10話
『小僧。私の可愛い聖女を殺めると言ったか?』
「!?な、なんだお前は!!」
『随分と偉そうな物言いじゃないか、え?この私、女神ルミナエリスの前で』
「なっ⋯⋯!?女神ルミナエリスだと!?」
女性の言葉に驚いた国王は、即座に全員に頭を下げるよう指示を出した。彼らの前に降臨した女性は、この王国で最も信仰されている女神——ルミナエリスその人だったからだ。
状況が読み込めていないローグと、ルミナエリスに抱きしめられて混乱しているソフィアだけが頭を下げずに立っていた。
『私は今、ソフィアとディルクの恋路を見守るのに夢中なのだ。邪魔をするな、元婚約者風情が』
「何!?この私に向かって、偉そうな口ぶりだな!女神を騙るペテン師が!どんな演出か知らないが、私を騙そうなどと、不敬だ!!」
『ほう。この私をペテン師呼ばわりとは、中々言うじゃないか。なぁ、国王よ?お前の息子は中々豪胆なやつなのだな』
「そ、そんな!滅相もございません!それは私の息子でもございません!先ほど、親子の縁を切りました!!」
「なっ⋯⋯!?父上!?」
「父上と呼ぶな、ただの平民が!」
突然親子関係の解消宣言をされたローグが狼狽えるが、国王はローグをキツく突き放す。そうしなければ王国が滅びると分かっているからだ。
向こうで王族の醜い争いが繰り広げられる中、女神ルミナエリスはソフィアに語りかける。
『やっと会えたな、ソフィア』
「ルミナエリス様なのですか⋯⋯?まさか、生きている間にお会いできるなんて⋯⋯」
『ふふ、君の祈りは特に心地いいからな。ここ数百年で一番のお気に入りなんだ。可愛い可愛いソフィアの為なら、現世にちょっと顕現するくらい余裕だよ』
「ルミナエリス様⋯⋯!」
『それとディルク。ソフィアも言っていたが、あの事件は盗賊団が悪い。君のせいじゃない。あまり気を負いすぎるな』
「⋯⋯ありがとうございます。ですが、私は彼らの命を背負い、忘れないようにしたいのです」
『殊勝な心掛けだな。好きにするがいい。⋯⋯ただ、心が耐え切れなくなりそうな時は、私の祠に懺悔しに来い。私が話を聞いてやろう』
「ありがたき幸せ⋯⋯!」
ディルクは、ルミナエリスの言葉に涙を流した。ずっと感じていた罪悪感が、ルミナエリスの言葉で救われたのだ。
ソフィアはディルクの涙を拭う。そのままディルクを抱きしめた。
「ディルク様。私も共に背負っていきます。私が貴方を支えます。いえ、支えさせてください」
「ソフィア⋯⋯」
「だから、共に生きることをお許しいただきたいのです」
ソフィアの美しい笑みに、ディルクは面食らった。その慈愛に満ちた笑顔は、まさしく聖女そのものであったからだ。
「良いのか。 私は、成り上がりの男爵だぞ」
「私なんかただの平民ですよ」
「女っ気のない生き方をしてきた。君の欲しい言葉や物を贈れる保証は無い」
「そんなこと気にしませんよ。既にディルク様は私の欲しい言葉を沢山くださいます」
「15も歳上で⋯⋯君はまだ若い」
「ディルク様より素敵な男性と会うことなんて、今後の人生で一度もありません。年齢なんて関係ありませんよ」
「⋯⋯分かった」
その言葉を受け、ソフィアは目を瞑り唇を突き出した。ディルクも覚悟を決め、目を瞑りソフィアの唇に自分の唇を重ねた。
それから、アレスター男爵領は栄え続けた。加護を一心に受けた恵まれた土地に人々が移り住むのは当然のことであり、人の流出が止まらない王国は衰退の一途を辿って行った。
ソフィアとの婚約を破棄したローグは、王族から追放され、女神の怒りを買った大罪人として幽閉されることになった。
「ディルク様!」
「ソフィア!」
アレスター男爵領では、二人の幸せな声がいつまでも響き渡ったという。
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