2話
「ふー⋯⋯ただいまー」
ソフィアは、夜会を抜け出してからすぐ、実家のある村へ帰っていった。
久しぶりに帰った実家には、もう誰も居ない。数年前、聖女としての仕事をしている最中、両親の訃報が届いた。原因は、村を襲った盗賊団によるものだった。その盗賊団は、後に村を治める領主⋯⋯かつて最強の騎士と呼ばれた男、ディルクの手によって捕縛され、処刑されている。
なんとも言えない一抹の寂しさを覚えたソフィアは、サッと荷物を片付けて両親の墓へ向かった。その時沢山の人が死んだため、村には共同墓地が作られ、自分の両親もそこに埋められている。
ソフィアが墓に向かうと、一人の男性が片膝をつき、祈りを捧げていた。それは聖女のソフィアが見ても、美しく立派な祈りであると感じた。
ソフィアは、その祈りを邪魔しないよう、音を立てずに両親の墓の前に膝をつく。そして、精一杯の祈りを捧げた。
(お父さん、お母さん。やっと会えましたね。遅くなって、ごめんかさい。死に際に会えない、親不孝な私を許してください。そしてどうか、天国で安らかに過ごしてください。私は大丈夫だから、二人は⋯⋯)
ずっと聖女としての激務に忙殺され、実家の墓参りもできなかったソフィアは、やっと自分の両親に祈りを捧げることができた。自責の念に駆られ、ソフィアは自然と涙を流す。その姿は、一枚の絵画のように美しい光景であった。
ソフィアより先に祈りを捧げていた男は、その光景を見て言葉を失った。それがあまりにも美しく、尊く、清らかなものであったからだ。
ソフィアが祈りを終え目を開けると、先客の男がソフィアに声をかける。
「すまない、君はこの村の人じゃないね。もしや⋯⋯」
「この墓に埋められた、アイクとシェリーの娘、ソフィアです」
「⋯⋯っ!そうか、君は⋯⋯彼らの⋯⋯」
そう言うと、その男は許しを乞うように、両膝をつき深く頭をさげる。
「私は、この村を含めた一帯の領主を務めている、ディルク・ド・アレスターだ。君のご両親が盗賊に襲われた後、村を訪れ盗賊を討伐、処刑した。私があと1時間早く来ていれば、君のご両親が亡くなることは無かった。本当に、申し訳なかった」
そう言って、ディルクは更に深く頭を下げた。
ソフィアは、こんなにも優しく清らかな心の持ち主がいるのだ、と思った。長いこと聖女をしてきたからこそ、なんとなく善人と悪人は雰囲気で分かる。
そんなソフィアから見て、ディルクは今まで見た事が無いほどの善人だ。今も、全く悪くないのに本気で自分に謝っており、それを見て、なぜかソフィアは涙が出ていた。
ソフィアは、初めて会ったばかりのディルクを抱擁する。自分の胸に抱きとめ、ディルクのサラサラの金髪を優しく撫でた。
「あなたは、優しすぎます。必要以上に抱え込んでいます。それは美徳かもしれないけれど、あなたは耐えられず、いつか壊れてしまうかもしれない」
「!わ、私は⋯⋯」
「だから、私を傍に置いてください。雑用係でもなんでも。私、こう見えてこの間まで、王宮お抱えの公式聖女だったんですよ?」
こうして、ソフィアとディルクは出会った。




