各隊、クトゥルフ作戦の準備に移れ。
持ち場を離れる必要は無い。各地の水辺にアレを置け!
アレを以てすれば、いかな大都市や大軍隊も即刻亀状態だ!」
※亀…中国の慣用句で、妻の浮気に手も足も出せない男の例え。
※亀状態…上のことから転じて、手も足も出ない状態のこと。
連絡を終えたジョーンズは機械を懐に仕舞うと、言った。
「…後ろに居るのは判っているぞ?」
その声の直後、ジョーンズの背後に降り立った者が居た。
それは中性的な愛らしい顔つきの人物だった。男子用学生服を着ているが、一目見ただけでは性別を特定することは出来そうに無い。
背中からは鴉を思わせる翼が生えており、側頭部には猫の耳、腰か尻の位置からは細長い猫の尾が2本生えている。
腰に刺さった日本刀は、その外見に似合わない反面、愛らしさを引き立ててもいる。
そんな謎めいた人物を見て、ジョーンズは言った。
「人禍幹部…それも十三人居る内の第二位である私に、一騎打ちを挑んでくるとは…実に勇敢なお嬢さんだ」
その言葉を聞いた性別不明の人物は、仄かに瞳を潤ませ、保護欲をそそるかのような表情でジョーンズに言い返す。
「僕は…僕は男だっ」
「男だと…?これは失礼。相手の性別当ては数ある特技の一つだったんだがな、まぁ女装魚類というのも居ることだし、良しとさせてくれ。
それと、自己紹介が未だだったな。
人禍幹部第二位にして、人禍海軍総司令官のビル・ジョーンズだ。
こんな姿だが一応人間型でな、この姿は能力の弊害というか、オマケのようなものだ」
「…カナダ異形連盟オンタリオユニットオタワチーム所属、桜花・クローネンバーグ。
父さんはカナダ人で、母さんは日本人。
両親はどっちも連盟の幹部格をやってる。
耳は母さんに、翼は父さんに似てこうなんだけど…」
そう言って、桜花少年は腰の日本刀に手をかける。
「その刃物…そこいらの包丁や模造品とは訳が違うようだな?
見た所かなりの一品と見え――?」
その瞬間、桜花少年の目を見たジョーンズは、一瞬自らの脳を疑った。
「それは…さ、斬られてみなきゃ判んないと思うよ…?」
何故なら少年の表情は先ほどと打って変わって、冷酷さに溢れていたからである。
「|解離性同一性障害(DID)か…」
解離性同一性障害。
解離性障害の一種で、事故などの強い心的外傷から逃れようとした結果、解離により一人の人間に二つ以上の同一性または人格状態が入れ替って現われるようになり、自我の同一性が損なわれる疾患である。
かつてはこの疾患を多重人格障害(略称MPD, Multiple Personality Disorder)と呼んでいたが、これはDSM-IIIにおける旧称、または、ICD-10における呼称である。発症原因に不明の部分が多く、現象論ばかり展開される傾向にあるので予断は禁物である。
多重人格障害という旧称が表す通り、明確に独立した性格、記憶、属性を持つ複数の人格が1人の人間に現れるという症状を持つ。
ほとんどが人格の移り変わりによって高度の記憶喪失を伴うため、診断が遅れたり、誤診されることが非常に多い疾患である。
つまりは精神科医療の分野でも正確な知識を持たない医師、臨床経験が無い医師が多く、精神科で受診しても治療不能となる場合も多々あるのが現状である。
「…へぇ、多重人格とか二重人格って名前しか知らなかったけど…」
桜花少年は空高く飛び上がり、刀を両手でしっかり握って頭上に掲げると、重力を利用しそれをジョーンズ目掛けて振り下ろす。
「そんな名前が有るとはねェ!」
ズガシュ!
刀がジョーンズの右肩から腰辺りまでを切り裂いた。
しかも、刃はジョーンズの右肩に接触した瞬間発火し、傷口を焼いてしまった。
焼け焦げた傷口はどこか蠢いており、何かが寄生しているように見えた。
「ぐおぁぁぁッ!ガニュメデスがヘルクレスの真似事か!」
※ガニュメデス…ギリシャ神話に登場する美少年。水瓶座の人。
鷲に化けたゼウスに誘拐されたことがある。
※ヘルクレスの真似事…英雄ヘルクレスは、九の頭を持つ水棲巨大毒蛇ヒュドラに挑む際、その尋常でない再生能力を封じるため、ヒュドラの首を斬るとその傷口を焼いた。
桜花少年は追加とばかりにジョーンズの腹に両足で強烈な蹴りを繰り出し、彼を吹き飛ばすと同時に反動を利用し自らも後ろへ下がった。
「成る程…典型的ながらとても強力な力だ…だがしかし……私の能力を軽視して貰っては困る!」
ジョーンズは歯を食い縛り、全身に力を込める。
すると、驚くべきことが起こった。
微かに蠢いていたジョーンズの傷口が更におぞましい動きを見せ始め、徐々に姿を変えて行き、最終的にそれらは不気味に蠢く気味の悪い節足や触手へと変化したのである。
蠢く節足や触手は、互いに絡み合い、傷口を縫い合わせるように、また練り固めるように修復していった。ロングコートさえ元通りである。
「…ッ!?」
桜花少年は吐き気を必死に堪えた。
何故なら、彼は小さい頃から百足や海老等の多脚動物や、イソギンチャクや蛸などの触手動物に異常なまでの恐怖と不快感を抱いていたからである。
「…おぞましいだろう?不快だろう?
これぞ私が持つ『海獣』の能力。
即ち、全ての物体をありとあらゆる『海にまつわる物』に変える能力だ。
とはいえ、私が変えるのは海洋生物ばかりだがな。
元海兵で元海賊で元海洋生物学者だからな」
「へぇ…つまりそのサカナ面に、カニやタコみたいな手は、その能力を自分に使ったって訳かぁ…」
「そうだ。ついでに言っておくが、この能力の対象にされた物は余程の強靭さや稀有な才能が無い限り、私の支配下に置かれてしまう。
だが安心しろ。私も一応紳士の端くれでな、お前自身にこの能力を使う気など更々在りはせん」
「そうかい…あんた…人禍のクセに…」
桜花少年は再び刀を構え、それを水平にジョーンズへ向け、まるで突撃槍の如く突進を繰り出す。
「案外優しいじゃねぇかよォーッ!」
「そうでもないさァー!」
激化を続ける剣士と海の魔物との戦い。
そして、この戦いを影から覗き込んでいる、悪趣味な輩が居た。
そいつは桃色のツインテールをたなびかせた十代半ばほどの小柄な少女だ。
桃色と白を基調としたセーラー服を着込んでおり、その顔だけは愛らしい。
少女は言った。
「ウフフフフ…馬鹿な男どもね。
漁夫の利という言葉を知らないのかしら?
まぁ、知っていたところで私の勝ちは決まったようなもの…『飛竜』と『禽獣』そして『地獄の頭脳』とを飼い慣らし、地球の女王となるのはこの私…。
真の人禍最強・華凰院麗姫様よ…。
愚かな下等生物ども、そして私の力を知らぬ無知な異形のものどもよ、精精指をくわえながら見ているがいいわ…。
この、本領を発揮した唯一絶対の現人神が起こす、麗しの快進撃を。
とはいえ、幾らこの私でも流石に一人では限界があるわ…よって手始めに、私は幹部ビル・ジョーンズを篭絡し、現時点での人禍で最大の規模と戦闘能力を誇る海軍の指揮権を奪い、クトゥルフ作戦の対象を無差別に変更し、同作戦を決行。
そうすれば、下等生物どもはおろか異形達すら恐れの余り私に平伏すでしょうね…。
どうかしら?読者ども。
実に素晴らしい作戦でしょう?
貴方達も殺されたく無ければ、今のうちに私の信者になっておくべきよ」
無論、そんな無意味な煽りを間に受けてはならない。
人禍幹部序列第十二位・華凰院麗姫。
傲慢で身勝手な彼女は、人禍幹部で二人しか居ない『年齢が20歳以下の異形』であり、もちろん後天性である。
そして同時に彼女は今現在、自らを保護している組織への反逆を企てていた。
人禍の最高法規第29条など、知る由も無い。
―人禍機関員最高規定第29条―
機関員が組織に対し明確な反逆行為を実行に移した場合、最低でも組織追放とする。
またその反逆行為により、特殊部隊員及び幹部側近以上の人員が死亡或いは致命傷と呼べる被害を負った場合、総統或いは総統の許可を得た機関員によってのみ、反逆者の処刑(抹殺)が許可される。
また、反逆により自らの管轄部隊や担当作戦に被害が生じた場合、序列5位以上の幹部でにのみ、原則総統の許可が無くとも処刑執行が許可される。
但し、不当な処刑を行った者は、最低でも1ヶ月の謹慎とする。
ジョーンズ「いやぁ読者諸君。お初にお目に掛かるな。
私は人禍序列第二位の幹部ビル・ジョーンズ。海軍総司令官もやっているんだ。
次回は私が大活躍するぞ!みんな、応援してくれ」
桜花「何か子供向けの健全アニメみたいだね…全然そんなんじゃないのに。
次回、白い巨像第四部『死にたいと思ったら、それ以上に生きたいと思え』…って、これ絶対嘘のタイトルだよね?」