4話
ローグが叱責されたのと同じ頃、アレスター男爵領⋯⋯ディルクが統治する領地では、かつてない程の豊作を迎えていた。これはそう、聖女であるソフィアの力によるものである。
騎士からの成り上がりであるディルクの領地には、聖女の加護は無いに等しいものであった。しかし、聖女本人が全ての力の比重を、この小さな領地に向けている甲斐あって、アレスター男爵領は聖女の加護を十二分に受けた状態になっていた。
それに気が付いたのが先ほど。ディルクは、当たり前のように自分の屋敷に住み始めた聖女ソフィアを呼び出した。
「ソフィア」
「はい、なんでしょうディルク様?」
ソフィアは、何のことか分からない、といった様子だ。ディルクはこめかみを押さえ、溜め息を吐くように言葉を発する。
「前にも言っただろう。もう聖女の力は使わなくても良い。君は自由だ。好きな時に好きなことをすれば良い」
「はい、ありがとうございます。お陰様でこの屋敷で使用人として働かせていただいています。その傍ら、祈りたい時に祈っているまでですよ」
「⋯⋯なんかこう、他に無いのか?君はもう聖女の役に縛られなくて良いんだ。わざわざ使用人など⋯⋯」
ディルクは、ソフィアが聖女に就任して間もない頃を知っていた。それは、彼が国王と第一王子の騎士として王城に勤めていた際、幼き聖女として各地を転々とさせられ、疲弊したソフィアを見ていたのだ。そして、聖女としての任が立て込み、両親の墓参りが出来なかったというエピソードも聞かされた。そんなソフィアが、自分の世話をしながら聖女の仕事からも解放されていない。その事がディルクには気の毒で仕方なかったのである。
ソフィアは、その優しさに心打たれた。これまで、自分を聖女として利用したい人とばかり出会ってきた。しかしディルクは、ただのソフィアとして自分を大事にしてくれる。それが嬉しくて堪らなかった。
「私は、今がやりたいことなんです。祈るのも、もう日課みたいなもので、しない方がおかしくなってしまいます。ただ祈るだけで加護が与えれるんですから、良いではないですか」
「⋯⋯はぁ。君がやりたい事なら、その意思は尊重しよう。ただ、無理はするなよ。君はただの18の女の子なんだ」
「はーい。分かりました!」
「本当に分かっているのか⋯⋯?」
ソフィアの軽い返事に、ディルクは困った顔を浮かべた。
「それより、今日は出かけませんか?ディルク様」
「?あぁ、少しだけ仕事をする必要があるが、2時間後には動けるぞ。どこに行きたいんだ?」
「そうですか!それは良かったです!どこに行くかは内緒です。2時間後に執務室へ迎えに行きますね」
そう言うと、ソフィアはルンルンと部屋を出ていった。結局なんだったんだ?とディルクは考えたが分からず、悶々としたまま仕事を進めた。




