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第十類 このろくでもない素晴らしき世界








暴走してしまった雅子の運命や如何に…

―同時刻・アメリカ大陸―


直美、薫、昭三、良太郎、タウンゼンド、ルークの六名は、他の同士と共に、ラナバドンや突如現れた陸上動物兵器軍と死闘を繰り広げていた。

その大群こそ、幹部序列第四位・明地長閑率いる人禍陸軍であった。


「エェァァァァァ!」

「ハァァァァァァ!」

獣化した直美が大柄な亀の化け物の頭蓋骨を叩き潰し、薫が跳び上がって甲羅の上から生えていた砲台の様な植物を切り刻む。

素早く走り回る猫の化け物の群れから昭三が熱を奪い、其処へ岩の巨人と化したタウンゼンドの打撃で一網打尽。

更に彼の肩の上には良太郎が乗っており、タウンゼンドの鎧の破片を『投射』の能力で砲丸にして投擲。

巨体故に小回りのきかない彼のサポート役に回っていた。


一方、単身戦うルークも別段苦戦は強いられていないようだった。

何故なら、敵である陸兵の殆どは、彼の舞踊を取り入れたような動きに翻弄されるがまま、只攻撃を受け続けることしかできなかったからである。

「余!歩っ!成ッ!噴濡ッ!」

踊りながら戦う彼―ルークの能力は『舞踊』と言い、これは即ち彼の音楽とダンスを愛する心を象徴する能力と言って良い。

これは使用・解除という概念が無く、常に発動された状態の能力であり、その主軸となる要素とはつまり「生活に舞踊を取り入れ、舞い踊るように軽快な動作であらゆる作業を軽々と思い通りにこなす」というものである。

更にこの能力には、ある意味で他者を操るという効果もある。

極めて近くに接近した相手に限り、自分のダンスの振り付けやメロディなどの情報を相手の神経に電気信号を通じて送り込み、短時間ではあるものの相手を強制的に「踊らせる」事が可能なのである。

この能力による舞踊強制に拒否権はなく、何者をも従わなければならない。

更に、脳を使い慣れていない相手や原始的な脳しか持ち合わせていない相手は脳で処理できる情報の限界を突破してしまうため、一時的に混乱して動けなくなったりしてしまう。また単純に疲労や骨折で弱らせることも出来る。

ただ、この舞踊強制弱点があるとすれば、それは脳に値する器官を持たない相手には全く通用しない事と、ルーク自身が相手のかなり近くで踊り続けていなければならないという事であろう。



一騎当千の猛者達の活躍によって、ラナバドンは兎も角として、陸兵は着実にその数を減らしていった。


―一方その頃―

「……」

人気のない岩場に留められた、一台の大型改造トレーラートラックの中に、その少女は居た。

外見は16歳程の、青色のショートカットが特徴的だった。

物静かで知的な雰囲気の彼女の名は、明地長閑(アケチノドカ)

序列四位に属し、また陸軍司令官という肩書きも持つ。

ビルや天野とは違い完全な頭脳派で、雰囲気の通り物静かで知的で聡明。

それで居て冷酷ではなく、寛大で善意と良心に溢れ常識的であるという、極めて珍しい性格の人禍機関員である。

また、彼女は先天的に二つの能力を持つという珍しい異形でもあるのだが、その話は後程。


長閑はコーヒーを口に含むと、ぽつりと言った。

「…猫さん」




その声に応じてか応じずにか、長閑の目の前に緑と黒のワンピースを着た赤い長髪の女が現れた。

長身に均整の取れたスタイル、そして猫のような飄々としながらも何処か冷酷そうな―即ち猫のような眼が特徴的な女である。

外見年齢はしめて二十代中盤と言った所か。


「呼びました~?」

猫と呼ばれた女は、その目つき通りの狡猾そうな態度で言った。

対する長閑も少し表情を崩す。

「猫さん、陸軍が壊滅寸前です。行ってくれますか?」

「勿論ですとも!明地総司令のご命令とあらば、死にもしますし犯されもしますよ~ん。

で、何か読めました(・・・・・)?」

「はい。どうやら相手六人の内4人は連盟の幹部で、残る二人も相当な使い手のようです。

貴女の能力を存分に使って、眼前敵を打ち倒して来て下さい」

「おほ!幹部が四人?それはまた見過ごせませんね!

それじゃ、行ってきまァ~す!」

「行ってらっしゃい。気を付けてね~」

行って駆け出していく猫に向けて、長閑も優しげに返す。

その会話は、まるで出掛ける家族を送り出すかのようだ。


―数分後―


「…と、陸兵は粗方片づけたが…」

「まだあの青いエビ共が残ってやがるぜ!ド畜生!」

一行がラナバドンとの戦闘を再開しようとした、その時。


突如、無数の何かが現れた。

それは人型であったが、いずれも何処をどう取っても生物とは考えがたい外見をしていた。

それもその筈。「何か」達の外見と言えば、目が二つ以上有ったり、逆に大きな目玉が一つしかなかったり、手足が何本もあったり、動物のパーツを出鱈目に繋ぎ合わせたような外見をしていたり、解体した人形を無理矢理接合したかのような不気味で醜悪な者が殆どだったからである。


「ちょ、グロっ!何なのよコイツ等!?」

「確かにどいつもこいつも見るに耐えんヴィジュアルだな…」

香取家の二人がそんな事を呟くと、何処からともなく陽気な声が帰ってきた。

「あれまァ~やっぱり一般受けするようなデザインじゃ無かったかぁ!」

「誰だ!?何処にいる?姿を見せろ!」

薫は血走った視線で辺りを見渡すが、暗がりの中では相手が何処にいるのかなど解るはずもない。

「薫よ、落ち着かぬか。我が村瀬家の家訓を忘れたわけではあるまい?

思い込みは死を招き、感情的になった者が滅びやすくなる…」

「申し訳御座いませんお爺様…忘れておりました」

「いや流石だねぇ!それでこそ異形連盟代表幹部村瀬昭三様だよ!」


スタッ…


地面に降り立つような音と共に、声の主が一行の目の前に姿を現した。

その女こそは、先程登場した猫のような眼の女―長閑に「猫」と呼ばれていた女である。


「アタイの名前は『死者の飼い猫』。異名みたいだけどコレが名前なのよねん。

デッドズ・フェリスとかフェリス・オブ・デッド、更にはその略でDFとかFODって呼ばれる事もあるけど…」

「キャットじゃ駄目なのかよ?」

そう突っ込んだのはタウンゼンド。

「あぁ…キャットって手も有るには有るんだけど、何か使い古されたみたいで手垢まみれっぽいじゃん?

その点フェリスってギリシャ語で、その道の人以外はそんな耳にしないじゃん?

だからさ、何か格好いいなぁって!

まぁあんまりにも酷くなければ何と呼ぼうと構わないよん。作者は執筆中に考えた結果FODで通すらしいけど。

そんじゃま、これから始まる今世紀最大の死体イベント『ドキッ!ゾンビだらけの死者冒涜御免な乱闘会』。

個々に過ごし方は違うだろうけど、とりあえずアタイから一言。



_人人人人人人人人人人人人人_

>  ゆっくりしていってね!!!<

 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ 」



その合図と共に、その場に居た無数の奇々怪々な化け物達が一斉に動き出し、六人を襲い始めた。

薫・良太郎・直美・タウンゼンドの4人はその光景を見て、思わず腹の底から叫ぶ。


「「「「ゆっくり出来るかァ!」」」」



しかし残る二人は至って冷静で、

「いや、これは案外ゆっくり出来るんじゃないか?」

「皆の者…平常心を保て…感情的になっては死んだも同然だぞ…」


―一方その頃・雅子―




「…………此処…何処?」


気が付くと、雅子は奇妙な空間で目を覚ました。

其処は岡山の実家にある自室とそう変わらない広さだったが、向かって左の壁は一面本棚、右側の壁はゲームソフトの棚になっていた。

更に正面の壁には自分がよく研究・実験に使う器具が並べられていたし、正面の壁は愛用の家電製品が並んでいた。

もっと驚いた事には、床がそのまま巨大な水槽になっていた。

更にその中では、分布・時代・棲息区域等に統一性のない様々な水棲動物達が自由気ままに泳ぎ回っていていた。

残る天井に至っては巨大なスクリーンになっており、自分の好きな映像がぶっ通しで流されているという光景にも驚くばかりだった。


「やっと起きたのね。遅いじゃない」

ふと、そんな何処かで聞いたような声が耳に入り、雅子は振り返る。

すると其処にいたのは、細身で小柄な金色ツインテールの少女だった。

何処か気性の荒さを感じさせる顔立ちは、それでもとても整っており可愛らしく見えたが、雅子が何より驚いたのはその少女の格好だった。


何とその少女は、上半身こそピンクと白を基礎としたセーラー服を着用していたが、下半身は白とピンクの縞模様のパンツ一枚だったのである。


「………あの、つかぬ事お伺いしますが…貴女は一体?」

「あら、そういえば貴女と顔を合わすのは初めてだったわね。

自己紹介が送れたわね、私はク・ギュウ。貴女の能力『変化』の化身よ」

「化身…?」

「あら、貴女異形なのに化身も知らないの?

良いわ、今回は特別に教えてあげる。

でも勘違いしないでよね。べつに貴女の為に説明してあげてるわけじゃ―

「いや、確かに私は異形になってまだ2年のヒヨッコ後天性ですけど、一応化身については知ってますよ。

アレでしょう?

異形が持つ能力の情報を主体に、性格・趣向・思考等の情報を元手に、異形の精神内部にあるとされるその個体専用の空間―通称『意識空間』と共に形作られる意識空間の住民であり、異形の影なる分身と呼べる存在の事ですよね?」

「…く、詳しいじゃない。

それで、今日は何の用事で此処に来たの?」

「え?用事とかは特に有りませんけど…っていうか、化身は化身同士独自のルートで情報交換をする事が出来て、尚かつ分身に何が起こったかは直ぐに知ることが出来るんじゃありませんでしたっけ?」

「あ、あれ?そうだったかしら?

いや何て言うか…そう、あの子!エヴァ・ブラウンの化身とお喋りしてたら意外に盛り上がっちゃって。

ホラ、あの子ってもう何百年も生きてるのにまだこんなに小っさくてね、その上ちょっとおませで知りたがりな所があるから―

「エヴァ姉さんでしたら第三部で敵の攻撃を受けてお亡くなりになりましたけど?

で、異形が死んだ場合化身も一緒に消滅して、自分の意志で消滅を食い止める事は出来ないそうですけど?

あとあの人の化身って無茶苦茶男前で凶暴な白熊の化け物ですけど?

エヴァ姉さんの危機には普通に実体化してバンバン殺しまくりますけど?

彼のどこが小さい(イコール)大体高さ20cmくらいでおませで知りたがりなんです?」


「う゛………」

「さては貴女、私の化身じゃありませんね?

どっか変だと思ったんですよ、私ハ●テどころかサ●デー自体全く読まないし。

しかも嬉しくないパンモロはどっちにしろ嬉しくないし。釘●病でもないし。

ツンデレも好きだけどやっぱり癒し系とか少し変な奴の方が萌えますし。

てか私の化身って絶対そんな普通の変態オタクの面汚しの抱き枕イラストみたいな姿してるわけ無いよなーって思ってたんですよ。

あぁ可笑しいと思った。こんなアホ丸出しのデザインな訳ないんですよ。

アタシって変態は変態でも常軌を逸した変態だから。普通の変態にすら引かれる事あるんだよね」


完膚無きまでに言いくるめられてしまったク・ギュウは、目に涙を浮かべながらこう言った。


「うっ……五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅いっ!五月蠅ぁーいっ!

この馬鹿犬!駄犬!変態!変態!ド変態!死ね!とっとと死ね!」

「あぁもう五月蠅いなぁ…。

●宮さんは好きだけどね、キャラとして一押しなのは基本銀●の神●とか●た●れのカミ●なんだよアタシとしては。

シ●ナといかル●ズとかは好き嫌い以前に眼中にないし、あと聞きたいんだけどさ、後半明らかに2キャラ入ってたけど誰?

っていうか『死ね!とっとと死ね!』は明らかに釘●キャラの台詞じゃないよね?

何たって作者が何か一捻り欲しいからって入れただけだもんね?」

「ええそうよ!適当よ!でも残念だったわね!貴女はもうここからは出られないのよ!」

「は?」

「だから、貴女はもう二度とここから出られないの!一生ここに閉じこめられて暮らすがい―ズガッション!

突如腹を貫かれ、陶器の様に崩壊するク・ギュウ。

「!?」

驚いた雅子が辺りを見渡すと、天井に巨大な深紅の蜘蛛がへばり付いているのが眼に入った。

「危なかったわね。ソイツは偽物よン」

蜘蛛はそんな事を言った。

雅子はとりあえず、その蜘蛛に挨拶することにした。

「あ…どうも初めまして……楠木雅子です…」

「此方こそ初めまして。私、角松って言うの。宜しくネ」

蜘蛛は何処か雅子に似ているようにも聞こえる艶やかな声でそう言った。

「あ、じゃあ角松さん。色々質問しても良いですか?」

「良いわよン」

「先ず、私は現実の方ではどうなったんですか?

男の子助けてたら、その子がエビの化け物に殺されて…それでその子もエビになってから覚えてないんですけど…」

「あぁ…貴女ね、男の子が殺されちゃったショックで暴走しちゃってたのよ?今は収まった方だけど、そりゃもう酷い有様だったわ。

それで、身体が自動的にこのまま意識を残しておいたら危険だって判断して、意識空間に貴女を投げ込んだのヨ」

「そうだったんですか…それで、いま直ぐ戻れます?戻ったとして戦えますか?」

「えぇ。戻れるし、戻ってからも今まで通り…いえ、もしかしたら今まで以上に戦えるかもしれないワ」

「有り難う御座います」

「えぇ。頑張ってね。でも気を付けて。白い巨像が貴女を狙ってるの。

意識が戻り次第何かしてやろうって眼だわ。きっと貴女が眷属で可愛いかららでしょうネ」

「そうですかね?じゃあ、行ってきます。」


雅子は角松に別れを告げ、意識空間を後にした。


―直後・東京―

「!!」

不定型な七色の泥から人間の姿に戻った雅子は、飛び起きるようにして目を覚ました。


「楠木!」

「雅子お姉ちゃん!」

「楠木さん!」

「「楠木殿!」」

鉄治、恋歌、逆夜、妹尾姉妹が順にやって来ては出迎えてくれる。

しかし、何処を見渡そうとも松葉の姿が無かった。



「(手塚さん…やっぱり幹部は忙しいから、みんなに任せてどっか行っちゃったのかな…)」




雅子がそう思った瞬間、背後からとても恐ろしげで優しげな気配と獣臭さが感じられ、聞き慣れた声が耳に入る。




「…心配かけさせやがって……」






霧散化していた身体を再構築し、背後から雅子に抱きついてきたのは、我らが主人公・手塚松葉であった。


「手塚さん!?」


「馬鹿めが!こんな時だけ人間ぶりやがって!何を暴走なんてキメ込んでんだお前は!

この俺を本気で心配させやがって!ガキじゃねぇだろうがお前はよっ!

全く…お前って奴は大学時代からそうだよな…手間かかる相方を持つと苦労するぜ全くよォ!」

「御免なさい!手塚さん…心配しましたよね?

でも、もう大丈夫です。もう心配要りませんから…」

「ヘっ、言うじゃねぇかこの変態が。相変わらず立ち直りの早ぇ奴めが!

俺らが世話んなった室長の葬式が終わった時も、エヴァが死んだ時も、すぐに何事も無かったかのようにケロリとしやがって!



フッ…お帰り相方ァ!」

「帰りました!相方!」


挨拶も程々にすっくと立ち上がった二人の眼前には、未だ無数のラナバドンの群れ。

そして、二人を睨み付ける白髪の少女―基、白い巨像。




世界を救う戦いは、漸く終盤にさしかかった。

だがしかし、本当の終盤はまだまだ先のことかも知れない。

どちらにせよ、まだ尺は有り余っている。

ならばその尺を戦い抜いてこそだ。



夜空に浮かぶ満月に心でそう誓った二人は、再び眼前の敵へと向かう。


―同時刻・ヨーロッパ―


「ェあァッ!」

呼び出したレーザーを放つ健一。

そして盾を作り出し、その軌道をそらす天野。

そのレーザーは、主を失っても未だ浮き続ける飛行船の気嚢に穴を開けて焼き切り、そのゴンドラ部を墜落へと導いた。




しかし当然、地上の二人はそんな事など知る由もない。

「成る程…防ぐことも吸収することも出来ないのなら軌道を変てやろうとは…考えましたね」

「あたぼーよ。オメーみてぇな野郎に挑むんなら、腕っ節とエロ意外にオツムも充実させとかにゃなんねーだろうが」

「そう行って頂けると幸いです――ドォォォォン!


「「!?」」

突如自分達の付近で起こった大爆発。

慌てて辺りを見渡す二人が見たのは、燃え盛る飛行船の残骸であった。

「…あぁ…成る程…そういう事ですか」

「…俺の返しが悪かったみてぇだな…。

あと五メートルも落ち所が悪けりゃ俺達ゃアフロどころのザマじゃなかったろうよ」

「良いのですよ。過ぎたことです」

「そうかよ」


そうして再び戦闘を開始する二人。

しかしこの時、健一はすっかり忘れていた。



間接的に自分が撃墜した飛行船の残骸が落ちたのは、丁度自らの臣下・大喜多大志を埋葬した場所である事に。


―同時刻・玄白―


総統室を後にした玄白は、自らの傘下にある特殊部隊・益獣部隊の部屋へと向かった。

「古藤様、隼人も五死頭も三獣刺も頑張ってるのに、もうあの子達を出しちゃうんですか?」

玄白の傍らを這いながらそんな問いかけをするのは、アトゥイ、ホロビ、ヤールー、隼人と同じく、本来空母内及び周辺の警備を行うという名目で創設された警視分隊の一人。

変形菌の疑似霊長・サヴラ。

しかし玄白はそんな彼女にこう返す。

「いやいやサヴラ。まだ彼らを出すには早いよ。

それにあの不二子・コガラシは彼らの存在を知らないんだ。

まぁ、公表していないわけだから当然なんだけどね?

第一、彼らを出すのはまだまだ先の話さ。

まだ彼らを出す段階じゃあないんだ…彼らには、僕の真の目的達成の為に動いて貰うのだからね…」

「あ、確かに言われてみればそうですよねー。御免なさい古藤様、私ってばやっぱり菌類だからか頭が弱くて」

「気にすることはないさ。君の頭脳は元の変形菌の状態からすれば驚異的な進歩を遂げたんだ」

「そうなんですか?

でも古藤様、だとしたら何で益獣部隊の本部に向かってるんです?」

「あぁ、理由?簡単じゃないか。

五死頭分隊の残る一人を出そうとしているんだよ。

機関員達は人間の軍隊など相手にしていないだろう?

だが、人間とはいえ残しておくと後々厄介だ。

もしかしたら不意に異形化してしまうかもしれないからね。

だから彼に依頼する。

彼の能力を以てすれば、人間の軍隊など―「古藤様、ちょっと待って下さい!」

「何だいサヴラ?」

「古藤様はさっき、『五死頭分隊の残る一人』って言いましたよね?

でも五死頭分隊って、名前の通り五人の部隊でしょ?」

「そうだが?」

「じゃあもう出揃ってるじゃありませんか!

ウィナグ、リージョン、ハーカー、イワタ、アイカワで五人!

まさか…隠しの六人目ですか?」

真顔でそんな事を言うサヴラに、古藤は素っ気なく答える。

「いや、そんな事はないよ。

五死頭分隊の構成員には称号があったろう?虐殺だとか嘘だとかという。

それらの称号はね、個々の能力の性質と同時に、実写映画やゲームにもなったあるSF小説の舞台になった島をも元にして考えてあるんだ」

「島…ですか?」

「そう。その名前はソルナ島と言ってね、このソルナという単語はスペイン語で皮肉という意味なんだが、この島の面白い所というのが、近所に同じような名前の島が四つあるという事なんだよ。

それら五つの島はCの字型に連なっていて、全てを総じて『五つの死の島』とも呼ばれる。

そして五つの島は北西から順に、『虐殺の島』『死の島』『皮肉の島』『嘘吐きの島』『苦しみ・刑罰の島』と呼ばれている。

五死頭の頭という字は、『トウ』とも読むだろう?

だから僕は『五つの死を表す島』から『五つの死を象徴する頭の持ち主達』という意味を導き出し、それに見合った異形達に五つの死に関する称号を与えたんだ。

こういう訳だから、『苦痛』のアイカワと『刑罰』のイワタとは、実質二名で一人名と換算している。

そしてここから導き出すことの出来る、五死頭分隊最期の一人が持つ称号は…」

「『死』ですか?」

「その通り。

でも、そんなに怯える必要性は何処にもないから安心してくれて良い。

彼は確かに、産まれながらの『殺し屋』だが、その実はとても聡明で紳士的なんだ」

「聡明で…紳士的?」

「そう。それに良心的で常識的とでも言おうかな。兎に角、色々な意味で益獣部隊らしからぬ男だよ」

「そう…なんですか…?」

「だから安心してくれ。

っと、そうこうしている内にもう到着か」

玄白は木製のドアをノックし、中に居る部下にこう言った。

「竜一、僕だ。古藤だ」

ガチャリ

中から現れたのは、黒いスーツに身を包んだ色素の薄いショートカットの男。

「何でしょう、古藤様」

「依頼だ。殺してくれ(・・・・・)

「…解りました」


こうしてまた一人、古藤玄白傘下の危険な疑似霊長が放たれた。



そして何処までも長引く物語は、第五部に続く。

次こそ完結予定だが、どうなるかは誰にも予想がつかない。





そう、作者にさえも。

あらゆる謎を引きずったまま、物語は第五部へと続く。

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