5話
きっちり2時間で仕事も出かける用意もできたディルクの元に、ソフィアがやってきた。白いレースがふんだんに使われた可愛げのあるワンピースに身を包み、手には大きな木製のバスケットが持たれている。
最近では使用人の服——要するにメイド服——しか見ていなかったので、久しぶりにきちんとした服を着たソフィアを見たディルクは、やはり自分の使用人として置いておくには勿体ない、と素直に感じた。
「ディルク様、本日も素敵なお召し物ですね」
「ありがとう。君の故郷の隣村で作られた服でね。そこは布の生産が盛んで、この服は村長からの献上品なんだ。とても気に入っているよ」
「ああ、道理で。でも、あそこの村長に気に入られるなんて凄いですね。偏屈爺さんって、隣村の私の村でも有名でしたよ」
「ははは!偏屈じいさんか⋯⋯。確かにそんな感じだったが、まあ幾度か話すうちに打ち解けたよ。結果的にこんな素敵な服も贈ってくれたし、彼には感謝しかないよ」
ディルクの服を褒めながら、ソフィアはディルクの人柄を褒める。ソフィアが村に居た頃の領主は、あまり褒められた人柄ではなく、隣村の村長はその領主が大嫌いだった。そもそも村の会合でもあまり話さず、ちょっとでも打算や下心のある人間には拒否反応を示していた村長が気に入っていたのが嬉しかった。
(あれ?なんで私が嬉しいんだろう)
そんな事を考えたが、すぐにどうでも良いことだと考えを捨てた。自分の仕える人間が素晴らしい人であることが嬉しいのは当たり前だ。そう思うことにした。
「君も素敵な服装だね。とても綺麗だよ、ソフィア」
「⋯⋯!あ、ありがとうございます」
ソフィアは、その言葉を聞いて耳まで赤くなる。おめかししてきた自覚はあったが、いざ綺麗と言われると、恥ずかしい気持ちになった。
(そういえば、殿下は一度も私を褒めてはくださらなかったな)
突然頭を過ぎったのは、自分を婚約破棄したローグの顔だった。ローグはソフィアを地味だなんだと貶すことはあれど、褒めることはなかった。気にしていなかったつもりだったが、意外と気にしていたようで、ソフィアはそんな自分を笑った。
(そもそも、殿下の前ではこうやって気合いを入れることも無かったな⋯⋯。それは、地味女とか芋女とか言われるか⋯⋯)
過去の自分を振り返り、今との違いに笑いが出てくる。
「?なぜ笑っているんだ?も、もしやキザすぎたか⋯⋯?」
「ふふ、いえ!なんでもありません!さ、ピクニックに行きましょう!私、サンドイッチを作ったんですよ」




