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9話

ざまぁ開始です

「は?戻らない?」

「はい。今さら戻ってこいなんて⋯⋯。もう戻りませんよ」


 アレスター男爵の屋敷に来た王家御一行。ソフィアと対面して開口一番、王家に戻るよう伝えたローグの言葉に対するソフィアの返事は、拒絶であった。


「⋯⋯何を言っている?もう一度言うぞ。⋯⋯命令だソフィア。再び王家に戻り、聖女として働け」

「だから、戻りませんって」

「!?」


 ローグは驚きと怒りで、目の前が真っ赤に染った。すかさず、ローグの頭部に鉄拳が落ちる。国王のものであった。


「ローグ!まずは謝罪をしろと言っただろうが!!」

「し、しかし」

「言い訳をするな!早く謝れ!!」


 そういうと、国王はローグの頭を掴み、その額を無理やり地面に叩きつけた。ローグはヨロヨロと謝罪の姿勢を取り、絞り出すように声を出す。


「聖女⋯⋯ソフィアよ⋯⋯わ、私が悪かった。過去の罪を、しゃ、謝罪する⋯⋯っ!」

「はぁ」

「だから、どうか、王家に⋯⋯戻ってきてくれ⋯⋯!」


 誰が見ても謝罪が本意ではないことは明らかだ。しかし、その謝罪が本物であったとしても、ソフィアの返答は決まっていた。


「嫌です。私は、ディルク様と共に生きます。ディルク様を愛していますから」

「なっ⋯⋯!」


 突然のソフィアの答えに、ディルクは顔を赤くして狼狽える。突如愛していると言われたためだ。


「き、君は何を言っているんだ!頭を下げる殿下の前で!」

「そんなの、関係ありません」

「だ、だいたい私は33だ!君とは15も離れたオッサンだぞ!」

「歳の差がなんですか?私は気にしませんよ。⋯⋯ディルク様は、私のような若い女は嫌いですか?」

「嫌いでは無い!だが、君には未来があるんだ。わざわざ私のような⋯⋯」

「ディルク様だから良いのです」


 ソフィアの言葉に、ディルクは言葉を失った。この数ヶ月、ソフィアと共に過ごす間に、彼女に惹かれる自分が居たのは確かだ。しかし、自分のような成り上がり男爵が、うら若き少女の未来を奪って良いわけがない。そう考えていた。

 一方、二人のやり取りを図上で聞かされていたローグは、烈火のごとき怒りを覚えた。その勢いのまま、ソフィアに食いかかる。


「黙って聞いていれば、ソフィア!!私が謝罪してやったというのに、それを断り!挙句の果てに、こんな成り上がりのオッサン男爵に尻尾を振るなど!!私を舐めているのか!!」


 ソフィアの胸ぐらを掴もうとローグが手を伸ばす。だが、その手をソフィアは払い除けた。


「触らないでください。私の身も心も、既にディルク様のものです。何度も言わせないでください。私は、あなたの元には戻りません。ディルク殿下」

「っ!!貴様ァ!!もう良い!強制連行だ!お前たち、ソフィアを捕らえよ!!」


 ローグの言葉に、護衛の騎士たちが動き出す。しかし、ディルクは彼らをひと睨みすると、騎士たちの動きが止まった。

 彼らは心の底から理解しているのだ。かつて、最強の騎士と恐れられたディルクに挑むということの無謀さを。


「な、何をしているお前たち!!」

「し、しかし⋯⋯あれは⋯⋯」

「狼狽えるな!それでもお前たちは私の騎士か!!主君のために命を捨てる覚悟があるだろく!早くソフィアを捕まえろ!!」

「っ!承知いたしました!聖女様、失礼します!!」


 ローグの言葉に、騎士たちはソフィアに飛びかかる。しかし、彼らは全員素手のディルクに倒される。かつて最強の騎士と恐れられた男の腕は、生半可なものではなかった。


「おい、アレスター男爵!!王家への反逆、ただで済むと思うなよ!!」

「⋯⋯ただで済むとは思っておりません。罰は如何様にも受けます。ですから、ソフィアへ乱暴な真似はしないでいただけないでしょうか」

「ふんっ!お前を国家反逆罪で処刑した後、ソフィアも即刻処刑だ!新しい聖女を覚醒させるためにも、こんな女、すぐに消してや——」


 ディルクは、自分が囮になってでもソフィアを逃がす算段を考えていた。その時、ソフィアの頭上から光が差し込んだ。

 空から伸びた光の下で、この世のものとは思えないほど美しい女性がソフィアを後ろから抱きしめていた。

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