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6話

 ソフィアは、アレスター男爵領で最も栄えている町に訪れていた。栄えていると言っても、辺境の田舎であるため、数ヶ月前まで居た王都とは比べ物にならないものではあるが。

 ここには、普段お世話になっているディルクへ、何か贈り物が出来ないかと来たのである。


「嬢ちゃん!串肉はどうだい!ウチのは美味いよ!」

「あら可愛い子!うちでアクセサリー見ていかないかい!」


 この町の人たちは、ソフィアが聖女であることを知らない。そもそも聖女として働く間は顔を隠していることと、聖女の間この辺りには祈りに来れていないためだ。

 王都では聖女という力を目的にして、色々な人が打算的な目を向けてきた。そういった煩わしさが無いアレスター男爵領は、とても居心地が良かった。


 暫く歩いていると、一つの腕輪を見つけた。いきなりアクセサリーを贈るのも重たいかと思ったが、そのアクセサリーに付けられた宝石が、ディルクの翡翠色の瞳に似ていて、つい目を奪われたのである。

 ソフィアは、そのアクセサリーを購入し、店を出る。聖女としての稼ぎの殆どをローグ⋯⋯というか、王家が管理していたので、ソフィアは働きに対してそんなにお金を持っていない。働かなければ半年と持たない程度だ。王国を守るために毎日働いていて、使う暇も無かったというのに。

 それでも、ソフィアは普段の感謝をディルクに伝えたかった。自分の両親を忘れないでいてくれたこと、聖女でない自分を認めてくれたこと、行き場の無い自分に帰る場所を与えてくれたこと。その全てに感謝しているのだ。


 目当てのものが買えてルンルンと帰っていると、路地の方から子供の泣き声が聞こえた。

 ソフィアがすかさず路地に入ると、小さな子供が派手に転んだらしく、足を挫いていた。手足のあちこちから血が出ていて、とても痛々しい。

 このままだと歩けなさそうだし、感染症になる可能性もある。周囲に親らしき人も見当たらず、ソフィアはすかさず駆けつけた。


「ぼく、大丈夫?」

「ううっ、痛い、痛いよぉ⋯⋯!」

「もう大丈夫だからね。『神よ、この者に癒しを』」


 ソフィアが祈りのポーズを取ると、優しい緑色の光が、ソフィアの両手を包んだ。その光を子供の患部にかざすと、みるみる傷が治っていく。子供は感嘆の声をあげた。


「わぁ⋯⋯綺麗⋯⋯!」

「ふぅ。もう痛くないはずだよ」

「わっ、本当だ!痛くない!お姉ちゃん凄い!ありがとう!!」

「どういたしまして」

「絵本に出てくる聖女様みたいだ!すごーい!!」

「この事は皆には秘密だよ?」

「わかった!!」


 本当に分かっているのか分かっていないのか。子供はワイワイはしゃぎながら大通りに出て行った。それを見送ったソフィアも大通りに出ると、ばったり変装したディルクと鉢合わせる。


「!?ディ、ディルク様!何故ここに?」

「いや、私もたまに買い物をしに出かけるんだ。使用人に買いに行かせることもあるが、こうしてお忍びで自分で買いに行くこともある」


 そう言ったディルクは、ハットのつばを上げてニヤリと笑う。どこか普段と異なる紳士然とした姿に、これはこれでアリだな。と思うソフィアが居た。

 そこでソフィアは自分がプレゼントの腕輪を持っていることを思い出し、それをサッと隠した。それに気が付かなかったのか、ディルクは関係ないことを話し始める。


「それより、良かったのか?祈りの力を使って」

「?あぁ、見ていたのですか?」

「見慣れた顔が見えたので、声をかけようと近付いてみたら、君が路地に入って子供を助けていたからな。ありがとう、我が領民を助けてくれて」


 そう言って頭を下げるディルクに、ソフィアは首を横に振る。


「頭を上げてください。私もアレスター男爵領の領民です。同じ領民同士、助け合うのは普通でしょ?」

「そうだが⋯⋯。私は何度でも言うが、聖女としての働きを願い出ることはしない。しかし、君が聖女だと領民にバレた時、領民が君の力を欲し、頼ることは明白だ。それを私が完全に止めることは難しいだろう。それでも良いのか?」


 最初の「良かったのか」というのは、そういう意味だったのか。とソフィアは一人納得した。そして、そのまま口を開く。


「私に出来ることがあって、それで誰かの⋯⋯いえ、ディルク様のお役に立てるのであれば、それはとても嬉しいことなんです」

「⋯⋯そう、か」


 ソフィアの儚げで優しい笑みは、ディルクの胸に突き刺さる。同時に、こんなにも優しい少女の親を救えなかったこと、両親が生きていれば婚約破棄され悲しみに暮れる彼女にとって、もっと心の支えになったであろうこと、そういった事を夢想してしまう。

 ディルクも、自分にできる範囲のことはやり切ったという自覚はある。しかし、それでも。と考えることを止められなかった。だから、ディルクは決心する。


(ソフィアは、私が守る)


 そう誓ったディルクは、ソフィアに優しい笑みを返すと、懐に閉まっておいたものを取り出した。


「これを君にプレゼントしたくて、町に出かけていたんだ」

「これは?」


 ソフィアが、受け取った箱を開く。そこには、ソフィアの瞳と同じ赤い宝石があしらわれたネックレスが入っていた。思わぬプレゼントに、ソフィアの心臓がドキリと跳ねる。顔は、耳まで赤くなった。

 しかし、そんな事お構い無しにディルクが口を開く。


「ネックレスだ。このネックレスに魔力を込めれば、対になる私の指輪が発光する。後で練習させるが、何かあればこれを複数回光らせて、私にSOSを出せ。すぐに駆けつける」

「⋯⋯あの、その機能今話さなくても良くないですか?女の子へのプレゼントというより、お父さんから娘への防犯グッズプレゼントみたいで⋯⋯」

「?」


 何が悪いんだ?と言わんばかりのディルクの顔に、ソフィアは大きなため息を吐いた。どうやら、まだまだ彼にとって自分は庇護対象らしい。

 その事がどうもモヤモヤしたソフィアは、隠した腕輪をずいっと突き出す。


「私も!ディルク様にプレゼントを買ってきました!」

「なんと⋯⋯良いのか?」

「はい!私は、ディルク様の瞳の色に似た腕輪を買いました!私のは機能無しですけど!感謝の気持ちとか色んな気持ちが入ってますから!!」


 ぐいぐいと腕輪を押し付けられたディルクは、嬉しそうに腕輪を付ける。かつて最強の騎士だったディルクの逞しい筋肉や血管が浮き出た腕に、綺麗でお淑やかな翡翠色の宝石がキラリと輝く。その姿は、プレゼントしたソフィア自身がクラりとクるものであった。


「ありがとう、ソフィア。必ず大事にするよ」

「ど、どういたしまして⋯⋯。あと、私もネックレス、大事にしますから。ありがとうございます」


 赤面しながら恥ずかしそうに言うソフィアの姿はどこか妖艶で、無自覚なディルクの心臓を少し跳ねさせたのであった。

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