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第一類 夕暮れ乾燥地











リージョン「ワァァタクシ、この戦イが終わっタらですネェ!副業デA●Bなッタロかってネ!そう思っテまスのン!


ア……イカンですカ?ソーデスカー…」

―第三部最終話終盤より・アメリカ大陸―


乾いた大地にて、女三人。

その戦い様に、華だの蝶だのという表現が似合うはずはない。



「破ッ!斉ッ!であっ!」


薫は愛用する長刀でフェイを斬ろうと必死になっていた。

しかし、時間と気温が彼女の体力と気力を徐々に奪っていき、太刀筋が狂ったりうまく攻撃が入らなかったりと、何時も通りの力が出せないでいた。



「く…何という事だ…某とした事が、この程度の力も出せぬなど……」

「フフ…そりゃあそうでしょ……体力にだけは自信のあるアタシだってかぁ~なーりっ、疲れが回って来てるんだもの……」

「そうか…それを聞いて安心したぞ!」



二人は呼吸を軽く整えてから、再びフェイに向かっていく。

しかし二人の攻撃はどちらも片腕で受け止められてしまい、遠くに投げ飛ばされてしまった。


「ぐぁっ!」

「んぁっ!」


投げ飛ばされ、乾いた熱い大地に叩き付けられた二人。

しかし、フェイはそんな事などお構い無しに二人の方へと歩み寄っていく。

それも、より長く苦痛を与えてやろうという彼女の考えからか、その歩みは非常に遅い。

彼女が一思いに殺そうと思えば、弱った人形異形二人など一瞬で殺せる。

それでも彼女は、それをしない。



言わばそれこそが、元々高い知能と高度な社会性を持つヴェロキラプトル・モンゴリエンシスの擬似霊長たるフェイの、『本能を基礎とした遊び心に従ったやり方』なのだ。



「アタシだってさぁ、人間相手に喧嘩売るなんて正直どうかと思ったのよ、最初は。


でもね、昔アタシ達がまだ全盛を誇ってた頃の、懐かしい草木の香り…それを平然と奪ってく奴等をね、許す気にはなれなかった…」


フェイの両手の指先から、刃物のような鋭い爪が生える。

「死ぬ前に教えといてやるよ。

アタシ等補われた異形(スプレメンテッド・フリーク)ってのは、アンタ等と違って後天性の異形なんだけどね…生物としては思いっきり欠陥品だったんだよ。


何たってアタシの場合、生まれつき全身の皮が無くて、その上自力じゃロクに立ち上がれなかったんだから。

何でかって?


決まってるだろ、突然変異だよ。

アタシの遺伝子には元から異常があって、生まれて間も無く死ぬ運命にあったのさ。

親はそんなアタシを、他の兄弟達のイジメから守るつもりか、それとも育てるのが面倒だったからか、とにかく山のど真ん中にゴミの様にアタシを捨てた。



二時間後、山が火事になってね。

炭になった大木がアタシの上に倒れてきた。

でも、アタシは死ななかった。



どういうわけか目覚めたのさ、異形の血族にね。

アタシの身体は、本能的な判断で山火事で発生した炭素を取り込み、異形特有の回復力で肉体を完成させた。


その結果が今の姿の前段階、全身黒いヴェロキラプトル・モンゴリエンシスなのさ。


そしてアタシの能力、それは『灼熱』!

アタシ自身が認識できる範囲の気温を上げ、熱によってあらゆる生物を苦しめる!


つまりアンタ等が今そんな様なのは、アタシが強いからでもアンタ等が弱いからでも無い。



只単に、あんた等が熱中症になっちまったってだけなのさ。


待ってな、今殺してやっから」


―同時刻・ヨーロッパ―


「如何です!?私自慢のショーは!楽しんで、頂けておりますかなァ!?」


地面から生え、触手の様に蠢く植物の根。

群れを成し、まるで超個体のように振舞う無数の地虫や羽虫。

ヒッチコックがドキュメンタリー番組を作ったようなパフォーマンスを見せる鳥。

あたり一面を蹂躙する不定形な半個体。


そして、動き回る死体の群れ。



ラウチはそれら全てを「ショー」と呼ぶ。

恐らく彼の能力によるものなのだろうが、健一と大志はこの能力の真相に迫ることが出来ないでいた。

ショーの出演者の対応に大忙しなのである。


「でぇい!糞ッ!幾ら!ぶっ潰しても!キリがねぇ!」

伸びる腕と硬い拳で死体の群れや半固体と格闘する大志。

「全くですね…正直厄介極まりないというか…イラッと来ると言うか…」

対する健一も、鳥や虫の群れをレーザーで薙ぎ払っていた。その勢いは最早STGレベルである。


そしてそれを見たラウチはと言えば、崩れた瓦礫の上でのんびりと粘着シート式ネズミ捕りの誘引餌を食べていた。

「楽しんで頂けているようで何よりで御座います。

我々史霊分隊はその名の通り四名居りましてね、それぞれが四季を司っているのですよ。


私の司る季節は春―即ち目覚めと誕生、そして出会いと別れの季節。

そして一時的な眠りについていたあらゆる種に、活性が与えられる季節でもあります。


そう、私の能力とは『活性』。

あらゆる生物に活力を与え、死者にすら擬似的な生命を与えてしまう能力。

まぁ、まがい物の力であり、子供の娯楽にも満たぬ力ですがね。

ここで貴方がたを足止めするのには申し分ないでしょう。


それにすら余るという言葉は傲慢な気がしますがね」


と、その時である。

ラウチの携帯電話が鳴り響く。

「はいもしもし」

『ラウチかい?アタシだよ!』

「おや、フェイさんじゃないですか。

そちらは確か、香取直美と村瀬薫…でしたか?」

『そッ、そうなんだ!そうなんだけどさぁぁ!

どうしよう、寒いんだよ!』

「はい?リージョンさんなら兎も角狂いましたか?

今は七月でしょう?何故アリゾナのど真ん中が寒いんですか?」

『それが判ればアタシだって苦労してな―


連絡は突然途絶えた。

ラウチは仲間を大切に思う性格だったが、同時に仲間に心配を掛けさせまいと無茶と職務放棄を嫌う性格だったし、フェイを心から信頼していたのでその場から動かなかった。


―同時刻・アメリカ大陸―


「畜生!何でよ!何が故よ!何で寒いのよ!

七月のアリゾナが…アタシの力で温まってる筈なのに!」

寒がりで自信家のフェイは予期せぬ緊急事態でパニックに陥り、携帯電話を落としてしまっていた。


と、そこに二人の人影が現れる。

どちらも男性で、一人は細身の若者。もうもう一人は大柄な老人だっ。


「あぁ…ぁあぁぁ……誰か…アタシに熱を…アタシに熱をぉぉぉ!」



叫ぶフェイに、若い男が言った。




「良いだろう、貴様を暖めてやる。


村瀬、頼む」

「承知」

村瀬と呼ばれた大柄な老人は、差し出された若者の手に自らの掌を翳し、そこに念を送る。

十秒ほどして、男はフェイに何かを投げつけるような動作を取った。

しかし、フェイはというと、




「あぁ…はぁぁ……寒い…寒いぃ……何よ…全然暖まってないじゃないのぉ!」


叫びながら、フェイは全身を激しく擦り始めた。

申し訳程度だが、摩擦熱で暖を取ろうとしているのだ。

しかしこの時、フェイの温度感覚は狂っており、彼女は既に温まっていた。




「あぁあああぁぁぁぁ!暖まれ!暖まれ!暖まれ!暖まれぇぇぇぇぇ!」


フェイは狂った用に全身を擦り合わせた。

すると、炭素によって構築されている彼女の黒い鱗に異変が起こった。






発火したのである。





「あぁ…暖かい………熱い!熱い!熱いぃぃぃぃッ!



…燃える!焼け死ぬぅぅぅぅ!」







燃焼によって酸素と結合する物質を、有機物と呼ぶ。

紙、木材、布、生物の体、可燃性ガス…それら全てには共通して、炭素が含まれている。

また、太古の昔の始祖人類は火起こしの手段として、摩擦熱を利用していた。




温度が高くなったフェイの体の、純粋な炭素によって構成されている鱗に、摩擦熱が加わったとき、








彼女の肉体は盛大に燃え上がってしまうのである。





悲痛な叫びを上げるフェイを尻目に、二人の異形は直美と薫を抱え、その場を去った。


―数分後・薫―


―きろ。おい、起きろ。起きろっつってんだろ!』

「…その無駄に凶暴な悪役臭い声……ケイジか…」

広い和室に寝転がる薫の顔を覗き込むのは、細いロボットの様な外見のジャッカルである。

『久々に出会って早々失礼な女だな手前は。仮にも自分の化身だろうが』


ケイジと呼ばれたこの肉食動物型ロボットこそは、異形・村瀬薫の能力『剣術』の化身である。

その全身は多種多様な刃物で構成されており、その性格もまた凶暴で攻撃的である。


「それより、貴様が居るということは、ここは某の意識の中なのだろう?」

『そうだ。お前はあの恐竜女と戦ってる最中熱中症にされて、ここに降って来たんだ』

「そうか…某等は…いや待てよ?ならば何故貴様が居る?」

『勘違いするな。お前はまだ死んじゃいねぇ。ただ、深い眠りについてるだけだ』

「…そうか。では、あの女は?」

『殺したって聞いたぜ』

「『殺した』?『殺された』ではなく?」

『あぁ。ヒノモトからそう聞いた』

「何?ヒノモト!?ということは、あのお方が…?」

『そういう事になるな。

まぁ無駄話も程々に、そろそろ肉体に戻って起きとけよ?』

「あぁ、判っている。

それより、ケイジ」

『何だ?』


「すまないな、未熟で」


薫の謝罪に、ケイジは笑顔で答える。




『謝る程の弱さじゃねぇよ』


その言葉を受け止めた薫は、自らの意識の中から出て行った。



―同じ頃・直美―


「…此処、何処…?」


直美は何故かブレザータイプの学生服を着て、高校の教室のど真ん中に立っていた。

すると突然、何処からともなく声がする。


『おーい、香取』


それは爽やかなティーンエイジャーの声であり、その声の主と思しき少年もまた現れた。

そのエフェクトがかかったような響きから、直美は悟った。

此処は自分の意識空間の中だ。

だが直美は、この少年を全く知らない。

否、知ってはいる。

知ってはいるのだ。



「(この声…そうだわ、前に雅子ちゃんとまっちゃんがネタにしてたアニメに出てた、優柔不断で自分に甘い浮気男の……でも、何でアタシの意識空間に…?)」


直美は、自慢でこそないものの自分の記憶が曖昧で忘れっぽく、私生活についても色々とずぼらであると自覚している。

だから自分の化身がどんな姿であっても、それがどんな奴かははっきりと覚えていない。

しかし同時に、意識空間及びそこに存在する能力の化身とは、異形自身の趣向や精神状態の情報を反映することによって千差万別となりうる。

今居る意識空間は高校の教室であり、化身の姿はティーンエイジャーの少年である。

だが、それはどう考えても彼女の精神状態を表しているとは考え難いのだ。



「えーと…失礼だけど、アナタ…誰?」

『おいおい止してくれよ。俺を忘れたのか?

俺はお前の能力の化身、マコトだよ』

「マコト?」

『そうさ。ほんの十年前は結構来てくれてたのに、2000年の年末からぱったり来なくなってさぁ。

俺の事、好きだっていってたじゃないか。忘れたなんて言わせないぞ?』

「ご免、忘れちゃってたわ…」

『ハハハ。そうかー、忘れたの―』


直美の化身を名乗るティーンエイジャー・マコトの言葉は、彼の首が一瞬で刎ね飛ばされる事によって途切れた。

そしてその瞬間、教室と直美の学生服が崩れ去り、マコトの亡骸も消滅。

直美の服装は彼女の着慣れた私服に変わり、辺り一面は気品あふれる上品なバーのカウンターに変わった。

「…一体何がどうなってるのよ…何があったの私の精神…」


と、その時である。

『奴は偽者だ』

低く艶やかな男性の声。

その主は、虎縞模様の毛皮を持ったスミロドンであった。

「?」

『久しいな、香取直美。

私はお前の能力「猛虎」の化身・設永(ノブナガ)だ』

「…へぇ、アナタがねぇ…」

『そうだ。とはいえ、最後に出会ったのは六十年以上前になるからな。

お前にとっては初見にも等しい。

それより、報告せねばならないことがいくつかある。

一に、お前は戦闘中熱中症により倒れた。

村瀬薫と共に人禍の擬似霊長・フェイと交戦中、奴の能力『炎天』によって追い詰められたのだ。

二に、フェイは殺された。

これは我々独自のネットワークから得た情報だぞ。ちなみに報告者は香奈だ』

「香奈…?あぁ、あの子の化身ね」

『自分の化身の事は忘れていながら他人の化身の事は覚えているのか?』

「脳味噌が都合悪く出来てるのよ」

『そうか。ではそろそろ此処を出た方が良い。

お前を助けた二人組みが心配しているだろうからな』

「そうさせてもらうわ」

こうして直美も意識空間を去り、二人はほぼ同時に目覚めたのであった。


目覚めた二人は、目の前に懐かしい顔を見る。


―ある寝室―


「…やっぱりアナタだったのね、良ちゃん」

「…やはり貴方様であられましたか、お爺様」

女二人の言葉に、男二人はそれぞれ返す。

「やっぱりじゃねぇだろ、何をやってんだよ」

とは、若者。

「薫…我が孫よ…危ない所であったな」

とは、老人。


果たしてこの二人は一体何者なのか?

その謎は正直次回に引っ張っても良いのだが、まとめて今回説明することにしよう。


老人は、名を村瀬昭三と言う。

薫の祖父であり、現時点で村瀬家の全てを手中に収める人物である。薫の祖父だけあり様々な戦闘術を使いこなすため、例え彼が非異形の人間であってもその強さはゆるぎない物となるであろう。

日異連福岡チームを率いる人格者であり、表向きには嘗ての経験を生かし大学講師として活躍している。

そんな文武両道の昭三が持つ能力は『吸熱』であり、あらゆる物質から熱を吸い取り、その温度を急激に下げ、またその熱を別の物体に移すというシンプルながら強力なものである。


続いて若者は、名を香取良太郎と言う。

直美の従兄弟であり、その特異的な体質は変わりない。

日異連新潟チームの中堅を勤める男であり、表向きには外資系企業で活躍する若きビジネスマンである。

彼の能力は『投射』であり、あらゆる物体や概念を掌に纏め上げ、ボールや弾丸のように投げる事の出来るものである。



先程フェイを焼き殺した瞬間的な冷却と熱の還元は、この二名の能力あってこそのものと言えるのである。




―同時刻・イタリア―


「ぬぉっ!何だこりゃあ!?」

「この速さ…まるで風と一体化したようだ…」


ラウチのショーを切り抜けた健一と大志は、続いてラウチとの直接対決に打って出た。

しかし彼等は、唯一つの純粋な問題に悩まされていた。



ラウチの飛行速度が速すぎるのである。


「ハッ!お二人とも遅いですねェ!何ですかその歩みは?止まっているようにしか見えないんですがねェ!」


その速さは地球上の如何なる生物をも上回る、巨大な生きた銃弾であった。

「私はねェ!ゴキブリですよ!ゴキブリであるが故にねェ!



何者よりも早いんです!」

次回予告

ハーカー「皆さんこんにちは。アニメ大好きシェルツェマダニのハーカーです。

最近は色々な作品がアニメ化されてますよね。

特にト●ンスフ●●マーね。アレ面白いですよね。リージョンに薦められて見たんですけど、バ●ブル●ーが可愛いの何のって。

あ、あと名作と言えば少し古いですけど砂●うずも良いですよね。

特に正ヒロインの小●ちゃんが好きです。

まぁ本命は●蜘蛛さんですけど。


次回、白い巨像第四部は『金田、結婚』『桑田、酒の飲み過ぎで癌に』『住之江姉妹、Bl●ck c●cに就職』の三本で―ってアレ?違う?」

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