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第二類 蟲の本気と蟲の本音






















ウィナグ「この後は『ソニ●ミ』っ!チャンネルはそのままですよぉ~♪」

フェイ(怨霊)「アンタ凄いな…何処からそんな声出してンのさ?」

ウィナグ「節足動物五億年の神秘です。

ちなみに、ギターも弾けます」

玄白「ウィナグ、完璧だ」

―前回より―


しかし、何を同考えても奇妙極まりない事ではないだろうか?

ゴキブリとは確かに最速の昆虫である。

しかしそれは脚力の話であり、飛行能力に関しては多くの甲虫やトンボに劣る。

ましてや戦闘機顔負けの素早い方向転換など、そもそも昆虫に出来るはずがない。

それが何故、こうも出来てしまうのか?

その理由を知らぬまま、二人はラウチと戦い続けていた。



「イヤハヤ!先程からワタクシ移動しかしてないんですがねェ!

何故お二人とも、ワタクシの攻撃が当たらないんでしょうかァ?


まぁ理由の見当は大方付いておりますがね!

速いんでしょう!?このワタクシが!

そして貴男方はこうも思っていらっしゃる!


貴様は何故そんなに速いのかと!」


天高く滞空を続けるラウチは、声高らかに自らの生い立ちを語り始めた。


「私、生まれた瞬間何故だか息苦しかったんですよ。

そう、呼吸器官が弱かったんです。それも貧弱なんてレベルじゃあないほどにね。

そして物心ついた頃には、既に私は異形として目覚めていました。何時だったかなんて知りません。ただ、目覚めていたのです。


そして後々調べて頂き判ったことなのですが、私の肉体の先天的な欠陥は天然の水素によって補われているらしく、どういうわけだか体重が軽いのですよ。

それどころか私の呼吸器官は一部水素生成器官になっておりましてね…っと、こんな事を言ったところで貴男方が私をどうにかすることは出来ないでしょうがねぇ」


甲高い声で笑うラウチ。

彼はこの時、心から痛感していた。


「(私は今…心から自分に酔っているな…)」


―同時刻・中国―


ミューズ夫婦の息の根を止めた鉄治・千晴・千歳の三人は、海中から飛び出してきた新たなる敵に苦戦を強いられていた。



腕のような、翼のような胸鰭と、腹鰭の変化した脚とで立ち歩く巨大魚―史霊分隊の『秋』を勤めるシファクティヌス(中生代の巨大肉食海水魚)の擬似霊長・イクティス。

至る所へ瞬間移動を繰り返す彼の鱗と骨とは、硬さに於いて全金属元素中五本の指に入るほどではないにしろ、それでもかなりの硬度を誇るチタンによって補われ、弾丸を弾く強度を誇っていた。


「…地球(ガイア)が俺を作り、地球(ガイア)が俺を導いた…故に俺はあの大量絶滅を逃れ、今こうして此処に在る…」


イクティスはそう呟きながら、疲弊した鉄治達三名をにらみつける。


「俺が人禍序列一の幹部・古藤玄白が直属特殊部隊『益獣部隊』の一分隊『史霊分隊』が一人、シファクティヌスの擬似霊長で、名前はイクティスだって事は…もう言ったよな?」


「あぁ…聞いたぜ…」

「魚が歩いてしゃべるなんてシュールだよな?」

「いやぁ…それよかお前……こんな短時間でヘバってるっつー現実のがシュールだぜぇ…?


…トレーニングサボったツケが回って来たらしいな…ド畜生め……兄貴に顔向け出来ねぇじゃねぇか……」


そう言って座り込んだ鉄治は、疲労によって地に伏したままピクリとも動かない千歳の頭を撫でる。

するとイクティスは鉄治にこう言った。


「…………そんな事なら安心しとけ。

テメーやテメーの妾ちゃんズがそこでヘバってんのは、俺の能力の所為なんだからな…」


「能力…だと?」

「そーだ。そもそも俺達史霊分隊は一人一人四季に関する称号をもらっててなぁ…それが能力に関連付けられてたりすんだよ」

「へへぇ。つーこたぁ、テメーらの内二人はアレか。気温の上げ下げが出来んのか」

「まーな。そりゃ夏の奴(フェイ)と冬の奴だ。

俺の称号は『秋』だ」

「秋ィ?」

「そう…秋だ…。

秋ってなァ、農家は実りの季節と言い、食い意地張ってる意地汚ぇ連中は食欲の秋と抜かし、絵描きや漫画家は芸術の秋と言い、本の虫は一年中読書してるくせに読書の秋だと本にかじりつき、脳筋ハゲどもはスポーツの秋だのとうるせぇことこの上ねぇ…。


だが、秋って季節の真髄はそんなクソみてぇなモンじゃねぇ…そんなのはただの戯言だ…。


秋…それは劣化と衰退の季節…あらゆる生物が全盛を誇る夏から、平等なる眠りと死と節制とを万物に分け与える冬への下り坂……そう、俺の能力は『衰退』。

俺の周囲にある全てから力を徐々に失わせていく力だ」


「何…?」

「ま、話したところで―」


イクティスが右胸鰭を挙げると、彼の姿がその場から消える。

と、その時。

地に伏せていた千晴の手が拳銃を構え、一発の弾丸を放った。

その弾丸は当然イクティスを素通りし、物陰に隠れている|別の的(●●●)に直撃した。

そしてその瞬間、イクティスの瞬間移動が突如中断された。

「(まさかッ…)」



そしてイクティスは、物陰に隠れている仲間の方を見た。

引っ繰り返ったトラックの陰から倒れるようにして姿を現したのは、何とあの木五倍子盛であった。

彼女の白いシャツが一部、血で赤黒く染まっている。


「ッ…ご免、イクティス…防弾チョッキ…忘れた……」

「大丈夫か!?」

「お腹撃たれたみたい……転移無理かも…」

「そうか…休んでろ。

俺ァピンでも奴等を引き摺り下ろして細切れにしなきゃなんねぇからな」

「ごめん…不甲斐なくて…」

「何言ってやがる。お前の負傷は幹部序列三位たる曽呂野様の代理(スペア)を勤めきれてねぇ俺の過失だ。

良いから休んでろ」

「…うん」


「さァてッとォ…お楽しみはこっからだぜ?

こっからはテメー等と俺で真剣勝負。純粋に俺を味わってくれよなァ?


ま、チタンで出来た俺の鱗と骨に太刀打ちなんぞ、そう出来はしねぇだろうがよ!」

「言うじゃねぇか…よッ!」


足をバネ状に、両手を刃物に変化させた鉄治は、地面を蹴って勢い良く跳躍。

まるで弾丸のようにイクティスへ向かって行く鉄治と、それを迎え撃たんとするイクティス。


この時、イクティスはこう考えていた。

自分の骨や鱗を切り裂く異形が存在するはずがない。

しかしその予想は、



ザガシュッ!


「…あ…?」



見事に外れた。


鉄治の右腕は、見事にイクティスの外皮を刺し貫いた。

それも、心臓の位置を的確に。


「…あん…で……だ…?」


瀕死のイクティスに、鉄治は言う。

「魚の脳ミソなんぞ所詮この程度ってか?

それとも、テメーの持ってた情報が少なかったのか?



俺の能力は『金属』…つまり、この世に存在するすべての金属元素を体で真似る力。

そしてそれと同時に、何にも負けない無敵の金属に成る力でもあんだよ。


チタンが何だ?硬さならタングステンがトップだろうが。

それにな、テメェのその高く繰りまくった態度よ。

正直負けフラグもいいとこだぞ?


だから、よ。

世界の為に死ねよっつー話でな」


ガゴリュッ


「………俺にゃあ…無理だった…らしいなァ……畜生め……やっぱ…幹部序列三位の代理なんぞ…」


イクティスは地面に崩れ落ち、力尽きた。

盛は向こうで黙ったままである。


「さて、と…これでここいらは大体制圧したな。

あとはあの女…殺すにゃ惜しいな…。

っと、千晴に千歳、大丈夫か?」


「…はい、疲れも引きましたし」

「狙いを定めて引き金を引く程度の体力なら…」


「ィ良し。なら一度帰っか。

土産がてらに|木五倍子(あの女)持ち帰って救護班に手当てでも―「待ちな、少年!」



そいつは、空から舞い降りた。

というか、飛び降りてきた。

パンツ見えようが、乳揺れようが、そんなもん気にするどころかむしろ狙ったように。


勢いよく、盛大に着地する。


その女は、上半身へ白いシャツと袖のない上着を着込み、下半身に短いタイトスカートを履き、深緑色のロングヘアを棚引かせていた。

頭髪は後頭部辺りの一部が束ねられており、軽いポニーテールになっている。

長身で手足が細く、引き締まったボディラインに、大きく形の整った艶やかな胸と尻とは、整った小顔と並び、男のみ成らず女さえも魅了してしまえるほどに美しかった。

そして、頭上にはサングラスを乗せている。

そう、曽呂野である。


「…姐…さん?」

「待たせたねェ、盛…でももう大丈夫だよ。


と、自己紹介が遅れたねェ…アタシは曽呂野。

人禍幹部・序列第三位の女…」


「曽呂野…?あの…伝説の異形か?」

「そう呼ばれたような事もあったにはあったねェ。

ま、逃げ出した臆病者が伝説とか、笑い話も良い所だと思うわけだけど」

「気にすんなよ。お前は伝説だ」


その言葉の直後には、曽呂野の紅い剣と鉄治の銀の刃とがぶつかり合っていた。


―一方その頃のヨーロッパ―

健一と大志は、未だ苦戦を強いられていた。


「ははははははははは!遅い!遅い!遅いですなァ!そんな遅さでよく幹部など務まるものだ!」

ラウチの速さは、既にあらゆる法則を逸していた。


そして、防御の為に全身を硬化させていた大志の腹に、ラウチの鋭い爪が叩き込まれる。


「ぐぉあッ!」

「大志!?」

ふらつく大志に、健一は駆け寄っていく。

「…すいません、隊長…あと、頼んます……」


どさり。という音と共に、大志は地面に倒れたまま動かなくなった。

「大志!大志!?しっかりなさい!大志!」

柄にもなく叫ぶ健一を、ラウチはただただあざ笑う。

「ヒィハハハハハハハハハぁ!この鈍間めが!だからお前は死ぬんだよ!この身の程知らずめ――…?」

敵の死をあざ笑うラウチは、宙に浮いていたはずの己が、急に地面に落ちていくのに気付く。

そして自らの体を見て、驚いた。

「んなっ…こいつは!」

ラウチの体は全身黒い糸で拘束され、その様はさながら黒光りする簀巻きの様であった。

「えぇい!高々ニ、三百年の若造如きが――

台詞を言い終わる前に、ラウチの頭は黒い糸で完全に覆われ、地面に叩き付けられた。


ラウチを縛り上げた張本人・黒澤健一は、黒い繭となった背後の虫を尻目に、未だ起きぬ部下に語りかけ、その名を叫ぶ。

自らを最も慕う、最愛の部下の名を。


「大喜多、大志ィー!」


―明治の東京―

「貴方が、新人の方ですか」

「はい!今日から日異連東京チーム配属んなりました。大喜多って言います!」

「大喜多さん…ですね。何はともあれ、よろしくお願いします」

「ハイ!よろしくお願いします!」


私が日異連で、災害救助や犯罪異形討伐等を行う小隊の一つを率いていた頃、その男は現れた。

大喜多大志。

筋骨隆々な中年男の姿をした、軽薄で下品な、しかしそれでいてどこか憎めない雰囲気の男。

以前の職場でも警備部隊に居たらしく、体力を常に余らせているようだった。


そして、主に暗殺・諜報等の精密作業を専門とする私は、そんな彼を、どうしても、



好きになれなかった。

別段、馬が合わなかったとか、そういうわけではない。

ただ本当に『何となく』好きになれなかったのである。


しかし、数日後。


「よー、健一ィ」

昼食を取っていた私の前に現れたのは、幹部一人・手塚松葉。

彼は私よりもずっと以前―異形による組織が立ち上がる前から活動している、文武両道の男性だった。

「手塚殿…?」

「手前等第七機動小隊に出動要請だ。野良の異形が地主の家を連続で襲ってる。サツが動いたようだが、当然かませ犬らしく緊急連絡が届いた。

要請の理由が暇かつ派手な能力の無い奴が集合してるからだとかって話だし、金持ちなんぞ幾ら死んでも問題無ぇとは思うが、ほっとく一般人も殺されかねん」

「判りました」

「あ、飯はしっかり食って行けよ?」


そして、数分後の幹部室。


「皆、集まってくれたようだね。遅刻者も居ないし、順調で何よりだ」


幹部・古藤玄白の発言に、私は疑問を抱かざる終えなかった。

何故なら、その場にはただ一人、人員が不在だったからだ。



その男とは、大喜多大志である。


いい加減な男だとは思っていたが、緊急招集にすら集まらないとは。

そしてその事を、古藤に指摘する者は居ない。

何故ならこの男は、どういうわけか他人からの指摘等を無視して突き進む事がしばしばあったからだ。



そして、現場。


そこに居たのは、手から炎を放ち、あたり一面を無差別に焼き尽くす少女だった。

「愚民ども!この私に平伏すが良いわ!」

ああ、半径十メートル以上が焼け野原だ…あれでは近付けなくとも仕方ないな…。

「うふふふふふ…神の前では、如何なる物も赤子同然なのよ!」


神気取りか…馬鹿もここまで来ると最早才能の領域だな…。


そんな事を心の中でぼやきながら、私達第七機動小隊は神気取りの放火犯に向かう。

私はこの時、この仕事が三十分もしない内に終わるだろうと思っていた。


この後、その予想は悉く裏切られてしまうとも知らずに。

次回予告

大志「あーあ、俺死んじまったよ…」

健一「そう気を落とすものではありませんよ、大志。

この作者の事です。コ●ボイの如く何処かで復活という事だって有り得ないとは言い切れないでしょう?」

大志「そうですがねェ…っと、次回は黒沢さんの過去話ですかィ」

健一「貴男も出ますよ」

ラウチ「そうだぜ!だからテメェも気ィ落とすなって!」

二人「「お前は出てくるなッ!」」


曽呂野「次回、白い巨像第四部『定義上、直線とは途切れなく続く決して曲がらない線の事』


へぇー。じゃあ直線ってこの世に存在しないんじゃね?とか思ったアタシは負け組かねぇ」

三人「「「お前が次回予告するなよ!」」」

盛「姉さん…私達の出番はまだ先でしょ?」

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